腰部脊柱管狭窄症の病態から看護のポイントまで徹底解説

腰部脊柱管狭窄症は、高齢者によく見られる脊椎疾患であり、患者さんのQOL(生活の質)に大きく影響するため、病態生理から治療、そして看護のポイントまでを深く理解しておくことが重要です。
この記事では、腰部脊柱管狭窄症の全体像を分かりやすく解説します。
腰部脊柱管狭窄症とは
腰部脊柱管狭窄症は、その名の通り「腰部」の「脊柱管」が「狭窄」する(狭くなる)疾患です。
脊柱管は、背骨(脊椎)の中にあるトンネル状の空間で、脳から続く神経の束である脊髄と、そこから枝分かれして下半身へと伸びる馬尾神経が通っています。
この脊柱管が、何らかの原因で狭くなることで、内部の馬尾神経や血管が圧迫されます。神経が圧迫されると、血流が悪化し、神経組織が酸素不足に陥ります。その結果、足の痛みやしびれ、脱力感といった特有の症状が引き起こされるのです。
なぜ脊柱管は狭くなるのか?
主な原因は加齢に伴う変性です。長年にわたる負荷によって、腰椎を構成する組織が以下のように変化し、脊柱管を狭めていきます。
椎間板の膨隆・突出
椎骨と椎骨の間でクッションの役割を果たす椎間板が、水分を失って弾力性が低下し、後ろに膨らんだり突出したりする。
黄色靱帯の肥厚
脊柱管の後方にある黄色靱帯が、厚みを増して硬くなる。
椎間関節の肥大
椎骨同士をつなぐ椎間関節が変形し、骨のトゲ(骨棘)が形成される。
腰椎の変形・すべり症
腰椎そのものが変形したり、前後にずれたりする(腰椎変性すべり症)。
これらは誰にでも起こりうる老化現象ですが、その進行度合いには個人差があります。先天的に脊柱管が狭い「先天性脊柱管狭窄症」もありますが、多くは加齢による「後天性(変性)脊柱管狭窄症」です。
腰部脊柱管狭窄症の症状
最も特徴的な症状は間欠性跛行です。
間欠性跛行とは?
歩き始めは問題ないが、しばらく歩くと足(特に臀部から太もも、ふくらはぎ)に痛みやしびれ、重だるさが生じて歩けなくなる。しかし、少し前かがみになったり、座って休憩したりすると症状が和らぎ、再び歩けるようになる。
この症状は、立ったり歩いたりする(腰を反らす)姿勢で脊柱管がさらに狭くなり、神経圧迫が強まるために起こります。一方、前かがみになると脊柱管が広がり、神経への圧迫が和らぐため症状が改善します。
その他の主な症状
- 下肢の痛み・しびれ:安静時にも見られることがある。多くは坐骨神経痛として現れる。
- 下肢の筋力低下:足に力が入らない、つまずきやすいといった症状。
- 排尿・排便障害:重症化すると、頻尿、残尿感、失禁などの膀胱直腸障害が現れることがある。これは緊急性の高い症状であり、注意深い観察が必要。
治療・対症療法
治療の基本は保存療法です。症状が日常生活に及ぼす影響を考慮しながら、手術を検討します。
保存療法
- 薬物療法
- プロスタグランジンE1(PGE1)製剤(例:リマプロスト アルファデクス):神経周囲の血流を改善し、痛みやしびれを和らげる。間欠性跛行に効果が期待される。
- 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs):痛みや炎症を抑える。
- プレガバリン、ミロガバリン:神経の過剰な興奮を抑え、神経障害性疼痛(しびれを伴う痛み)を緩和する。
- ビタミンB12製剤:末梢神経の機能維持を助ける。
- 神経ブロック注射
- 局所麻酔薬やステロイド薬を、圧迫されている神経の周辺に直接注射し、痛みや炎症を強力に抑える。
- 理学療法・リハビリテーション
- 腹筋や背筋を鍛える体幹トレーニングを行い、腰椎の安定化を図る。
- ストレッチで筋肉の柔軟性を高める。
- 腰に負担のかからない姿勢や動作の指導(生活指導)。
- 装具療法
- コルセットを装着し、腰椎の動きを制限して安定させることで、痛みを軽減する。
手術療法
保存療法で十分な効果が得られない場合や、筋力低下が進行する場合、排尿・排便障害が出現した場合には、手術が検討されます。
- 主な術式
- 開窓術:肥厚した黄色靱帯や椎弓の一部を切除し、神経の圧迫を取り除く。
- 椎弓切除術:椎弓を広範囲に切除する。
- 脊椎固定術:腰椎に不安定性(すべり症など)がある場合に、スクリューやロッドで椎骨を固定する。開窓術などと併用されることが多い。
看護のポイント
- 疼痛コントロール
- 医師の指示に基づいた確実な与薬。
- 神経ブロック注射後の効果や副作用(血圧低下、気分不快など)の観察。
- 痛みの部位、程度、性質(ズキズキ、ジンジンなど)を詳細にアセスメントし、記録する。
- 日常生活指導
- 姿勢の工夫:腰を反らす動作を避けるよう指導する(例:高い場所の物を取る、うつ伏せで本を読む)。前かがみ姿勢が楽になるため、歩行時は杖やシルバーカーの使用を勧める。
- 活動と休息のバランス:無理のない範囲で活動し、痛みが出たらすぐに休憩するよう促す。間欠性跛行の距離や時間を把握し、行動計画に活かす。
- セルフケアの援助:靴下の着脱など、前かがみになる動作が困難な場合があるため、必要に応じて自助具の紹介や介助を行う。
- 転倒予防
- 下肢の筋力低下やしびれによる、つまずきや転倒のリスクを評価する。
- 履きやすく滑りにくい靴の選択を助言する。
- 病室や自宅の環境整備(障害物の除去、手すりの設置など)について指導する。
- 排泄の援助と観察
- 排尿・排便障害の有無を定期的に確認する。特に、尿意の減弱、残尿感、尿失禁、便秘などの兆候に注意する。
- 症状が出現した場合は、速やかに医師に報告する。
- 精神的サポート
- 慢性的な痛みや活動制限は、患者に不安や抑うつをもたらすことがある。
- 患者の訴えを傾聴し、共感的な態度で接することで、精神的な苦痛を和らげる。
- 治療によって症状が改善する可能性を伝え、前向きにリハビリに取り組めるよう支援する。



