脛骨骨幹部骨折について|疾患の概要から看護のポイントまで徹底解説
あずかん脛骨骨幹部骨折を、「ああ、下腿の骨折ね」と軽く捉えていると、痛い目を見ることがあります。
なぜなら、脛骨は血流が乏しく、皮膚が薄いため、コンパートメント症候群(区画症候群)や遷延治癒・偽関節といった重篤な合併症のリスクが非常に高い部位だからです。
今回は、教科書的な知識だけでなく、「現場のリアリティ」に即した視点を紹介します。明日の観察項目が少し変わるきっかけになれば嬉しいです。
サクッと復習!疾患の概要
- 病態: 下腿の内側にある太い骨(脛骨)の幹部での骨折。脛骨は前面~内側面が皮膚の直下にある(皮下組織が薄い)ため、開放骨折になりやすいのが特徴です。
- 原因
- 高エネルギー外傷: 交通事故(特に歩行者vs自動車のバンパー骨折)や高所転落。粉砕骨折や開放骨折を伴いやすい。
- 低エネルギー外傷: スポーツ中の転倒や回旋力によるらせん骨折。
- 症状: 激しい疼痛、腫脹、変形、歩行不能。合併症として腓骨神経麻痺やコンパートメント症候群に要注意。
- 治療
- 保存療法: 転位が少ない場合。PTBキャスト(膝蓋腱支持ギプス)など。
- 手術療法: 髄内釘固定法が第一選択。開放骨折の場合は、創外固定で軟部組織の回復を待つこともあります。
観察ポイント&根拠
| 観察項目 | 看護のポイント | 根拠・予測 |
|---|---|---|
| 疼痛の「質」と他動的伸展痛 (コンパートメント症候群の評価) | 「どのくらい痛いですか?」だけでなく、「安静にしていても焼け付くような痛み(Burning pain)がありますか?」と問診する。同時に、足趾を他動的に背屈・底屈させ、下腿筋群に伸展痛(Stretch pain)がないか確認する。 | 鎮痛薬を使用しても治まらない、あるいは受傷直後より増強する疼痛はコンパートメント症候群の初期サイン(5Pの一つ)です。特に他動運動時の激痛は、区画内圧上昇による虚血を示唆する最も感度の高い所見であり、見逃すと筋壊死・切断に至る緊急事態の前兆です。 |
| 腓骨神経麻痺の有無 (総腓骨神経領域の評価) | 患者さんに「足首と足の指を、自分の方に向けて反らせてください」と指示し、長母趾伸筋(EHL)の収縮を目視と触知で確認する。 第1・2趾間の知覚鈍麻を確認する。 | 脛骨骨折は腓骨骨折を合併することが多く、腓骨頭周辺を走行する総腓骨神経が損傷・圧迫されやすいです。下垂足は歩行機能を著しく低下させるため、術前・術後で麻痺の進行がないか(医原性の麻痺も含め)を経時的に評価する必要があります。 |
| 軟部組織の状態と「水疱」 | 骨折部の皮膚に水疱が形成されていないか、皮膚の色調が暗赤色化していないか観察する。 腫脹の程度をメジャーで周径測定し数値化する。 | 脛骨前面は血流が悪く、過度の腫脹により表皮剥離や水疱形成が生じやすいです。特に血性水疱や深部組織の損傷は、手術(内固定)の時期を遅らせる要因(Wait & See)となります。皮膚の状態は手術のタイミングを決定づける重要なアセスメント項目です。 |
もし患者さんが「足が痺れて感覚がおかしい」と言ったら?
