静脈血栓塞栓症について

静脈血栓症(VTE)について|疾患の概要から看護のポイントまで徹底解説

あずかん

術後の初回歩行時や、長期臥床していた患者さんが車椅子に乗った瞬間、「息が苦しい…」と胸を押さえて倒れ込む。そんな背筋が凍るような場面に遭遇したことはありませんか?
静脈血栓塞栓症(VTE)は、外科・内科問わずあらゆる病棟で発生するリスクがあり、ひとたび重症化すればあっという間に心肺停止に陥る恐ろしい疾患です。
今回は、VTE(DVTとPTE)の病態を整理しつつ、致死的な事態を防ぐための「観察眼」を紹介していきます。


目次

サクッと復習!疾患の概要

静脈血栓塞栓症(VTE)は、深部静脈血栓症(DVT)と肺血栓塞栓症(PTE)を合わせた総称です。

  • 病態の違い
    • DVT: 主に下肢や骨盤内の深部静脈に血栓ができる病態。
    • PTE: DVTでできた血栓が血流に乗って右心系を通過し、肺動脈に詰まる病態(いわゆるエコノミークラス症候群)。
  • 原因
    •  Virchow(ウィルヒョウ)の三徴候と呼ばれる「血流の停滞」「血管内皮の障害」「血液凝固能の亢進」が重なることで発症リスクが跳ね上がります(術後、長期臥床、悪性腫瘍、脱水など)。
  • 症状
    • DVTでは下肢の片側性腫脹、疼痛、発赤(炎症所見)。
    • PTEでは突然の呼吸困難、胸痛、頻呼吸、SpO2低下、重症例ではショックや失神をきたす。
  • 治療
    • ヘパリン持続静注やDOAC(直接作用型経口抗凝固薬)による抗凝固療法。重症PTEでは血栓溶解療法(t-PA)やPCPS(経皮的心肺補助装置)の導入、下大静脈フィルター(IVCフィルター)の留置が選択されます。

観察ポイント&根拠

観察項目観察ポイント根拠・予測
下腿周囲径の左右差と疼痛メジャーを用いて、膝蓋骨下縁から10cm下のふくらはぎの周囲径を毎日定時で計測し、1cm以上の左右差がないか、また圧痛や把握痛(Lowenberg徴候)がないかを評価する。【DVTの早期発見とPTE予防】
血栓によって静脈還流が阻害されるため、片側性の浮腫や腫脹が出現します。「なんとなく腫れている」ではなく、数値で追うことで微細な変化に気づけます。ここでDVTを見逃さず医師へ報告できれば、血栓が飛んでPTEになるのを未然に防げます。
離床時のSpO2、呼吸回数、心拍数の変動術後の初回歩行や体位変換時に、SpO2が急激に90%台前半へ低下しないか、呼吸数(20回/分以上)や心拍数(100回/分以上の頻脈)の急上昇がないかをモニターまたは実測で確認する。【微小なPTEの察知】
小さな血栓が肺動脈の末梢に飛んだ場合、明らかな胸痛がなくても、代償性の頻脈や頻呼吸、軽度のSpO2低下としてサインが出ます。「動いたから息が上がるのは当然」と片付けず、PTEの前兆かもしれないという予測の視点を持つことが重要です。
D-ダイマー値の推移採血結果が出た際、D-ダイマー(血栓形成・溶解のマーカー)が基準値を超えていないか、前回値から急上昇していないかを確認する。【潜在的な血栓形成のアセスメント】
D-ダイマーは体内で血栓が作られ、溶かされている(線溶系亢進)時に高値となります。術後や炎症時にも上昇しますが、異常に高い場合や下肢の腫脹を伴う場合は、下肢静脈エコー検査のオーダーを医師に打診する重要な根拠となります。

もし患者さんが「足がむくんで痛いから、ちょっとマッサージしてくれない?」と言ったら?

