皮質下出血について

皮質下出血について|疾患の概要から看護のポイントまで徹底解説

あずかん

「皮質下出血」は、出血する脳葉(前頭葉、頭頂葉、側頭葉、後頭葉)によって症状が千差万別で、教科書通りの「片麻痺」が出ないことも多々あります。
さらに、高齢者の場合は基礎疾患に特殊な病態が隠れていることもあり、再出血やてんかん発作のリスク管理が非常に重要になります。
今回は、現場で実践している「皮質下出血」特有の観察視点とケアのコツを紹介します。


目次

サクッと復習!疾患の概要

  • 病態: 大脳皮質のすぐ下、白質部分での出血。別名「脳葉型出血」とも呼ばれます。
  • 原因
    • 高血圧性: 若年〜中年層に多いですが、被殻出血などに比べると頻度は低めです。
    • 脳アミロイド血管症(CAA): 高齢者で特に重要。血管壁へのアミロイド沈着により血管が脆弱化しており、再発・多発しやすいのが特徴です。
    • その他、脳動静脈奇形(AVM)や抗凝固療法中の出血など。
  • 症状: 出血部位に依存します。
    • 前頭葉: 人格変化、遂行機能障害、運動性失語、精神運動麻痺。
    • 頭頂葉: 感覚障害、失行、半側空間無視(特に右半球)。
    • 側頭葉: 感覚性失語(Wernicke失語)、記憶障害。
    • 後頭葉: 視野欠損(同名半盲)。
    • 共通リスク: 皮質への刺激による「症候性てんかん」の発症率が高いです。
  • 治療
    • 保存的加療(降圧療法、抗脳浮腫薬、抗てんかん薬)が基本。
    • 血腫量が多く脳ヘルニアのリスクがある場合や、AVMが原因の場合は、開頭血腫除去術や内視鏡下血腫除去術が選択されます。

観察ポイント&根拠

観察項目観察ポイント根拠・予測
微細なてんかん発作の兆候全身痙攣だけでなく、以下のサインを見逃さない。
一過性の共同偏視(目が一方向へ偏る)
口をもぐもぐさせる(自動症)
・呼びかけへの反応が一時的に途切れる
・SpO2の一過性低下
皮質直下の出血は、皮質神経細胞を刺激しやすく、痙攣のリスクが非常に高いです。明らかな強直間代発作の前兆として、こうした部分発作が出現している可能性があります。これを見逃すと、重積発作による低酸素脳症を招く恐れがあります。
高次脳機能障害の「質」「つじつまが合わない」で済ませず、どの機能が落ちているか評価する。
保続(同じ言葉や動作を繰り返すか)
失行(麻痺はないのにブラシを使えないか)
無視(食事のお盆の左半分だけ残していないか)
出血部位による局所症状が顕著に出るのが特徴です。例えば前頭葉出血なら「抑制欠如(易怒性)」、頭頂葉なら「半側空間無視」など、障害のパターンを早期に把握することで、転倒リスクの予測や、退院支援(自宅復帰のハードル)の早期アセスメントが可能になります。
血圧変動と頭痛・嘔気
(特にCAA疑いの高齢者)
収縮期血圧を指示範囲内(例:140mmHg以下)に厳格に保ちつつ、患者が「頭が脈打つように痛い」「急に気持ち悪くなった」と訴えたら、即座に再検・報告する。高齢者の皮質下出血に多い脳アミロイド血管症(CAA)は、血管が非常にもろく、軽微な血圧上昇でも再出血や血腫増大をきたしやすいです。頭痛の増強は頭蓋内圧亢進(ICP亢進)や再出血の初期サインである可能性が高いため、鎮痛薬で様子を見る前にCT再検が必要なフェーズです。

もし患者さんが「家に帰る!」と怒り出したら?

