虚血性心疾患について|疾患の概要から看護のポイントまで徹底解説
あずかんナースコールで「なんだか胸がモヤモヤする…」と呼ばれ、ヒヤッとした経験はありませんか?
循環器病棟はもちろん、外科や整形の病棟であっても、高齢化に伴い「虚血性心疾患」の既往を持つ患者さんは非常に多くなっています。
一言で虚血性心疾患といっても、休めば治る「労作性狭心症」から、一刻を争う「急性心筋梗塞」まで、その緊急度は様々です。しかし、患者さんの訴えだけでは、今まさに心筋が壊死し始めているのか(ACS:急性冠症候群)を判断するのは困難です。
今回は、「胸が痛い」という訴えから、命に関わるサインを瞬時に見抜き、医師へ的確なSBARで報告するためのアセスメントと現場のコツを紹介します。
サクッと復習!疾患の概要
- 労作性狭心症
- 【病態】冠動脈の動脈硬化(プラーク)により血管が狭窄。運動時など心筋の酸素需要が増えた時に血流が追いつかず虚血になる。
- 【特徴】歩行時や入浴時に胸部絞扼感が生じるが、安静(またはニトログリセリン舌下)により数分で消失する。
- 冠攣縮性狭心症
- 【病態】冠動脈が一時的に痙攣を起こし、血流が途絶える。
- 【特徴】夜間〜早朝の安静時に起こりやすい。過換気や寒冷刺激、ストレスが誘因となる。ニトロが著効する。
- 不安定性狭心症
- 【病態】プラークが破綻し、血栓が形成されて血流が著しく低下している状態。心筋梗塞の一歩手前。
- 【特徴】発作の頻度が増加し、安静時にも生じ、持続時間が長くなる。ニトロが効きにくくなる。即刻の対応(PCIなど)が必要。
- 急性心筋梗塞 (AMI)
- 【病態】冠動脈が血栓で完全に閉塞し、心筋細胞が不可逆的な壊死を起こし始めた状態。
- 【特徴】30分以上持続する激烈な胸痛(冷汗、悪心・嘔吐を伴う)。ニトロは無効。致死性不整脈(心室細動など)や心原性ショックへ移行するリスクが極めて高い。緊急PCIの絶対適応。
※不安定性狭心症と急性心筋梗塞を合わせて「急性冠症候群(ACS)」と呼びます。








観察ポイント&根拠
| 観察項目 | 観察ポイント | 根拠・予測 |
|---|---|---|
| 痛みの性状と放散痛の有無 | 「どこが、どんな風に痛いですか?」と聞き、患者の手に冷汗(冷たく湿った皮膚)がないか触れて確認する。また、左肩〜顎にかけての放散痛の有無を問診する。 | 心筋虚血による痛みは「圧迫感」「締め付けられる感じ」と表現され、指で一点を指せない(漠然とした領域)のが特徴です。また、交感神経の異常緊張による「冷汗・悪心」はAMIを強く疑うサインです。放散痛は関連痛として左肩や下顎に現れます。 |
| 12誘導心電図のST変化と波形 | 胸痛出現時、直ちに12誘導心電図を記録し、ベースライン(以前の波形)と比較する。特にST上昇や、新規の陰性T波がないかを確認する。 | 「ST上昇=心筋が今まさに壊死しつつある(貫壁性虚血)」というサインです。これが確認できたら、5分以内に医師へ報告し、緊急カテの準備を想定します。逆に、ST低下なら非貫壁性虚血(狭心症やNSTEMI)を疑います。痛みが消失した後の波形も記録し、変化を追うことが重要です。 |
| 心筋逸脱酵素(トロポニン、CK-MB)の推移 | 採血指示が出た際、トロポニンT/Iが陽性化していないか確認する。特に発症早期は陰性でも、数時間後に再検した際の急激な上昇を見逃さない。 | 心筋細胞が壊死すると、細胞内の酵素が血中に漏れ出します。トロポニンは心筋特異性が高く、発症後数時間で上昇し始めます。「トロポニン陽性」は、狭心症ではなく心筋梗塞(または微小梗塞)に至っている決定的な証拠となります。 |
もし患者さんが「なんだか胃のあたりがムカムカする」と言ったら?
