鎮痛薬と便秘について

鎮痛薬と便秘の関連性について

あずかん

整形外科病棟で、大腿骨近位部骨折の術後や脊椎手術後の患者さんが「痛くてリハビリができない」「お腹が張ってご飯が食べられない」と訴える場面、よく遭遇しますよね。
疼痛コントロールのために、NSAIDs(ロキソプロフェンなど)に加えて、トラマドール塩酸塩/アセトアミノフェン配合錠(トラムセットなど)や、術後IV-PCA(静脈内患者自己調節鎮痛法)でフェンタニルなどのオピオイドが使われることは、いまや整形外科のスタンダードです。
しかし、痛みが取れても「強烈な便秘(オピオイド誘発性便秘症:OIC)」を引き起こし、それが原因で腹部膨満感や嘔気が出現、結果的にリハビリが進まなくなるという本末転倒な事態が多発しています。
今回は、整形外科における「鎮痛薬と便秘」の切っても切れない関係と、患者さんのADLを下げないための排便コントロールの術を紹介します。


目次

サクッと復習!鎮痛薬と便秘のメカニズム

  • 原因となる薬剤
    • 術後や骨折の激痛に対し、NSAIDsやアセトアミノフェンだけでは不十分な場合、弱オピオイド(トラマドールなど)が処方されます。また、硬膜外麻酔やIV-PCAで強オピオイド(フェンタニルなど)が持続投与されることもあります。
  • 病態生理(OICのメカニズム)
    • オピオイドは、痛みを抑えるだけでなく、腸管にある「μオピオイド受容体」にも結合してしまいます。これにより、①腸管の蠕動運動が強力に抑制され(動きが止まる)、②腸管内での水分吸収が亢進し、③肛門括約筋の緊張が高まります。
  • 症状
    • 単なる「出ない」ではなく、腸の動きが止まった状態で水分だけが抜かれるため、コロコロとしたカチカチの硬便(兎糞状)になり、強烈な排便困難や腹部膨満感、それに伴う食欲低下や悪心・嘔吐(術後イレウスのリスク)を引き起こします。

観察ポイント&根拠

観察項目具体的アクション(何をどう見るか)プロの視点・根拠(なぜそこを見るか)
腸蠕動音(グル音)の聴診と腹部の打診腹部4四分画をそれぞれ最低15秒ずつ聴診し、腸雑音の減弱や消失がないか前日と比較する。また、腹部を打診し、ポコポコという鼓音(ガスの貯留)の範囲を確認する。オピオイドは腸管の動きを物理的に「止める」作用があります。「ご飯を食べていないから腸が動かない」のではなく、薬の副作用による麻痺性イレウスの初期段階に陥っていないかを評価するため、聴診での蠕動運動の確認がアセスメントの第一歩になります。
便の性状評価(ブリストル便性状スケール)患者に「ウサギのフンのようなコロコロした硬い便でしたか?」と具体的に問診し、ブリストルスケールのタイプ1〜2(硬便)に該当しないかをカルテに記録する。OICの特徴は「水分の枯渇したカチカチの便」です。硬便が直腸に溜まった状態(糞便塞栓)でいきむと、術創部や骨折部に激痛が走り、患者さんはさらに排便を我慢するという悪循環に陥ります。性状を可視化することで、適切な下剤の選択(水分を集める浸透圧性下剤か、OIC治療薬か)につながります。
「痛み」の部位と腹部膨満感の鑑別「腰が痛い」「傷が痛い」という訴えがあった際、創部の観察と同時に必ず下腹部を触診し、便塊の触知や緊満感がないかを確認する。腹部にガスや便がパンパンに溜まると、その内圧で腰背部痛が増強したり、横隔膜が挙上して呼吸苦が出たりします。患者さんは「手術の傷が痛い」と勘違いしがちですが、実は「極度の便秘による放散痛・不快感」であるケースが多く、便を出した途端に鎮痛薬が不要になることもあります。

もし患者さんが「お腹が張って、ご飯が食べられない」と言ったら?

