口腔ケアについて|ケアの手順から看護のポイントまで徹底解説
あずかん口腔ケアは、毎日どの病棟でも行う基本的なケアです。ただ、「やっているつもり」と「汚れが取れている」は別物だと感じる場面は少なくありません。
口腔内には数百種類、唾液1mLあたり10⁸個前後ともいわれる細菌が存在します。経口摂取をしていない患者さん、意識レベルが低下している患者さん、唾液分泌が低下した高齢の患者さんでは、舌苔、歯垢(プラーク)、口腔内乾燥による痂皮が蓄積し、細菌が増えやすい環境になります。不顕性誤嚥でこの細菌を含む唾液が気道に流れ込むと、誤嚥性肺炎や人工呼吸器関連肺炎(VAP)の原因になります。
さらに、口腔ケアは感染予防にとどまりません。口腔内の爽快感、味覚の改善、食欲の回復、会話のしやすさにもつながる、QOLに直結するケアです。一方で、手技を誤れば、ケア中の誤嚥、粘膜損傷、出血、嘔吐反射の誘発、患者さんの苦痛や拒否を招きます。


義歯のない口腔ケアの手順と根拠
前提:ケアの基本方針
- 対象は義歯のない患者さん(自歯がある場合と、無歯顎の場合を含む)
- 目的は「汚れを動かして、回収して、外に出す」こと
- 実施頻度は1日3回(毎食後)が基本。経口摂取のない患者さん、人工呼吸器装着中の患者さんも、最低1日2〜3回、施設の基準に従う
- 汚れの回収が不十分だと、剥がした細菌をそのまま誤嚥させることになる
手順・根拠・ポイント
| 手順 | 根拠・予測 | ここがポイント! |
|---|---|---|
| 【1. 事前評価】 意識レベル(JCS/GCS) 嚥下機能(唾液の貯留、むせ、湿性嗄声) 開口の程度 口腔内の状態(出血傾向、口内炎、動揺歯、乾燥の程度) 血小板数・PT-INRなどの検査値 酸素投与の有無を確認する。 ケア前の口腔内を、ペンライトで観察する | 意識レベルが低い、嚥下反射が低下している場合、ケア中の洗浄液や唾液を誤嚥するリスクが高い。 血小板減少や抗凝固薬内服で出血が止まりにくいことがある。 事前評価が体位・方法・物品の選択を決める | 見る順番を決めておく(口唇→頬粘膜→歯→歯肉→舌→口蓋→口腔底)と、見落としが減る。口腔アセスメントツール(OHAT、ROAGなど)を活用すると、記録と申し送りが統一できる |
| 【2. 物品準備】 歯ブラシ(ヘッドが小さく、毛先が柔らかめ〜普通)、スポンジブラシ、舌ブラシまたは舌ケア用の柔らかいブラシ、コップ、洗浄液(水、または施設指定の洗口液)、保湿剤(ジェルやスプレー)、ガーゼまたはティッシュ、吸引器と吸引カテーテル(必要時)、ガーグルベースン、タオル、ディスポ手袋、マスク、エプロン、ペンライト、開口保持具(必要時)を準備する | 歯ブラシが大きいと奥歯や歯の裏側に届かず、嘔吐反射を誘発しやすい。スポンジブラシのみでは歯垢(バイオフィルム)が除去しにくい。保湿剤は汚れを軟化させる。吸引を準備しておくと、誤嚥のリスクに即座に対応できる | ベッドサイドに物品を並べる位置は、利き手側に揃える。吸引器はケアの前に作動確認(陰圧と接続)。ケア中に「あれがない」と離れるのが、最もリスクの高い瞬間 |
| 【3. 説明・同意・手指衛生】 患者さんに目線を合わせ、「口の中をきれいにします。痛かったり、つらかったら手を挙げてください」と声をかける。手指衛生後、マスク・エプロン・手袋を装着する | 口腔内は唾液、血液などの体液に曝露する可能性がある(標準予防策)。予告なしに口に器具を入れると驚きと恐怖で口を閉じる(開口拒否)ことがある | 意識がない患者さんにも必ず声かけをする。「口を開けますよ」と伝えながら、唇や頬に先に触れると、反応が出やすい |
| 【4. 体位調整】 ベッドを30度以上にギャップアップ(可能であれば60〜90度)。 頸部はやや前屈位にし、顔を健側に向ける(麻痺がある場合)。 ギャッジアップができない場合は、側臥位にして、顔を横に向ける。枕やタオルで頭部を安定させ、頸部の過伸展を避ける | 頸部が後屈・伸展していると、咽頭と気管が一直線になり、唾液や洗浄液が気道に流れ込みやすい。前屈位は食道を開き、気管を閉じる方向に働く。麻痺側では食物や水分が貯留しやすい | 側臥位では下側の頬に汚れが溜まるため、ガーグルベースンや吸引で受ける。ケア中は顎が上がっていないかを、横からのぞいて確認する。タオルを頸部の下に挿入して高さを調整するのも有効 |
| 【5. 口腔内の保湿・軟化】 口腔内が乾燥している場合は、ケアの前に保湿剤を口唇・頬粘膜・舌に塗布し、2〜3分ほど待つ。乾燥痂皮は無理に剥がさず、保湿を繰り返して軟化させる | 乾燥した痂皮は粘膜に固着しており、無理に剥がすと出血・疼痛を起こす。保湿剤で水分を含ませると、汚れが浮きやすくなる | 剥離を急ぐと粘膜が剥がれて出血することがある。一度に取り切ろうとせず、数回に分けて除去する。人工呼吸器装着中や酸素投与中の患者さんは、乾燥が強いためケアのたびに保湿を行う |