糖尿病の既往がある高齢の患者さんが、深夜にこう訴えました。
「胸というより、みぞおちの辺りがムカムカして気持ち悪いんだよね。胃薬もらえる?」
この時、「夕食の消化不良かな」と安易に胃薬を渡して終わらせてはいけません。
対応アクションと会話例
- 心疾患を念頭に置いた問診とバイタル測定
- 「みぞおちがムカムカするんですね。冷や汗が出たり、肩や背中が張るような感じはありませんか?」と声をかけながら、脈の結滞や冷汗の有無を確認します。
- 直ちに行動(12誘導心電図の実施)
- 「念のため、心臓の動きも一緒に確認させてくださいね」と伝え、すぐに12誘導心電図を記録します。
- 医師へのSBAR報告
- 心電図(特にII, III, aVF誘導でのST変化)を確認し、「〇〇号室の患者さん、心窩部不快感を訴えており、下壁梗塞を疑って12誘導をとったところST上昇が見られます」と医師へコールします。
現場で差がつく看護のコツ
| 工夫・コツ・アイデア | 具体的な手技・環境調整 | 期待される効果・メリット |
|---|---|---|
| 「胸痛時セット」の常備とカートの配置 | 循環器病棟や急変リスクの高い病棟では、心電計の横に「胸痛時採血スピッツ・ルート確保セット・ニトロペン」をひとまとめにしておく。 | 胸痛を訴えてから「アンプルを探す」「スピッツを取りに行く」というタイムロスを削ります。すぐに行動できる環境が、ドア・トゥ・バルーンタイム(来院からカテ治療までの時間)の短縮に直結します。 |
| ニトロ舌下時の「血圧確認」と「座位保持」 | ニトログリセリン舌下錠(またはスプレー)を投与する前は、必ず収縮期血圧(基本は90mmHg以上)を確認する。また、投与時はベッドをフラットにせず、セミファーラー位〜座位にする。 | ニトロは強力な血管拡張作用があるため、急激な血圧低下を招くリスクがあります。血圧が低い状態で投与するとショック状態に陥ります。また、静脈還流を減らして心負荷を軽減するため、適度なギャッチアップが有効です。 |
| 痛みの評価スケール(NRS)の活用 | 「痛いですか?」ではなく、「全く痛くない状態を0、想像できる最大の痛みを10としたら、今はいくつですか?」と数値化して記録する。 | 「先ほどは8だった痛みが、ニトロ舌下後5分で2に減りました」と客観的な指標で医師に伝えることで、薬効の判定や「ACSへの移行」の判断が正確になります。 |
新人さんが陥りやすいミスへの対策
新人さんが陥りやすいミスとして、「ニトロを飲んで痛みが治まったから大丈夫、と安心してそのままにしてしまう」ということがあります。
確かに労作性狭心症であれば、ニトロを舌下すれば数分で痛みはウソのように消えます。しかし、そこで「治まってよかったですね」と離れるのではなく、「その発作は、昨日までの発作と同じ頻度・強さだったか?」をアセスメントする視点が必要です。
痛みが治まった後にこそ、「今までより軽い労作で起きていないか」「持続時間が長くなっていないか」を問診してみてください。もし変化があれば、それはプラークが不安定になっている「不安定性狭心症」への移行サインです。



「痛みが引いたから報告は後でいいや」ではなく、「治まったけれど、いつもと違う気がする」という気づきを、速やかに医師と共有する。そのひと手間が、明日起きるかもしれない心筋梗塞を未然に防ぐことにつながりますよ。