多臓器不全(MOF)について|疾患の概要から看護のポイントまで徹底解説
あずかん敗血症性ショックで人工呼吸管理・持続的腎代替療法(CRRT)・昇圧薬の複数使用と、モニターとラインだらけになった患者さんを担当したことはありませんか?
多臓器不全(MOF)は、ICUだけの話ではありません。一般病棟で急性増悪した患者さんが緊急でICUへ転棟していく過程や、術後合併症が連鎖的に進行していく場面など、臨床現場のあらゆる場所でこの病態への理解が試されます。
「もっと早く気づけたのではないか」——そう感じた経験がある方は少なくないと思います。今日はこの疾患の基本と、現場で活かせる観察の視点を紹介していきます。
サクッと復習!疾患の概要
多臓器不全(MOF)とは、急性の重症疾患(敗血症、外傷、大手術、熱傷など)を契機として、2つ以上の臓器が完全に機能破綻し、生命維持のために人工的な補助・代替が必要となった状態を指します。
ここで押さえておきたいのが、「多臓器障害(MODS)」との違いです。
| 用語 | 位置づけ |
|---|---|
| MODS(多臓器障害症候群) | 臓器機能障害を連続的な程度(軽度〜重度)で捉える概念。可逆性を含む段階を表現し、現在の臨床・研究で主に用いられる |
| MOF(多臓器不全) | 臓器機能が完全に破綻し、人工呼吸管理、CRRT、昇圧薬など生命維持のための人工的代替が必須となった状態。MODSの重症末期段階として位置づけられる |
つまり、MOFはMODSが進行し、可逆性を失った(あるいは失いつつある)最終段階と捉えると理解しやすいと思います。臨床では「MODSの段階でどこまで介入できたか」が、MOFへの進行を防げるかどうかの分岐点になるという視点が重要です。
病態生理の中心は、サイトカインストームによる全身性炎症反応、血管内皮障害と微小血栓形成、組織低灌流に伴う嫌気性代謝の亢進です。これらが連鎖的に進行すると、呼吸不全(ARDS)、急性腎障害(AKI)から腎不全への進行、肝不全、DIC(播種性血管内凝固症候群)、循環不全が複合的に出現し、SOFAスコアで評価される各臓器スコアが軒並み高値となります。
治療は原因疾患のコントロール(感染源のドレナージ・抗菌薬治療など)と並行して、人工呼吸管理、CRRT、昇圧薬・強心薬の使用、血液製剤の投与など、臓器ごとの生命維持療法が中心となります。この段階に至ると、予後は原因疾患の重症度と、障害を受けた臓器の数に強く相関するとされています。






観察ポイント&根拠
| 観察項目 | 観察ポイント | 根拠・予測 |
|---|---|---|
| 人工呼吸器設定と血液ガス | FiO2と PEEP の設定値を前回と比較し、P/F比の推移を追う。血液ガスのpH、PaCO2、HCO3-の組み合わせでアシドーシスの型(呼吸性か代謝性か)を判断する | FiO2の増量が必要になっている場合はARDSの悪化を示唆する。代謝性アシドーシスの進行は乳酸産生の増加、つまり組織低灌流の悪化を反映しており、複数臓器への酸素供給不足が進んでいる可能性を示す |
| 循環動態(昇圧薬の投与量) | ノルアドレナリンなど昇圧薬の投与量(γ数)を時間ごとに記録し、増量傾向か減量傾向かを評価する | 昇圧薬の増量が続いている場合は、血管トーヌスの維持がますます困難になっている状態を示し、多臓器への灌流維持がさらに厳しくなっていることを意味する |
| 腎代替療法中の除水量・電解質 | CRRT施行中は除水速度と、カリウム・リンなど電解質の変動を数時間ごとに確認する | 腎不全に至った状態では体液・電解質管理を完全に人工的な治療に依存しており、除水速度の設定ミスや電解質異常の見逃しが循環動態の急変に直結する |
| 凝固系(フィブリノゲン、D-ダイマー、血小板数) | フィブリノゲンの低下、D-ダイマーの上昇、血小板数の急激な減少を組み合わせて評価する | DICスコアの構成要素であり、これらの組み合わせの悪化は出血傾向の増悪や微小血栓による臓器灌流のさらなる悪化を予測させる |
| 意識レベルと瞳孔所見 | GCS評価に加え、瞳孔径の左右差や対光反射の消失がないか確認する | 循環不全による脳灌流低下や、代謝性脳症が進行している可能性を示唆する。瞳孔所見の変化は不可逆的な神経学的予後を左右する重要なサインとなる |
| 皮膚色調・末梢冷感の範囲 | 網状皮斑が四肢末梢から中枢側へ拡大していないか、経時的に範囲を確認する | 網状皮斑の拡大は、生命維持に必要な中心循環を確保するために末梢循環がさらに犠牲になっている状態を示し、MOFの進行を示唆する身体所見として重視する |
| 尿量(無尿の有無) | CRRT導入前後で自尿の有無を確認し、完全に無尿となっていないか確認する | 完全な無尿は腎機能が完全に破綻し、体液管理のすべてをCRRTに依存している状態を意味し、腎機能の回復可能性を評価する上で重要な情報になる |
もし患者さんの家族からこう言われたら、あなたはどうする?
