視床痛について

視床痛について|疾患の概要から看護のポイントまで徹底解説

あずかん

脳神経外科病棟や回復期リハビリ病棟で、脳卒中後の患者さんが「麻痺している側の手足が焼けるように痛い」「何もしなくてもビリビリする」と訴えている場面に遭遇したことはありませんか?
通常のNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)を使っても効果が薄く、患者さんの苦痛表情が消えない…。それはもしかすると、脳卒中後疼痛(CPSP)の一つである「視床痛」かもしれません。
この痛みは、目に見える傷がないため、周囲から理解されにくく、患者さんは孤独感を深めがちです。今回は、そんな厄介な視床痛について、私たち看護師がどうアセスメントし、ケアにつなげていくか、現場の視点で深掘りしていきます。


目次

サクッと復習!疾患の概要

  • 病態・原因
    • 脳出血や脳梗塞により、脳の感覚中継点である「視床」が障害されることで生じる中枢性神経障害性疼痛です。これは感覚伝導路の障害により、脳が痛みの信号を誤って増幅・発生させてしまっている状態です。
  • 症状
    • 持続性の自発痛: 「焼けるような(Burning)」「えぐられるような」激しい痛み。
    • アロディニア(異痛症): 衣服が擦れる、風が当たるといった通常では痛みを起こさない軽微な刺激で激痛が生じます。
    • 増悪因子: 寒冷刺激、精神的ストレス、感情の高ぶりによって痛みが増強するのが特徴です。
  • 治療
    • 一般的な鎮痛薬(ロキソプロフェンなど)は無効なことが多いです。
    • 第一選択薬: カルシウムチャネル遮断薬(プレガバリン、ミロガバリン)、抗うつ薬(SNRI、三環系抗うつ薬)などの神経系に作用する薬剤を使用します。
    • 難治性の場合は、脳刺激療法(DBS/MCS)などが検討されることもあります。

観察ポイント&根拠

観察項目観察ポイント根拠・予測
痛みの性状と「質」の変化NRS(0〜10の数値)だけでなく、「どんな時に(安静時か接触時か)」「どんな言葉で(焼ける、走る、締め付けられる)」痛みを表現するかをカルテに具体的に記載する。「痛い」だけでは医師に伝わりません。視床痛特有の「灼熱痛」や「アロディニア」の存在を明確にすることで、薬剤選択(プレガバリンの増量やオピオイドの検討など)の根拠となります。また、痛みの質が変わった場合、新たな身体的トラブルの併発を疑う手がかりになります。
薬剤によるふらつき・眠気
(神経障害性疼痛治療薬の副作用)
起床時や移乗動作時、開眼直後の眼振の有無や、会話のレスポンス速度、呂律の回り方を観察する。治療薬であるプレガバリンや抗うつ薬は、中枢抑制作用による浮動性めまい、傾眠、運動失調が出現しやすいです。特に導入期や増量期は転倒リスクが急激に高まるため、単なる「ふらつきなし」ではなく、協調運動レベルでの評価が必要です。
精神状態と睡眠状況夜間の睡眠時間だけでなく、「痛みで中途覚醒していないか」を確認する。また、日中の表情や発言から抑うつ傾向(破局的思考)がないか評価する。慢性の激痛は容易に抑うつ状態を引き起こします。また、精神的ストレス自体が痛みを増強させる悪循環(痛みの悪循環)に陥りやすいため、心療内科的介入や睡眠コントロールの必要性を判断する重要な指標となります。

もし患者さんが「布団をかけないで!」と言ったら?

冬場の夜勤中、患側の手足が冷えているため布団をかけようとしたところ、患者さんが強い口調でこう言いました。
「痛いからやめて! 布団が当たるだけで、皮膚が裂けるみたいに痛いのよ!」
この時、「寒いと風邪を引きますよ」と正論で返して布団をかけるのはNGです。

言葉の裏にあるニード
この訴えは、ワガママではなく「アロディニア(異痛症)」による切実な防衛反応です。患者さんは「冷えるのは嫌だが、触れられる痛みはもっと耐えられない」というジレンマと、「この痛みを誰も分かってくれない」という孤独感を抱えています。

対応アクションと会話例

  1. 痛みの受容と謝罪
    • 「申し訳ありません、布団が触れるだけで激痛が走るんですよね。辛い思いをさせてごめんなさい。」(まずは接触刺激が苦痛であることを全面的に肯定します)
  2. 代替案の提示(接触を避けた保温)
    • 「でも、冷えるとまた痛みが増してしまうのが心配です。患部に直接布団が当たらないように、ベッド柵を使ってトンネルを作りましょうか?(リネン枠やオーバーテーブルを活用)」
    • 「あるいは、電気毛布を背中側に入れて、直接触れずに温める方法もありますが、いかがでしょうか?」
  3. 安心感の醸成
    • 「〇〇さんが一番楽な方法を一緒に探しましょう」と伝え、患者さんにコントロール権を渡します。

現場で差がつく看護のコツ・ポイント

工夫・コツ・アイデア具体的な手技・環境調整期待される効果・メリット
清拭・保清時の「押し拭き」患側をタオルでゴシゴシ擦るのは厳禁。熱めのタオルを患部に当て、上からゆっくりと圧をかけるように「押し拭き」する。または、泡で包み込んで洗い流す方法を選択する。アロディニアは「擦る(触覚)」刺激で誘発されやすい一方、「圧迫」刺激には反応しにくいことがあります。摩擦を避けることで、保清時の苦痛を最小限に抑えつつ清潔を保てます。
環境調整による「隙間風」対策ベッド配置を調整し、エアコンの風が直接患部に当たらない位置にする。また、患肢にはシルクや綿など、滑りが良く刺激の少ない素材のサポーター(緩めのもの)を着用してもらう。視床痛は寒冷刺激や風で増悪します。物理的な風を遮断し、常に患部を一定の温度に保つことで、発作的な疼痛増強を予防できます。
バイタル測定・処置の「健側アプローチ」血圧測定、採血、点滴ルート確保などは、原則として健側で行うよう、ベッドサイドにピクトグラム等で表示してスタッフ間で統一する。患側へのマンシェット加圧や駆血帯の締め付けは、測定後も長時間続く激痛(After sensation)を引き起こすトリガーになり得ます。無用な刺激を避けることが最大の疼痛緩和ケアです。

新人さんが陥りやすいミスへの対策

新人の頃、どうしても「目に見えない痛み」に対して、疑いの目を持ってしまうことってありませんか?
検査データは正常、皮膚もきれい。それなのに「痛い、痛い」とナースコールが続く患者さんに対し、「精神的なものじゃないの?」「ちょっと大げさなんじゃないか」と心の中でアセスメントしてしまい、その雰囲気が言葉の端々に出てしまう。これは新人が最も陥りやすい、そして患者さんとの信頼関係を一瞬で崩すミスです。

視床痛の痛みは、脳が直接作り出している「実在する激痛」です。
患者さんが「痛い」と言えば、そこには必ず痛みがあります。
新人のうちは、「痛みをゼロにすること」を目標にしてしまいがちですが、中枢性疼痛はゼロにするのが非常に難しい痛みです。
無理に消そうと焦るのではなく、「患者さんが『痛いけれど、なんとか過ごせる』レベル(許容範囲)まで持っていくこと」を目標に設定してみてください。

あずかん

「昨日は10痛かったけど、今日は8くらいで落ち着いているね」といった変化を一緒に喜べるようになると、患者さんの表情も少しずつ柔らかくなっていくはずですよ。

参考資料
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