大腿骨頸部/転子部骨折の術後観察項目と、その根拠を徹底解説!
あずかん「転倒後、大腿骨近位部骨折疑いです」とコールを受けた際、頭の中で真っ先に浮かべるべきは「頸部か、転子部か」という鑑別です。同じ「大腿骨近位部骨折」というくくりで語られがちなこの2つの骨折ですが、骨折線の位置による血流障害の有無、選択される術式、術後合併症のリスクが根本的に異なります。
この違いを理解せずに「大腿骨近位部骨折」と一括りにしてアセスメントしてしまうと、本来注目すべき合併症の兆候を見逃すことになりかねません。それぞれを分けて、観察の視点を整理していきます。
大腿骨頸部骨折の観察について
病態の要点
大腿骨頭を栄養する血管は内側大腿回旋動脈からの支帯動脈が主体であり、この血管は関節包内を走行しているため、頸部骨折による骨折線が血管を損傷・圧迫すると骨頭への血流が途絶えることになります。これが頸部骨折特有の大腿骨頭壊死・偽関節形成のリスクにつながる病態生理です。
Garden分類(Stage Ⅰ〜Ⅳ)で転位が大きいほど血流障害のリスクは高くなり、Garden分類ⅢおよびⅣでは人工骨頭置換術が選択される頻度が高い一方、非転位型(Stage Ⅰ・Ⅱ)では骨接合術(スクリュー固定)が選択されることもあります。
【保存版】観察項目&根拠
| 観察項目 | 観察ポイント | 根拠・予測 |
|---|---|---|
| 患肢の肢位 | 患肢が外旋位・短縮位になっていないか、健側と比較して長さや向きの左右差を視診する | 頸部骨折では大腿部の筋群(腸腰筋、外旋六筋)の牽引により典型的な外旋・短縮変形が出現しやすく、この所見は骨折の存在を疑う初期の重要な手がかりになる |
| 鼠径部の疼痛と圧痛 | 鼠径部中央(大腿動脈拍動部の内側)を軽く圧迫し、疼痛の有無と程度を確認する | 頸部骨折の疼痛は股関節深部、特に鼠径部に限局することが多く、転子部の疼痛とは部位が異なる場合があるため、疼痛部位の同定が骨折型の推定材料になる |
| 術後の患肢循環・皮膚色調 | 足趾の色調、爪床の毛細血管再充満時間(CRT)、足背動脈の触知を、健側と比較して確認する | 人工骨頭置換術後は大腿骨頭への血流問題自体は解消されるが、周術期の出血や体位による阻血のリスクも念頭に置き、末梢循環の変化を継続的に評価する視点が必要になる |
| 術後の疼痛の変化と部位 | 股関節深部の疼痛の程度、体動時痛と安静時痛を区別して経時的に評価する | 術後、疼痛が軽減せず遷延する、あるいは一度軽快した疼痛が再燃する場合は、偽関節形成や骨頭壊死の進行を疑うきっかけになり得るため、疼痛の推移そのものを重要な情報として捉える |
| 脱臼徴候(人工骨頭置換術後) | 患肢の異常な短縮・回旋、股関節周囲の激痛の突然の出現、体位変換後の患肢の肢位変化を確認する | 人工骨頭置換術後は人工関節脱臼のリスクがあり、特に股関節屈曲・内転・内旋位(後方アプローチの場合)を避ける肢位指導が守られているかの確認と併せて、脱臼徴候の早期発見につなげる視点が重要になる |
| 深部静脈血栓症(DVT)の兆候 | 下腿周径の左右差、腓腹部の把握痛(Homans徴候)、D-dimer値の推移を確認する | 大腿骨近位部骨折の周術期は不動化と手術侵襲が重なり、静脈血栓塞栓症の高リスク状態にあるため、下腿の腫脹や疼痛の変化は肺塞栓症への進展を防ぐための重要な観察点になる |
| 術後せん妄の出現 | 見当識、日内変動のある意識レベルの変化、普段と異なる言動の有無を、夜勤帯を中心に確認する | 高齢者の大腿骨近位部骨折術後はせん妄の発症率が高く、特に人工骨頭置換術は侵襲が比較的大きいため、術後数日間は特に注意深い観察が求められる |
大腿骨転子部骨折の観察について
病態の要点
転子部骨折は関節包外で発生するため、頸部骨折のような血流障害のリスクは低い一方、骨折線が大転子から小転子にかけて複雑に走行する不安定型骨折になりやすいという特徴があります。海綿骨が豊富な部位のため出血量が多くなりやすく、頸部骨折よりも術前の貧血・循環動態の変化に注意が必要な骨折型です。
治療は主に髄内釘(ガンマネイル、CHS)による骨接合術が選択され、骨折の安定性(Evans分類などによる不安定型か安定型かの評価)が術式選択や荷重開始時期の判断材料になります。
