不安定性狭心症について

不安定性狭心症(UAP)について|疾患の概要から看護のポイントまで徹底解説

あずかん

夜勤の巡視中、患者さんから「なんだか胸が重苦しいんだよね…」とナースコールがあった時。それがもし「不安定性狭心症(UAP)」を疑うサインだった場合、一歩対応が遅れればそのまま急性心筋梗塞(AMI)へ移行し、致死性不整脈(Vfなど)を引き起こす可能性があります。

不安定性狭心症は、決して「ちょっと胸が痛いだけの安定した状態」ではありません。今まさに冠動脈の血流が途絶えようとしている「嵐の前の静けさ」です。今回は、この切羽詰まった病態をどうアセスメントし、急変のサインを逃さないか、観察ポイントを紹介していきます。


目次

サクッと復習!疾患の概要

不安定性狭心症(UAP)は、急性心筋梗塞(AMI)と同じく「急性冠症候群(ACS)」という大きなくくりに含まれます。

  • 病態・原因
    冠動脈内のプラーク(脂肪などの塊)が突然破綻し、そこに血栓が付着して血管が「不完全」に詰まりかけている状態です。完全に詰まって心筋が壊死するとAMIになります。
  • 症状
    「労作時だけでなく安静時にも胸痛が起こる」「これまでより発作の頻度が増え、痛みが強い(増悪型)」「ニトロが効きにくい」といった特徴があります。
  • 治療
    いつ完全に詰まってもおかしくないため、厳重な安静(ベッド上排泄など)を保ちつつ、抗血小板薬(バイアスピリンやエフィエントなど)や抗凝固薬(ヘパリン)、硝酸薬の持続点滴を行います。多くの場合、早期の緊急冠動脈造影(CAG)および経皮的冠動脈インターベンション(PCI)の適応となります。

観察ポイント&根拠

観察項目観察ポイント根拠・予測
胸痛の性状と持続時間、ニトロの著効性痛みの種類(圧迫感、絞扼感か)、放散痛(左肩〜顎など)の有無、持続時間(20分以上か)を問診し、ニトログリセリン舌下投与後、何分でどの程度痛みがスケールダウンしたかをカルテに記録する。【プラーク破綻による血栓性閉塞の進行度評価】
安定型狭心症ならニトロ舌下後数分で痛みが消失しますが、UAPでは血栓が物理的に血管を塞ぎかけているため、ニトロ(血管拡張)だけでは痛みが完全に取り切れない、あるいは20分以上持続することがあります。これはAMIへの移行を強く疑うサインです。
12誘導心電図のリアルタイムな変化胸痛発作時、即座に12誘導心電図を記録し、前回の非発作時の波形と並べて比較する。 ST低下や陰性T波の新規出現がないか、あるいはST上昇(STEMI)に移行していないかを確認する。【心筋虚血の部位と重症度の同定】
UAPでは心筋の心内膜下虚血を反映して「ST低下」が見られますが、これが「ST上昇」に変わった瞬間、貫壁性虚血(STEMI:ST上昇型心筋梗塞)へ移行したことを意味します。医師への緊急コール(SBAR)の最大の根拠となります。
心筋逸脱酵素(トロポニン、CK-MB)の推移採血データにおいて、心筋特異性の高いトロポニンT/Iや、CK、CK-MBが時間経過とともに上昇してこないか、数時間ごとの推移を追う。【NSTEMI(非ST上昇型心筋梗塞)との鑑別】
UAPとNSTEMIは心電図(ST低下)や症状がそっくりですが、「心筋がすでに壊死しているか」が違います。トロポニンが陽転化してきたら、すでに微小な心筋壊死が始まっている(NSTEMIに移行している)証拠であり、より緊急度の高いカテーテル治療の適応となります。

もし患者さんがこう言ったら、どう対応する?