「足がむくんで痛いから、ちょっとマッサージしてくれない?」
術後や長期臥床の患者さんから、清拭時などに非常によく聞かれる訴えです。

言葉の裏にあるニードと病態
患者さんは単なる「疲れやむくみ」だと思って苦痛を訴えていますが、片側性の疼痛や腫脹がある場合、すでにDVTを形成している危険性が極めて高い状態です。

対応アクションと会話例

  1. マッサージは絶対NG!理由を説明し、すぐに観察を行う
    • NG:「わかりました、揉みますね」
    • OK:「足が張って痛いんですね、お辛いですよね。ただ、もし足の血管の中に血の塊(血栓)ができていた場合、マッサージで揉むことでその塊が肺に飛んでしまい、息ができなくなる危険があるんです。絶対に揉まないでくださいね。すぐに足の太さを測って、先生にエコーの検査が必要か相談しますね」
  2. 安静の指示と医師へのSBAR報告
    • 患者さんにはベッド上安静を指示し、弾性ストッキングを履いている場合は一旦脱がせます。すぐに下肢周囲径の左右差、皮膚色、SpO2を測定し、「DVTの疑いがあるため、下肢静脈エコーをお願いします」と医師へ報告します。

現場で差がつく看護のコツ・ポイント

VTE予防の基本である「弾性ストッキング(弾スト)」と「間欠的空気圧迫装置(IPC)」も、使い方を間違えれば逆効果になります。

工夫・コツ・アイデア具体的な手技・環境調整期待される効果・メリット
弾ストの「シワ」と「折り返し」の徹底排除弾ストを履かせる際、足首や膝裏にシワが寄っていないか確認し、長すぎるからといって絶対に上部を折り返さないようにする。シワや折り返しがあると、そこだけ局所的に圧が過剰にかかり、駆血帯と同じように静脈還流を阻害してしまいます。かえって血流の停滞(Virchowの三徴候)を招くため、DVTのリスクを高めるのを防ぐために行います。
IPC装着時のスキンテア・腓骨神経麻痺予防IPC(フットポンプ)を巻く際、スリーブ内に汗や湿気がこもらないよう綿のストッキネットを一枚挟み、腓骨頭部(膝の外側下)を強く圧迫しないよう指2本分のゆとりを持たせてマジックテープを留める。IPCの長時間の圧迫と蒸れによる皮膚トラブル(MDRPU)を防ぎます。また、腓骨神経への圧迫による下垂足(尖足位)などの神経麻痺を予防します。
積極的な足関節の底背屈運動の指導ベッド上で安静にしている患者さんに対し、「1時間に10回、足首をパタパタと手前に反らしたり、奥に伸ばしたりしてくださいね」と、具体的な回数とアクションを指導する。ふくらはぎの筋肉(下腿三頭筋)は「第2の心臓」と呼ばれ、筋ポンプ作用によって静脈血を心臓へ送り返します。自発的な底背屈運動は、血流の停滞を防ぐ最も効果的で安全な予防策です。

新人さんが陥りやすいミスへの対策

新人の頃は、手術前後のオーダーに「弾性ストッキング着用」「フットポンプ装着」とあると、「とにかくこれを着けておけばVTE予防になるんだ!」と、ルーチンワークのように装着してしまいがちですよね。

でも、ちょっと待ってください。「すでにDVTができている人」に弾ストを履かせたりIPCで圧迫したりすると、どうなるでしょうか?……そうです、せっかく足に留まっていた血栓を、物理的な圧迫によって強制的に肺へと押し流し、私たちが自らの手でPTE(肺塞栓)を引き起こしてしまうことになります。

「予防具をつける前に、今この人に血栓のサイン(足の腫れ、左右差、痛み)がないかを確認する」

あずかん

このワンステップを挟めるかどうかが、プロの看護師としての分かれ道です。「とりあえず履かせる」から卒業して、アセスメントに基づいた確実なVTE予防を実践していってください。


参考資料
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