易感染性について

あずかん

易感染性とは、感染症にかかりやすい状態を指します。これは、免疫系の機能が低下している場合や、外的要因によって感染に対する抵抗力が弱まっている場合に見られ、患者のケアにおいても大きな影響を与えます。
この記事では、易感染性について詳しく解説していきます。

目次

病態生理:感染とは

免疫系の機能低下

免疫系は、細菌、ウイルス、真菌などの病原体から体を守るための複雑なシステムです。この機能が低下すると、病原体を効果的に排除できなくなり、感染しやすくなります。免疫機能が低下すると、普段は問題にならないような弱い病原体にも感染しやすくなり、さらに感染した場合に病原体を排除するのに時間がかかり、重症化しやすくなります

  • 加齢: 高齢になると、免疫細胞の機能が低下したり、新しい免疫細胞を作り出す能力が衰えたりするため、免疫力が低下します。
  • 病気: HIV感染症、糖尿病、腎臓病などの慢性疾患は、免疫系に影響を与え、免疫力を低下させることがあります。また、がんや自己免疫疾患の治療に使用される免疫抑制剤も、意図的に免疫機能を低下させるため、易感染性の原因となります。
  • 栄養失調: ビタミンやミネラルなどの栄養素は、免疫細胞の正常な働きに不可欠です。栄養が不足すると、免疫機能が低下し、感染しやすくなります。
  • ストレス: 長期的なストレスは、免疫系を抑制するホルモンを分泌させ、免疫力を低下させる可能性があります。
  • 睡眠不足: 睡眠不足は、免疫細胞の生成や活動に悪影響を与え、免疫力を低下させることが知られています。

病原体の増殖

病原体の増殖力や感染力が高い場合、免疫機能が正常であっても感染しやすくなることがあります。特に、環境中に存在する病原体の量が多い場合や、感染力の強い変異株が出現した場合などは、個人の免疫状態に関わらず、感染リスクが高まります。

  • 病原体の量の増加: 感染源となる病原体の量が多い環境では、接触する病原体の量も多くなり、感染しやすくなります。例えば、感染者が多く集まる場所や、衛生状態の悪い場所では、病原体の量が多くなりやすい傾向があります。
  • 病原体の感染力の強化: 病原体は変異を繰り返すことで、感染力を高めることがあります。感染力が高い病原体は、少量の病原体でも効率的に人に感染することができるため、感染が広がりやすくなります。インフルエンザウイルスや新型コロナウイルスなどがその例です。
  • 薬剤耐性菌の出現: 抗生物質が効かない薬剤耐性菌が増加すると、感染症の治療が困難になり、重症化リスクが高まります。これも、病原体側の要因による易感染性の一つと言えます。

環境要因

個人の免疫状態や病原体の性質だけでなく、周囲の環境によっても影響を受けます。感染しやすい環境に身を置くことで、病原体との接触機会が増え、感染リスクが高まります

  • 衛生状態の悪さ: 手洗いの不徹底、換気の悪い室内、不潔な環境などは、病原体が存在しやすい環境であり、感染リスクを高めます。特に医療機関や高齢者施設など、免疫力の低い人が集まる場所での衛生管理は非常に重要です。
  • 人口密度: 人が多く集まる場所では、病原体が人から人へ伝播する機会が増えるため、感染リスクが高まります。公共交通機関やイベント会場などに注意が必要です。
  • 気候: 一部の病原体は、特定の気候条件下で増殖しやすい傾向があります。例えば、インフルエンザウイルスは冬場に流行しやすいことが知られています。また、湿度の高い環境では、カビなどの真菌が増殖しやすく、真菌感染症のリスクが高まることがあります。
  • 医療環境: 入院中の患者さんは、手術や医療処置によって免疫力が低下している場合があり、また病院内には様々な病原体が存在するため、易感染性になりやすい環境と言えます。院内感染対策が不十分な場合、感染リスクがさらに高まります。

生体防御機構について

生体防御機構は、体が病原体や異物から身を守るための複雑なシステムになっています。複数の機能が正常に機能し互いに連携することで、私たちの体を様々な脅威から守り健康を維持しています。

