被殻出血について

被殻出血について|疾患の概要から看護のポイントまで徹底解説

あずかん

被殻出血は脳出血全体の約40〜50%を占め、「また被殻か」とルーチンワークのように感じてしまう瞬間があるかもしれません。しかし、被殻出血は血腫の増大速度や、穿破(脳室穿破)の有無によって、数十分単位で患者さんの意識レベルが急変する、非常にスリリングな病態でもあります。
今回は、教科書の知識を臨床現場の「動き」に変換できるよう、アセスメントの視点とケアのコツを紹介します。

目次

サクッと復習!疾患の概要

  • 病態: 中大脳動脈の穿通枝であるレンズ核線条体動脈の破裂による出血。
  • 原因: 最大のリスクファクターは高血圧です。動脈硬化による血管壊死が基盤にあります。
  • 症状
    • 病巣と反対側の片麻痺(顔面含む)。
    • 感覚障害
    • 共同偏視(病巣側を睨む:右出血なら右を見る)。
    • 優位半球(多くは左)の損傷なら失語症、劣位半球(多くは右)なら半側空間無視(USN)や病態失認
  • 治療
    • 保存的加療: 血圧管理(再出血予防)、抗浮腫薬、鎮静。
    • 外科的治療: 血腫量が30ml以上、あるいは意識障害が増悪する場合に適応検討。開頭血腫除去術や内視鏡下血腫除去術が行われます。

観察ポイント&根拠

観察項目観察ポイント根拠・予測
共同偏視と瞳孔不同
(Anisocoria)
ペンライトを使用し、対光反射の迅速さ瞳孔径(mm)を左右比較する。眼球が常に片側(病巣側)へ偏位していないかを確認する。共同偏視は被殻出血の初期によく見られますが、これが消失せず対光反射の消失や散瞳(瞳孔不同)が出現した場合、脳ヘルニア(鉤ヘルニア)による動眼神経圧迫のサインです。これは緊急オペ適応の重大なシグナルであり、Dr.コール直結の所見です。
麻痺のグレードとBarre徴候麻痺側上肢を挙上させ、保持できるか、あるいは落下速度が前回訪室時より速くなっていないかを確認する。
JCS/GCSのスコアだけでなく、刺激に対する防御反応の左右差を見る。
「麻痺がある」という事実確認だけでなく、「麻痺が進行しているか」が重要です。血腫が増大したり、浮腫が進行して内包後脚への圧迫が強まると、麻痺は増悪します。これをいち早く捉えるためです。
クッシング現象の有無
(Cushing phenomenon)
血圧が急激に上昇(SBP180以上など)した際、同時に徐脈(HR 50台以下など)になっていないかトレンドグラフで確認する。頭蓋内圧亢進(IICP)に対する生体の代償反応です。脳血流を維持しようと血圧を上げますが、圧受容体反射で脈は遅くなります。単なる高血圧と見誤って降圧だけを考えると脳虚血を招く恐れがあり、脳浮腫のピーク(発症3〜7日目)は特に警戒が必要です。

もし患者さんが「この手、誰の手?」と言ったら?

右被殻出血(劣位半球損傷)の患者さんが、自分の左手を不思議そうに眺めたり、ベッド柵にぶつかっているのに気に留めず、こう言ったとします。
「ねえナースさん、ベッドに誰かの手が落ちてるわよ。邪魔だから退けてちょうだい」
これを「ボケてしまった」と片付けたり、「それは〇〇さんの手ですよ!」と強く訂正するのは得策ではありません。

言葉の裏にあるニード
これは「病態失認」や「半側空間無視(USN)」による典型的な発言です。
患者さんはふざけているのではなく、脳の損傷により「左側の空間や身体が存在するという認識」そのものが抜け落ちている状態です。恐怖や混乱の中にいます。

対応アクションと会話例

  1. 否定せず、認識を促す(視覚的フィードバック)
    • 「誰かの手があるように感じるんですね。(患者さんの手を優しく触れながら)私の手が触れているのが分かりますか? 実はこれ、〇〇さんの左手なんですよ。」
  2. 肩から指先へ、ボディスキーマの再構築
    • 「肩から辿ってみましょうか。ここが肩、ここが肘、そしてこれが手です。繋がっていますよね。」と一緒に身体をなぞります。
  3. 環境調整による安全確保
    • 「左側の感覚が少し分かりにくくなっているようなので、怪我をしないようにクッションを入れますね」と伝え、ベッド柵と四肢の間に保護用クッションを挿入します(認識できない手足は、柵に挟まって外傷や骨折のリスクが高いため)。

現場で差がつく看護のコツ・ポイント

工夫・コツ・アイデア具体的な手技・環境調整期待される効果・メリット
三角巾やアームスリングの早期活用
(座位訓練時)
端座位や車椅子乗車を開始する際、麻痺側上肢がダラリと下がらないよう、必ず三角巾やテーブルで腕を支持する。麻痺側肩関節の亜脱臼を防ぎます。一度亜脱臼すると「肩手症候群(CRPS)」による激痛でリハビリが進まなくなります。重力による牽引ストレスを極力減らすことが、将来の疼痛予防になります。
健側アプローチと患側アプローチの使い分けバイタル測定や点滴管理は健側(麻痺のない側)で行うが、声かけやテレビの配置は患側(麻痺側)を意識する。医療処置の安全性を確保しつつ、USN(半側空間無視)の患者さんに対しては、無視している方向へ注意を向けさせる感覚入力になります。
足底接地の徹底
(着座時)
車椅子や端座位をとる際、麻痺側の足底がしっかり床についているか確認し、浮いている場合は足台や雑誌を重ねて高さ調整をする。足底からの感覚入力は、姿勢反射を促し、体幹の安定性を高めます。また、足関節の尖足拘縮予防にもつながります。「足が浮いている=姿勢が崩れる」と考えてください。

新人さんが陥りやすいミスへの対策

新人の頃、先輩に「血圧だけ見て安心するな」とよく怒られませんか?
私はモニターの数値(血圧130/80、SpO2 99%)を見て「バイタル安定しています」と報告していましたが、その時患者さんの元では点滴自己抜去が起きていたり、麻痺側の足がベッド柵に挟まっていたりしました。


脳卒中の患者さん、特に被殻出血で高次脳機能障害がある方は、「バイタルサイン」と「行動・認知」が乖離していることがよくあります。
血圧が落ち着いていても、脳の中では「抑制が効かない」「危険が分からない」という症状が暴れていることがあります。

訪室したら、モニターを見る前に「布団をめくって全身を見る」クセをつけてみてください。

・麻痺側の手足は変な方向を向いていないか?
・視線は合っているか?
・表情に苦悶様はないか?

「数値」ではなく「生身の患者さん」を見る。これが脳神経看護の一番の近道であり、異常の早期発見につながる唯一の方法です。

参考資料
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