認知症について|疾患の概要から看護のポイントまで徹底解説
あずかん高齢化が進む今の臨床現場では、どの診療科にいても「認知症」を持つ患者さんを受け持つ機会がありますよね。急性期の治療を終えても、点滴の自己抜去があったり、夜間に大声を出されたりして、ケアに難渋することも多いと思います。
しかし、「認知症だから仕方ない」「不穏だから抑制するしかない」で思考停止してしまうと、実は治療可能な別の疾患(treatable dementia)を見逃してしまったり、患者さんの苦痛を増強させてしまったりします。
今回は、4大認知症の特徴と間違えられやすい疾患の鑑別、そして病棟ですぐに使える具体的なアセスメントとケアのコツを紹介していきます。
サクッと復習!認知症の概要と間違えられやすい疾患
認知症は単一の疾患ではなく、脳の器質的障害により認知機能が持続的に低下した状態の総称です。主に以下の4つ(4大認知症)に分類されます。
アルツハイマー型認知症(ATD)
アミロイドβの蓄積による脳の萎縮(特に海馬)。エピソード記憶の欠如、見当識障害、物盗られ妄想などが特徴。


血管性認知症(VaD)
脳梗塞や脳出血などの脳血管障害が原因。障害部位によってできることとできないことの差が激しい「まだら認知症」や、感情失禁(些細なことで泣き笑いする)が特徴です。


レビー小体型認知症(DLB)
レビー小体が大脳皮質や脳幹に蓄積。「ありありとした幻視(小動物や人が見える)」、パーキンソニズム(筋固縮、小刻み歩行)、認知機能の日内変動が特徴。薬剤への過敏性(特に抗精神病薬)に注意が必要です。


前頭側頭型認知症(FTD)
前頭葉や側頭葉に限局した萎縮。ピック病が代表的。性格変化、万引きや暴言などの反社会的行動、同じコースを歩き続ける「常同行動」がみられ、記憶障害は初期には目立ちません。


【要注意!認知症に間違えられやすい疾患】
せん妄
急激に発症し、意識レベル(覚醒度)の低下や変動を伴います。感染症や脱水、薬剤などが誘因になります。
うつ病(仮性認知症)
意欲低下や思考制止により、認知機能が落ちたように見えます。「わからない」という返答が多いのが特徴です。
治療可能な認知症(treatable dementia)
正常圧水頭症(歩行障害、尿失禁、認知機能低下の三徴)、慢性硬膜下血腫、甲状腺機能低下症など。これらは原因疾患の治療で可逆的に改善します。




