口腔ケアについて|ケアの手順から看護のポイントまで徹底解説
あずかん義歯を使用している患者さんの口腔ケアでは、口腔内(残存歯・粘膜・舌)と義歯そのものの両方を清潔にする必要があります。義歯の表面(特に粘膜面)にはデンチャープラーク(義歯バイオフィルム)が付着し、カンジダ菌などが定着しやすくなります。放置すると義歯性口内炎、口臭、誤嚥性肺炎のリスク上昇につながります。
また、義歯の着脱や洗浄には、この手技ならではの失敗が潜んでいます。無理に外して粘膜を傷つける、落として破損する、紛失する、他の患者さんのものと取り違える、外し忘れたまま就寝させるといったトラブルは、病棟で実際によく起こります。
義歯のある口腔ケアの手順と根拠
前提:ケアの基本方針
- 目的は「汚れを動かして、回収して、外に出す」ことと「義歯を傷つけず清潔に保つ」ことの両立
- 実施頻度は毎食後が基本。義歯は就寝時に外す運用が一般的(歯科医の指示がある場合は従う)
- 義歯の種類は総義歯(全部床義歯)と部分義歯(バネ=クラスプで残存歯に固定)に分かれ、外し方が異なる
手順・根拠・ポイント
| 手順 | 根拠 | ここがポイント! |
|---|---|---|
| 【1. 事前評価】 意識レベル(JCS/GCS)、嚥下機能(唾液の貯留、むせ、湿性嗄声)、開口の程度、義歯の種類(総義歯・部分義歯)、義歯の適合状態(ぐらつき、浮き)、残存歯の動揺、粘膜の発赤・潰瘍・白苔、出血傾向を確認する。ペンライトで口腔内を観察する | 義歯を外す前に評価しておくと、外した後に気づく粘膜損傷や痛みの原因を特定できる。嚥下機能が低下していると、義歯の誤飲・誤嚥のリスクも上がる | 義歯の適合不良は、粘膜の発赤・潰瘍の原因になる。「食事量が減った」「義歯を外したがる」という訴えの背景に、義歯の不適合があることも多い。気づいたら歯科受診を相談する |
| 【2. 物品準備】 義歯用ブラシ(または柔らかめの歯ブラシ)、義歯保管容器(ふた付き、氏名記載)、義歯洗浄剤、歯ブラシ、スポンジブラシ、舌ブラシ、ガーゼ、コップ、洗浄液、保湿剤、ガーグルベースン、ディスポ手袋、マスク、エプロン、ペンライト、吸引器(必要時)を準備する | 義歯の洗浄に研磨剤入りの歯磨剤を使うと、表面に細かな傷がつき、プラークが付着しやすくなる。専用容器を使えば、紛失や取り違えの防止になる | 容器には必ず氏名を記載し、ふたが閉まるものを選ぶ。ティッシュやガーゼに包んで置くのは捨ててしまう事故の典型。吸引器はケア前に作動確認しておく |
| 【3. 説明・手指衛生・体位調整】 患者さんに目線を合わせ、「入れ歯を外して、お口と一緒にきれいにしますね」と声をかける。 手指衛生後、マスク・エプロン・手袋を装着する。ベッドを30度以上(可能なら60〜90度)にギャッジアップし、頸部をやや前屈位にする | 口腔内は唾液や血液に曝露するため標準予防策が必要。頸部が後屈していると咽頭と気管が一直線になり、唾液や洗浄液を誤嚥しやすい | 義歯が外れた直後は口腔内の感覚が変わり、不安を感じる患者さんもいる。「外しますよ」と必ず予告する。意識がない患者さんにも声かけは省略しない |
| 【4. 義歯を外す(総義歯)】 上顎の総義歯:前歯部(人工歯の前方)を親指と人差し指でつまみ、後方を軽く押し上げて空気を入れ、吸着を解除してから、前下方に引き下ろす。 下顎の総義歯:前歯部を持ち、片側をわずかに持ち上げて回転させるように外す。 無理に引っ張らない | 総義歯は粘膜との間に生じる陰圧と唾液の表面張力で吸着している。空気を入れて吸着を解除すれば、粘膜への負担が少ない。上顎は後方に空気が入ると外れやすい | ガーゼで義歯をつかむと滑りにくい。落下に備え、口元の下にタオルやガーゼを広げておく(洗面器に水を張っておくと、落下時の破損防止になる)。吸着が強くて外れないときは、頬を内側から軽くつまんで空気を入れる方法もある |