前頭葉の皮質下出血で入院中の患者さんが、点滴を自己抜去しようとしながらこう叫びました。
「俺はどこも悪くない!仕事があるから今すぐ帰らせろ!なんで止めるんだ!」

これを「不穏」の一言で片付けてはいけません。これは前頭葉損傷による「病識欠如」と「脱抑制(抑制がきかない状態)」の症状です。正論で説得しようとすると逆効果になります。

言葉の裏にあるニード
「自分は正常であるはずだ」という自己像を守りたい気持ちと、理解できない状況への恐怖、そして前頭葉症状による「我慢ができない(衝動性の亢進)」状態が混在しています。

対応アクションと会話例

  1. 否定せず、まずは感情を受け止める(バリデーション)
    • (真正面に立たず、斜め前から穏やかに)
    • 「〇〇さん、お仕事が気になって仕方がないんですね。突然こんなところにいたら、帰りたいと思うのは当然です。」
  2. 事実(点滴など)より、患者のメリットに焦点を当てる
    • 「ダメです」と禁止するのではなく、
    • 「お帰りになるためには、今の血圧がもう少し下がっていないと、途中で倒れてしまって余計にお仕事が遅れてしまいます。〇〇さんが万全の状態でお仕事に戻れるように、あと30分だけ私に時間をくれませんか?」
  3. 注意の転換(前頭葉症状へのアプローチ)
    • 一つのことに固執しやすい(保続)反面、注意を逸らしやすい特徴もあります。
    • 「そういえば、さっきご家族から荷物が届いていましたよ。中身を確認してみませんか?」と、全く別の話題や刺激を提供し、興奮の対象をスイッチさせます。

現場で差がつく看護のコツ・ポイント

皮質下出血の患者さんは、麻痺が軽度でも「見えない障害」を抱えていることが多いです。そのための環境調整テクニックです。

工夫・コツ・アイデア具体的な手技・環境調整期待される効果・メリット
半側空間無視への「アプローチ」使い分け急性期・安全確保優先の場面では「健側」からアプローチする。
リハビリ場面では「患側」に物を置き、注意を促す。
右頭頂葉出血などで左半側空間無視がある場合、いきなり患側から話しかけると患者さんは「誰かがいる気配」に混乱・恐怖します。まずは健側から声をかけて安心感を与え、ナースコールも健側に配置することで転落や不安を予防できます。
失語症患者への「Closed Question」言葉が出にくい(運動性失語)患者さんに対し、「どうしましたか?」ではなく「頭が痛いですか?」「トイレに行きたいですか?」と、Yes/Noで答えられる質問をする。患者さんの「伝えたいのに言葉にならない」というフラストレーションを軽減できます。また、文字盤や絵カード(イラスト)を早期に導入することで、コミュニケーション欲求を満たし、不穏の予防につながります。
抗てんかん薬投与の「時間厳守」レベチラセタム(イーケプラ)などの抗てんかん薬は、投与時間を絶対にずらさないようタイマー管理や引き継ぎを徹底する。血中濃度を一定に保つことが発作予防の生命線です。内服が難しい場合は、速やかに医師へ相談し、点滴ルート(点滴静注製剤)への変更を提案します。「一回くらい遅れても」が命取りになるのが脳神経外科です。

新人さんが陥りやすいミスへの対策

新人の頃によくやってしまう失敗、それは「麻痺がない=軽症」と思い込んでしまうことです。
ある皮質下出血の患者さんは、手足は元気に動くので「自立で大丈夫そうだな」と思っていました。しかし、トイレに行こうとしたその患者さんは、パジャマのズボンを頭から被ろうとしていたのです。
これは頭頂葉障害による「着衣失行」でした。私はそれを見て「ふざけているのかな? 認知症かな?」と勘違いしてしまいましたが、これは立派な脳の局所症状です。

皮質下出血の怖さは、「運動麻痺がなくても、生活を破綻させる症状(高次脳機能障害)が隠れている」点にあります。
「手足が動くからOK」ではなく、

・「道具(歯ブラシや箸)を正しく使えているか?」(失行
・「左右の認識は合っているか?」(身体失認
・「言葉の理解はできているか?」(失語

日常のケアの中で、こうした「動作の質」に目を光らせてください。それができると、患者さんの退院後の生活を守るための、本当に価値のある看護記録が書けるようになりますよ。

参考資料
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