多臓器不全まで進行した患者さんのご家族から、「もう助からないということですか」という言葉を聞くことは決して珍しくありません。
ここで看護師が安易に「そんなことないですよ」「頑張りましょう」と励ましだけで返してしまうと、ご家族は現状を正確に理解する機会を失い、後になって「あの時ちゃんと説明してもらえなかった」という不信感につながることがあります。対応としては、
「今、〇〇さんの体はいくつもの臓器が同時に助けを必要としている状態で、人工呼吸器や透析の機械で懸命に支えている段階です。今後の見通しについては、主治医からより詳しくお話しする機会を設けますね」
と、現在の医学的状況を専門用語を避けつつ正確に伝えた上で、判断や見通しの提示は医師の役割として明確に線引きする姿勢を示すと、ご家族は「見捨てられているわけではない」という安心感を抱きやすいですよ。その場で全てに答えようとせず、医師との面談の場を早期に調整するという具体的なアクションにつなげる視点が重要です。
現場で差がつく看護のコツ
| 工夫・アイデア | 期待できる効果 |
|---|---|
| 複数の昇圧薬・強心薬を使用している患者さんでは、各薬剤の投与量の推移を一枚のグラフにまとめて記録する | 循環動態の全体的な悪化・改善傾向を視覚的に把握でき、医師への報告時にも「この2時間でどう変化したか」を端的に伝えられる |
| CRRT施行中の患者さんの体位変換時は、回路の屈曲・回転による脱血不良を防ぐため、事前に回路の余裕を確認してから実施する | 体位変換中の回路トラブルによる治療中断を防ぎ、除水・浄化療法を安定して継続できる |
| 家族面談の前に、その日までの臓器ごとの変化を簡潔にまとめたメモを自分用に準備しておく | 医師の説明に対する家族の質問に、その場で客観的な看護記録に基づいた補足ができ、家族の理解を助けられる |
| 網状皮斑の観察は、同一部位・同一体位・同一照明条件で記録することを意識する | 体位や照明の違いによる見え方の差を排除でき、シフト間での比較の精度が上がる |
| 複数のライン・ドレーンが入っている患者さんの清拭・体位変換時は、事前にライン・ドレーンの配置図を作成し、ベッドサイドに掲示する(施設の規定に準拠) | 複数人でケアにあたる際の抜去事故を防ぎ、緊急時の対応もスムーズになる |
新人さんが陥りやすいミスへの対策
新人さんがよくやってしまうのが、「昇圧薬や人工呼吸器で数値が保たれているから、今は安定している」と判断してしまうことです。MOFの段階では、バイタルサインが「保たれている」ように見えても、それは人工的な治療によって無理やり維持されている状態であることが多く、治療の介入量そのものの変化を見なければ本当の重症度は分かりません。
このことを知らないと、「血圧120台で安定しています」と報告しても、実は昇圧薬が2時間前の3倍量になっていた……というケースに気づけないことがあります。数値そのものだけでなく、「その数値を保つために、どれだけの治療が必要になっているか」という視点を持つと、報告の質が大きく変わってきます。
もう一つ、新人さんが混同しやすいのが、MODSとMOFを同じ状態として捉えてしまい、「もう不全に至ったから、これ以上は何もできない」と考えてしまうことです。しかし実際には、MOFの段階でも原因疾患のコントロールや適切な支持療法によって回復に至るケースは存在します。「不全=終わり」という思い込みを外し、一つひとつの臓器の変化を丁寧に追い続ける姿勢を持つと、日々のケアへの向き合い方が変わってくると思います。
家族面談後にご家族から厳しい言葉を向けられた経験がある新人さんも多いかもしれません。ですが、その言葉の裏にある「正確な情報が欲しい」という切実な思いを理解していると、感情的に受け止めすぎず、「今、自分にできる正確な情報提供は何か」という視点で向き合えるようになると思いますよ。
