脛骨骨幹部骨折について

あずかん

脛骨骨幹部骨折は、下腿の2本の骨のうち太い方である脛骨の骨幹部が折れるケガです。交通外傷や転落、スポーツなど、強いエネルギーが加わることで発生することが多く、若年者から高齢者まで幅広い年齢層に見られます。
この記事では、脛骨骨幹部骨折の病態生理から看護のポイントまでを詳しく解説します。

目次

脛骨骨幹部骨折とは

脛骨は下腿内側にある太い骨で、体重の大部分を支える役割を担っている。骨幹部とは、骨の両端にある骨端部を除いた中央部分を指し、脛骨骨幹部骨折は、主に以下のような機序で発生する。

直達外力(直接的な衝撃)
交通事故、転落、スポーツ中の衝突など、骨折部位に直接大きな力が加わることで発生する。この場合、開放骨折を合併しやすいのが特徴。

介達外力(間接的な衝撃)
ジャンプの着地失敗、ひねりなど、骨折部位から離れた場所に力が加わり、その力が伝播して骨折に至るケース。らせん骨折などがこれに該当する。

脛骨骨幹部骨折でコンパートメント症候群が発生しやすい理由

下腿には、脛骨と腓骨の間を筋間中隔という強固な膜で仕切られた4つの区画(前方、外側、深後方、浅後方)があり、これらのコンパートメント内は、筋肉や神経、血管などが詰まっていて、筋膜という伸縮性の低い強固な膜で覆われている。

出血・浮腫によるコンパートメント内圧の上昇
脛骨骨幹部骨折は、骨折による血管の損傷が大きく、大量の出血を伴うことが多い。また、炎症反応によって、骨折部周辺に強い浮腫が生じる。これらの出血や浮腫が、筋膜で囲まれた狭いコンパートメント内に溜まることで、コンパートメント内の圧力(内圧)が異常に上昇する。

筋膜の非伸展性
下腿の筋膜は非常に強固で、ほとんど伸び縮みしない。そのため、コンパートメント内で出血や浮腫が起こっても、筋膜が膨らんで圧力を逃がすことができず、結果として、内圧が急速に上昇しやすくなる。

コンパートメント内の血管・神経圧迫
内圧が上昇すると、コンパートメント内を通っている血管(特に動脈)や神経が圧迫される。動脈が圧迫されると、筋肉や神経への血液供給が阻害され、虚血状態に陥る。また、神経が圧迫されると、感覚障害(しびれ、知覚鈍麻)や運動麻痺(足趾が動かせない、足関節の背屈ができないなど)が生じる。

脛骨骨幹部の位置と軟部組織の少なさ
脛骨の前面は皮膚のすぐ下に骨があり、覆っている軟部組織(筋肉や脂肪)が比較的薄い。そのため、骨折による軟部組織の損傷が起こりやすく、また、骨折による腫脹がダイレクトにコンパートメント内の圧力を高める要因となる。

これらの理由から、脛骨骨幹部骨折でコンパートメント症候群が生じやすく、またコンパートメント症候群は、早期に診断され適切な処置(筋膜切開術など)が行われないと、筋肉の壊死、神経障害、重症の場合は切断に至る可能性もあるため、非常に注意が必要な合併症である。

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骨折の分類

骨折の形態による分類

横骨折: 骨の長軸に対して垂直に骨折線が入るもの。強い圧迫力によって生じることが多い。

斜骨折: 骨の長軸に対して斜めに骨折線が入るもの。捻転力や曲げ応力によって生じる。

螺旋骨折: 骨がねじれるような力が加わって、螺旋状に骨折線が入るもの。スポーツ外傷でよく見られる。

粉砕骨折: 骨が3つ以上の破片に砕けてしまうもの。強い外力が加わった場合に起こり、治癒に時間を要する。

セグメント骨折: 骨幹部の複数の箇所で骨折が生じ、孤立した骨片ができるもの。

開放性か閉鎖性かによる分類

閉鎖骨折: 皮膚の損傷がなく、骨折部が体外に露出していないもの。感染のリスクは低いが、コンパートメント症候群に注意が必要。

開放骨折: 皮膚が損傷し、骨折部が体外に露出しているもの。感染のリスクが非常に高く、緊急的な処置が必要。Gustilo分類という重症度分類が用いられる。

Gustilo I小さな創(1cm未満)で、骨折部が露出していない
Gustilo II創が1cm以上で、軟部組織の損傷があるが、血管や神経の損傷はない
Gustilo IIIA大きな創(1cm以上)で、軟部組織の損傷が大きく、骨が露出しているが、血流は保たれている
Gustilo IIIB大きな創で、軟部組織の損傷があり、骨が露出しており、血流が不十分
Gustilo IIIC大きな創で、血管損傷があり、外科的修復が必要

転位の有無と程度

非転位骨折: 骨折しているものの、骨片のずれがないか、ごくわずかなもの。

転位骨折: 骨片がずれているもの。転位の方向(側方転位、短縮転位、回旋転位、角状転位)や程度によって、治療法が異なる。

治療方法

保存療法

ギプス固定: 転位が少ない安定した骨折や、小児の骨折などで選択される。骨折部を適切な位置に整復した後、ギプスで固定し、骨癒合を待つ。初期は患部の腫脹を考慮して分割ギプスを使用することもある。

