脳出血について|疾患の概要から看護のポイントまで徹底解説
あずかん「さっきまで会話できていたのに、急に意識レベルが落ちた(JCSが3桁になった)」
「血圧が下がらない…再出血したらどうしよう」
脳出血の看護は、「頭蓋内圧(ICP)亢進との戦い」であり、私たちの観察眼が患者さんの生命予後と機能予後(麻痺がどれくらい残るか)をダイレクトに左右します。
今回は、教科書的な知識だけでなく、「現場のリアリティ」をベースに、明日から使える視点を紹介します。
目次
サクッと復習!疾患の概要
- 病態: 脳実質内の血管(主に穿通枝)が破綻し、血腫を形成する疾患。血腫による直接的な脳組織の破壊と、周囲の脳浮腫による圧迫で症状が出現します。
- 原因: 最大のリスク因子は高血圧。その他、脳血管奇形、アミロイド血管症、抗凝固薬の内服など。
- 好発部位と特有症状:
- 被殻出血: 最も多い。対側の片麻痺、感覚障害、失語(優位半球)。病巣側への共同偏視。
- 視床出血: 対側の感覚障害が著名。内下方への共同偏視(鼻先を見つめるような眼位)。
- 小脳出血: 激しいめまい、嘔吐、運動失調。急激な脳幹圧迫による呼吸停止のリスクあり。
- 橋出血: 四肢麻痺、縮瞳(Pinpoint pupil)、意識障害。予後不良なケースが多い。
- 治療:
- 保存的治療: 厳格な降圧療法(ニカルジピン静注など)、抗脳浮腫薬(グリセロール、マンニトール)、鎮静・鎮痛。
- 外科的治療: 開頭血腫除去術、内視鏡下血腫除去術、脳室ドレナージ(脳室穿破時)。適応は血腫量(30ml以上など)や意識レベル、部位により決定されます。
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観察ポイント&根拠
| 観察項目 | 観察ポイント | 根拠・予測 |
|---|---|---|
| 瞳孔不同と対光反射 (Anisocoria & Light reflex) | ペンライトを外側から当て、瞳孔径(mm)の左右差と、縮瞳のスピード(迅速・緩慢・消失)を確認する。 特に「散大し始めた側」を見逃さない。 | 脳ヘルニア(鈎ヘルニア)の切迫徴候です。血腫による圧迫で動眼神経が障害されると、患側の瞳孔散大・対光反射消失が起こります。これは「医師を呼ぶ」ではなく「医師を呼びながら救急カートを持ってくる」レベルの緊急事態(Brain herniation)です。 |
| クッシング現象の3徴候 | モニター上で以下の変化が同時に(または連続して)起きていないか監視する。 1. 血圧上昇(収縮期血圧の急上昇) 2. 徐脈(脈拍60回/分以下への低下) 3. 呼吸抑制(深くて遅い呼吸、チェーンストークス呼吸など) | 頭蓋内圧(ICP)亢進の末期サインです。脳血流を維持しようと体が無理やり血圧を上げ、代償として脈が遅くなります。このサインが出たら、脳幹の機能不全が目前に迫っています。 |
| 片麻痺の増悪(Barre徴候) | バレー徴候を行う際、上肢が落下するスピードや角度が「前回(数時間前)より悪化していないか」を比較する。 意識レベルがJCSⅠ桁なら、握力の左右差を数値で比較する。 | 麻痺の進行は、再出血や血腫周辺の浮腫増大を意味します。CT画像が変わっていなくても、機能的な悪化が先行することがあるため、医師へ「麻痺レベルがMMT3から1へ低下しました」と具体的に報告し、緊急CTを提案する材料になります。 |
| 収縮期血圧の変動幅 | 単発の数値ではなく、トレンドグラフを見て「変動幅(Variability)」が大きいか確認する。 安静時でも160mmHgを超えるスパイクがないか見る。 | 脳出血急性期において、血圧の乱高下は再出血の最大のリスク因子です。医師の指示範囲内(例:SBP<140)に収まっていても、変動が激しい場合は鎮静不足や疼痛(頭痛・尿意など)のコントロール不良を疑い、介入が必要です。 |
もし患者さんが「トイレに行きたい」と言ったら?
