前頭側頭型認知症について

前頭側頭型認知症(FTD)について|疾患の概要から看護のポイントまで徹底解説

あずかん

売店で会計をせずに商品を持ち帰ってしまう、同じ話を毎回同じタイミングで繰り返す、他の患者さんの食事を平気で食べてしまう——こうした行動を見て、「困った患者さんだな」と感じたことはありませんか?

前頭側頭型認知症(FTD)の患者さんは、記憶障害よりも先に人格変化や社会性の欠如が目立つことが多く、アルツハイマー型認知症のイメージで対応していると「なぜこの人はこんな行動をするのか」と戸惑う場面が多くあります。この病態を理解しているかどうかで、患者さんの行動を「問題行動」として捉えるか、「病態に基づいた症状」として捉えるかが大きく変わってきます。


目次

サクッと復習!疾患の概要

前頭側頭型認知症(FTD)は、前頭葉と側頭葉を中心とした限局性の脳萎縮によって生じる変性性認知症の一つで、若年性認知症の原因疾患としても重要な位置を占めます。病理学的には前頭側頭葉変性症(FTLD)という大きな枠組みに含まれ、タウ蛋白やTDP-43などの異常蛋白の蓄積が関与しています。

臨床亜型には、行動異常型(bvFTD)進行性非流暢性失語意味性認知症があり、このうち看護現場で最も多く遭遇するのが行動異常型前頭側頭型認知症です。

症状の特徴として、脱抑制(社会的に不適切な言動)アパシー(無関心・意欲低下)共感性の低下常同行動(同じ行動パターンの繰り返し)、食行動の変化(過食、特定の食品への固執)が挙げられます。一方で、記憶障害や見当識障害は比較的初期には目立たないという点が、アルツハイマー型認知症との大きな違いです。

診断にはMRI・SPECTによる前頭葉・側頭葉の萎縮・血流低下の評価神経心理学的検査が用いられます。根本治療薬は現時点で確立されておらず、対症療法(行動・心理症状に対する薬物療法)と環境調整を中心とした非薬物療法が治療の中心となります。


観察ポイント&根拠

観察項目具体的な観察内容根拠・予測される事態
脱抑制行動の内容と頻度他患者さんの物品を無断で使用する、不適切な発言をするなど、具体的な行動内容とその頻度・時間帯を記録する脱抑制は前頭葉眼窩面の機能障害を反映しており、行動パターンを記録することで悪化傾向や特定の誘因(環境変化、刺激過多など)を特定する視点につながる
常同行動のパターン同じ時間に同じ場所を歩き回る、同じ言葉を繰り返すといった行動の開始時刻・持続時間・中断させた際の反応を観察する常同行動は前頭葉—基底核ループの機能異常を反映しており、無理に中断させると強い抵抗や興奮を誘発することがあるため、パターンを把握した上でのケア介入のタイミングを予測する材料になる
食行動の変化過食傾向、特定の食品(甘いものなど)への固執、異食(食物以外を口に入れる行動)の有無を確認する側頭葉前部・眼窩前頭皮質の障害により食行動の調節機能が低下することが知られており、体重の急激な増加や誤嚥・窒息リスクの評価につながる重要な観察点となる
表情と情動表出家族の来院時や困った状況での表情変化、感情表出の有無を確認するアパシーや共感性の低下により、通常であれば喜怒哀楽が表出される場面でも無表情・無関心な反応を示すことがあり、これを「冷たい人」ではなく病態として捉える視点が家族支援にもつながる
見当識・記憶の保持状況日付や場所の見当識、直前の会話内容の記憶保持を、他の症状(脱抑制、常同行動)と併せて評価するFTDでは初期には記憶障害や見当識障害が比較的保たれることが多く、この点がアルツハイマー型認知症との鑑別ポイントとなる。逆に急激な記憶障害の出現は他病態の合併を疑う視点も持つ
言語機能(発語の流暢性、理解力)発語の流暢性、単語の理解力、物品の名称を答えられるかを確認する進行性非流暢性失語や意味性認知症の亜型では言語機能の障害が主体となるため、どのタイプのFTDに近いかを推測する材料になり、コミュニケーション方法の調整につながる
バイタルサイン・全身状態特に興奮時の血圧・脈拍の変動、活動量の増加による疲労の蓄積を確認する常同行動や多動傾向が続くと体力消耗や脱水につながることがあり、精神症状の観察と並行して身体的な負荷も評価する視点が必要になる

もし患者さんがこう言ったら、あなたはどうする?

