血圧測定について|測定手順とよくあるトラブル
あずかん血圧測定は、バイタルサイン測定の中でも最も頻度が高く、かつ「測れて当たり前」と思われがちな手技です。しかし実際には、マンシェットの巻き方一つ、聴診器を当てる位置一つで数値が10〜20mmHgもズレることがあります。術後の循環管理、降圧薬投与前の判断、急変前兆の察知——どの場面でも「正確な血圧値」が診療の土台になっています。
つまり血圧測定の精度が低いと、医師の判断そのものを誤らせるリスクがあるのです。だからこそ、新人ナースのうちに「なぜこの手順なのか」を根拠から理解しておくことが、自信をもって測定できる第一歩になります。
【完全ガイド】手順と根拠
| 手順 | 根拠・予測 | ここがポイント! |
|---|---|---|
| ①準備:患者確認・説明 患者にフルネームと生年月日を名乗ってもらい、本人確認を行う。測定目的を簡潔に伝え、「今日は右腕で測らせていただきますね」と声をかける。 | 患者誤認防止(医療安全の基本)。また、これから何をされるか分からない不安は交感神経を刺激し、血圧を一時的に上昇させる(いわゆる白衣高血圧の要因)ため、事前説明で安心してもらうことが数値の信頼性に直結する。 | 声かけを省略すると「測られている感」が強くなり、患者は緊張しやすい。雑談を1つ挟むだけで肩の力が抜け、正確な値が出やすくなる。 |
| ②環境・体位の調整 座位または仰臥位で、測定側の上肢を心臓の高さ(右心房レベル)に合わせる。椅子に座る場合は背もたれに寄りかかり、足を組ませない。測定前に5分以上安静にしてもらう。 | 上肢が心臓より高いと血圧は低く、低いと高く測定される(水柱の原理と同じ静水圧の影響)。 足を組むと大腿静脈が圧迫され、末梢血管抵抗が上昇し数値が上がる。運動・会話直後は交感神経優位で血圧が変動している。 | 「測る前に5分安静」は多くの現場で省略されがち。特に外来や検温ラウンドでは急ぎがちだが、ここを削ると再検査の手間が増えるので結果的に非効率。 |
| ③マンシェットの選択 上腕周囲の40%程度のゴム嚢(内袋)幅を持つマンシェットを選ぶ。成人標準は幅13〜14cm、肥満者や小児には専用サイズを使用する。 | マンシェット幅が細すぎると圧迫が不十分となり血圧が実際より高く測定され、太すぎると逆に低く測定される。 | 「とりあえず標準サイズ」で巻いてしまうミスが多い。腕が太い患者にはワンサイズ大きいマンシェットが病棟に常備されているか事前確認しておく。 |
| ④マンシェットの装着 上腕動脈(肘窩の上、上腕内側)の拍動を触知し、ゴム嚢の中心が動脈上に来るように当てる。マンシェット下縁は肘窩から2〜3cm上に位置させる。指が1〜2本入る程度の締め加減で巻く。 | ゴム嚢がずれていると圧迫が動脈に均等にかからず、正確な聴診音が拾えない。下縁が肘窩に近すぎると聴診器のベル面を当てるスペースが確保できない。締めすぎるとうっ血、緩すぎると圧迫不足で数値が高く出る。 | 「指1〜2本」の感覚は新人が最も戸惑う部分。慣れないうちは先輩に一度巻いてもらい、実際の締まり具合を体感しておくと感覚がつかみやすい。 |
| ⑤衣服の確認 厚手の衣服は脱いでもらう、または袖をまくる。腕を強く縛るように衣服を巻き上げるのはNG。 | 衣服がマンシェットの下に噛むと圧迫が不均一になり誤差が出る。袖をまくった際に腕を締め付けると静脈うっ血が生じ、拍動が変化する。 | 「肌の上に直接巻く」が理想だが、冬場は薄手のシャツ1枚程度なら許容範囲。厚手のニットは必ず脱がせる。 |
| ⑥橈骨動脈で予測収縮期血圧を確認(触診法) 橈骨動脈を触知しながらマンシェットを加圧し、脈が消失した点を確認。その後、消失点から+20〜30mmHg高い圧までさらに加圧する。 | 聴診法だけに頼ると「聴診間隙」により収縮期血圧を過小評価するリスクがある。触診で目安をつけておくことで安全かつ正確な加圧圧が決まる。 | この手順を省略して「だいたい180mmHgまで上げよう」と決め打ちする人が多いが、高血圧患者では加圧不足で聴診間隙にひっかかり失敗する原因になる。 |
| ⑦聴診器の準備・装着 ベル型(低音向き)を使用し、上腕動脈の拍動部にしっかり密着させる。強く押し付けすぎない。イヤーピースは自分の外耳道の向きに合わせて挿入する。 | コロトコフ音は低周波音のため、ダイアフラム型よりベル型の方が拾いやすい(施設によりダイアフラムのみの聴診器も多く、その場合は密着を丁寧に)。強く押し付けると血管が変形し雑音が入る、または血流を阻害して数値が変わる。 | 聴診器チェストピースを衣服やマンシェットに触れさせてしまい、雑音でコロトコフ音が聞き取れなくなる失敗が多発。位置を固定したら手を動かさない意識を持つ。 |
| ⑧加圧・減圧の操作 触診で確認した予測値+20〜30mmHgまで一気に加圧。その後、送気球のネジを緩めて2〜3mmHg/秒の速度でゆっくり減圧する。 | 減圧速度が速すぎるとコロトコフ音の第I相(収縮期血圧)・第V相(拡張期血圧)を聞き逃す。逆に遅すぎると静脈うっ血が生じ、患者の苦痛が増す。 | 「ゆっくり」の感覚は数値目盛りを見ながら体で覚えるしかない。目盛りが1秒に2〜3目盛り動くイメージで練習すると良い。 |
| ⑨コロトコフ音の聴取 最初に「トン」という音が聞こえた点を収縮期血圧、音が完全に消失した点を拡張期血圧として記録する。 | コロトコフ音第I相の出現=血液が狭窄部を通過し始める音、第V相の消失=血流が完全に元通りになった点、という血流力学的根拠に基づく。 | 音が小さくて聞き取れない場合、患者に手を数回グーパーさせて末梢血流を促してから再測定すると聞き取りやすくなることがある(ただし過度な運動は避ける)。 |
| ⑩マンシェットを外し、後片付け 測定終了後は速やかに完全脱気し、マンシェットを外す。患者に結果を簡潔に伝え、体調に変化がないか確認する。使用した聴診器は使用後にアルコール綿で清拭する。 | 脱気しないまま放置すると患者に不要な圧迫・苦痛を与え続ける。聴診器のチェストピースは患者間で共有するため、接触感染予防の観点から清拭が必須。 | 「測定して満足」で終わらせず、結果に応じて次のアクション(医師報告の必要性など)を判断する視点まで持てると一段階レベルアップ。 |
よくあるトラブル・疑問(Q&A)