正常な皮膚・粘膜

正常な皮膚と粘膜は、生体防御機構の最前線であり、物理的なバリアとして機能します。皮膚は、厚い角質層と密接結合によって、細菌やウイルスの侵入を防いでいます。また、皮膚表面には常在菌が存在し、病原菌の繁殖を抑制する「菌交代現象」に関与しています。汗や皮脂に含まれる抗菌物質も、微生物の増殖を抑える働きをしています。
粘膜は、消化管、呼吸器、尿路、生殖器などを覆っており、粘液(リゾチームなどの抗菌成分を含んだもの)を分泌することで病原体を捕らえ、排除します。さらに、粘膜上皮細胞は密着結合によって強固なバリアを形成しています。これらの物理的・化学的な防御機構に加え、皮膚や粘膜の下には免疫細胞が配置されており、侵入した病原体を早期に認識し、免疫応答を開始する準備が整っています。

貪食細胞

貪食細胞は、生体防御機構における重要な役割を担う自然免疫の細胞です。主な貪食細胞には、マクロファージ、好中球、樹状細胞などがあります。これらの細胞は、体内に侵入した細菌、ウイルス、真菌などの病原体や、死んだ細胞、異物などを細胞内に取り込み(貪食)、分解・排除する働きを持っています。また、貪食細胞、特に樹状細胞には、貪食した病原体の一部を抗原として提示する能力を持っています。この抗原提示は、獲得免疫であるT細胞やB細胞を活性化させ、より特異的かつ強力な免疫応答を引き出すために重要な役割です。

液性免疫

液性免疫は、主にB細胞によって担われる獲得免疫の一部です。B細胞は、体内に侵入した特定の病原体(抗原)を認識すると活性化され、形質細胞へと分化します。形質細胞は、その病原体に特異的な抗体(免疫グロブリン)を大量に産生し、血液やリンパ液などの体液中に放出します。抗体は、標的となる抗原に特異的に結合することで、病原体の働きを無力化したり、病原体の感染力を奪ったりします。例えば、細菌が産生する毒素に結合してその毒性を中和したり、ウイルスの表面に結合して細胞への感染を阻害したりします。
また、抗体は、貪食細胞による病原体の取り込み(貪食)を促進するオプソニン化という働きや、補体システムを活性化して病原体を破壊する働きも持っています。液性免疫の特徴は、特定の抗原に対して非常に高い特異性を持つことです。一度特定の病原体に感染したり、ワクチンを接種したりして抗体ができると、その病原体に対する免疫記憶が形成され、次に同じ病原体が侵入した際には、より迅速かつ強力な二次免疫応答が起こります

細胞性免疫

細胞性免疫は、主にT細胞によって担われる獲得免疫の一部です。細胞性免疫は、細胞内に感染した病原体(ウイルスや特定の細菌など)や、がん細胞、移植された臓器など、細胞レベルでの異常に対して機能します。細胞性免疫の主役であるT細胞には、ヘルパーT細胞、キラーT細胞、制御性T細胞など様々な種類があります。
ヘルパーT細胞は、他の免疫細胞(B細胞やキラーT細胞、マクロファージなど)の働きを活性化させる司令塔のような役割を果たします。キラーT細胞は、ウイルスに感染した細胞やがん細胞など、異常な細胞を直接認識し、破壊する働きを持っています。異常な細胞の表面に提示される抗原を認識し、アポトーシス(細胞のプログラムされた死)を誘導することで、感染の拡大やがんの増殖を防ぎます。制御性T細胞は、過剰な免疫応答を抑制し、自己組織への攻撃を防ぐなど、免疫系のバランスを調整する役割を担っています。細胞性免疫も液性免疫と同様に、特定の抗原に対して特異的な応答を示し、免疫記憶を形成します

免疫不全症について

原発性免疫不全症

原発性免疫不全症は、遺伝的な要因によって生まれつき免疫系の機能に異常がある疾患群の総称です。その原因となる遺伝子の異常は多岐にわたり、免疫系の様々な構成要素(リンパ球、食細胞、補体など)の機能障害を引き起こします。これにより、感染に対する防御機構が十分に機能せず、様々な種類の感染症にかかりやすくなったり、通常では問題とならないような弱毒性の微生物に対しても重症化しやすくなったりします。

原発性免疫不全症は非常に稀な疾患ですが、その種類は数百にも及び、症状や重症度も患者さんによって大きく異なります。重症複合免疫不全症(SCID)のように、出生早期から重篤な感染症を繰り返し、生命にかかわるものから、IgA欠損症のように比較的軽症で無症状の場合もあります。また、感染症以外にも、自己免疫疾患(自分の免疫系が自分の体を攻撃してしまう病気)や悪性腫瘍(がん)を合併しやすいことも知られています。

