変形性脊椎症について

あずかん

変形性脊椎症は、主に加齢によって脊椎が変形し、痛みやしびれなどの症状を引き起こす疾患です。
この記事では、頚椎症性脊髄症や腰部脊柱管狭窄症の前段階である、変形性脊椎症の病態生理から看護のポイントまでを説明しています。

目次

変形性脊椎症とは

変形性脊椎症の根本には、加齢による脊椎の「退行性変性」がある。具体的には、以下の3つの要素が複雑に関わり合って病態が進行していく。

  1. 椎間板の変性
    • 脊椎の骨(椎体)と骨の間でクッションの役割を果たす椎間板は、水分を豊富に含む髄核と、それを囲む線維輪で構成されている。
    • 加齢とともに髄核の水分が失われて弾力性が低下し、クッション機能が損なわれることにより、椎間板の高さが減少し(椎間腔の狭小化)、不安定になる。
  2. 椎体の変形(骨棘の形成)
    • 椎間板が不安定になると、脊椎にかかる負担が一部分に集中する。
    • その負担を少しでも分散させようとする生体反応として、椎体の縁に「骨棘」と呼ばれる骨のトゲが形成されます。
    • この骨棘が、脊椎の近くにある神経(脊髄や神経根)を圧迫・刺激することで、痛みやしびれの原因となる。
  3. 椎間関節の変形
    • 背中側にある左右一対の椎間関節も、加齢により軟骨がすり減り、変形(変形性関節症)を起こす。これにより、関節の動きが悪くなったり、痛みが生じたりする。

これらの変化が複合的に進むことで、脊柱管や神経根管が狭くなる「脊柱管狭窄症」を合併することも少なくない。

変形性脊椎症の症状

主な症状は慢性疼痛や可動域制限だが、無症状のまま経過する場合もある。
椎間板の変性・狭小化により、脊柱前弯の消失や側弯・後弯などの脊柱変形を認めることがある。

頚椎障害(変形性頚椎症)
・肩こり、頸部痛
・関節可動域制限

腰椎障害(変形性腰椎症)
・腰痛、臀部痛
・関節可動域制限

変形性脊椎症の進行

変形が進行すると、神経根や脊髄が圧迫され神経根症状、脊髄症状などが現れ、頚椎症性神経根症、頚椎症性脊髄症、腰部脊柱管狭窄症などと呼ばれるようになる。

頚椎症性神経根症
・一側上肢の感覚障害(しびれなど)
・一側上肢・肩甲部の疼痛
・一側上肢の筋委縮・筋力低下   など

頚椎症性脊髄症
・四肢・体幹の感覚障害(しびれなど)
・手指の巧緻運動障害
・歩行障害
・膀胱直腸障害    など

腰部脊柱管狭窄症
・下肢の感覚障害(しびれなど)、疼痛
・下肢の筋力低下、歩行障害
・神経性間欠性跛行
・膀胱直腸障害    など

治療は、疼痛や可動域制限に対する保存療法が中心となる。
保存療法で神経症状の改善が得られない場合は、手術療法を行っていく。

看護のポイント

疼痛のコントロール

  • 痛みの評価: 痛みの部位、強さ(NRSなど)、性質(ズキズキ、ジンジンなど)、持続時間、増悪・寛解因子を詳細に聴取する。痛みが日常生活(睡眠、食事、更衣、移動など)にどの程度影響しているかを把握することが重要となる。
  • 薬物療法の援助: 処方された薬剤が正しく使用できているか確認し、効果と副作用(特にNSAIDsの消化器症状や腎機能障害)を観察する。鎮痛薬は痛みが強くなる前に、指示通りに内服することの重要性を説明する(タイミング指導)。
  • 安楽な体位の工夫: クッションや枕を使用し、脊椎への負担が少ない安楽な体位(側臥位で膝を軽く曲げるなど)を患者と一緒に探す。

日常生活動作(ADL)の維持・向上

  • 動作指導: 起き上がりや立ち上がり、移乗の際に、脊椎に負担をかけない動作方法(ボディメカニクス)を指導・実践する。例えば、ベッドから起き上がる際は、まず横向きになり、腕の力を使ってゆっくり起き上がるよう促す。
  • 環境調整: 手すりの設置や、床の障害物を取り除くなど、転倒リスクを低減するための環境調整を検討する。
  • 装具の管理: コルセットなどが正しく装着できているか確認し、皮膚トラブル(発赤、びらん)の有無を観察する。

セルフケア能力の向上支援

  • 疾患教育: 患者や家族が病態を正しく理解し、治療に主体的に参加できるよう、分かりやすい言葉で説明する。なぜ痛みが出るのか、なぜこの運動が必要なのかを理解することで、セルフケアへの意欲が高まる。
  • 運動療法の継続支援: 理学療法士と連携し、指導された運動(ストレッチや筋力トレーニング)を病棟や自宅で安全に継続できるよう支援する。パンフレットなどを用いて、具体的な運動方法を一緒に確認することも有効となる。
  • 生活指導
    • 体重コントロール: 過体重は脊椎への負担を増大させるため、栄養士と連携し、適切な食事内容について助言する。
    • 姿勢の指導: 長時間同じ姿勢を取らない、重い物を持つ際は膝を使って持ち上げるなど、日常生活での注意点を具体的に指導する。

精神的・心理的サポート

  • 不安の傾聴: 慢性的な痛みや将来への不安(「歩けなくなるのではないか」など)を傾聴し、患者の思いを受容的な態度で受け止める。
  • ストレングスに着目した関わり: できないことだけでなく、「ここまでならできる」「こういう工夫をしている」といった患者自身の強みや対処能力(コーピング)を見つけ、それを認め、励ますことで自己効力感を高める支援を行う。
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参考資料
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