コンパートメント症候群について

コンパートメント症候群について|疾患の概要から看護のポイントまで徹底解説

あずかん

「ただの術後疼痛だろう」と痛み止めを使って様子を見ていたら、翌朝には筋肉が壊死して切断を余儀なくされた……。そんな最悪のシナリオが、実際に起こり得るのがコンパートメント症候群の怖さです。
患者さんの四肢を守れるかどうかは、医師の診断の前に、私たち看護師の「異常の検知」と「スピード」にかかっています。
今回は、教科書的な5Pの暗記だけでは対応しきれない、現場の「肌感覚」に近い観察と判断のポイントを紹介します。

目次

サクッと復習!疾患の概要

  • 病態: 外傷や圧迫により、筋肉・血管・神経が含まれる「コンパートメント(筋区画)」の内圧が上昇。循環障害が生じ、組織が虚血・壊死に陥る緊急病態です。
  • 原因: 骨折(特に下腿骨、前腕骨)、打撲、ギプスや弾性包帯による過度な圧迫、熱傷、長時間の手術体位など。
  • 症状(5P徴候)
    1. Pain(疼痛): 鎮痛薬が効かない激痛、他動伸展痛。
    2. Paresthesia(知覚異常): 痺れ、感覚鈍麻。
    3. Pallor(蒼白): 血行障害による皮膚色変化。
    4. Paralysis(運動麻痺): 筋肉の機能不全。
    5. Pulselessness(脈拍消失): 末梢動脈の触知不能(※これは末期症状です)。
  • 治療: 減圧処置(ギプス・包帯の除去)。改善しない場合は、緊急手術による筋膜切開が絶対適応となります。Time is Muscle(時間は筋肉)であり、発症から数時間以内の処置が生死(肢)を分けます。

観察ポイント&根拠

観察項目観察ポイント根拠・予測
他動伸展痛
(Pain on passive stretch)
患者さんの足指や手指を把持し、他動的に(看護師の手で)逆方向へ反らす(伸展させる)。
その瞬間に「痛い!」と顔をしかめるか確認する。
【最重要・早期サイン】
自発痛よりも早く出現する兆候です。虚血に陥った筋肉が引き伸ばされることで激痛が生じます。鎮痛薬を使用した後でも、この所見がある場合はコンパートメント症候群を強く疑い、直ちに医師へ報告します。
疼痛の質の変化と鎮痛薬の効果NRSの変化に加え、「鎮痛薬を使用して30分後もNRSが8〜10から下がらないか」を確認する。
「ズキズキ」から「焼け付くような(Burning)」痛みへの変化を聞き取る。
通常の術後痛であれば、オピオイドやNSAIDsで一時的にでも軽減します。「薬が全く効かない」「むしろ悪化している」という訴えは、組織虚血による神経性の疼痛を示唆しており、危険信号です。
患部の硬さと腫脹患部(下腿や前腕)を直接触診し、「パンパンに張ったタイヤ」や「石のような硬さ」になっていないか確認する。
健側と比較して明らかに硬度が高いか評価する。
コンパートメント内圧の上昇を物理的に確認します。皮膚が光沢を帯びてテカテカしている場合、内圧は相当高まっています。メジャーでの周径測定も有効ですが、触診による硬度の変化の方が急激な内圧上昇を捉えやすいです。
2点識別覚の低下クリップなどを2本に広げ、指先や足先に当てて「2点で触られているか、1点に感じるか」を閉眼状態で答えてもらう。
(※健側と比較する)
単なる「痺れ」の有無よりも客観的です。虚血による神経障害は、触覚よりも先に識別覚のような微細な感覚から障害され始めます。感覚脱失(Anesthesia)になる前の段階で捉えるための手法です。

もし患者さんが「痛み止めが効かない」と言ったら?

骨折術後やギプス固定中の患者さんが、ナースコールで切迫した様子でこう訴えました。
「さっき座薬を入れてもらったのに、全然痛みが引かない。もっと強い薬をください!」
この時、「術後だから痛いのは仕方ないですよ」「時間は空けないといけないので我慢してください」と返すのは、コンパートメント症候群を見逃す致命的な対応です。

言葉の裏にあるニード
この訴えは、「ただの痛み」ではありません。「自分の体の中で何かがおかしいことが起きている」という身体からのSOS(恐怖と異常事態)です。
患者さんは通常の痛みと、虚血による痛みの違いを本能的に感じ取っています。

対応アクションと会話例

  1. 否定せず、直ちに訪室・評価する(スピード勝負)
    • 「お薬が効かないほどの痛みなんですね。ただの痛みではないかもしれないので、すぐに傷の状態を見に行きます。」
  2. 具体的なアセスメント(他動伸展テスト)
    • 「布団をめくりますね。ちょっと足の指を私の手で動かしますよ。……(指を反らせる)……これ、痛いですか?」
  3. 医師への報告(SBAR)
    • (激痛がある場合)「〇〇先生、〇号室の患者さんですが、鎮痛薬無効の激痛があり、他動伸展痛が著明です。足背動脈は触れますが、下腿がパンパンに硬いです。コンパートメント症候群の疑いがあるため、今すぐ診察をお願いします。」

現場で差がつく看護のコツ・ポイント

工夫・コツ・アイデア具体的な手技・環境調整期待される効果・メリット
患肢の高さは「心臓と同じ高さ」へ疑いがある場合、過度な挙上(枕を何個も重ねるなど)は中止し、心臓と同じレベル(Level with heart)に戻す。意外かもしれませんが、コンパートメント症候群(またはその疑い)において過度な挙上は禁忌に近い場合があります。灌流圧を下げてしまい、虚血を助長させるリスクがあるためです。
ギプス・包帯の「全層」カット準備医師が到着する前に、ギプスカッター、剪刀、スプレッダーをベッドサイドに準備しておく。
包帯の場合は、皮膚に食い込んでいる部分がないか確認する。
減圧が必要と判断された瞬間、1分1秒でも早く圧迫解除するためです。包帯や綿包帯(下巻き)も含めて皮膚まで到達するように全て切開しないと減圧効果が得られません。
マーキングによる経時的観察腫脹や発赤の境界線、あるいは知覚鈍麻の範囲を油性マジックで皮膚に直接マーキングし、時間を記入しておく。交代勤務の看護師間で「どこまで広がったか」を客観的に共有できます。「なんとなく広がった」ではなく「1時間で3cm近位まで拡大した」という事実は、緊急手術の決断を後押しする強力な根拠になります。

新人さんが陥りやすいミスへの対策

新人さんがコンパートメント症候群の観察で、一番やってしまいがちな「勘違い」があります。それは、「足背動脈が触れるから、血流は大丈夫だ」と判断してしまうことです。
私も経験がありますが、新人の頃はどうしても「脈がある=生きている=血流OK」という図式で考えてしまいがちです。しかし、コンパートメント症候群において、動脈拍動の消失(Pulselessness)は、筋肉がすべて壊死した後の「最後のサイン」なんです。

脈が触れなくなってから報告したのでは、もう手遅れ(切断のリスクが高い状態)だと思ってください。
「脈は触れるけれど、指を動かすと激痛が走る」
この段階で気づき、騒ぎ立てることができるのが、本当に優秀な看護師です。「先生を呼んで何もなかったら怒られるかも……」なんて思う必要はありません。
空振り三振は大歓迎。患者さんの足を守るために、その違和感を信じて声を上げてくださいね。

参考資料
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