| 【5. 義歯を外す(部分義歯)】 クラスプ(金属バネ)を指先で確認し、義歯床の端(クラスプ付近)を両側から持って、ゆっくり持ち上げるように外す。クラスプだけを引っ張らない。外すときは、左右均等に力を加える | クラスプは残存歯に引っかかって固定されており、一方向に強く引くと変形・破損したり、残存歯を傷める(動揺歯の脱落)ことがある | クラスプが曲がると、次の装着時に痛みや不適合を生む。外れにくいときは無理せず歯科に相談する。動揺歯がある場合は、外す際に歯を指で押さえて脱落を防ぐ |
| 【6. 外した義歯の保管(一時的)】 外した義歯は、氏名入りの専用容器に入れて保管する。ベッドサイドの目につく場所に置くが、ティッシュに包まない、ベッド上に放置しない | 義歯は小さく、シーツやティッシュと一緒に廃棄されやすい。取り違えは義歯の不適合や感染(交差感染)の原因になる | 義歯の置き忘れが院内で最も多い紛失事例のひとつ。記録に「義歯:あり→容器保管」と書いておくと、申し送りで抜けにくい |
| 【7. 口腔内の保湿・軟化】 口腔内が乾燥している場合は、保湿剤を口唇・頬粘膜・舌・口蓋に塗布し、2〜3分待つ。乾燥痂皮は無理に剥がさない | 義歯の下にあった粘膜は乾燥しやすく、痂皮が固着していることがある。無理に剥がすと出血・疼痛を生じる | 義歯を外した直後は、粘膜が赤く圧痕が残っていることがある。これは正常な場合も多いが、潰瘍や強い発赤が数時間続く場合は不適合の可能性があり、歯科に相談する |
| 【8. 残存歯・歯肉・粘膜のケア】 残存歯がある場合、歯ブラシをペングリップで持ち、軽い力で、歯と歯肉の境目に毛先を45度で当て、小刻みに振動させる。 部分義歯のクラスプが接する歯(支台歯)は特に丁寧に磨く。歯肉、頬粘膜、口蓋、舌は、スポンジブラシで奥から手前へ、水分を固く絞って拭う。数歯ごとに汚れを回収する(ガーゼ、吸引) | 支台歯はクラスプとの接触面にプラークが溜まりやすく、う蝕や歯周病が進行しやすい。無歯顎部分も、粘膜面に細菌が付着するため清拭が必要。汚れを口腔内に残すと唾液とともに誤嚥される | 歯がない患者さんでも、歯肉や顎堤(歯槽堤)を清拭することが必要。舌の奥にいきなり入れると嘔吐反射を誘発するので、中ほどから始めて少しずつ奥へ進める |
| 【9. 義歯の洗浄】 流水下で、義歯用ブラシを使い、粘膜面(裏側)、人工歯の咬合面、歯と歯肉の境目、クラスプを、軽い力で磨く。研磨剤の入っていない義歯用ブラシ・専用ペーストを使用する。 洗面台に水を張るか、タオルを敷く(落下防止)。熱湯は使用しない | デンチャープラークの除去は、ブラッシングが基本。研磨剤入り歯磨剤はレジン(義歯床の樹脂)表面に傷をつけ、細菌が定着しやすくなる。熱湯は変形を招く | 粘膜面(口に当たる側)が最も汚れるので、見落としがち。クラスプの隙間は歯ブラシの毛先を使う。落としても割れにくいよう、水を張るのが基本。流しの排水口に落とす事故も多いので、排水口にタオルをかぶせると安心 |
| 【10. 義歯洗浄剤への浸漬】 義歯洗浄剤(過酸化物系など)を製品指示に従って水に溶かし、義歯を浸漬する(通常は5〜15分程度、一部は一晩)。浸漬後は流水でよくすすぐ | 洗浄剤はブラッシングで落としきれないバイオフィルムやカンジダの減少に有効。ブラッシングを省略して洗浄剤のみでは不十分。すすぎ不足は口腔粘膜の刺激を生む | 金属部分(クラスプ)がある場合、塩素系漂白剤や熱湯は禁忌(金属の変色・腐食)。洗浄剤の種類は義歯の材質(レジン・金属)に合ったものを選ぶ。浸漬時間は製品の指示を守る |
