運動麻痺・運動失調について|症状の概要から看護のポイントまで徹底解説
あずかん脳卒中や神経難病の患者さんを受け持った時、「手足が動きにくい」という訴えに対して、それが「運動麻痺」なのか「運動失調」なのか、アセスメントに悩んだ経験はありませんか?
一見すると同じ「動けない」状態に見えますが、この2つは病態も、私たちが行うべき生活援助のアプローチも全く異なります。今回は、この2つの違いをクリアにして、明日からの離床やケアに直結する実践的な視点を紹介します。
サクッと復習!疾患の概要
「麻痺」と「失調」は、似て非なるものです。まずはここを整理しておくと、カルテの記録がグッと専門的になります。
運動麻痺
病態
大脳皮質の運動野から骨格筋に至る「運動ニューロン」の経路が障害され、随意的な筋収縮ができない(力がうまく入らない)状態。
原因
脳梗塞・脳出血(上位運動ニューロン障害)、脊髄損傷、末梢神経障害(下位運動ニューロン障害)など。
症状
痙性麻痺(筋緊張亢進、腱反射亢進)または弛緩性麻痺(筋緊張低下、腱反射消失)。MMT(徒手筋力テスト)の低下。


運動失調
病態
筋力は保たれているのに、複数の筋肉をタイミングよく協調させて動かすこと(協調運動)ができない状態。
原因
小脳梗塞、脊髄小脳変性症(小脳性失調)、末梢神経障害による深部感覚障害(感覚性失調)、前庭機能障害など。
症状
測定異常(目標物をうまく指差せない)、企図振戦(動かそうとすると震える)、体幹失調(座位や立位でふらつく)、測定障害など。
治療・介入
原疾患の治療と並行し、残存機能を最大限に引き出すための早期リハビリテーション(良肢位保持、関節可動域訓練、協調運動訓練、代償的アプローチなど)が主軸となります。
観察ポイント&根拠
| 観察項目 | 観察ポイント | 根拠・予測 |
|---|---|---|
| 潜在的な運動麻痺の評価(バレー徴候) | 上肢:両腕を肩の高さで前に出し、手のひらを上に向けて目を閉じてもらう。下肢(ミンガッツィーニ試験):仰向けで股関節・膝関節を90度に曲げて保持してもらう。腕が回内しながら下がったり、脚が落ちてこないか観察する。 | 【軽微な不全麻痺の早期発見】 MMT5(正常)に見えても、軽度の錐体路障害が隠れていることがあります。特に脳梗塞急性期などで「なんとなく力が入らない」という訴えがある時、このテストで患側がジワジワと下がる(回内回旋・沈下)サインを見逃さないことで、病変の拡大を早期に予測できます。 |
| 小脳性失調の評価(指鼻指試験・踵膝試験) | 患者さんに自分の鼻と、検者(看護師)の指を交互に人差し指でタッチしてもらう。その際、指先が目標に近づくにつれて震え(企図振戦)が出ないか、的を外さないか(測定異常)を視診する。 | 【麻痺と失調の鑑別と転倒リスクの予測】 筋力(MMT)は保たれているのに、動作がぎこちない場合、小脳や脳幹部の病変を疑います。これが陽性の場合、お茶を飲む時にむせやすかったり、歩行時に足元が定まらず転倒するリスクが極めて高いと判断し、環境調整に繋げます。 |
| 感覚性失調の評価(ロンベルグ試験) | 両足を揃えて立ってもらい、最初は開眼、次に閉眼した状態でのふらつきの差を観察する。(※必ず転倒に備えてすぐ支えられる位置に立つこと!) | 【深部感覚障害の有無の確認】 目を開けていれば立てるのに、目を閉じるとバランスを崩して倒れそうになる(ロンベルグ徴候陽性)場合、足の裏からの「位置情報(深部感覚)」が脳に伝わっていない証拠です。夜間の暗いトイレ歩行が非常に危険になるサインです。 |
【シチュエーション別】もし患者さんが「力は入るんだけど、お箸を持とうとすると手が震えて上手く掴めないのよ…」と言ったら?
脳梗塞後や小脳疾患の患者さんが、食事の時に「力は入るんだけど、お箸を持とうとすると手が震えて上手く掴めないのよ…」と言ったら,あなたはどうしますか?
これを単なる「筋力低下」や「加齢」と捉えてはいけません。
対応アクションと会話例
- 「力が抜けるというよりも、手が思った通りにピタッと止まらない感覚ですね。もどかしいですよね。少し持ち手を工夫すると、震えが伝わりにくくなりますよ。柄が太めのスプーンや、滑りにくいお皿を試してみましょうか。」
- まずは「力がないわけではない」という患者さんの感覚を受容します。その上で、細かな指先の協調運動を必要とするお箸から、スプーンや自助具(太柄スプーンなど)へ変更し、「自分で食べられた」という成功体験を維持できるよう環境を調整します。
現場で差がつく看護のコツ
麻痺と失調では、生活援助の「支え方」が変わってきます。
| 工夫・コツ・アイデア | 具体的な手技・環境調整 | 期待される効果・メリット |
|---|---|---|
| 麻痺側の肩関節保護(亜脱臼予防) | 弛緩性麻痺がある患者さんの更衣や移乗時、患側の腕をだらんと下げたままにせず、健側の手で支えてもらったり、スリングやポケットに入れて保持する。脇の下から無理に引き上げない。 | 麻痺側の肩の筋肉は緩んでおり、腕の重みだけで肩関節が亜脱臼して激しい疼痛(肩手症候群など)を引き起こします。これを防ぐことで、後のリハビリへの意欲低下を防ぎます。 |
| 失調患者への「体幹の安定」と「視覚の活用」 | 座位でふらつく(体幹失調)患者さんの食事やケアの際、背もたれだけでなく、足底を床にピッタリつけ、クッションで肘をしっかり支える(支持面を広げる)。歩行時は「私の足元(または特定の目印)を見て歩きましょう」と視覚的に意識させる。 | 小脳失調の震えは、体幹などの「土台」を物理的に固定することで軽減します。また、感覚性失調の場合は、失われた深部感覚を「視覚(目で見て位置を確認する)」で代償させることで、動作が格段に安定します。 |
新人さんが陥りやすいミスへの対策
患者さんが歩けない・動けないとなると、一生懸命MMT(徒手筋力テスト)ばかり測ってしまって、「筋力は4くらいあるのに、なんでうまく立てないんだろう?」とアセスメントが迷子になってしまうこと、ありますよね。
「動けない=筋力が落ちている(麻痺)」と直結させてしまうと、失調のサインを見逃してしまいます。
筋力はあるのに動きがぎこちない時、「もしかして協調運動がうまくいっていない(失調)のかな?」という視点を一つ持つだけで、カルテに書く内容も、選ぶべき介助方法(麻痺側を支えるのか、体幹全体を安定させるのか)も明確になってきます。
まずは、麻痺と失調を分けて考える習慣をつけてみてください。日々の観察が、もっと面白く、深く繋がっていくはずです。
