視床出血について|疾患の概要から看護のポイントまで徹底解説
あずかん「視床出血」は、脳出血の中でも被殻出血に次いで頻度が高く、臨床で遭遇する確率は非常に高い疾患です。
「麻痺は軽いからすぐリハビリできるかな?」と思ったら、意識レベルが急降下したり、あるいは強烈な痺れ(痛み)を訴えられたりと、視床出血は「見た目の運動麻痺レベルと、実際のADL障害・予後の乖離」が起きやすい厄介な疾患でもあります。
今回は、教科書的な知識だけでなく、「現場でこれを知っていると動きが変わる」という実践的な視点を紹介します。
サクッと復習!疾患の概要
- 病態・原因
- 高血圧を背景に、後大脳動脈の穿通枝である視床膝状体動脈や視床穿通動脈が破裂して生じます。
- 出血が内側に拡大すると脳室穿破(IVH)を来たしやすく、重症化しやすいのが特徴です。
- 症状
- 対側半身の運動麻痺(内包まで血腫が及んだ場合)。
- 感覚障害(深部感覚・表在感覚ともに障害されやすい)。
- 眼球症状(下方内転位=鼻先を見つめるような「鼻先凝視」や、縮瞳、対光反射消失など)。
- 視床痛(発症後しばらくして出現する、焼けるような激痛)。
- 治療
- 基本は降圧療法(保存的治療)による血腫拡大防止。
- 脳室穿破による急性水頭症を併発した場合は、脳室ドレナージ術(EVD)の適応となります。開頭血腫除去術が行われることは稀です。
観察ポイント&根拠
| 観察項目 | 観察のポイント | 根拠・予測 |
|---|---|---|
| 眼球偏位と瞳孔径 (Parinaud徴候の有無) | ペンライトを使用し、眼球が「内下方」を向いていないか(鼻先凝視)、および縮瞳(2mm以下)の有無を確認する。 | 視床の下には中脳(脳幹)があります。出血による圧迫や浮腫が中脳へ及ぶと、動眼神経核が障害され、特有の眼球症状が出ます。「目が下を向いて動かない」は脳幹圧迫のサイン(切迫所見)であり、意識レベル低下の前兆として医師へ即時報告が必要です。 |
| 深部感覚(位置覚)の解離 | 麻痺側の母指を把持し、「今、指は上ですか?下ですか?」と閉眼状態で問う。運動麻痺が軽度でも、位置覚が脱失していないか評価する。 | 視床は「感覚の中継点」です。運動麻痺(MMT4など)は保たれていても、「手足がどこにあるか分からない」状態になることが多々あります。これを見逃すと、離床時に感覚性運動失調による転倒を招きます。 |
| 頭痛・嘔気と意識の乖離 (水頭症の兆候) | 降圧中であっても、「我慢できないほどの激しい頭痛」や「噴水様嘔吐」がないか観察する。血圧が安定しているのに意識レベルがJCSⅠ-1からⅠ-3へ落ちていないか見る。 | 視床出血は脳室に近いため、容易に脳室穿破(IVH)を起こします。血腫で髄液循環がブロックされると急性閉塞性水頭症となり、急激に頭蓋内圧(ICP)が亢進します。血圧だけでなく、頭蓋内環境の変化をいち早く察知するためです。 |
もし患者さんが「触られるとビリビリする」と言ったら?
急性期を脱した患者さんの清拭中、タオルで患側の腕を拭いた瞬間に顔をしかめてこう言いました。
「痛っ! そこ、触られるとなんかビリビリして気持ち悪いから触らないで」
ここで「痛いんですね、ごめんなさい」とただ謝るだけでは不十分です。
対応アクションと会話例
- 病態の受容と説明(安心感の提供)
- 「ごめんなさい、痛かったですね。実は、脳の出血した場所が『感覚』を司るところなので、普通の刺激を『痛み』として勘違いして伝えてしまうことがあるんです。あなたが大げさなわけではありませんよ。」
- 刺激の入力方法の変更(ケアの工夫)
- 「ササッと軽く拭くと逆にビリビリしやすいので、少し広めの面積で、グッとゆっくり押さえるように拭いてみますね。これだとどうですか?」
- (※表在感覚が過敏でも、深部圧迫なら不快感が少ない場合が多いです)
- 環境調整への反映
- 掛け布団が擦れるだけでも苦痛な場合があるため、患肢側に「フットバー(リネンを浮かせる枠)」を入れたり、衣類を締め付けの少ないものに変更したりする提案を行います。
現場で差がつく看護のコツ・ポイント
| 工夫・コツ・アイデア | 具体的な手技・環境調整 | 期待される効果・メリット |
|---|---|---|
| 患側への「視覚的」アプローチ | 患側の手足を動かす際、「自分の手を見てくださいね」と声をかけ、視覚によるフィードバックを強化する。また、サイドテーブルをあえて患側に置き、無視を防ぐ。 | 深部感覚が障害されている場合、「視覚」で位置情報を補正する必要があります。目で見ながら動かすことで、リハビリ効果を高め、ボディイメージの崩れを防ぎます。 |
| ポジショニングでの「肩関節保護」 | 側臥位をとる際、患側の肩甲骨が前方に突出しないよう、大きめのクッション(ピロー)を抱きかかえるように配置する。 | 感覚障害がある患者さんは、肩関節亜脱臼していても「痛み」として正確に訴えられず、気づかないうちに損傷することがあります。良肢位保持は、将来的な疼痛予防(CRPS予防)の要です。 |
| 食事介助時の「半側空間無視」対策 | お膳の配置を、最初は健側に寄せるが、徐々に正中へ戻す。その際、お盆の端に赤いテープを貼ったり、目立つ色の食器を使ったりする。 | 視床出血でも、特に右半球損傷(左麻痺)では無視症状が出ることがあります。「左を見て」と言うより「赤いテープまで見てください」と具体的な目標物を示す方が、患者さんは認識しやすくなります。 |
新人さんが陥りやすいミスへの対策
新人の頃、「感覚性運動失調」の怖さを知らず、ヒヤッとしたことがあります。
入院数日後、麻痺がMMT4レベルまで回復している患者さん。「足の力はあるから大丈夫」と判断し、初めてのトイレ誘導を行いました。しかし、立ち上がった瞬間、患者さんは膝から崩れ落ちそうになりました。筋力はあるのに、足が床に着いている感覚が分からず、バランスを失ったのです。
視床出血の患者さんにおいて、「筋力がある(動かせる)」ことと「安全に動ける」ことはイコールではありません。
患者さん自身も「手足は動くから大丈夫」と過信していることが多く、それが転倒の最大のリスクファクターになります。
初めての離床時は、必ず「足の裏が床に着いている感じはしますか?」と確認してください。そして、たとえ筋力があっても、最初は二人介助か、あるいは健側を壁や手すりに沿わせるなど、「感覚がなくても体を支えられる環境」を整えてから動き出してください。
「動けるからこそ危ない」。このパラドックスを常に頭に入れておくと、不意な転倒事故は防げますよ。