「さっきニトロ舐めたら痛みが落ち着いたから、歩いてトイレに行ってきてもいい?」
不安定性狭心症疑いで入院直後、胸痛が一旦落ち着いた患者さんから非常に多く聞かれる訴えです。

言葉の裏にあるニードと病態のギャップ
患者さんは「痛みが消えた=治った、もう大丈夫」と錯覚しており、ベッド上でのポータブルトイレや尿瓶での排泄に対する強い羞恥心と抵抗感を持っています。しかし血管の中は、破綻したプラークに血栓がぶら下がり、今にも血流が完全にストップしそうな「綱渡り状態」です。歩行という労作(心筋の酸素需要増加)が、致命的なトドメを刺すリスクがあります。

対応アクションと会話例

  • NG対応: 「絶対安静の指示が出ているので、絶対に歩かないでください!」
  • OK対応: 「痛みが落ち着いて本当によかったですね。でも、心臓の血管はまだ『かさぶたが剥がれかけて血が止まりにくい、とても不安定な状態』なんです。今歩いて心臓に負担をかけると、完全に血管が詰まって心筋梗塞になってしまう危険が高い時期です。トイレのことは私たちが全力でサポートしてプライバシーも守りますから、今だけは心臓を休ませるためにベッドの上でお願いできませんか?」
    • なぜ安静が必要なのかを「かさぶた」などに例えて視覚的にイメージさせ、羞恥心に配慮する姿勢を示すことで、納得して安静を守ってもらいやすくなります。

現場で差がつく看護のコツ

工夫・コツ・アイデア具体的な手技・環境調整期待される効果・メリット
12誘導心電図の電極位置のマーキング初回の12誘導心電図をとる際、V1〜V6の胸部誘導の位置に油性ペンで小さな点(マーキング)をつけておく。UAPの評価は「前回との波形の変化」が命です。電極を貼る位置が1肋間ズレるだけで波形が変わってしまうため、マーキングにより誰がとっても同じ位置で記録でき、虚血の微細な変化を正確に評価できます
ニトロ舌下時の「臥位」の徹底とルート確保ニトログリセリンを舌下投与する際は、必ず患者をベッドに寝かせた状態(臥位)で行い、可能なら事前に静脈ルートを確保しておく。ニトロの強力な血管拡張作用により、急激な血圧低下(脳虚血による失神)を起こすリスクがあります。立位や坐位での投与を避け、万が一ショック状態になった際もすぐに昇圧剤などの輸液指示に対応できます。
ベッド周囲の導線と急変時デバイスの配置確認受け持ち開始時、ベッドの頭側のスペースを確保し、除細動器(DC)と救急カートが病室に最も早く搬入できる動線上の障害物(オーバーテーブルなど)を避けておく。UAPからAMIへ移行し、致死性不整脈(VfやVT)が発生した場合、数分以内の除細動が生死を分けます。急変が起きてから片付けるのではなく、「いつでもDCを入れられる状態」を作っておくのがプロの危機管理です。

新人さんが陥りやすいミスへの対策

新人の頃、「患者さんが胸が痛いって言ってます!」と焦って、バイタルも測らずに指示通りのニトロを舌下させようとしそうになったこと、ありませんか?

胸痛=すぐニトロ、と反射的に動いてしまう気持ちはとてもよく分かります。でも、もしその時、患者さんがすでに心原性ショックや右室梗塞を起こしていて血圧が触知不能なレベルまで下がっていたら……そこに血管拡張薬であるニトロを入れることは、致命的な血圧低下を招く行為になってしまいます。

「胸が痛い」という訴えを聞いたら、まず患者さんの元へ走る。
そして「SpO2と血圧を測定しながら、同時に12誘導心電図の準備を応援のスタッフに頼む」。

このセット行動が息をするようにできるようになれば、あなたのアセスメントは一気にプロの領域に近づきます。
不安定な波形とバイタルの裏にある「心臓の悲鳴」を誰よりも早くキャッチできるよう、明日からの観察にぜひ活かしてみてください。


参考資料

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