アルツハイマー型認知症について

あずかん

アルツハイマー型認知症は、認知症の中で最も多い疾患であり、看護師として働く上で深く理解しておくべき重要な疾患の一つです。この記事では、アルツハイマー型認知症の病態生理から看護のポイントまでを詳しく解説します。

目次

アルツハイマー型認知症とは

アルツハイマー型認知症は、脳の神経細胞が徐々に破壊され、脳全体が萎縮していく進行性の疾患である。その原因として、主に以下の2つの異常なタンパク質が脳内に蓄積することが考えられている。

アミロイドβ(Aβ)蛋白
本来は分解・排出されるべきタンパク質が脳内に蓄積し、老人斑と呼ばれるシミのような塊を形成する。これが神経細胞を傷つけ、機能障害を引き起こしている。

タウ蛋白
神経細胞内に存在するタンパク質で、本来は神経細胞の構造を安定させる役割を担っている。しかし、アルツハイマー型認知症では異常にリン酸化されたタウが蓄積し、神経原線維変化と呼ばれる異常線維構造を形成する。これも神経細胞の機能障害や死滅につながっていく。

これらの異常なタンパクが、アルツハイマー型認知症の場合、通常の高齢者の脳の比較にならないほど多量に大脳皮質や海馬を中心に出現し、神経細胞脱落(脳萎縮)を引き起こしている。特に老人斑は、発症する十年以上前から脳に沈着し始めるといわれている。

アルツハイマー型認知症の経過と症状

アルツハイマー型認知症の経過は個人差が大きいが、一般的に以下の3つの段階に分けられる。

初期:1~3年
物忘れが目立つようになる(特に新しい出来事)
同じ話を繰り返す
時間や場所の感覚が曖昧になる
複雑な作業が難しくなる
興味や関心が薄れる
感情の起伏が大きくなる

中期:2~10年
物忘れがさらに進行し、昔のことも思い出せなくなる
日常生活で介助が必要になる(着替え、入浴など)
時間や場所の認識がさらに困難になる
人物誤認(家族を認識できないなど)が現れる
徘徊や興奮などの行動・心理症状(BPSD)が出現しやすくなる
意思疎通が難しくなる

後期:8~12年
全介助が必要になる
家族のことも認識できなくなる場合がある
意思疎通がほとんどできなくなる
嚥下障害や歩行困難が現れる
寝たきりになることが多い

初期中期後期
脳の変化海馬の萎縮側頭葉・頭頂葉の萎縮大脳全般の高度な萎縮
記憶障害・新しいことが覚えられない(記銘力障害)
・物の名前を思い出せない(健忘失語)
・新しいことだけでなく、古い記憶も障害される・記憶はほとんど失う
・意思の疎通が困難になる
記憶障害以外の認知機能障害・年月日の感覚が不確か(時間の見当識障害)・自分の家を認識できない(場所の見当識障害)
・徘徊
・失語、失認、失行、失算 など
・肉親が誰だかわからない(人の見当識障害)
生活上の障害・その他・物盗られ妄想、被害妄想
・自発性の低下
・身辺の自立は可能
・季節に合った服が選べない
・深刻さは乏しく、しばしば多幸を呈する
・日常生活に介助が必要
・尿便失禁
・弄便
・異食
・筋強剛(固縮)、歩行障害、神経症状
・最終的には無動・無言となり、寝たきりとなる

治療法・対症療法

現在、アルツハイマー型認知症を完全に治癒させる治療法は確立されていない。しかし、病気の進行を遅らせたり、症状を和らげたりするための治療法や対症療法があり、患者に合わせて対応している。

薬物療法

コリンエステラーゼ阻害薬

コリンエステラーゼ阻害薬は、アルツハイマー型認知症の中核症状(記憶障害、見当識障害など)の進行を遅らせる目的で使用される薬剤である。

作用機序
アルツハイマー型認知症では、脳内の神経伝達物質であるアセチルコリンが減少していると考えられています。アセチルコリンは記憶や学習、注意力などに関わる重要な物質です。コリンエステラーゼ阻害薬は、アセチルコリンを分解する酵素であるコリンエステラーゼの働きを阻害することで、脳内のアセチルコリンの量を増やし、神経細胞間の情報伝達を改善します。

主な薬剤
ドネペジル(アリセプト)
ガランタミン(レミニール)
リバスチグミン(イクセロンパッチ、リバスタッチパッチ)

認知機能の維持や改善に一定の効果が期待できるが、個人差があり、病気の進行を完全に止めるものではない。また、副作用の徐脈性不整脈に注意が必要。

NMDA受容体拮抗薬

NMDA受容体拮抗薬は、アルツハイマー型認知症の中等度から重度の段階で、中核症状の進行を緩やかにする目的で使用される薬剤である。

作用機序
アルツハイマー型認知症では、脳内の神経伝達物質であるグルタミン酸の働きが過剰になっていると考えられています。グルタミン酸は神経細胞を興奮させる作用がありますが、過剰な刺激は神経細胞を傷つける可能性があります。NMDA受容体拮抗薬は、グルタミン酸が作用するNMDA受容体に結合し、グルタミン酸の過剰な働きを抑えることで、神経細胞を保護し、認知機能の低下を緩やかにします。

