
冠攣縮性狭心症(CSA)は、冠動脈が一時的に痙攣(攣縮)し、内腔が狭窄または閉塞することにより、心筋への血流が不足(虚血)し、胸痛などの症状を引き起こす疾患です。
この記事では、冠攣縮性狭心症の病態生理・検査方法・看護のポイントを解説していきます。
冠攣縮性狭心症とは
冠攣縮性狭心症の主な病態は、冠動脈の攣縮である。この攣縮は、冠動脈の平滑筋が過剰に収縮することによって起こるが、攣縮が起こる詳細なメカニズムは完全には解明されていない。しかし、以下の要因が関与していると考えられている。
- 冠動脈内皮機能障害
血管内皮細胞は、血管拡張物質(一酸化窒素など)と血管収縮物質のバランスを調整している。この内皮機能が障害されると、血管拡張物質の産生が低下したり、血管収縮物質に対する感受性が高まったりして、攣縮が起こりやすくなる。 - 自律神経系の関与
特に副交感神経の活動が亢進すると、アセチルコリンが放出され、これが冠動脈の攣縮を誘発することがある。夜間から早朝にかけて症状が出やすいのは、この自律神経の変動が関与していると考えられている。 - 血管平滑筋の異常な過収縮
カルシウムイオンの流入増加や、Rhoキナーゼなどの細胞内シグナル伝達系の活性化により、血管平滑筋が収縮しやすくなる。 - 炎症
血管壁の局所的な炎症が、攣縮の発生に関与している可能性も指摘されている。 - その他
喫煙、飲酒、ストレス、マグネシウム不足、遺伝的素因なども関与すると言われている。
これらの要因が複合的に作用し、冠動脈の特定の部分(あるいは複数箇所)が一時的に強く収縮し、心筋虚血を引き起こす。器質的狭窄がなくても発症するが、軽度から中等度の動脈硬化病変が存在する部位に攣縮が起こりやすいことも知られている。
冠攣縮性狭心症の症状
冠攣縮性狭心症の症状以下の通りだが、心筋虚血の程度や持続時間によって異なってくる。
- 胸痛・胸部圧迫感
最も典型的な症状。「胸が締め付けられる感じ」「胸が押さえつけられる感じ」「胸が焼けつくような感じ」などと表現される。 - 放散痛
左肩、左腕、顎、首、背中などに痛みが広がることがある。 - 発作の時間帯
安静時、特に夜間から早朝にかけて(睡眠中や起床時)起こりやすいのが特徴。 - 持続時間
通常、数分から15分程度で、長くても30分以内には治まることが多い。ニトログリセリンの舌下投与で速やかに(数分以内に)寛解する。 - その他
冷や汗、吐き気、息切れ、動悸などを伴うこともある。
労作性狭心症が運動や身体活動時に症状が出やすいのに対し、冠攣縮性狭心症は安静時に起こる点が大きな違いである。ただし、過度のストレスや喫煙、飲酒、寒冷刺激などが発作の誘因となることもあり、重症な場合は、心室性不整脈や心筋梗塞、突然死を引き起こす可能性もあるため注意が必要となってくる。
検査方法
心電図
非発作時は正常な場合が多い
発作時:ST上昇またはST低下
ST上昇:冠攣縮が重度で冠動脈が完全閉塞することにより貫壁性の心筋虚血を生じるとST上昇がみられる。別名【異形型狭心症】とも呼ぶ
ST低下:冠攣縮が比較的軽い場合、非貫壁性の心筋虚血となりST低下がみられる。
心エコー検査
心臓の形態や動き、弁の状態を評価し、他の心疾患との鑑別に役立つ。特に、発作時には壁運動の異常が見られることもある。
冠動脈カテーテル造影検査
アセチルコリン
アセチルコリンには副交感神経刺激作用があり、健常な動脈に副交感刺激が加わると動脈は拡張するが、攣縮しやすい動脈では逆に血管が収縮してしまうため、この逆効果を診断に用いる。
しかし、副交感神経を刺激すると徐脈になってしまうため、アセチルコリン負荷試験を行う場合は一時ペーシングカテーテルを右心室内に挿入しておき、徐脈時にペーシングを行えるように準備する必要がある。
エルゴノビン(メルゴメトリン)
エルゴノビンには、血管平滑筋を収縮させ血管内腔を狭くし血流を減らす作用がある。この作用を冠攣縮誘発試験で用いる。
副作用として嘔気や頭痛を生じることも多く、また冠攣縮に伴い心室細動(VF)のような重篤な不整脈が引き起こされる可能性も高いため、VF出現時は胸骨圧迫や電気的除細動が行えるように準備する必要がある。
治療
薬物療法
発作時:即効型の硝酸薬(ニトログリセリンの舌下錠など)
発作の予防;第一選択はCa拮抗薬、次に硝酸薬(内服や貼付薬)
※血管ではβ2受容体刺激によって血管拡張作用が生じるため、β2遮断薬は血管拡張作用を抑えてしまい冠攣縮を悪化させることがある。(Ca拮抗薬などの併用であれば大丈夫)
生活習慣の改善
喫煙や飲酒により冠攣縮が誘発・増悪するため、禁煙や節酒の指導が重要となってくる。
ストレスによる過換気傾向になっても冠攣縮が誘発されてしまうため、不安感が強い患者の場合、カウンセリングや抗不安薬、漢方薬治療による不安への介入が重要である。
看護のポイント
- 発作時の対応
- 患者が胸痛を訴えた場合、速やかに安静にし、ニトログリセリンの使用を援助する(初回使用の場合は医師の指示を確認)。
- バイタルサイン(血圧、脈拍、呼吸状態、SpO2)を測定し、心電図モニターを装着する。
- 症状の程度、持続時間、ニトログリセリンの効果を観察し、医師に正確に報告する。
- 患者さんの不安を軽減するための声かけや、安心できる環境づくりを心がける。
- 薬剤管理
- 処方された薬剤(カルシウム拮抗薬、硝酸薬など)の正しい服用方法、作用、副作用について患者が理解できるように説明する。
- 特にニトログリセリンの携帯、使用方法(発作時のみ、繰り返し使用の限界など)、保管方法(光や湿気を避ける)について具体的に指導する。
- 薬剤の副作用(頭痛、めまい、顔面紅潮、血圧低下など)の出現に注意し、患者自身にも自己観察を促す。
- 生活指導
- 禁煙の重要性を繰り返し説明し、禁煙支援プログラムの活用を促す。
- 飲酒、ストレス、過労、睡眠不足、寒冷暴露など、発作の誘因となる生活習慣を患者と一緒に見直し、具体的な回避策を考える。
- バランスの取れた食事、適度な運動(医師の許可範囲内)についても指導する。
- 精神的サポート
- いつ起こるかわからない発作への不安や、疾患に対する理解不足からくる精神的な負担を軽減できるよう支援する。
- 患者の話を傾聴し、感情表出を促す。
- 正確な情報提供を行い、疾患を正しく理解し、前向きに治療に取り組めるよう援助していく。
- 定期受診と自己管理の重要性の説明
- 症状が安定していても、定期的な受診と検査を受け、医師の指示通りに治療を継続することの重要性を説明する。
- 自己判断で薬剤を中止したり、量を変更したりしないように指導する。
- 発作の頻度や強さが変わった場合、ニトログリセリンが効きにくくなった場合などは、速やかに受診するよう伝える。