これはFTDの行動異常型患者さんが、脱抑制や社会的判断力の低下により、「これは僕の物だ、返してくれ」と、他の患者さんの持ち物を持っていることはよく起こす行動の一つです。

言葉の裏のニード
「自分の行動が不適切であるという認識自体が病態によって障害されている」という背景があり、患者さん本人には悪意や嘘をついているという意識はほとんどないという点を理解しておく必要があります。

ここで「それは違いますよ、ダメですよ」と強く否定・叱責するような対応をしてしまうと、患者さんは強い抵抗や興奮を示すことがあり、状況がこじれやすくなります。対応としては、

「そうなんですね、ちょっと一緒に確認させてもらってもいいですか」

と、否定せずにいったん受け止めた上で、確認という形で自然に物品を預かる行動につなげると、患者さんの尊厳を損なわずに場面を収めやすいですよ。その場で説得を試みるより、注意を別の話題や活動に自然に移す(ディストラクション)という対応の方が、興奮を招かずに済むことが多い印象があります。持ち物の管理については、他患者さんとの物品の区別がつきやすいよう、名前や目印を大きく分かりやすくしておくという環境調整も併せて検討する視点が重要です。


現場で差がつく看護のコツ

工夫・アイデア期待できる効果
常同行動のパターン(決まった時間に歩き回るなど)を把握し、その時間帯に合わせて排泄誘導や水分摂取を組み込む患者さんの生活リズムに寄り添う形でケアを提供でき、行動を無理に止めることによる興奮を避けやすくなる
脱抑制による不適切発言があった際、周囲の患者さんやご家族には「病気の症状の一つである」という説明を個別に行う誤解によるトラブルや患者さん本人への非難を防ぎ、周囲の理解を得やすくなる
過食傾向がある患者さんには、決まった時間・決まった量で提供する食事の枠組みを作り、間食の内容も低カロリーなものに調整する体重の急激な増加や、それに伴う血糖・脂質異常のリスクを軽減できる
コミュニケーションの際は、抽象的な指示ではなく「今から一緒に歯を磨きましょう」など具体的で短い言葉で伝える言語理解力の変化がある患者さんにも指示が伝わりやすくなり、ケアへの協力を得やすくなる
家族との面談時には、行動異常の記録(頻度、状況、対応と結果)を具体的なエピソードとして共有する家族が病態への理解を深めやすくなり、在宅での対応方法を一緒に考える土台ができる

新人さんが陥りやすいミスへの対策

新人さんがよくやってしまうのが、脱抑制行動や常同行動を「本人の意思でやっている困った行動」として捉え、正論で説得しようとしてしまうことです。FTDでは前頭葉機能の障害により、社会的なルールを理解していても、それに基づいて行動を制御する能力自体が障害されています。正論を重ねても行動が改善するどころか、興奮や抵抗を強めてしまうことがあります。

このことを知らないと、「何度説明しても分かってもらえない」と感じてしまい、対応に疲弃してしまうことがあります。「理解していないのではなく、制御できない」という病態の理解を持つと、説得よりも環境調整やディストラクションを優先するという発想に切り替えやすくなります。

もう一つ、新人さんが混同しやすいのが、アパシーによる無反応を「意欲がないから機能訓練に協力してくれない」と捉え、患者さん本人のやる気の問題として片付けてしまうことです。アパシーは病態そのものによる症状であり、本人の努力不足ではないという理解を持つと、リハビリテーションへの参加を促す際にも、叱咤激励ではなく短時間・低負荷から始めるといった工夫につながってきます

異食や過食といった食行動の変化を初めて目にしたとき、「なぜこんなことをするのか分からない」と困惑する新人さんも多いと思います。ですが、これが側頭葉・眼窩前頭皮質の機能障害という病態に基づく症状であるという知識があると、行動そのものへの驚きよりも「どう安全に対応するか」という具体的なケアの発想に切り替えやすくなると思いますよ。


参考資料

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