「痛み止めのおかげで傷は痛くないんだけど…お腹がパンパンで張って苦しくて、ご飯も食べられないし、リハビリなんてとても無理だよ…」
術後3日目、PTのお迎えが来たタイミングで、患者さんが顔をしかめて拒否されてしまいました。

言葉の裏にある病態
これは単なるリハビリへの意欲低下ではありません。トラマドールなどの鎮痛薬によるオピオイド誘発性便秘症(OIC)が引き起こした腹部膨満と悪心です。腸が動いていないのに上から食事を入れられ、苦痛が限界に達しています。この状態での無理な離床は嘔吐を誘発します。

対応アクションと会話例

  1. 苦痛の受容とフィジカルアセスメント
    • 「お腹がパンパンに張って苦しいですね。リハビリどころじゃないですよね、無理しなくて大丈夫ですよ。少しお腹の音を聞かせてくださいね(聴診・打診を実施)。痛み止めのお薬が、腸の動きをゆっくりにしてしまう影響が出ているのかもしれません」
  2. チームへの情報共有とリハビリの調整
    • PTに対し「著明な腹部膨満と嘔気があり、オピオイドによる便秘・イレウス気味の可能性があります。本日のリハビリはベッド上での四肢のROM訓練や、腹部マッサージなど負担の少ないものに変更できませんか?」と相談します。
  3. 医師へのタイムリーな薬剤調整の提案
    • SBARを用いて医師に報告し、「トラマドール内服開始後から排便が3日なく、腸蠕動音も低下しています。センノシドなどの刺激性下剤ではなく、酸化マグネシウムの増量や、末梢性μオピオイド受容体拮抗薬(スインプロイクなど)の追加をご検討いただけないでしょうか」と具体的な処方提案を行います。

現場で差がつく看護のコツ・ポイント

工夫・コツ・アイデア具体的な手技・環境調整期待される効果・メリット
鎮痛薬と下剤の「セット処方」の確認トラムセットなどの弱オピオイドが処方された際、必ず浸透圧性下剤(酸化マグネシウムやモビコールなど)が一緒に処方されているか確認し、なければ医師に「下剤も併せて処方しますか?」と確認する。OICは「ほぼ必発」する副作用です。予防的に便を柔らかく保つ下剤を開始しておくことで、数日後の強烈な糞便塞栓とそれに伴う患者の苦痛、そして看護師の摘便というハードな業務を未然に防ぐことができます。
トイレでの「考える人のポーズ」の指導トイレやポータブルトイレでの排便時、足底をしっかり床(または踏み台)につけ、体を前傾させて肘を膝に置く「ロダンの考える人」の姿勢をとるよう指導する。直腸と肛門の角度(直腸肛門角)が真っ直ぐに近づき、骨折術後などで強いいきみができない患者さんでも、腹圧を逃さずにスムーズに便を押し出しやすくなります。ベッド上での差し込み便器ではこの角度が作れないため、可能な限り坐位へ誘導することがカギです。
離床と腹部温罨法による「物理的アプローチ」痛みがコントロールできている範囲で、車椅子への移乗や病棟内歩行を促す。離床が難しい場合は、温めたタオルやホットパックで腹部(特に下腹部)を温罨法する。重力による物理的な刺激と、温熱による腸管血流の改善が、麻痺した蠕動運動を優しく促します。「薬(下剤)を入れる前に、まず動く・温める」が看護の基本です。

新人さんが陥りやすいミスへの対策

便秘の患者さんを受け持った際、一番やってしまいがちなのが「3日出てないですね。指示にあるセンノシド(プルゼニド)やラキソベロンといった『刺激性下剤』を飲んでもらいましょう」と、深く考えずに下剤を追加してしまうことはありませんか。

新人さんは「出ないなら下剤」と考えがちですが、トラマドールなどの鎮痛薬で「腸の動き自体が止まっている(OIC)」状態のところに、腸の壁をムチで叩いて無理やり動かす「刺激性下剤」を入れるとどうなると思いますか?
便は硬くて動かないのに腸だけが痙攣し、患者さんは「脂汗をかくほどの強烈な腹痛(疝痛)」に襲われます。「痛みをとるための薬」を飲んでいるのに、別の強烈な痛みを引き起こしてしまうんです。

オピオイド系の鎮痛薬を使っている患者さんの便秘には、まずは便に水分を含ませる「浸透圧性下剤(酸化マグネシウム等)」や、オピオイドの腸への作用だけをブロックする「OIC専用の治療薬(スインプロイクなど)」を使うのがセオリーです。

あずかん

「便秘=センノシド」という思考停止から抜け出し、「なぜこの便秘が起きているのか(薬の副作用か、水分不足か、活動低下か)」を病態から考える癖をつけていきましょうね。


参考資料
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