コンパートメント症候群について

コンパートメント症候群とは|原因、症状から看護のポイントまで徹底解説

あずかん

整形外科領域で緊急対応が求められる疾患の一つ、「コンパートメント症候群」。この疾患は、迅速な判断と適切な処置が行われないと、四肢の機能に重篤な後遺症を残す可能性があります。
この記事では、コンパートメント症候群の基礎知識から、臨床現場で役立つ看護のポイントまでを分かりやすく解説します。


目次

コンパートメント症候群とは

コンパートメント症候群を理解するためには、まず「コンパートメント(筋区画)」の概念を知る必要があります。

コンパートメントとは? 私たちの腕や脚にある筋肉や神経、血管は、「筋膜」という硬い膜によっていくつかのグループに分かれています。この筋膜で区切られた一つひとつの区画が「コンパートメント」です。

なぜ圧が上がるのか? 通常、この区画内の圧力はほぼゼロに近い状態に保たれています。しかし、骨折や打撲などの外傷によって出血や浮腫(むくみ)が起こると、コンパートメント内の組織圧が急激に上昇します。

筋膜は硬く、伸び縮みしにくいため、内圧が上昇すると逃げ場がありません。その結果、区画内の圧力が異常に高まり、内部の血管を圧迫し始めます。

虚血から壊死へ 血管が圧迫されると、その先にある筋肉や神経への血流が途絶え、酸素や栄養が供給されなくなります(虚血)。この状態が続くと、筋肉や神経細胞は不可逆的なダメージを受け、最終的には壊死に至ります。

コンパートメント症候群は、このように区画内の圧力上昇が引き金となり、組織の虚血と壊死を引き起こす病態です。


コンパートメント症候群の原因

急性コンパートメント症候群

突発的な原因で急激に発症するタイプです。

  • 骨折・脱臼: 特に脛骨や前腕骨の骨折は、最も一般的な原因です。骨折に伴う内出血や腫れが、内圧を上昇させます。
  • 重度の打撲・挫滅損傷: 筋肉組織が直接的なダメージを受けることで、強い腫れを引き起こします。
  • 血管の損傷: 動脈や静脈が損傷し、区画内で出血が起こるケースです。
  • 長時間の圧迫: 倒れた際に下敷きになる、手術で長時間同じ体位をとるなど、外部からの圧迫が原因となることもあります。
  • ギプスや包帯による圧迫: ギプス固定がきつすぎたり、腫れが強くなったりすることで発症する医原性の原因もあります。

慢性コンパートメント症候群

主にスポーツ選手など、特定の筋肉を繰り返し使うことで発症します。運動時に筋肉が膨張し、一時的に内圧が上昇して症状が出現します。安静にすると症状は改善するのが特徴です。


症状:「5つのP」を覚えよう

コンパートメント症候群の初期症状を見逃さないために、**「5つのP」**と呼ばれる特徴的な徴候を覚えておくことが重要です。

英語 (English)詳細
Pain疼痛最も早期に出現する重要な症状。通常の骨折の痛みとは一線を画す、持続的で激烈な痛み(Burning Pain: 焼けるような痛み)が特徴です。鎮痛薬が効きにくいこともサインの一つです。
Pallor蒼白区画内の血流が途絶えるため、皮膚が青白くなります。
Paresthesia知覚障害神経が圧迫・虚血に陥ることで、「しびれ」や「感覚が鈍い」といった症状が出現します。
Pulselessness脈拍消失末梢の動脈(足背動脈や橈骨動脈など)の拍動が触れなくなります。これはかなり進行した状態を示す危険なサインです。
Paralysis運動麻痺神経と筋肉の機能が失われ、手足が動かせなくなります。これも末期的な症状です。

重要ポイント
特に「Pain(激烈な疼痛)」「Paresthesia(知覚障害)」は、比較的早期に出現するサインです。患者が鎮痛薬を求めても改善しない強い痛みを訴える場合や、しびれを訴える場合は、コンパートメント症候群を強く疑う必要があります。「脈拍消失」や「運動麻痺」が現れた時点では、すでに組織の壊死が進行している可能性が高く、手遅れになりかねません。


治療・対症療法

コンパートメント症候群は、時間との戦いです。診断がつけば、直ちに治療を開始する必要があります。

保存的治療

発症初期や軽症の場合、または慢性コンパートメント症候群の場合に行われます。

  • 患肢の挙上中止: 患肢を心臓より高く挙上すると、動脈圧が低下し、かえって血流を悪化させる可能性があります。患肢は心臓と同じ高さに保ちます。
  • ギプスや包帯の除去: ギプスなどが原因の場合は、直ちにこれらを緩めたり、カットしたりして除圧します。

外科的治療:筋膜切開術

保存的治療で改善しない場合や、診断が確定した急性コンパートメント症候群に対しては、緊急手術である筋膜切開術が唯一の根本治療となります。

これは、皮膚から筋膜までを大きく切開し、コンパートメントを開放することで内圧を下げ、血流を再開させる手術です。切開した創は、腫れが引くまで数日間は閉じずに開放創のまま管理し、後に縫合または植皮を行います。


看護のポイント

徹底した観察とアセスメント

  • 疼痛の評価: 痛みの部位、程度、性質(「焼けるような」「締め付けられるような」など)を詳しく聴取し、記録します。鎮痛薬の効果が乏しい場合は、特に注意が必要です。
  • 「5つのP」の確認: 定期的に患肢の皮膚の色、温度、末梢動脈の触知、知覚(触覚や痛覚)、運動機能を確認します。左右差を比較することも重要です。
  • コンパートメント内圧の測定: 医師の指示のもと、専用の機器を用いて内圧をモニタリングすることがあります。看護師もその原理と数値を理解しておく必要があります。

適切なポジショニング

前述の通り、患肢の過度な挙上は禁物です。患肢を心臓と同じ高さに保つようにポジショニングを調整し、患者さんにもその重要性を説明します。

筋膜切開術後の看護

  • 創部の管理: 開放創からの滲出液の量や性状、感染徴候(発赤、腫脹、熱感、悪臭など)を注意深く観察します。
  • 精神的ケア: 大きな手術創や機能障害への不安など、患者さんが抱える精神的な苦痛に対しても、傾聴し、寄り添う姿勢が大切です。
  • リハビリテーションとの連携: 機能回復のため、早期から理学療法士や作業療法士と連携し、リハビリテーションを進めていきます。
参考資料
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