小脳出血について

小脳出血について|疾患の概要から看護のポイントまで徹底解説

あずかん

小脳出血は被殻出血や視床出血と違い、麻痺が出にくいぶん、「ただのめまいかな?」「胃腸炎かな?」と初動が遅れがちです。しかし、小脳は後頭蓋窩という狭いスペースにあるため、ひとたび腫れると脳幹を直接圧迫し、突如として呼吸停止に至るという恐ろしい時限爆弾のような性質を持っています。
今回は、そんな小脳出血について、クリニカルな視点で「ここを見逃すとマズイ」というポイントを紹介します。教科書には載っていない「現場の肌感覚」を、ぜひ明日の看護に活かしてください。


目次

サクッと復習!疾患の概要

  • 病態
    • 後頭蓋窩にある小脳実質の出血。出血や浮腫が増大すると、前方にある第4脳室を閉塞し、急性閉塞性水頭症や脳幹圧迫を来します。
  • 原因
    • 高血圧性脳出血が最も多く、その他に脳動静脈奇形(AVM)、アミロイドアンギオパチーなどが挙げられます。
  • 症状:
    • 突発する回転性めまい(Vertigo)、激しい悪心・嘔吐。
    • 後頭部痛(突然殴られたような痛み)。
    • 体幹失調(Truncal ataxia): 四肢の麻痺はないのに、座位や立位が保てない。
  • 治療:
    • 保存的治療: 血腫径が3cm未満で水頭症がない場合。厳格な降圧療法(SBPR管理)と抗脳浮腫薬投与。
    • 外科的治療: 血腫径が3cm以上、あるいは水頭症や脳幹圧迫所見がある場合。開頭血腫除去術や、水頭症に対する脳室ドレナージ(EVD)が選択されます。

観察ポイント&根拠

観察項目観察のポイント根拠・予測
呼吸パターンの変調SpO2の数値だけでなく、呼吸のリズムと深さを目視で確認する。
・不規則な呼吸になっていないか
・浅速呼吸や無呼吸が混在していないか
小脳の前方には呼吸中枢がある「延髄・橋」が存在します。血腫による脳幹圧迫が始まると、意識レベル低下より先に失調性呼吸が出現することがあります。これは呼吸停止の切迫サインです。SpO2が下がるのを待っていては手遅れになります。
瞳孔不同と対光反射ペンライトを使用し、縮瞳の有無と、対光反射の迅速性を確認する。同時に眼振の有無を見る。脳幹(特に橋)への圧迫が進むと、瞳孔は著明に縮小(縮瞳)し、対光反射が消失します。また、小脳症状としての眼振も重要ですが、瞳孔所見の変化は脳ヘルニアの進行を示唆する緊急事態のサインです。
JCS・GCSの微細な変化
(特に覚醒度)
「なんとなく眠そう」で見過ごさない。
「〇〇さん」と呼名した際、開眼のスピードが遅くないか、会話の辻褄が合うかを確認する。
急性水頭症の併発により頭蓋内圧(ICP)が亢進すると、意識レベルは急速に悪化します。さっきまで会話できていたのに、30分後にはJCSⅡ桁〜Ⅲ桁へ急降下するのが小脳出血の怖さです。
頭痛・嘔気の増強NRSを確認する際、「さっきより痛いか」「吐き気止めを使っても治まらないか」を確認する。単なる症状ではなく、ICP亢進症状としての頭痛・嘔気です。鎮痛・制吐処置に抵抗する増悪傾向は、血腫増大や水頭症の進行(第4脳室の閉塞)を強く疑う根拠となります。

もし患者さんが「眠いから寝かせて」と言ったら?