主な薬剤
メマンチン(メマリー)

認知機能の維持に加え、BPSDの一部(興奮や攻撃性など)の改善にも効果が期待できる場合がある。副作用として、ふらつきや眠気があり注意が必要。

非定型抗精神病薬

非定型抗精神病薬は、アルツハイマー型認知症の中核症状ではなく、BPSDに対して使用される薬剤で、特に、興奮、攻撃性、幻覚、妄想などの症状が強く、非薬物療法では対応が難しい場合に検討される。

作用機序
脳内の神経伝達物質であるドーパミンセロトニンなどの働きを調整することで、精神症状を緩和する。定型抗精神病薬に比べて錐体外路症状(パーキンソン病のような手足の震えやこわばり)が出現しにくいとされている。

主な薬剤
リスペリドン
オランザピン
クエチアピン
アリピプラゾール  など

興奮や攻撃性の抑制、幻覚や妄想の軽減などに効果が期待できが、認知症に伴うBPSDに対しては、必ずしも有効でない場合や、副作用によって症状が悪化する可能性もある。過鎮静や錐体外路症状、血糖上昇などに注意して、漫然と使用しないようにする。

非薬物療法

認知リハビリテーション

認知リハビリテーションは、認知機能の低下を遅らせたり、残存する認知機能を活用したりすることを目的とした訓練である。全ての患者さんに劇的な効果があるわけではないが、認知機能の維持や、日常生活での困難の軽減に一定の効果が期待でき、特に早期の段階で開始することが効果的とされている。

作業療法

作業療法は日常生活に必要な様々な活動(作業)を通して、身体機能や認知機能、精神機能の維持・向上を図り、その人らしい生活を送れるように支援するリハビリテーションである。ADLやIADL能力の維持・向上により、自立度が高まり、介護負担の軽減にもつながり、患者自身も趣味や活動を通して生きがいを感じ、精神的な安定にもつながる。

音楽療法や回想法

心理的な側面やコミュニケーションの促進に焦点を当てた非薬物療法で、穏やかな気持ちになったり、笑顔が見られたりするなど、精神的な安定に効果が期待できる。昔の歌を聴くことで、過去の記憶が蘇り、コミュニケーションが活性化されたり、過去のポジティブな経験を思い出すことで、自信を取り戻したり、精神的な安定につながったりする。また、グループで行う場合は、参加者同士の交流も促進が期待される。

運動療法

運動療法は身体機能を維持・向上させるだけでなく、認知機能や精神面にも良い影響を与えることが期待されている。身体機能の維持により、ADL能力の維持や転倒予防につながる。また、適度な運動は脳血流を改善し、認知機能の維持に一定の効果があると考えられており、運動による爽快感は、精神的な安定も期待される。

看護のポイント

患者さんの理解と尊重
認知機能の低下による言動や行動を病気の症状として理解し、頭ごなしに否定したり叱ったりしないようにする
患者のこれまでの人生や価値観を尊重し、その人らしさを大切にしたケアを心がける
患者の感情に寄り添い、共感的な姿勢で接する

安全な環境の整備
転倒や事故を防ぐために、室内環境を整える(段差をなくす、手すりを設置するなど)
徘徊を防ぐために、ドアや窓に工夫をしたり、見守りを行う
誤嚥を防ぐために、食事形態や姿勢に配慮する

コミュニケーションの工夫
ゆっくりと分かりやすい言葉で話しかける
ジェスチャーや表情などを活用する
質問は「はい」か「いいえ」で答えられるように工夫する
患者の話に耳を傾け、最後まで丁寧に聞く

日常生活の援助
患者の能力に合わせて、できることはご自身で行ってもらうように促し、自立を支援する
着替えや入浴、排泄などの援助は、患者のペースに合わせて行う
食事の摂取量や水分摂取量を把握し、栄養状態や脱水に注意する

BPSDへの対応
BPSDが出現した際は、その背景にある原因を探り、個別に対応する
薬物療法に頼るだけでなく、環境調整や声かけ、気分転換なども効果的である
興奮している場合は、静かで落ち着いた環境に誘導し、安心させるように声かけを行う

ご家族への支援
アルツハイマー型認知症のケアは家族にとって大きな負担となるため、患者だけではなく家族への支援が重要である
疾患やケアに関する情報提供を行い、相談に応じる
介護保険サービスなどの社会資源の情報を提供し、利用を促す
介護者の休息も重要であり、ショートステイなどの利用を検討する

参考資料
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