感覚障害について

あずかん

感覚障害は、患者さんのQOLに大きな影響を与えるだけでなく、転倒や熱傷などの二次的な合併症を引き起こすリスクも高めます。看護師は、感覚障害を持つ患者さんの状態を正確にアセスメントし、安全な療養環境を整え、適切なケアを提供することが求められます。この記事では、感覚障害の病態生理から看護のポイントまでを詳しく解説します。


目次

感覚障害とは

感覚は、皮膚や粘膜などにある受容器が刺激を受け、その情報が末梢神経、脊髄、脳幹、視床を経て、大脳皮質の感覚野に伝わることで認識されますが、この一連の経路のどこかに障害が生じることで、感覚障害が引き起こされます。

感覚の伝導路

  1. 受容器: 皮膚などにあるセンサーが、触圧覚、痛覚、温度覚などの刺激をキャッチする。
  2. 末梢神経: 受容器からの電気信号を脊髄に伝える。
  3. 脊髄: 入力された感覚情報を種類ごとに異なる経路で脳へ伝達する。
    • 後索路: 触圧覚や深部感覚(位置覚、振動覚)を伝える。
    • 脊髄視床路: 痛覚や温度覚を伝える。
  4. 脳幹・視床: 脊髄から送られてきた情報を中継し、大脳皮質へ送る。
  5. 大脳皮質(感覚野): 情報が最終的に処理され、「熱い」「痛い」「触られている」といった感覚として認識される。

この経路のいずれかが損傷を受けると、感覚情報が正しく伝わらなくなり、感覚の低下(感覚鈍麻)、消失(感覚脱失)、あるいは異常な感覚(しびれ感、ピリピリ感など)が生じます。


感覚障害の原因

分類具体的な疾患・原因
脳血管障害脳梗塞、脳出血、くも膜下出血など。脳の感覚中枢や伝導路が障害されることで発症します。
脳腫瘍腫瘍が感覚神経や感覚野を圧迫・破壊することで発症します。
脊髄疾患脊髄損傷、脊髄腫瘍、椎間板ヘルニア、後縦靱帯骨化症、脊髄炎など。脊髄レベルでの伝導路が障害されます。
末梢神経障害糖尿病性神経障害、手根管症候群、ギラン・バレー症候群、薬剤の副作用、ビタミン欠乏症など。
その他多発性硬化症などの脱髄疾患、帯状疱疹後神経痛など。

感覚障害の症状

陰性症状(感覚の低下・消失)

これは、本来あるべき感覚が鈍くなったり、完全になくなったりする状態です。神経からの信号が弱まっているか、途絶えていることを示します。

  • 触覚鈍麻・脱失
    • 症状
      • 「皮膚に一枚膜が張ったような感じがする」
      • 「手袋や靴下を履いているような感覚が常にある(手袋靴下型感覚障害)」
      • 「足の裏に砂利や紙が貼り付いているように感じる」
      • 触られているのはわかるが、それが何で触られているか(指なのか、ペンなのかなど)の区別がつかない(識別覚障害)。
    • 危険性
      傷や圧迫に気づきにくいため、知らぬ間に怪我をしたり、褥瘡(床ずれ)ができたりするリスクが高まります。
  • 痛覚鈍麻・脱失
    • 症状
      • 画鋲などを踏んでも、鋭い痛みとして感じず、何かを踏んだ程度の感覚しかない。
      • 怪我をしても痛みを感じないため、発見が遅れる。
    • 危険性
      身体の危険信号である「痛み」を感じないため、怪我や火傷、炎症などに気づかず、重症化させてしまうことがあります。
  • 温度覚鈍麻・脱失
    • 症状
      • 「お風呂のお湯が熱いのかぬるいのか、よくわからない」
      • 熱いやかんに触れても、すぐに熱いと感じない。
      • 冷たいものに触れても、冷たさを感じにくい。
    • 危険性
      熱湯や暖房器具などによる火傷(熱傷)や、カイロなどによる低温熱傷、あるいは寒冷地での凍傷のリスクが極めて高くなります。
  • 深部感覚障害
    • 症状
      • 位置覚障害: 目を閉じると、自分の手や足がどの位置にあるのか、どんな形になっているのかがわからなくなる。
      • 振動覚障害: 音叉などを骨の上に当てても、その振動を感じない、または感じにくい。
    • 日常生活への影響
      • 歩行が不安定になる(目を閉じると立てない、歩けない)。これを感覚性運動失調と呼びます。
      • 細かい手の動きがぎこちなくなる(ボタンがかけられない、字が書きにくい、箸がうまく使えない)。

陽性症状(異常感覚・痛み)

