廃用性症候群について|疾患の概要から看護のポイントまで徹底解説
あずかん「安静度フリーだけど、あまり離床が進んでいない患者さん」って、どの病棟にも一人はいますよね。術後の疼痛、疾患による倦怠感、あるいは本人の「動くのが怖い」という心理的な要因——理由は様々ですが、ベッド上での時間が長くなればなるほど、静かに、でも確実に進行していくのが廃用性症候群です。
急性期病棟でも療養型病棟でも、在宅でも。年齢や疾患を問わず、「動かない時間」が存在する限り、この症候群と無縁でいられる患者さんはいません。しかも厄介なのは、初期には本人も家族も、時には医療者側も気づきにくいという点。今回は、この廃用性症候群について、原因・症状の整理から、現場で実際に意識している観察ポイントまで、じっくり掘り下げていきます。
サクッと復習!疾患の概要
廃用性症候群とは、身体の不活動状態(安静臥床、活動性低下)が持続することによって引き起こされる、二次的な心身機能の低下を指します。原因としては、疾患そのものによる安静指示、術後の疼痛による活動制限、意識障害や麻痺による自発的活動の減少、さらには「転倒が怖い」といった患者本人の心理的要因による活動性低下も含まれます。特に高齢者は予備能力が低いため、若年者と比較して短期間の臥床でも機能低下が顕著に現れやすいという特徴があります。
症状(多臓器にわたる)
- 筋骨格系:廃用性筋萎縮、関節拘縮、骨萎縮(廃用性骨萎縮による骨密度低下)
- 循環器系:起立性低血圧、深部静脈血栓症(DVT)のリスク上昇、心肺機能低下
- 呼吸器系:肺活量低下、無気肺、沈下性肺炎のリスク上昇
- 消化器系:便秘、食欲低下
- 皮膚:褥瘡
- 精神・認知機能:見当識障害、うつ状態、せん妄のリスク上昇
- 泌尿器系:尿路結石、尿路感染症
治療・対応の方向性
治療の中心は「予防」です。早期離床、他動・自動関節可動域訓練(ROM訓練)、体位変換、リハビリテーション介入(理学療法士・作業療法士との連携)が基本方針となります。すでに症状が出現している場合は、対症療法と並行して、残存機能をいかに維持・向上させるかというリハビリテーション的視点が求められます。
観察ポイント&根拠
| 観察項目 | 観察ポイント | 根拠・予測 |
|---|---|---|
| 起立性低血圧の有無(臥位→座位→立位での血圧変動) | 長期臥床により循環血液量の再分配機能が低下し、圧受容器反射の感受性も鈍化する。急激な体位変換で静脈還流が下肢に貯留し、脳血流が一過性に低下する。 | 座位への体位変換直後、収縮期血圧が20mmHg以上低下、または拡張期血圧が10mmHg以上低下していたら、離床時のふらつき・転倒の前兆と捉えて、離床のペースを落とす判断材料にする。 |
| 下肢の周径測定・ホーマンズ徴候・皮膚色の左右差 | 不動によって下肢筋のポンプ作用(ミルキングアクション)が働かず、静脈血うっ滞が生じる。これがDVTの温床となる。 | 左右差が2cm以上、片側のみの発赤・熱感・腫脹があれば、DVTを疑い、Dダイマーの検査オーダーが出ていないか確認し、必要なら医師へ報告する。歩行開始のタイミングでの肺塞栓症発症は臨床上見逃せないリスクとして常に念頭に置く。 |
| 呼吸音の聴取(背側下葉優位)と喀痰の性状 | 臥床が続くと横隔膜の運動が制限され、換気血流比の不均衡が生じる。特に背側下葉は重力の影響で分泌物が貯留しやすく、無気肺・沈下性肺炎の好発部位となる。 | 背側下葉の呼吸音減弱や捻髪音を聴取したら、喀痰の性状(漿液性か膿性か、色調)と合わせて、体位ドレナージや呼吸理学療法の導入を検討するサインと捉える。 |
| 関節可動域(ROM)の他動的評価 | 不動状態が2週間程度続くと、関節包や靭帯、筋の短縮による拘縮が始まるとされる。特に股関節・膝関節・足関節の拘縮は歩行再獲得の大きな障壁になる。 | 足関節の背屈が制限され尖足傾向にある場合、将来的な歩行時の踵接地困難につながるため、早期からの他動運動と良肢位保持(フットボードの使用など)の必要性を判断する材料にする。 |
| 意識レベル・見当識・睡眠覚醒リズム | 感覚刺激の減少と昼夜のメリハリのない環境が、せん妄発症のリスク因子となる。特に高齢者は予備能力の低下からせん妄を発症しやすい。 | 日中の傾眠傾向や夜間の不穏、時間・場所の見当識低下がみられたら、単なる「疲れ」と片付けず、せん妄の前駆症状として捉え、CAM-ICUなどの評価ツールを用いたアセスメントにつなげる。 |
| 皮膚の発赤・褥瘡好発部位の観察(仙骨部、踵部、肩甲骨部など) | 骨突出部への持続的な圧迫により毛細血管が閉塞し、組織の虚血・壊死が生じる。臥床時間が長いほど発生リスクは指数関数的に高まる。 | 指押し法で消退しない発赤(褥瘡ステージI相当)を発見したら、体位変換の頻度・除圧マットレスの適応を再評価するタイミングと考える。 |
もし患者さんからこう言われたら、あなたはどうする?