入院直後、意識レベルはJCSⅠ-1(清明)だった患者さんが、数時間後にこう言いました。
「めまいが酷くて気持ち悪い…。なんだか急に眠くなってきたから、電気を消して寝かせてくれないか」
ここで「疲れが出たんでしょうね、ゆっくり休んでください」とナースコールを握らせて退室するのは、絶対にNGです。

言葉の裏にあるニードとリスク
「眠い」という訴えは、生理的な睡眠欲求ではなく、意識レベルの低下(JCSⅠ-3〜Ⅱ-10への移行)である可能性が極めて高いです。また、「電気を消して」は羞明であり、髄膜刺激症状やICP亢進に伴う不快感の表れかもしれません。

対応アクションと会話例

  1. 即座にアセスメント(介入)
    • 「眠いのですね。休む前に、少しだけお目目を見せてください。(と言いながら瞳孔と対光反射、握力を確認)。お名前と生年月日をもう一度教えていただけますか?」
  2. 意識レベルの客観的評価
    • 会話が成立するか、呂律が回っているか(構音障害の悪化がないか)を確認します。
  3. 医師への報告(SBAR)
    • もし少しでも反応が鈍ければ、すぐに医師へ連絡します。
    • 「先ほどまで清明でしたが、傾眠傾向が出現し、本人も『急に眠い』と訴えています。瞳孔不同はありませんが、水頭症の進行が心配です。すぐにCTへ行ける準備をしておきます」

現場で差がつく看護のコツ・ポイント

工夫・コツ・アイデア具体的な手技・環境調整期待される効果・メリット
頭部挙上30度と頚部正中保持ベッドアップ30度を基本とし、枕の高さを調整して頚部が屈曲・回旋しないようにタオルで微調整する。頚静脈の還流を促し、頭蓋内圧(ICP)の上昇を防ぎます。特に頚部の過度な回旋は頚静脈を圧迫し、ICP亢進を招くため、「鼻とおへそが一直線」になるようポジショニングします。
「健側アプローチ」の徹底ナースコール、サイドテーブル、点滴ルートなど、すべてを患者さんが目を開けずに操作できる位置、かつ健側に配置する。小脳出血のめまいは、頭を動かすと増悪します。患者さんが患側を向いたり、無理に体位を変えずに済む環境を作ることで、嘔吐誘発による血圧上昇(Valsalva効果)を防ぎます。
閉眼処置のサポート清拭や着替えの際、「ずっと目を閉じていて大丈夫ですよ。次に右腕を拭きますね」と動作の前に必ず声をかけてから触れる。視覚情報(天井が回る感覚)を遮断することでめまい感が軽減します。ただし、見えない恐怖を与えないよう、音声によるナビゲーションを通常より丁寧に行います。
排便コントロール(いきみ防止)入院早期から緩下剤を使用し、排便時のいきみを回避する。硬い便でのいきみは血圧を急上昇させる。再出血予防の観点から非常に重要です。バルサルバ手技と同様の効果で頭蓋内圧が跳ね上がるのを防ぎます。

新人さんが陥りやすいミスへの対策

新人の皆さん、「麻痺がない=脳卒中は軽症」と無意識に思い込んでいませんか?

ある小脳出血の患者さんが、手足の動きが良いのでトイレ歩行を希望されました。「麻痺はないし、付き添えば大丈夫だろう」と歩行器での移動を許可した瞬間、患者さんは膝から崩れ落ちるのではなく、まるで丸太が倒れるように横へ転倒しそうになりました。
これは「体幹失調」により、身体の平衡感覚が保てなかったためです。

小脳出血の患者さんに対して、MMT(徒手筋力テスト)で手足を握る力だけを見て「筋力OK」と判断するのは危険です。
彼らは「力はあるけれど、コントロールが効かない」状態です。
離床を開始する際は、まず「端坐位(ベッドサイドに座る)」でグラグラせずに姿勢を保てるかを必ず確認してください。体幹が安定していない段階での立位・歩行は、転倒リスクがMAXだと認識しましょう

あずかん

「麻痺がないから大丈夫」ではなく、「麻痺がないのに立てないのが小脳出血」と覚えると、アセスメントの視点が変わりますよ。

参考資料
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