虚血性心疾患について

虚血性心疾患とは|原因、症状から分類まで徹底解説

あずかん

虚血性心疾患(IHD)は、心臓自身に血液を供給している冠動脈の血流が悪くなることで、心筋が必要とする酸素や栄養を受け取れなくなる状態(虚血)によって引き起こされる疾患の総称で、日本の死因の上位を占める心疾患の中でも、大きな割合を占めています。
この記事では、「虚血性心疾患」の病態生理から看護のポイントまでを解説していきます。

目次

虚血性心疾患とは

虚血性心疾患は、心臓の筋肉(心筋)に酸素や栄養を供給する冠動脈の血流が悪くなることで、心筋が酸素不足に陥る病気の総称であり、この「虚血」という状態が、様々な症状を引き起こします。

冠動脈とは、心臓の表面を這うように走る血管で、心臓自身に血液を送る重要な役割を担っている。この冠動脈の血流の流れが、①動脈硬化(冠動脈の内壁にコレステロールなどが蓄積し、プラークと呼ばれる塊が形成される。これが血管を狭くしたり、硬くしたりして、血流を妨げる。) ②血栓形成(プラークが破れると、その部分に血小板が集まり、血栓ができる。この血栓が血管を完全に詰まらせてしまうこともある。) ③冠攣縮(冠動脈が一時的に異常な収縮を起こし、血流が途絶えることがある。) などの原因により、心筋への酸素供給と需要バランスが崩れ、心筋虚血が生じる。

虚血性心疾患は主に2つに分類される。
「冠動脈」が完全に詰まってしまい、血液が通過しなくなった状態=閉塞(心筋梗塞)
「冠動脈」が詰まりかかって、血液が通過しにくくなった状態=狭窄(狭心症)

また、心筋梗塞または狭心症の原因には、①加齢 ②家族歴 ③高血圧症 ④糖尿病 ⑤脂質異常症 ⑥喫煙 ⑦肥満 ⑧ストレス などがあり、これらが虚血性心疾患の危険因子となり血管内にプラークが形成される。

虚血性心疾患の症状

狭心症

狭心症は、心筋への血流が一時的に不足することで起こる症状である。

  • 症状
    • 胸の痛み、圧迫感、締め付けられるような感じ
    • 左肩、腕、顎、歯、背中などに放散する痛み(放散痛)
    • 息切れ、動悸、吐き気、冷や汗
  • 特徴
    • 労作時(運動やストレス時)に症状が出やすく、安静にすると数分で治まることが多い
    • ニトログリセリン舌下錠が有効

心筋梗塞

心筋梗塞は、冠動脈が完全に閉塞し、心筋への血流が途絶えることで心筋細胞が壊死してしまう状態である。

  • 症状
    • 激しい胸の痛み: 狭心症よりもはるかに強く、20分以上持続することが多い
    • 冷や汗、吐き気、嘔吐、意識消失
    • 呼吸困難、チアノーゼ
    • ニトログリセリンが効かないことが多い
  • 特徴
    • 心筋細胞は一度壊死すると元に戻らないため、早期の治療が必要である。時間との勝負であり、一刻も早い医療介入が求められる
    • 不整脈や心不全など、重篤な合併症を引き起こす可能性がある

虚血性心疾患の分類

労作性狭心症

労作性狭心症は、運動や精神的な興奮など、心臓に負担がかかる状況で胸の痛みや圧迫感が現れるのが特徴である。これは、冠動脈の動脈硬化によって血管が狭くなり、運動などで心臓が必要とする血液量が増加した時に十分な酸素を供給できなくなるために起こる。安静にすると症状が改善する。

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冠攣縮性狭心症

冠攣縮性狭心症は、労作とは関係なく、安静時や夜間に突然冠動脈が痙攣(収縮)して血流が悪くなることが特徴で、特に喫煙や飲酒が誘因となる。典型的な胸痛発作は数分から十数分でおさまるが、再発を繰り返すことがある。

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不安定性狭心症

不安定狭心症は、狭心症の症状や発作に変化があるのが特徴である。具体的には、今まで症状がなかったのに労作で症状が出るようになった、症状の頻度が増えた、軽い労作でも症状が出るようになった、安静時にも症状が出現するようになった、ニトログリセリンの効果が弱くなった、などが挙げられる。これは、冠動脈の狭窄が進行しているか、プラークが不安定になって破裂し、血栓ができやすくなっている状態を示唆しており、急性心筋梗塞へ移行するリスクが高い危険な状態と考えられる。

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急性心筋梗塞(AMI)

急性心筋梗塞は、冠動脈が完全に閉塞し、その先の心筋に血液が流れなくなり、心筋細胞が壊死してしまう非常に重篤な状態である。多くの場合、突然の激しい胸痛や圧迫感、冷や汗、吐き気などの症状が現れ、一刻も早く血流を再開させるための治療が必要である。

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治療・対症療法

狭心症では、抗狭心症薬や抗血栓薬を使用した薬物療法を行う。経過を見ながら、再灌流療法を検討していく。
急性心筋梗塞’(AMI)では、初期治療を行いながら迅速な再灌流療法を行うことが重要である。再灌流後は、再発予防として薬物療法を継続することが多い。

薬物療法

抗狭心症薬 胸痛発作を抑えたり、発作の頻度を減らしたりする
・硝酸薬
・Ca拮抗薬
・β遮断薬

抗血栓薬 血栓の形成を抑制し、血管の閉塞を防ぐ
・抗血小板薬(アスピリンなど)
・抗凝固薬(ヘパリン、ワルファリン)

その他 動脈硬化の進行を抑制し、心臓への負担を軽減する
・ACE阻害薬
・ARB
・HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)

再灌流療法(血行再建術)

血栓溶解療法
・t-PA
・ウロキナーゼ

カテーテル治療
・経皮的冠動脈インターベンション(PCI)

外科的血行再建術
・冠動脈バイパス術(CABG)

生活習慣の改善

薬物療法や再灌流療法と並行して、または予防策として、生活習慣の改善は非常に重要となる。危険因子を管理することで、病気の進行を遅らせ、心イベントの再発リスクを低減する。

禁煙
喫煙は動脈硬化の最大の危険因子の一つである。血管内皮を傷つけ、血栓形成を促進し、冠動脈を収縮させる。

食事療法
飽和脂肪酸・コレステロールの制限
塩分制限
野菜・果物・魚の積極的な摂取
適正な摂取カロリー

運動療法
ウォーキング、軽いジョギング、水泳など。

適正体重の維持
肥満は高血圧、脂質異常症、糖尿病などの危険因子と関連し、心臓に負担をかける。

ストレス管理
精神的なストレスは、交感神経を活性化させ、血圧上昇や冠動脈の収縮を引き起こす可能性がある。

その他
規則正しい生活
アルコールの適量摂取
基疾患の管理

参考資料
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