「もう歳だから、リハビリしても意味ないよ」
これは、リハビリ拒否の患者さんから本当によく聞くフレーズなんです。
こういう時、「そんなことないですよ、頑張りましょう!」と励ましだけで返してしまうと、患者さんの本音を置き去りにしてしまいます。私だったら、まず座って目線を合わせて、こう返します。
「そう感じる理由、聞かせてもらってもいいですか?」
そこで「痛いから動きたくない」という答えが返ってきたら、鎮痛薬の使用タイミングを見直す提案につなげられますし、「迷惑をかけたくない」という答えなら、「〇〇さんが自分でトイレに行けるようになることが、実は一番私たちも嬉しいんですよ」と、リハビリのゴールが患者さん自身のためだけでなく、ケアする側にとっても意味のあることだと伝えると、少し表情が和らぐ患者さんが多い印象です。
大切なのは、「歳だから」という言葉をそのまま受け取らず、その奥にある具体的な不安や身体的な訴えを引き出す問いかけをすることだと思います。
現場で差がつく看護のコツ
| 工夫・アイデア | 期待できる効果 |
|---|---|
| 足底にクッションやフットボードを当てる際、足関節を90度に固定するだけでなく、下腿三頭筋がわずかに伸展する角度を意識して調整する | 尖足予防だけでなく、アキレス腱の過度な短縮も防げる。関節可動域訓練の効果を体位保持の段階から底上げできる。 |
| 体位変換のタイミングを、検温やラウンドのタイミングと意図的にずらして設定する | 「2時間ごと」を機械的に守るだけでなく、患者の睡眠サイクルや食後のタイミングも考慮すると、褥瘡予防と睡眠の質の両立がしやすくなる。 |
| 端座位訓練を、食事の前に組み込む | 座位保持自体がリハビリになるだけでなく、座位姿勢での摂食は誤嚥リスクの軽減にもつながり、一石二鳥のケアになる。 |
| 窓際にベッドを配置できない場合でも、日中はカーテンを開けて自然光を取り入れ、時計・カレンダーを見える位置に置く | 昼夜のメリハリをつける環境調整により、概日リズムの維持を助け、せん妄発症リスクの軽減につながる。 |
| 他動運動を行う際、「動かしますね」ではなく「〇〇の筋肉、伸びる感じわかりますか?」と声をかけながら行う | 患者自身が自分の身体感覚に意識を向けるきっかけになり、単なる受け身のケアから、患者の主体的なボディイメージの回復につながりやすい。 |
新人さんが陥りやすいミスへの対策
新人の頃って、「安静指示が出ている=とにかく動かさない方が安全」って考えてしまいがちなんですよね。でも実際は、医師の指示する「安静」の範囲と、廃用性症候群予防のための「最低限の可動域訓練」は矛盾しないことがほとんどです。指示範囲内でできることが必ずあるので、「この安静度なら、ベッド上での自動運動はどこまでOKか」を担当医やリハビリスタッフに確認する習慣をつけると、判断に迷わなくなります。
あと、バイタルサインの数値だけを見て「異常なし」と判断してしまうのも、新人がよくやってしまうミスです。血圧や脈拍が基準値内でも、離床時に患者さんが「なんとなくふらつく」と訴えることがあります。数値だけでなく、患者さんの表情や顔色、冷汗の有無といった主観的なサインを合わせて評価する視点を持てると、アセスメントの解像度がぐっと上がると思います。
そして何より、「まだ症状が出ていないから大丈夫」という考え方は危険です。廃用性症候群は、症状が顕在化してからでは回復に時間がかかるので、「今はまだ大丈夫そうだけど、この状態が続いたらどうなるか」という予防的な視点を、バイタルサイン測定の度に頭の片隅に置いておくクセをつけると、その後のアセスメント力が大きく変わってくると思います。