二次性免疫不全症

二次性免疫不全症は、遺伝的な要因ではなく、病気や治療、あるいはその他の外的な要因によって免疫機能が低下した状態を指します。これは、原発性免疫不全症よりもはるかに多く見られます。様々な原因によって引き起こされるため、その病態や重症度も多岐にわたります。二次性免疫不全症の主な原因として、①感染症 ②悪性腫瘍 ③免疫抑制剤の使用が挙げられます。

  • 感染症:ヒト免疫不全ウイルス(HIV)によるエイズは、CD4陽性T細胞を破壊することで重篤な免疫不全を引き起こす代表的な疾患です。その他にも、麻疹やサイトメガロウイルスなどの感染症も一時的に免疫機能を低下させることがあります。
  • 悪性腫瘍:特に血液のがん(白血病やリンパ腫など)は、免疫細胞の産生や機能に異常をきたし、免疫不全を引き起こすことがあります。また、がんの治療として行われる化学療法や放射線療法は、正常な免疫細胞も攻撃するため、一時的または持続的な免疫抑制を引き起こします。
  • 免疫抑制剤:自己免疫疾患や炎症性疾患に対する免疫抑制剤の使用、臓器移植後の拒絶反応を抑えるための免疫抑制剤の使用も、免疫不全の原因となります。高齢者では、加齢に伴い免疫機能が自然と低下するため、二次性免疫不全症のリスクが高まります。

その他にも、栄養不良や慢性的なストレス、糖尿病や腎不全などの基礎疾患も、病期が進行すると貪食能、殺菌能、オプソニン活性の低下など免疫機能全般の機能低下させることがあります。

治療法・対症療法

易感染性の治療法は、原因に対する治療と対症療法(感染予防)からなります。

原発性免疫不全症

原発性免疫不全症の治療の基本は、不足している免疫機能を補うことです。液性免疫不全に対しては、定期的な免疫グロブリン補充療法が行われます。これは、健康な人の血液から抽出された免疫グロブリン製剤を点滴で投与するもので、感染予防に高い効果があります。
重症の細胞性免疫不全や複合免疫不全症の場合には、造血幹細胞移植が有効な治療法となることがあります。これは、健康なドナーから提供された造血幹細胞を患者に移植することで、正常な免疫細胞を作り出せるようにする治療法です。しかし、拒絶反応や移植片対宿主病などのリスクも伴うため、慎重な検討が必要です。

対症療法としては、感染が起きた場合の迅速かつ適切な抗菌薬、抗ウイルス薬、抗真菌薬による治療が不可欠です。また、感染予防のために、手洗いやうがい、マスクの着用、人混みを避けるなどの基本的な対策に加え、生ワクチンの接種を控える必要がある場合もあります。

二次性免疫不全症

二次性免疫不全症の治療の主体は、原因となっている基礎疾患の治療です。例えば、HIV感染症に対しては抗HIV薬による治療が行われ、免疫機能の回復を目指します。悪性腫瘍の治療においては、免疫抑制の影響を最小限に抑えるよう治療計画が立てられます。慢性疾患に対しては、疾患のコントロールを行うことで免疫機能の改善が期待できます。免疫抑制剤を使用している場合は、感染リスクと薬剤の必要性のバランスを考慮しながら、投与量の調整が行われます。

対症療法としては、感染予防が非常に重要です。手洗いやうがい、マスクの着用、人混みを避けるといった基本的な対策に加え、必要なワクチン接種(不活化ワクチンが中心)や、感染リスクの高い処置を行う際の無菌操作の徹底が求められます。また、日和見感染の予防のために、抗生物質や抗真菌薬が予防的に投与されることもあります。発熱などの感染兆候が見られた場合は、早期に原因を特定し、適切な治療を開始することが重症化を防ぐ上で非常に重要です。栄養状態の維持も免疫機能を保つために不可欠であり、必要に応じて栄養サポートが行われます。

あずかん

易感染性は、免疫系の機能低下や環境要因によって引き起こされる感染症にかかりやすい状態です。感染予防や栄養管理、薬物療法など、適切な治療法を理解しましょう。

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