不安定性狭心症とは
不安定性狭心症は、心臓の筋肉に血液を送る冠動脈が動脈硬化によってできたプラークが破裂し、そこに血栓ができることで冠動脈が狭窄したり、完全に閉塞しかけたりすることで起こる。特に、これまで症状がなかったのに急に起こる、安静にしていても症状が出る、症状の頻度が増えたり程度がひどくなったりするなど、症状が不安定な状態を指し、心筋梗塞へ移行するリスクが高い危険な状態と考えられている。
労作性狭心症とは違い、安静時もしくは労作時に前胸部痛があり、発作時間も数分~20分程度と長い。また、下顎・頸部・左肩または両肩・左腕への放散痛を伴うことがある。
不安定性狭心症は、急性心筋梗塞に進行する可能性が非常に高い状態であり、早期の診断と治療が重要となってくる。
重症度 | 症状の程度 | |
ClassⅠ | 新規発症狭心症 症状増悪型狭心症 | ・最近2か月以内の発症 ・1日に3回以上の発作が頻回に起こる ・軽く動いただけで発作が起こる(安静時の胸痛はなし) |
ClassⅡ | 亜急性安静狭心症 | ・最近1か月以内の発症 ・最近1か月以内に1回以上、安静にしていても発作があった ・2日(48時間)以内は発症はない |
ClassⅢ | 急性安静狭心症 | ・2日(48時間)以内に安静時の発作がある |
検査・診断
心電図
心筋虚血の兆候(ST偏位やT波の変化など)を確認する。ただし、非発作時は正常な場合が多い。
血液検査
心筋の損傷を示すトロポニンTやCK-MBなどの酵素の上昇がないかを確認する。これらの酵素が上昇している場合は、心筋梗塞に移行している可能性が高まる。
心臓超音波検査(心エコー)
心臓の動きや弁の状態、壁運動の異常などを評価する。心筋虚血によって壁運動に異常が見られることがあるが、非発作時は正常な場合が多い。
冠動脈造影CT検査、冠動脈カテーテル造影検査
冠動脈責任病変の確定診断ができる。不安定性狭心症やNSTEMIは準緊急的な疾患のため、早期に確定診断を行い治療を行うことが重要である。
治療
薬物療法
①抗血小板(アスピリン)、抗凝固薬(ヘパリン)
アスピリンは心血管疾患に対する一次予防(新規発症予防)と二次予防(再発予防)の両方に有効であることが証明されている。また、PCIを行う可能性が高いため、ステント血栓症を予防するために、いち早く抗血小板薬を効かせておく必要がある。
血栓の形成抑制のため、抗凝固薬の静脈内注射も併用する。
②LDLコレステロール低下薬
スタチン、エゼチミブ、PCSK-9阻害薬などの投与によるLDLコレステロール値の低下により、冠動脈プラークの退縮効果が証明されており、厳重な脂質管理が重要になる。また、スタチンの内服により不安定な冠動脈プラークの状態を安定化させる効果がある。
③発作に関する薬
β遮断薬は運動時の心拍低下および心収縮力低下作用により、心筋酸素消費量を減少させることで、狭心症発作を予防する。また、Ca拮抗薬は血管の拡張作用があり、冠動脈を拡張させ心筋酸素供給量を増加させることにより心筋虚血を軽減させる効果がある。
発作時には硝酸薬(ニトログリセリンなど)を舌下投与することで、静脈の拡張作用で心臓に戻る血液量が減少し酸素需要量が低下する効果がある。しかし、硝酸薬に対する耐性が生じてしまうため、常用はできない。
手術療法
①PCI(経皮的冠動脈インターベンション治療)
PCIは、カテーテルを用いて狭くなった冠動脈を広げる治療法で、多くの場合局所麻酔で行われる。手首や鼠径部の血管からカテーテルを挿入し、レントゲンを見ながら心臓の冠動脈まで進める。狭窄部位に到達したら、バルーン付きのカテーテルを挿入し、バルーンを膨らませて血管を内側から広げる。血管が再び狭くなるのを防ぐために、ステントと呼ばれる金属製の筒を留置することが一般的であり、このステントは、薬剤が塗布されている「薬剤溶出性ステント」が主流である。薬剤溶出性ステントは、血管内皮の増殖を抑え、再狭窄率を低下させる効果がある。
②CABG(冠動脈バイパス術)
CABGは、狭窄や閉塞した冠動脈の先に、体の別の場所から採取した健康な血管(グラフト)をつなぎ合わせ、新しい血液の通り道(バイパス)を作る外科手術で、一般的に全身麻酔で行われる。まず、胸骨を切り開いて心臓に到達し、人工心肺装置を使用して心臓を一時的に止めて行われることが多いが、心臓を動かしたまま行うオフポンプCABGもある。グラフトは、内胸動脈や大伏在静脈などがよく用いられる。複数本の冠動脈に病変がある場合や、病変が複雑でPCIでは対応が難しい場合などに選択される。
看護のポイント
症状の観察と評価
胸痛の部位、性質、強さ、持続時間、放散痛の有無、随伴症状(息切れ、吐き気、冷や汗など)を注意深く観察し、記録する。不安定性狭心症には運動負荷試験は禁忌(心筋梗塞に進展させる危険がある)のため、最近の症状発症パターンが重要となってくる。
バイタルサインの管理
血圧、脈拍、呼吸数、SpO2などを定期的に測定し、異常がないか確認する。特に、血圧の変動や不整脈の出現に注意が必要。
薬剤の管理と効果・副作用の観察
医師の指示に基づき、正確に薬剤を投与する。薬剤の効果(症状の緩和など)と副作用(頭痛、ふらつき、出血傾向など)を注意深く観察し、特に抗血小板薬や抗凝固薬による出血には注意が必要。
精神的なサポート
不安定性狭心症は生命に関わる可能性のある疾患であり、患者は強い不安を感じていることが多い。患者の話を傾聴し、不安な気持ちに寄り添い、安心して治療を受けられるように精神的なサポートを行っていく。
心臓カテーテル検査やPCI前後の看護
検査や治療について分かりやすく説明し、同意を得る援助を行う。検査後は、穿刺部位の止血確認、安静の保持、バイタルサインの頻回な測定、気分不快の有無などを観察する。
生活習慣の改善への指導
退院後も再発予防のために、禁煙、バランスの取れた食事、適度な運動、ストレス管理などの生活習慣の改善が重要。患者の理解度に合わせて、具体的な指導を行います。