| 【6. 歯・歯肉のブラッシング】 歯ブラシを鉛筆持ち(ペングリップ)で持ち、軽い力(150〜200g程度)で当てる。 歯と歯肉の境目に毛先を45度で当て、5〜10mm幅の小刻み振動(バス法)で磨く。 1〜2歯ずつ、20回程度。奥歯の咬合面、歯の裏側(舌側・口蓋側)も順に磨く。 磨く順番を決め(右上→左上→左下→右下など)、磨き残しを防ぐ | 歯垢は歯頸部(歯と歯肉の境目)に溜まりやすく、歯周病や口臭の原因になる。強い力(握りしめる持ち方)では歯肉を傷つけ、出血を招く。小刻みな振動でバイオフィルムを物理的に破壊する | 握力が強いと力が入りすぎるので、ペングリップで持つ。歯ブラシの毛先が広がっていたら交換の目安。歯がぐらぐらしている(動揺歯)場合は、指で軽く押さえながら磨き、脱落を防ぐ。上顎の歯は喉の奥に洗浄液が流れやすいため注意 |
| 【7. 汚れの回収】 数歯磨くごとに、湿らせたガーゼやスポンジブラシで汚れを拭き取る。または吸引カテーテル付きの歯ブラシ、あるいは吸引しながらブラッシングを行う。洗浄液は少量(5〜10mL程度)ずつ使用し、すぐ吸引またはガーグルベースンで回収する | 浮いた汚れ(細菌を含む)を口腔内に残すと、唾液とともに誤嚥する。大量の水で洗い流す方法は、嚥下機能が低下した患者さんでは誤嚥のリスクが高い | 「磨く」より「出す」が大切。口腔内に汚れが残ると、肺炎予防にならない。スポンジブラシは水分を固く絞る(ポタポタ垂れる状態はNG)。吸引圧は施設基準に従い、粘膜を吸い込まないよう、カテーテルを頬の内側に当てすぎない |
| 【8. 舌・口蓋・頬粘膜のケア】 舌ブラシまたは柔らかいスポンジブラシで、舌の奥から手前へ、軽い力で数回拭う。頬粘膜は、口角から奥に向けて、口蓋は奥から前方へ、スポンジブラシをゆっくり動かす。1回ごとに、スポンジブラシを洗浄して固く絞る | 舌苔は細菌と剥離上皮、食物残渣の集合体で、口臭や誤嚥性肺炎の原因になる。舌の奥は嘔吐反射が起こりやすいため、奥から手前へ動かすことで反射を抑える。粘膜を強くこすると傷つけ出血する | 舌の奥にいきなり入れないのがコツ。嘔吐反射が強い患者さんには、舌の中ほどから始めて、少しずつ奥へ。舌苔が厚い場合は無理に取らず、数日かけて除去する(舌乳頭を損傷しない)。使用後のスポンジブラシは毎回洗う |
| 【9. 洗浄・含嗽】 含嗽が可能な患者さんには、少量の水(10〜20mL)を口に含んでもらい、ブクブクうがい、ガーグルベースンに吐き出してもらう。 含嗽が困難な患者さんには、洗浄液を湿らせたスポンジブラシやガーゼで口腔内を拭き取る。口腔内に水が溜まっていないかを確認する | 含嗽は浮遊した汚れ・細菌の除去になるが、飲み込み・誤嚥のリスクがある。含嗽できない患者さんに無理に行わせると、むせ込みにつながる | 含嗽の前に、「飲み込まないでね」と事前に声かけする。含嗽が不十分な高齢者では、スポンジブラシによる拭き取りに切り替える。吐き出せたかを最後に確認する |
| 【10. 保湿・口唇ケア】 ケアの仕上げに、保湿剤を口唇・頬粘膜・舌・口蓋に薄く塗布する。口唇には、リップクリームまたは保湿ジェルを塗る。過度に塗りすぎない(舌や咽頭への垂れ込みを避ける) | 口腔内の乾燥は細菌の増殖と口腔内トラブル(口内炎、亀裂)を引き起こす。保湿により唾液の代わりに粘膜保護を行う。ジェルを厚塗りすると気道に流れるリスク | 塗る量は米粒大〜小豆大を目安に。乾燥の強い患者さんは、ケア間にも保湿スプレーで補う。ジェルが舌の上に厚く溜まると、誤嚥の原因になる |
| 【11. 実施後の確認】 口腔内の残渣、出血、洗浄液の貯留がないか、ペンライトで確認する。患者さんの呼吸状態(SpO₂、呼吸音、むせ)、表情、不快感を確認する。体位を戻し、30分程度は頭部挙上を維持する | ケア後の遅発性の誤嚥や出血は、見落としやすい。体位をすぐ戻すと、口腔内の残留物が気道に流入することがある | SpO₂が低下していないかを、ケア直後と10〜15分後に確認する。出血が続く場合は、ガーゼで圧迫し、医師に報告 |
| 【12. 後片付け・記録】 使用した物品を洗浄(スポンジブラシはディスポ、歯ブラシは洗浄・乾燥して個人別に保管)。手袋・マスク・エプロンを外し、手指衛生を行う。口腔内の状態(出血、舌苔、乾燥、口内炎)とケア内容、患者さんの反応を記録する | 歯ブラシは湿った状態で保管すると細菌が繁殖する。記録は他のスタッフと状態を共有し、継続的な評価に役立つ | 記録には「舌苔:中等度、乾燥:なし、出血:なし」など具体的に記載する。「口腔ケア実施」だけでは申し送りにならない |
よくあるトラブル・疑問(Q&A)