牽引療法: 骨折当初の強い痛みや転位を軽減させる目的で、一時的に用いられることがある。

手術療法

髄内釘固定術: 脛骨の髄腔に金属製の棒(髄内釘)を挿入し、スクリューで固定する方法。安定性が高く、早期からの荷重が可能なため、脛骨骨幹部骨折の標準的な手術法とされている。

プレート固定術: 骨折部に金属製のプレートを当てて、スクリューで固定する方法。骨折の形態によっては髄内釘が困難な場合や、広範囲の軟部組織損傷を伴う開放骨折などに選択されることがある。

創外固定術: 骨折部を体外から金属製のピンで貫通させ、それをフレームで固定する方法。開放骨折で感染のリスクが高い場合や、軟部組織損傷が広範囲に及ぶ場合、一時的な固定として用いられる。感染のコントロールや軟部組織の状態が改善した後、髄内釘やプレート固定に移行することもある。

対症療法

疼痛管理: 骨折による痛みは非常に強く、鎮痛剤の適切な使用が不可欠です。NSAIDsやアセトアミノフェン、必要に応じてオピオイドなどが用いられる。

感染予防・治療: 開放骨折では、破傷風トキソイドの投与や抗菌薬の予防的投与が行われる。すでに感染が生じている場合は、デブリードマンや抗菌薬の投与、洗浄などが徹底される。

浮腫対策: 挙上やアイシング、弾性包帯などにより、浮腫の軽減を図る。

リハビリテーション: 骨折部位の治癒とともに、早期からのROM(関節可動域)訓練や筋力訓練、荷重訓練が重要となる。理学療法士と連携し、患者の機能回復を支援する。

看護のポイント

  • 疼痛管理
    • 疼痛の部位、性質、程度: NRSやVASを用いて客観的に評価する。「ズキズキする」「焼けつくような」など、患者の言葉で表現してもらい、神経障害性疼痛の有無も観察していく。
    • 疼痛の増悪因子・緩和因子: 体位変換、体動、冷却、温罨法など、何で痛みが強まり、何で和らぐかを把握する。
    • 疼痛の評価頻度: 術後や受傷直後は頻回に、状態が安定すれば決まった時間に評価する。
  • 循環・神経障害の早期発見と対応(特にコンパートメント症候群)
    • 5P(Pain:痛み、Pallor:蒼白、Paresthesia:しびれ、Pulselessness:脈拍触知不能、Paralysis:麻痺)の有無を注意深く観察する。特に、安静時痛の増強、鎮痛剤が効かない激痛、感覚障害(しびれ)、筋力低下はコンパートメント症候群の初期症状であるため、直ちに医師に報告する。
    • Late sign (遅発性症状): 脈拍触知不能や麻痺は、組織壊死が進行した後に現れる重篤なサインであることを認識し、その前に異常を発見することが重要となる。
  • 患肢の皮膚状態と循環の観察
    • 皮膚の色調、温度: 左右差に注意し、冷感やチアノーゼ(紫色)がないか確認する。
    • 浮腫の有無と程度: 患肢の周径を定期的に測定し、増大がないか確認する。
    • 毛細血管再充満時間(CRT): 足趾の爪先を圧迫し、離した際に色が戻るまでの時間を測定する。延長している場合は循環障害を疑う。
  • ギプス/包帯による圧迫の確認
    • ギプスや包帯が強すぎないか、指が一本入る程度の隙間があるか、ギプスの縁が皮膚に食い込んでいないか、当たりがないかを確認する。
    • 窓開け(Windowing)やギプスの切開(Bivalving)が必要となる場合があるため、異常時は速やかに医師に報告する。
  • 感染予防と創部管理
    • 創部の発赤、腫脹、熱感、疼痛の増強、排膿の有無、性状、量、悪臭、創縁の状態、皮膚の癒合状態を観察する。
    • ドレッシング材交換時や創部処置時は、手洗い、消毒、滅菌手袋の使用など、厳重な清潔操作を遵守する。 ドレーンが挿入されている場合は、排液の色、性状、量、ドレーン刺入部の状態を観察し、ミルキングや抜去の介助を行う。
    • 全身状態も観察し、発熱の有無、倦怠感、悪寒戦慄など、全身性の感染兆候がないか、血液検査データ(白血球数、CRPなど)の変化も把握する。
  • 安静臥床による合併症の予防
    • 深部静脈血栓症(DVT)予防のため、弾性ストッキングの着用、フットポンプの使用、早期からの足関節の自動運動や他動運動を促す。
    • 褥瘡予防のため、体位変換を定期的に行い、除圧マットなどを使用する。
    • 廃用症候群予防のため、患側以外の関節可動域訓練や筋力訓練を促し、ADLの維持に努める。
  • 精神的サポートと社会生活への復帰支援
    • 長期の療養やリハビリテーションが必要となることが多いため、患者や家族の不安や悩みを傾聴する。
    • 病状や治療経過、リハビリテーションの必要性について、患者が理解できるようわかりやすく説明する。
    • 退院後の生活や社会復帰に向けて、必要に応じてソーシャルワーカーや理学療法士、作業療法士などの多職種と連携し、情報提供やサポート体制を整える。
  • リハビリテーションへの参加促進
    • 痛みのコントロールを行いながら、早期からのリハビリテーションへの参加を促し、日常生活でも理学療法士が行う運動を継続できるよう、患者への声かけや介助を行う。
    • 免荷の指示がある場合は、患者が遵守できるよう指導する。
参考資料
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