これは、本来ないはずの異常な感覚が出現する状態です。神経が過敏になったり、誤った信号を発したりすることで生じます。

  • 異常感覚(パレステジア)
    • 症状: 外からの刺激がないのに、以下のような感覚が自発的に生じます。
      • ジンジン、ビリビリ、チクチクする感じ: 正座の後に足がしびれる感覚に似ていますが、それが持続します。
      • ピリピリ、ヒリヒリ: 皮膚の表面が常に軽く焼けているような感覚。
      • 虫が這うような感じ(蟻走感)
  • アロディニア
    • 症状: 通常では痛みとして感じないような、ごく軽い刺激を激しい痛みとして感じてしまう状態です。
      • 「衣服が肌に触れるだけで、ヤスリでこすられるように痛い」
      • 「風が当たっただけで、焼けるように痛い」
      • 「シーツが足に触れるのが耐えられない」
  • 神経障害性疼痛
    • 症状: 神経そのものが傷つくことによって生じる、持続的で激しい痛みです。
      • 表現: 「電気が走るような」「焼けるような」「締め付けられるような」と表現されることが多いです。
      • 特徴: 鎮痛薬(NSAIDsなど)が効きにくいことがあります。

これらの症状は、単独で現れることもあれば、複数が混在することもあります。例えば、「足の感覚は鈍いのに、ジンジンするしびれと焼けるような痛みが常にある」というように、陰性症状と陽性症状が同時に存在するケースも少なくありません。

治療・対症療法

感覚障害の治療は、原因疾患の治療が基本となります。

  • 原因疾患の治療
    脳梗塞であれば血栓溶解療法や抗血小板薬、脳腫瘍や椎間板ヘルニアであれば手術による圧迫の除去など、根本的な原因を取り除く治療を行います。
  • 薬物療法
    • 神経障害性疼痛に対して: プレガバリン、ミロガバリン、デュロキセチンなどの鎮痛補助薬が用いられます。
    • ビタミン欠乏に対して: ビタミンB群の補充などが行われます。
  • リハビリテーション
    • 理学療法: 筋力低下や関節拘縮の予防、バランス訓練による転倒予防。
    • 作業療法: 日常生活動作(ADL)の訓練(例:ボタンかけ、箸の使用)、自助具の活用。
  • 対症療法
    • 温熱療法・寒冷療法: 痛みの緩和。
    • 神経ブロック: 局所麻酔薬を用いて痛みの伝達を遮断する。

看護のポイント

1. 安全確保と合併症予防

  • 熱傷・凍傷の予防
    • 湯たんぽやカイロの使用は原則禁止とし、使用する場合は温度や時間を厳密に管理し、直接皮膚に当たらないようタオルで厚く包む。
    • 入浴時は、患者本人に任せず、必ず看護師か家族が湯の温度を確認する(38〜41℃程度)。
  • 外傷・褥瘡の予防
    • 足元の障害物を取り除き、療養環境を整備する。
    • 履き慣れた、滑りにくい靴の使用を促す。
    • 皮膚を常に観察し、発赤や傷がないかを確認する。特に、褥瘡の好発部位(仙骨部、踵部など)は注意深く観察する。
    • 爪を短く切り、皮膚を傷つけないようにする。
  • 転倒・転落の予防
    • 深部感覚障害がある場合、歩行が不安定になりやすい。歩行時は付き添うか、杖や歩行器の使用を検討する。
    • 夜間は足元灯をつけ、ポータブルトイレをベッドサイドに置くなどの環境調整を行う。

2. ADLの維持・向上に向けた援助

  • セルフケアの支援
    • 食事:食べこぼしをしても良いようにエプロンを使用したり、握りやすいスプーンやフォークを用意する。
    • 更衣:ボタンの代わりにマジックテープの衣類を提案するなど、着脱しやすい衣服を選ぶ。
    • 作業療法士と連携し、自助具の活用を検討する。
  • 代償的感覚の活用
    • 視覚:足元を確認しながら歩く、目で見て物の位置を確認するなど、視覚で他の感覚を補うように指導する。
    • 聴覚:調理中にタイマーを使うなど、音で情報を得る工夫を促す。

3. 精神的ケア

  • 共感的な態度
    しびれや痛みは他者から見えにくく、患者は辛さを理解してもらえない孤独感を抱きやすい。「痛い」「しびれる」といった患者の訴えを傾聴し、その苦痛に共感する姿勢が重要となる。
  • 正確な情報提供
    症状の原因や今後の見通しについて、医師の説明を補足し、患者が自身の状態を正しく理解できるよう支援する。
  • セルフコントロールの促進
    痛みやしびれをコントロールするための工夫(リラクゼーション、気晴らしなど)を患者と一緒に考え、自己効力感を高められるように支援する。
参考資料
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