口を開けてくれない、噛んでしまう患者さんにはどうしたらいいですか?



無理にこじ開けると、歯の破折、口唇・歯肉の損傷、拒否の強化につながります。以下の順で対応します。
1.声かけとスキンシップ(頬や顎のマッサージ、口唇への軽いタッチ)で緊張を和らげる
2.唇や頬の外側からゆっくり触れ、歯を見せてもらうところから始める
3.開口保持具(バイトブロックなど)を使用する場合は、歯のない部位、または前歯ではなく臼歯部に入れ、口腔内に落ち込まないよう糸付きのものを選ぶ
4.認知症などで拒否が強い場合は、時間帯・環境・担当者を変えて再度試み、多職種(歯科・認知症ケアチーム)に相談する
※注意※
指を口腔内に入れて開口させる行為は、噛まれるリスク(指の外傷、感染)があるためNGです。



ケア中に出血が止まらない、または大きな痰が出てきた場合はどうすればいいですか?



【出血の場合】
・出血部位をガーゼで圧迫(5〜10分)
・血小板数、PT-INR、抗凝固薬内服の有無を確認
・止血が困難、または出血量が多い場合は医師に報告
・次回以降はスポンジブラシによる軽いケアに切り替え、歯ブラシは使用を控える
【大量の痰・分泌物の貯留】
・すぐに吸引を行い、気道を確保
・SpO₂、呼吸音を確認
・分泌物が多い患者さんは、ケアの前に吸引してから実施すると、安全性が高まる
【NG行動まとめ】
仰臥位(顎が上がった状態)でケアを行う
大量の水で口腔内を洗い流す(誤嚥リスク)
スポンジブラシの水分を絞らずに使用する
舌の奥にいきなりブラシを入れる(嘔吐反射・窒息のリスク)
乾燥痂皮を無理に剥がす(出血・疼痛)
強い力で磨く、握りしめた持ち方で磨く(歯肉損傷)
吸引や物品の準備なしに実施する
指を口腔内に入れて開口させる
歯ブラシを湿ったまま密閉保管する(細菌増殖)
ケア後すぐに仰臥位に戻す