【保存版】観察項目&根拠
| 観察項目 | 観察ポイント | 根拠・予測 |
|---|---|---|
| 受傷後の出血量とバイタルサインの推移 | 血圧・脈拍数を経時的に測定し、頻脈や血圧低下の傾向、Hb値の推移を確認する | 転子部は海綿骨が豊富で血流も豊富なため骨折部からの出血量が多くなりやすく、外出血がなくても骨折部への内出血だけで循環血液量減少性ショックに至ることがあるという視点を持つ必要がある |
| 大腿部の腫脹・皮下出血斑の範囲 | 大腿近位部の周径を健側と比較し、皮下出血斑(紫斑)の範囲を経時的に記録する | 腫脹や皮下出血斑の拡大は骨折部からの出血が持続していることを示唆し、循環動態の変化と併せて評価することで、輸血の必要性を判断する材料になる |
| 患肢の疼痛部位と圧痛点 | 大転子部周囲の圧痛、体動時の疼痛の程度を確認する | 転子部骨折の疼痛は大転子周囲に限局しやすく、頸部骨折の鼠径部痛とは異なる部位に注目することで、骨折型の推定につながる |
| 骨接合術後のカットアウト徴候 | 患肢の疼痛の突然の増強、股関節の可動域制限の急な変化、荷重時痛の再燃を確認する | 転子部骨折、特に不安定型では、スクリューが骨頭内から関節内へ穿破するカットアウトという合併症のリスクがあり、疼痛の性質変化はこの合併症を疑う重要なサインになる |
| 荷重時の疼痛と歩行状態 | 医師の指示に基づく荷重開始後、荷重時痛の有無、歩行時のふらつきや患肢の崩れがないかを確認する | 不安定型骨折では骨接合材料への負荷が大きくなりやすく、荷重開始後の疼痛出現は内固定材料の緩みや骨折部の再転位を疑うきっかけになる |
| 創部の出血・血腫形成 | 術創部のドレーン排液量と性状(血性の程度)、創部周囲の腫脹を確認する | 転子部骨折は術中出血量も比較的多くなりやすく、術後のドレーン排液量が急激に増加する場合は活動性出血を疑い、バイタルサインの変化と併せて評価する視点が求められる |
| 弾性ストッキング・フットポンプ装着状況とDVT徴候 | 装着位置のズレ、下腿の締め付けすぎによる皮膚障害の有無、下腿周径の左右差を確認する | 転子部骨折も頸部骨折同様に静脈血栓塞栓症の高リスク群であり、予防具の適切な装着とあわせて臨床症状の観察を怠らない視点が重要になる |
現場で役立つ+αの看護ポイント
受傷機転の聴取は「転倒」だけで終わらせない
高齢者の場合、「なぜ転倒したのか」という背景に、起立性低血圧、不整脈による失神、脳血管障害の前兆が隠れていることがあります。骨折の治療だけに視点が向きがちですが、転倒の原因検索も並行して行う視点を持つと、再転倒予防や新たな疾患の早期発見につながります。
術前の疼痛コントロールは離床の質を左右する
受傷直後から手術までの間、疼痛コントロールが不十分だと、体位変換や移乗時の疼痛が強くなり、患者さんが不動化から抜け出せなくなることがあります。神経ブロック(大腿神経ブロックなど)の実施状況も確認し、鎮痛の効果を評価する視点を持つとよいでしょう。
ドクターコール前に確認しておきたいこと
疼痛の突然の増強や新たな循環動態の変化に気づいた際は、「いつから」「どの部位が」「どの程度」変化したのかを整理し、直近のバイタルサインの推移、Hb値やD-dimer値などの検査データもあわせて手元に用意しておくと、SBARに沿った報告がスムーズになります。
夜勤帯での急変時は「せん妄」と「本当の異常」を見極める
高齢患者さんは夜間にせん妄症状が出現しやすく、「疼痛の訴え」がせん妄による混乱なのか、実際に合併症が進行しているサインなのかの判断に迷う場面が多くあります。普段のADLや反応との違いを基準に、バイタルサインの変化を伴っているかどうかを併せて評価する視点が判断の助けになります。
荷重開始のタイミングは医師の指示を待つだけでなく、骨折型を理解しておく
安定型か不安定型かによって荷重開始のタイミングは異なるため、カルテで骨折分類(Garden分類、Evans分類など)を事前に確認しておくと、リハビリテーション時の介助や説明の説得力が増します。






