静脈血採血の手順について
あずかん「採血」は看護師が最も頻繁に行う手技の一つですが、同時に「最も患者さんに痛みを伴い、クレームに繋がりやすい手技」でもあります。
また、手技のミスが「溶血」や「凝固」といった検体エラーを引き起こし、患者さんに二度痛い思いをさせてしまう(再採血)だけでなく、誤った検査データで医師の診断を狂わせてしまうリスクも孕んでいます。
今回は、採血の基本手順から、新人ナースが必ずつまずく「スピッツ(採血管)の順番と抗凝固剤の罠」、そして神経損傷を防ぐための安全管理まで、現場の視点から徹底解説します。
【完全ガイド】採血の手順と根拠
今回は臨床で主流となっている「翼状針を用いた真空管採血」をベースに解説します。
| 手順 | 根拠 | ここがポイント! |
|---|---|---|
| 1. 準備とアセスメント フルネームと生年月日での患者確認後、「アルコール消毒で赤くならないか」「血液がサラサラになる薬を飲んでいないか」を確認。採血部位は「肘正中皮静脈」を第一選択とする。 | 【安全管理の根拠】 アルコール過敏症の患者にアルコール綿を使用すると、発赤や水疱を生じます(クロルヘキシジン等へ変更)。また、抗凝固薬の内服状況は止血時間に直結します。手関節の掌側(橈骨神経浅枝など)への穿刺は神経損傷リスクが高いため原則禁忌です。 | 「以前採血で気分が悪くなったことはありませんか?」の一言が、迷走神経反射による転倒・失神を防ぐ最大の防御線になります。 |
| 2. 駆血と血管の選定 穿刺予定部位の7〜10cm中枢側に駆血帯を巻く。駆血時間は「1分以内」にとどめる。血管が決まったら、アルコール綿で中心から外側へ円を描くように消毒し、完全に乾燥させる。 | 【検査値エラー防止の根拠】 1分以上駆血すると、血液の濃縮が起こり、カリウム(K)やAST、総タンパクなどの数値が偽高値になります。また、消毒用アルコールが未乾燥のまま穿刺すると、針先にアルコールが付着して「溶血(赤血球が壊れる)」の原因になります。 | 【ここで失敗しやすい】 血管を探すのに夢中で駆血帯を巻きっぱなしにするのはNG。見つかったら一度駆血帯を外し、物品をセッティングしてから再度駆血しましょう。 |
| 3. 穿刺 非利き手の親指で穿刺部位より3〜5cm手前を手前(自分側)に向かって皮膚をピンと引っ張り(伸展)、針の切り口を上に向けて、10〜20度の浅い角度でスムーズに刺入する。 | 【苦痛軽減・解剖学的根拠】 皮膚の伸展が甘いと血管が逃げ(ローリング)、痛みが強くなります。また、深く刺しすぎると静脈を突き破ったり、その下にある神経に触れたりする危険があります。 | 【絶対NG行動】 刺した直後に患者さんが「指先にビリッと電気が走るような痛み」や「強いしびれ」を訴えたら、直ちに抜去してください。神経損傷のサインです。少し針を引いて探るような行為は厳禁です。 |
| 4. スピッツの順番(真空採血) JCCLSガイドラインに基づく推奨順序: ①生化学(血清:赤) ②凝固(クエン酸:黒/青など) ③血算・血液(EDTA:紫) ④血糖(フッ化ナトリウム:灰) ※翼状針で②凝固を最初に採る場合はダミー管を使用する。 | 【病態生理学的・検体エラー防止の根拠】 スピッツの中には検査目的に応じた「薬(抗凝固剤)」が入っています。例えば③のEDTAには「カリウム(K)」が含まれるため、③を先に採ってから①を採ると、針先を介してKが混入し、あり得ないほどの「高カリウム血症」という偽データが出ます。 | 【各スピッツの注意点】 凝固(②)は「規定量(指定のライン)」まで正確に採らないと検査できません。また、抗凝固剤入りのスピッツ(②③④)は、抜去後すぐに「5〜6回、泡立てないように優しく転倒混和」させます。振ると溶血します。 |
| 5. 抜針と止血 最後のスピッツを抜いたら、「必ず駆血帯を外してから」針を抜く。抜針後、アルコール綿(または絆創膏)で穿刺部位を5分以上、揉まずにしっかり圧迫止血する。 | 【安全管理の根拠】 駆血帯を巻いたまま針を抜くと、血圧によって血液が噴出したり、皮下血腫(青あざ)を作ったりします。また、止血の際に「揉む」と、形成されかけた血栓が剥がれ、内出血の原因になります。 | 止血は患者さん任せにせず、「絶対に揉まないで、しっかり押さえていてくださいね」と具体的に伝え、後で必ず止血の確認に行きましょう。 |
よくあるトラブル・疑問(Q&A)



Q. 血管が細くて逃げてしまい、なかなか刺せません。どうすればいいですか?



A. 温める、クリンチング、そして「皮膚の伸展」の3つを徹底してください。
まずはホットパックや温タオルで腕を温め、血管を拡張させます。次に、患者さんに親指を中に入れて軽く拳を握ってもらいます(クリンチング)。そして一番重要なのが、非利き手による「皮膚の引き(伸展)」です。血管の横ではなく、血管の真上(手前)から皮膚をピンと張ることで、血管をしっかり固定できます。叩いて怒張させるのは、溶血やカリウム上昇の原因になるため推奨されません。



Q. スピッツの順番を間違えて、EDTA(紫)の後に生化学(赤)を採ってしまいました。どうなりますか?



A. 残念ですが、医師に報告の上、再採血の可能性が高いです。
EDTA管には「EDTA-2K(カリウム塩)」が含まれていることが多く、これが生化学管に微量でも混入すると、検査データ上で「異常な高カリウム血症」および「著しい低カルシウム血症」として叩き出されます。このデータで医師が診断すると、不要な治療(カリウムを下げる処置など)が行われ、最悪の場合は患者さんの命に関わる医療事故に発展します。「順番くらいバレないだろう」は絶対に禁忌です。