脳幹出血について

脳幹出血について|疾患の概要から看護のポイントまで徹底解説

あずかん

脳幹出血に対して、「呼吸中枢がある場所だから怖い」「意識レベルが戻らないかも」というイメージが先行しがちですが、実は出血部位が「橋」のどの範囲に及んでいるかで、患者さんの予後や残存機能、そして私たちが注力すべきケアの方向性は大きく異なります。
今回は、教科書的な知識だけでなく、現場で求められる「予測する目」と「生活を支える手」について、経験則を交えてお話しします。


目次

サクッと復習!疾患の概要

中心的橋出血

  • 病態: 橋底部正中近くの穿通枝から出血し、橋全体に血腫が及ぶ重篤なタイプ。しばしば脳室穿破を伴います。
  • 症状: 急激な意識障害(JCS Ⅲ桁)、四肢麻痺(Tetraplegia)、縮瞳(Pinpoint pupil)、除脳硬直、呼吸障害。
  • 予後: 極めて不良。急性期に呼吸不全で致命的となるケースが多いです。

部分的橋出血

  • 病態: 橋被蓋や外側など、限局した部位での出血。
  • 症状: 意識障害は比較的軽度。病変部位により、MLF症候群(眼球運動障害)、顔面神経麻痺、片麻痺、運動失調などが出現します。
  • 予後: 生命予後は比較的良好ですが、嚥下障害や構音障害などの機能障害が残存しやすいです。

共通の原因: 高血圧が最大のリスクファクターです。
治療: 手術適応となることは稀(深部でありアプローチによる損傷リスクが高いため)。降圧療法、脳浮腫対策、呼吸管理が主体の保存的治療となります。


観察ポイント&根拠

観察項目観察ポイント根拠・予測
呼吸様式の微細な変化SpO2や回数だけでなく、「チェーンストークス呼吸」「失調性呼吸」のリズム異常や、「下顎呼吸」の出現を胸郭の動きと合わせて1分間観察する。橋には呼吸中枢が存在します。出血や浮腫が延髄へ波及すると、呼吸リズムが崩壊し、突然の呼吸停止に至るリスクがあります。挿管・人工呼吸管理への移行判断に直結するサインです。
眼球運動と瞳孔所見瞳孔径・対光反射に加え、「正中位固定」「眼球浮き」「斜偏位」がないか、開眼させて確認する。橋には外転神経核やPPRF(傍正中橋網様体)があり、水平注視を司っています。縮瞳は橋出血の特徴ですが、そこからの散瞳や対光反射消失は、脳ヘルニアの進行や脳幹機能の不可逆的な破綻を示唆する緊急事態です。
体温(高体温の持続)腋窩温だけでなく、可能なら膀胱温や直腸温で核心温を測定し、解熱剤使用後の反応(下がり方)を評価する。視床下部への影響や交感神経の過剰興奮により、中枢性高体温(セットポイントの上昇)をきたしやすいです。40℃近い高熱は脳代謝を亢進させ、二次的な脳損傷を悪化させるため、クーリングの強化や管理目標の設定が必要です。
咳嗽反射・嚥下反射口腔内吸引時にカテーテルを奥まで進めた際の咽頭反射(ゲーッとなるか)や咳嗽反射の有無・強さを確認する。橋〜延髄にかけて嚥下や咳嗽に関わる神経核が存在します。反射の消失は、誤嚥性肺炎のハイリスク状態であるだけでなく、唾液すら処理できないことを意味し、気管切開の早期検討材料になります。

もし患者さんが「(まばたきで合図)」をしたら?

意識は戻りつつあるものの、「閉じ込め症候群(Locked-in syndrome)」の状態にある患者さんを想定してください。四肢麻痺と構音障害があり、動かせるのは眼球の上下運動とまばたきだけです。
患者さんが必死に「まばたき」を繰り返している時、どう対応しますか?