観察ポイント&根拠
認知症アセスメントの鍵は、「本当に不可逆的な認知症か?」を疑う視点を持つことです。
| 観察項目 | 観察のポイント | 根拠・予測 |
|---|---|---|
| 発症のスピードと意識レベルの変動 | 家族への問診で「いつからおかしくなったか」を月・年単位か、日・週単位か確認する。また、JCSやGCSを用いて、日中と夜間で覚醒度に波がないか(傾眠傾向がないか)を評価する。 | 【せん妄との鑑別】 認知症は年単位で緩徐に進行しますが、せん妄は「数日前から急に」発症し、日内変動(特に夜間増悪)を伴います。急激な認知機能低下を見た際は、感染(発熱、採血でのWBC・CRP上昇)や脱水(BUN/Cre比上昇)、薬剤性などを疑う根拠になります。 |
| 歩行状態と排尿パターンの変化 | トイレ誘導時、足が床にすり足で引っかかるような「小刻み・すり足歩行(磁石歩行)」がないか視診し、同時に失禁の有無や頻度の推移を尿取りパッドの重量で計測する。 | 【特発性正常圧水頭症(iNPH)の鑑別】 iNPHの三徴(歩行障害、認知機能障害、尿失禁)の確認です。アルツハイマー型よりも歩行障害が先行しやすい特徴があります。この所見があれば、頭部CTでの脳室拡大の有無の確認を医師へ上申するきっかけとなります。 |
| 幻視の有無とパーキンソニズム | 患者が何もない空間を指差している時、「何が見えますか?」と具体的に問診する。また、関節の他動運動を行い、歯車様強剛(ガクガクとした抵抗)がないか触診する。 | 【レビー小体型認知症のアセスメント】 レビー小体型では「ベッドの下に子どもがいる」といった具体的な幻視が初期から見られます。これに対し、不穏だからと安易にハロペリドールなどの定型抗精神病薬を使用すると、パーキンソニズムが劇的に悪化(悪性症候群のリスク増大)するため、薬剤調整の重要な判断材料になります。 |
もし患者さんからこう言われたら?
アルツハイマー型認知症の患者さんから、「私の財布を盗んだでしょう!」病室で突然こう怒鳴られる場面、経験があるのではないでしょうか。
対応アクションと会話例
- NG対応: 「盗んでいませんよ!さっき引き出しに入れたじゃないですか」と事実を論破する。
- OK対応: 「お財布がなくなってしまったんですね、それは心配ですね。一緒に探しましょうか」
- 患者さんの目線の高さに腰を下ろし、まずは不安な感情を否定せずに受容します。その後、一緒に引き出しや床頭台を探し、「あ、こんなところにありましたね!見つかってよかったです」と、患者さん自身に見つけてもらうよう誘導すると、安心感を抱きやすいですよ。
現場で差がつく看護のコツ
認知症の方のBPSD(行動・心理症状)は、環境や私たちの関わり方次第で大きく軽減できます。
| 工夫・コツ・アイデア | 具体的な手技・環境調整 | 期待される効果・メリット |
|---|---|---|
| 視覚的代償を取り入れた環境調整 | トイレの扉に「便所」と大きな文字で書いた紙を貼る。自分のベッドがわかるよう、ご家族が持参したお気に入りのクッションや家族写真を床頭台の目立つ位置に配置する。 | 空間見当識障害に対するサポートです。言葉での説明よりも視覚的なサインの方が認識しやすいため、トイレの場所がわからず起こる放尿や、他患のベッドへの迷い込みを防ぐことができます。 |
| 「ワンボイス・ワンメッセージ」の徹底 | 「お薬を飲んでから、トイレに行って、そのあとご飯にしましょうね」と一度に複数伝えるのではなく、「お薬を飲みましょう」→飲水後「次はトイレに行きましょう」と、一つずつ短く伝える。 | 認知症の方は、複数の情報を同時に処理すること(実行機能)が低下しています。情報を小分けにして伝えることで、患者さんの混乱を防ぎ、ケアへの拒否(抵抗)を減らすことができます。 |
| 夕暮れ症候群に対する日中の離床と採光 | レビー小体型やアルツハイマー型で夕方から不穏になる患者に対し、日中はカーテンを開けて日光を入れ、車椅子でデイルームへ誘導し、ラジオ体操や塗り絵などのレクリエーションを提供する。 | 概日リズム(サーカディアンリズム)の調整です。日中の活動量を上げ、昼夜のメリハリをつけることで、夜間の睡眠導入をスムーズにし、せん妄や夜間徘徊のリスクを低減します。 |
新人さんが陥りやすいミスへの対策
「認知機能が落ちているから、どうせ説明しても忘れてしまうだろう」と、声かけを省略して無言でケアに入ってしまうことがありませんか?忙しさに追われると、つい業務優先で「タスクをこなすこと」に必死になってしまいます。
認知症の患者さんは「何をされたか(事実)」は忘れても、「嫌な気持ちにさせられた(感情)」は扁桃体にしっかりと残るんです。無言で布団をめくられた恐怖が、その後のルート抜去や暴力といったBPSDの引き金になることは少なくありません。
「説明しても忘れるから」ではなく、「その瞬間、安心してもらうために声をかける」という視点を持つと、アセスメントとケアの質が劇的に深まります。急がば回れ、まずは患者さんの正面に立ち、目線を合わせて「〇〇さん、おはようございます」と名乗ることから始めてみてください。