コロトコフ音がまったく聞こえない・弱くて判別できない時はどうする?



まず聴診器のチェストピースが動脈上から外れていないか、衣服やマンシェットに接触して雑音が入っていないかを確認します。それでも聞こえない場合は、マンシェットの巻き直し(ゴム嚥の位置ズレの可能性)を検討してください。
また、末梢循環が悪い患者(低体温・末梢冷感が強い場合)では音が非常に小さくなることがあるため、測定前に患者の手を温めてもらう、または触診法のみで収縮期血圧を推定し、その旨を記録に残すという対応も現実的な選択肢です。
絶対にやってはいけないのは、聞こえないからと勘や思い込みで数値を記録することです。不明な場合は必ず再検査、または他のスタッフに応援を依頼しましょう。



聴診間隙にひっかかって収縮期血圧を低く記録してしまいました。どう防げばいいですか?



聴診間隙は高血圧患者や動脈硬化が進んだ高齢患者で特に出現しやすい現象です。防止策は前述の「⑥橈骨動脈での予測収縮期血圧確認(触診法)」を必ず行うことです。
触診で脈が消失した点より20〜30mmHg高く加圧してから聴診を始めれば、聴診間隙の手前から聞き始めることになり、収縮期血圧を見逃すリスクを大幅に減らせます。
この手順を省略していた場合は、一度完全に脱気してから最初からやり直すのが原則です(同じマンシェット圧のまま再測定するのはNG。うっ血した状態での再測定は数値が不正確になります)。