てんかんの重積発作について

てんかんの重積発作について|疾患の概要から看護のポイントまで徹底解説

あずかん

突然患者さんがバタッと倒れて全身をガクガクと痙攣させ始めたら……何度経験してもドキッとしますよね。てんかん発作の多くは数分以内で自然に治まりますが、私たちが最も恐れ、即座に動かなければならないのが「てんかん重積発作(てんかん重積状態)」です。

「いつも通り少し待てば治まるかな?」と様子を見ているうちに、脳の神経細胞が不可逆的なダメージを受けてしまうこともあります。今回は、いざという時にパニックにならず、的確に医師を呼んで初期対応ができるよう、観察眼と現場のリアルな対応を紹介していきます。


目次

サクッと復習!疾患の概要

てんかん重積状態とは、「発作が5分以上持続する」または「意識の回復がないまま発作が短時間に反復する」状態を指します。

  • 病態とリスク
    脳の神経細胞が異常な過剰興奮を続けている状態です。発作が長引くほど低酸素脳症や脳浮腫が進行し、30分を超えると非可逆的な神経細胞死を招くと言われています。
  • 原因
     抗てんかん薬の自己中断(これが最も多いです)、脳血管障害、脳炎・髄膜炎、頭部外傷など。
  • 症状
    全身けいれん(強直間代発作)が代表的ですが、ピクつきだけが続く「非けいれん性てんかん重積状態(NCSE)」もあります。
  • 治療
    タイムイズブレインです。気道確保と酸素投与を並行しつつ、第一選択薬であるベンゾジアゼピン系薬剤(ジアゼパム静注やミダゾラム静注など)を急速投与し、発作を強制終了させます。

観察ポイント&根拠

発作を目の当たりにすると焦ってしまいますが、以下のポイントを冷静に評価できると、医師へのSBAR報告が格段にスムーズになりますよ。

観察項目観察ポイント根拠・予測
発作の持続時間と性状の推移発作を目撃した瞬間、自分の時計を見て「何時何分スタートか」を記憶する。眼球上転の方向、四肢の強直(ピンと張る)から間代(ガクガクする)への移行、左右差の有無を視診する。【重積状態の判定と病巣の推定】
「5分以上」が重積の定義であり、ジアゼパム等の投与基準となります。また、「右半身だけから始まった」といった焦点発作の観察は、脳のどこから異常興奮が始まっているか(てんかん原性領域)を特定する重要な手掛かりになります。
気道開通と呼吸状態(SpO2)舌根沈下や分泌物、嘔吐物による気道閉塞がないか確認する。モニターを装着し、SpO2の低下やチアノーゼの有無を評価しながら、必要時下顎挙上や吸引を行う。【低酸素脳症の予防と二次性ダメージの回避】
けいれん中は呼吸筋も硬直するため、十分な換気ができません。さらに重積状態では脳の酸素消費量が跳ね上がっているため、早急な酸素投与(10L/分〜)で脳を低酸素から守る必要があります
ベンゾジアゼピン系薬剤投与後の呼吸抑制ジアゼパム等の静注後、発作が止まったか評価すると同時に、呼吸回数が激減していないか(徐呼吸や無呼吸)、SpO2が再低下していないかを胸郭の動きとともに観察する。【中枢神経抑制薬による副作用の早期発見】
発作を止める薬は強力な中枢神経抑制作用を持つため、発作は止まっても「薬のせいで呼吸が止まる」リスクが常にあります。気管挿管の準備(アンビューバッグや挿管カートのスタンバイ)を並行して行う根拠となります。

もし患者さんがこう言ったら?

てんかんの既往がある患者さんが、「なんだか変な匂いがする…胸がムカムカして…」などこんな訴えをした時,これをただの「吐き気」や「錯覚」として片付けてはいけません。

言葉の裏にある病態とニード
これは、発作の直前に起こる「前兆(Aura:アウラ)」の可能性が高いです。側頭葉てんかんなどでは、胃の突き上げ感や嗅覚の異常感覚(焦げた匂いがするなど)が数秒〜数十秒先行することがあります。患者さん自身も「あ、また発作が来るかも」という強い恐怖を感じている瞬間です。

対応アクションと会話例

  • 「変な匂いがしますか?もしかして、いつもの発作の前の感じと似ていますか?安全のために、すぐにベッドに横になりましょう。私がそばにいますからね」
    • すぐにナースコールを握り、他のスタッフを呼びつつ、患者さんを安全な臥位(可能なら側臥位)にします。転倒による頭部外傷を防ぎ、発作に備えて吸引や酸素の準備を素早く整えます。

現場で差がつく看護のコツ

発作中の対応は、いかに「二次被害(外傷や誤嚥)」を防ぐかが勝負です。

工夫・コツ・アイデア具体的な手技・環境調整期待される効果・メリット
口の中に物を絶対に入れない(バイトブロック禁止)舌を噛まないようにと、タオルやバイトブロックを無理やり口の中にねじ込むのは絶対にやめる。顔を横に向け、分泌物が自然に流れるようにする。強直中の顎の力は凄まじく、無理に物を入れると歯が折れて気道に詰まったり、介助者の指が噛み切られたりする大事故につながります。舌を少し噛むことよりも、気道閉塞の方が致命的です。
ベッド周囲の危険物排除けいれんが始まったら、ベッド柵をクッションや毛布で保護し、周囲にある点滴台やオーバーテーブルを患者の手足が届かない位置まで遠ざけるガクガクと動く四肢が硬いものにぶつかり、骨折や打撲を引き起こすのを防ぎます。患者の動きを無理に押さえつけるのではなく、「環境を安全にする」のが基本です。
発作後の「回復体位」の保持発作が落ち着いたら、麻痺の有無を確認しつつ、下顎を前に出し、顔を横に向けた側臥位(回復体位)をととのえ、背中にクッションを当てて維持する。発作直後は深い睡眠(発作後もうろう状態)に入ることが多く、舌根沈下や嘔吐による窒息リスクが高いため、気道を確保し続けるための最も安全な体位です。

新人さんが陥りやすいミスへの対策

新人の頃って、患者さんが目の前でけいれんを起こすと、頭の中が真っ白になりますよね。「誰か来てください!」と叫ぶだけで、気がついたら発作が終わっていて、後から来た医師に「発作は何分続いた?どこから始まった?」と聞かれても何も答えられなかった……という苦い経験、あるんじゃないでしょうか。

「発作の時間を測り忘れる」「焦って無理に押さえつけようとする」というのは、新人が必ず通る道です。

「時計を見る」ことさえ習慣づければ、後からいくらでも冷静なアセスメントができます。
「てんかん重積状態は5分が勝負」といった視点を持つと、自分のやるべき最初のアクションが明確になって、心に少し余裕が生まれるはずです。


いざという時に患者さんの脳と命を守れるよう、日頃から挿管カートや吸引器の位置を確認しておきましょう。


参考資料

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