急性期を脱し、少し意識がはっきりしてきた患者さん(絶対安静中)がこう言いました。
「頭も痛くないし、手足も動くから、トイレくらい歩いて行きたいんだけど。おむつでするのは情けないよ…」
この時、単に「ダメです、安静ですから」とシャットアウトするのは、患者さんの尊厳を無視することになりますし、ストレスによる血圧上昇を招きます。
対応アクションと会話例
- 羞恥心への配慮と現状の共有(受容+説明)
- 「おむつでするのは嫌ですよね。その気持ち、よくわかります。(カーテンを閉め切り、小声で)でも、今の〇〇さんの脳の血管は、まだ『かさぶた』ができたばかりの状態なんです。」
- 具体的なリスクの提示(脅しではなく事実として)
- 「今トイレまで歩いて血圧が上がると、そのかさぶたが剥がれて、また出血してしまう危険性が一番高い時期なんです。そうなると、今動いている手足も動かなくなってしまうかもしれません。」
- 代替案の提案(折衷案)
- 「今日はまだベッド上ですが、少しでも気持ちよく出せるように、私が外から見えないようにしっかりカーテンをして、終わったらすぐにお湯で綺麗にしますね。血圧が落ち着いて医師の許可が出たら、すぐにポータブルトイレの練習を始めましょう。」
現場で差がつく看護のコツ・ポイント
| 工夫・コツ・アイデア | 具体的な手技・環境調整 | 期待される効果・メリット |
|---|---|---|
| 脳静脈還流を促すポジショニング | ヘッドアップは30度が基本。さらに重要なのは「頸部の回旋・屈曲を避ける」こと。 枕の高さを調整し、鼻とへそが一直線になる(正中位)ようにタオルで固定する。 | 頸静脈がねじれたり圧迫されたりすると、脳からの静脈還流が滞り、ICP(頭蓋内圧)が上昇します。正中位保持は、薬剤を使わずにできる最も基本的なICPコントロール法です。 |
| マンシェットは「麻痺側」で巻かない (※リンパ浮腫等なければ健側推奨だが、状況による) | 基本は健側測定だが、点滴ルート等でやむを得ず麻痺側を使用する場合は、皮膚トラブルに細心の注意を払う。 また、麻痺側は筋肉ポンプ作用がないため、マンシェットによる圧迫でDVT(深部静脈血栓症)リスクが高まることを念頭に置く。 | 麻痺側は知覚障害があるため、マンシェットの締め付けによる痛みや皮膚損傷に気づけません。やむを得ない場合は、測定間隔を空けるか、こまめに皮膚状態を観察します。 |
| ケア・処置は「まとめて短時間」で | 清拭、おむつ交換、吸引、体位変換をバラバラに行わず、鎮静薬が効いているタイミングを見計らって、一度にまとめて(最小限の侵襲で)行う。 | ケアのたびに血圧が変動するのを防ぎます。「ケアによる刺激=脳への攻撃」と捉え、安静時間を長く確保することが脳保護につながります。 |
| 健側からのアプローチ | 声かけや介助は、健側から行う。 ただし、半側空間無視(USN)がある場合は、リハビリ期に入ってからあえて患側から声をかけることもある。 | 急性期は混乱を防ぐため、患者さんが認識しやすい健側からアプローチし、安心感を与えます。見えない側(患側)から急に触れると、驚愕反応で血圧が跳ね上がることがあります。 |
新人さんが陥りやすいミスへの対策
脳出血の急性期で注意しなければいけないこの一つが、「吸引(Suction)のしすぎ」です。
痰の音がゴロゴロしているのが気になって、良かれと思って何度も吸引をしていたんです。すると先輩が飛んできて、「モニター見て!吸引するたびに血圧が180まで上がってるじゃない!これじゃあなたが患者さんを殺すようなものよ!」と言われました。
脳卒中急性期において、「気管吸引」は最も頭蓋内圧を上げる行為の一つです。
ゴロゴロ音がしていても、SpO2が保たれていて換気ができているなら、無理に吸引しないという選択肢も重要です。
もし吸引が必要な場合は、
- 事前に純酸素を吸入させる。
- キシロカイン等の鎮静・鎮痛指示があれば使用する。
- 1回の操作は10秒以内。
これを徹底してください。「良かれと思ってやったケア」が、患者さんの脳にトドメを刺すことがないよう、「このケアは今、本当に必要か?血圧を上げるリスクに見合うか?」を一瞬立ち止まって考える癖をつけてくださいね。