| 【11. 義歯の装着または保管】 日中:口腔内を湿らせたうえで、義歯を水で濡らして口腔内に挿入する。 上顎:前歯部から入れ、後方を軽く押さえて吸着させる。 下顎:前歯部を入れ、舌を後ろに引いてもらいながら装着する。 部分義歯:クラスプを残存歯に合わせ、義歯床を指で軽く押し込む。噛ませて入れない。 夜間・就寝時:外して水を張った容器(または洗浄剤)に入れ、蓋をして保管 | 義歯を乾燥させると変形する(レジンは吸水性がある)。噛んで入れると義歯の破損、クラスプの変形、粘膜損傷を招く。夜間の取り外しは、粘膜の休息と細菌の増殖抑制、義歯の誤嚥防止のために行う | 義歯を逆向きに入れていないか(前後・上下)を確認。装着後に「痛くないですか、浮いた感じはありませんか」と聞く。義歯を装着しないまま長期間放置すると、顎堤が変化して合わなくなるため、日中は原則装着を維持する |
| 【12. 実施後の確認・後片付け・記録】 口腔内の残渣、洗浄液の貯留、出血がないかペンライトで確認する。呼吸状態(SpO₂、呼吸音、むせ)と表情を確認する。体位を戻し、30分程度は頭部挙上を維持する。物品を片付け、手袋・マスク・エプロンを外して手指衛生を行う。義歯の有無、状態(破損・変形・不適合)、口腔内所見、ケア内容、患者さんの反応を記録する | ケア後の遅発性の誤嚥や出血は見落としやすい。義歯のトラブルは記録が共有されないと、同じ事故が繰り返される | 記録は「上顎総義歯、洗浄済、夜間保管」「下顎部分義歯のクラスプ変形あり、歯科依頼」など具体的に書く。「義歯ケア実施」だけでは申し送りにならない |
3. よくあるトラブル・疑問(Q&A)



義歯が外れない、または装着時に痛みを訴える場合はどうしたらいいですか?



無理に外さない・無理に入れないのが原則です。
【外れない場合】
1.頬や口唇を内側から軽く持ち上げて空気を入れる
2.義歯の前歯部を軽く揺らして吸着を解除する
3.唾液の分泌が少ない場合は、保湿剤や水で湿らせてから再度試みる
4.それでも外れない場合、歯科に相談する(接着剤使用、適合不良の可能性)
【装着時に痛みがある場合】
・義歯の変形、破損、クラスプの曲がりを確認する
・口腔内の潰瘍、腫脹、発赤を確認する
・患者さんに痛む部位を具体的に指さしてもらう
・痛みが続く場合は装着を中止し、歯科受診を相談する。自己判断で義歯を削る、調整することは行わない



義歯を紛失した、または破損した場合はどうしたらいいですか?



【紛失した場合】
1.リネン、ティッシュ、ゴミ箱、トイレ、洗面所を速やかに確認する(廃棄物は回収前に止める)
2.見つからなければ看護師長・リーダーに報告し、インシデントレポートを提出する
3.患者さん・家族に事実を正直に伝え、謝罪する
4.歯科受診を調整する(作り直しには数週間かかることがあり、その間の食事形態を検討)
【破損した場合】
・破片が口腔内や咽頭に残っていないか、ペンライトで確認する
・破片は捨てずに保管する(修理に必要)
・誤飲・誤嚥の疑いがあれば医師に報告し、画像検査を相談する
予防策
ケア時は洗面台に水を張る、容器に氏名を記載、ティッシュに包まない、ケア終了時に義歯の所在を声に出して確認する(指差し呼称)。
【NG行動まとめ】
義歯を無理に引っ張って外す(粘膜損傷・義歯破損)
クラスプだけをつかんで外す(変形・支台歯の損傷)
研磨剤入りの歯磨剤で義歯を磨く(表面に傷がつきプラークが付着しやすくなる)
熱湯で洗う・消毒する(変形)
金属部分のある義歯を塩素系漂白剤に浸ける(金属の腐食・変色)
義歯を乾燥状態で放置する(変形)
ティッシュ・ガーゼに包んでベッドサイドに置く(誤廃棄)
洗面台に水を張らずに洗う(落下による破損)
噛ませて義歯を装着する(破損・変形)
義歯を装着したまま就寝させる(施設の方針や歯科医の指示を除く)
仰臥位(顎が上がった状態)でケアを行う(誤嚥)
患者さん間で容器・義歯ブラシを共用する(取り違え・交差感染)