非言語的サインの裏にあるニード
この状況でのまばたきは、単なる生理現象ではなく、唯一残された「意思伝達手段」であり、「私はここにいる、分かってほしい」という強烈な叫びです。無視されることへの恐怖、伝わらないもどかしさが背景にあります。

対応アクションと会話例

  1. コミュニケーションチャンネルの確立(ルール作り)
    • 「〇〇さん、何か伝えたいことがあるんですね。気づくのが遅れてごめんなさい。まず合図を決めましょう。『YES』なら目をぎゅっと閉じてください。『NO』なら大きく目を開けてください。練習してみましょうか。」
  2. クローズド・クエスチョンによる絞り込み
    • 「痛いところがありますか?(まばたきなし=NO)」
    • 「体の向きを変えたいですか?(まばたきあり=YES)」
    • 「右を下にしたいですか?(まばたきなし=NO)」
    • このように、YES/NOで答えられる質問を繰り返し、ニードを特定します。
  3. 安心感の提供(受容)
    • 「時間はかかっても、必ず〇〇さんの言葉を受け取りますから、安心してくださいね。五十音表も使いましょう。」と伝え、透明文字盤などのツールを導入します。

現場で差がつく看護のコツ・ポイント

工夫・コツ・アイデア具体的な手技・環境調整期待される効果・メリット
「完全側臥位」での排痰ドレナージ意識障害や嚥下障害が重度の場合、30度挙上ではなく、90度の完全側臥位(シムス位に近い形)を取り、背部にクッションを噛ませてポジショニングする。口腔内分泌物や喀痰が重力で自然と口角から流出するため、垂れ込みによる誤嚥性肺炎を強力に予防できます。同時に背側の無気肺改善(換気血流比の改善)も期待できます。
角膜保護の徹底閉眼不全(Lagophthalmos)がある場合、点眼だけでなく、サージカルテープで上眼瞼を下眼瞼に向けて軽く固定し、人工的に閉眼状態を作る。または保湿チャンバー(専用カバー)を使用する。瞬目反射が低下していると、数時間で角膜乾燥・潰瘍を起こします。角膜混濁は、回復後の視界(唯一の情報源)を奪うことになるため、保湿と保護は必須です。
良肢位保持と「早期からの」関節可動域訓練除脳硬直(伸展パターン)が出やすい場合、手指にハンドロール、足底にフットボードを使用し、良肢位を保つ。清拭時などに全可動域を他動的に動かす。脳幹損傷による筋緊張亢進は拘縮の進行が早いです。尖足や関節拘縮を作ってしまうと、将来的な車椅子移乗や座位保持の大きな妨げになります。「固まる前に動かす」が鉄則です。
口腔ケア時の「吸引チューブ固定」片手で吸引チューブを操作するのではなく、バイトブロックや開口器に沿わせてチューブを固定し、持続吸引しながらブラッシングや洗浄を行う。嚥下反射が消失している場合、わずかな洗浄水でも誤嚥します。持続的な陰圧をかけた状態でケアすることで、誤嚥リスクを最小限に抑えつつ、清潔を保持できます。

新人さんが陥りやすいミスへの対策

脳幹出血の急性期、モニター上のSpO2は98%で安定していました。しかし、訪室した先輩がカーテンを開けた瞬間、「顔色が悪い!吸引!」と叫びました。
SpO2は保たれていましたが、患者さんは痰詰まりでチアノーゼになりかけており、モニターの数値が落ちる直前の状態だったのです。

脳幹障害のある患者さんは、自律神経系もダメージを受けているため、生体反応がモニターに出にくい(あるいは遅れて出る)ことがあります。
「SpO2が良いから呼吸は大丈夫」ではありません。「呼吸の音はどうかな?」「胸の上がり方は左右同じかな?」「苦しそうな顔をしていないかな?」
モニター画面を見る前に、まず患者さんの顔を見て、胸に手を当ててみてください。

あずかん

機械よりも、あなたの五感の方が、異変を察知するセンサーとしては優秀なことが多々あります。その「違和感」を大切にしてくださいね。

参考資料
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