術後あるいは受傷当日の夜間、患者さんがナースコールで訴えました。
「痛み止めは効いている気がするんだけど、なんだか足の先がジンジンして、感覚が鈍いような気がするんです」
この時、「神経が少し圧迫されているのかな? 様子を見ましょう」と返すのは、プロとしては危険すぎます。
対応アクションと会話例
- 即時のフィジカルアセスメント(緊急性の判断)
- 「痺れがあるんですね。すぐに足の状態を確認させてください。(布団をめくりながら)足の甲の脈(足背動脈)を触れますね。」
- アクション: 足背動脈・後脛骨動脈の拍動確認、爪床圧迫テスト(CRT)での循環確認、足趾の可動域確認をその場で行います。
- 医師への報告(SBAR)
- もし拍動が微弱、あるいは他動痛があれば、即座に医師へコールします。「〇〇さんですが、術後疼痛に加えて錯感覚(Paresthesia)が出現しており、コンパートメント症候群の疑いがあります。至急診察をお願いします」と伝えます。
- 患者さんへの説明と安心感の提供
- 「腫れが強くなって神経を圧迫している可能性があります。先生にすぐに連絡して、必要なら処置をしてもらいますね。それまで足を心臓の高さと同じくらいにしておきましょう(※虚血の疑いがある場合、過度な挙上は禁忌となる場合もあるが、まずは水平〜軽度挙上で静脈還流を促す)。」


現場で差がつく看護のコツ・ポイント
| 工夫・コツ・アイデア | 具体的な手技・環境調整 | 期待される効果・メリット |
|---|---|---|
| 「Wrinkle sign(リンクルサイン)」の観察 | 腫脹が引き始め、皮膚にシワが出てきたことを、医師と一緒に確認・共有する。 | 「シワが出てきた」=「腫れが引いて手術ができる状態になった(軟部組織のリスクが下がった)」というサインです。これをポジティブなニュースとして患者さんに伝えることで、待機期間のモチベーション向上につながります。 |
| 下肢挙上(Elevation)の微調整 | 枕やクッションを使う際、膝窩(ひざうら)を圧迫しないように注意し、下腿全体を面で支えるように配置する。 ※腓骨頭への圧迫も避ける。 | 膝窩の圧迫はDVT(深部静脈血栓症)のリスクを高め、腓骨頭の圧迫は神経麻痺を招きます。「面」で支えることで、安楽な挙上と循環改善を両立できます。 |
| クーリング(Icing)の固定法 | 氷嚢を当てる際、包帯で強く巻きすぎない。弾性包帯やネット包帯を使用し、皮膚の観察がすぐにできるようにしておく。 | 氷嚢の重みや固定の圧迫自体が、脆弱な皮膚に新たな損傷(圧迫創)を作るリスクがあります。観察のしやすさと皮膚保護を両立させる固定が必要です。 |
| 免荷歩行時の「松葉杖」指導 | 荷重制限がある場合、松葉杖の脇当てに体重をかけないよう、「脇は卵一つ分空けて、手で体を支える」と指導する。 | 脇(腋窩)への圧迫は腋窩神経麻痺を引き起こします。単に「歩き方」だけでなく、「やってはいけないこと(腋窩支持)」を明確に伝えることが、合併症予防のコツです。 |
新人さんが陥りやすいミスへの対策
新人がよくやってしまいがちな失敗、それは「足の色だけ見て安心してしまうこと」です。
ある新人ナースが、脛骨骨折の術後患者さんの観察に行きました。足の色はピンク色で温かい。「循環よし!」と判断してナースステーションに戻ってきました。しかし、その数時間後、患者さんはコンパートメント症候群と診断され、緊急減張切開手術(筋膜切開)になりました。
なぜ見逃したのか?
実は、コンパートメント症候群の初期では、動脈の拍動は触れる(抹消の血流は保たれている)ことが多いのです。脈が消えるのは末期症状です。
新人は「色が良い=大丈夫」と思い込んでしまい、患者さんの「なんとなく痛みが強くなっている」という訴えや、筋肉の「パンパンに張った硬さ(硬結)」を見落としていました。
「足が温かいから大丈夫」という思い込みは捨ててください。
脛骨骨折において最も恐ろしいのは、「感覚の変化」と「鎮痛薬が効かない痛み」です。見た目以上に、患者さんの「痛みの訴えの変化」に敏感になってください。それが、患者さんの足を守ることにつながりますよ。
