認知症による症状について

認知症による症状について|症状の概要から看護のポイントまで徹底解説

あずかん

急性期病棟であれ療養病棟であれ、「夜間、急に大声を出し始めて他患者さんの睡眠を妨げてしまう」「点滴ラインを何度も引っ張って自己抜去を繰り返す」「車椅子から突然立ち上がって転倒・骨折リスクに晒される」といった認知症患者さんの言動に、対応の限界や難しさを感じたことはありませんか?

これらはすべて、認知症のBPSD(行動・心理症状:いわゆる周辺症状)に分類される言動です。
BPSDは単なる「わがまま」でも「意味のない暴走」でもありません。脳の器質的変化による「中核症状」という生きづらさをベースに、身体的苦痛、環境の変化(入院)、不安、そして周囲の不適切な関わり(抑制や叱責)がトリガーとなって生じる、患者さんからの「必死のSOS」です。

BPSDの陰に隠れた「身体症状」や「満たされない身体的ニーズ」を見落とすと、患者さんはさらなる興奮状態に陥り、医療安全上のインシデント(転倒、自己抜去)や、せん妄の合併による急激な全身状態の悪化を招きます。


目次

【保存版】観察項目&根拠

観察項目観察ポイント根拠・予測
下腹部の膨隆・硬さと、最終排便日・排尿パターンの照合衣類の上からではなく、直接下腹部を露出させ、恥骨上窩を手のひらで圧迫して弾力のある球状の膨隆(尿閉)がないか触診する。同時に左下腹部を触診し、宿便による硬い便塊の有無や、S状結腸の張りを評価する。【身体的苦痛(排泄障害)によるBPSD誘発の除外】
認知症患者さんは、中核症状(失語や感覚統合障害)のために「お腹が張って痛い」「便が出なくて苦しい」という内受容感覚の苦痛を言語化できません。この満たされない身体的ニードが、焦燥感や興奮、夜間不穏、点滴の自己抜去といったBPSDとして表出されます。下腹部アセスメントにより導尿や摘便を行い、苦痛を取り除くことで、鎮静薬を使うことなくBPSDが即座に消失することが多々あります
深部体温、SpO2、尿の性状(混濁・異臭)のトリプルチェックバイタルサイン測定時、腋窩をしっかり拭いて体温を実測する。SpO2値の低下がないか確認し、おむつ内や排尿バッグ内の尿を直接視診して「混濁がないか」「ツンとするアンモニア臭や腐敗臭(異臭)がないか」を嗅診する。【せん妄を合併させる潜在的身体疾患の検出】
認知症患者さんは予備能が著しく低いため、軽度の尿路感染症(UTI)、血管内脱水、誤嚥性肺炎などを契機に、容易に「せん妄」を合併してBPSDが劇的に悪化します。尿混濁や体温の微増(ベースラインからの上昇)をキャッチし、早期の加水や抗菌薬投与へと繋げることで、急激な不穏・興奮状態への移行を未然に防ぎます。
パーキンソニズム、錐体外路症状(レビー小体型認知症などに特有)と転倒リスク起立時や歩行開始時に「一歩目がすくんで出ない(すくみ足)」「小刻みで前傾姿勢の歩行(前屈・小股歩行)」「関節を動かした際の歯車様の抵抗感(筋強剛)」がないか、直接患者さんの動作や関節可動域を評価する。【運動機能障害(身体症状)に伴う転倒・骨折の回避】
特にレビー小体型認知症(DLB)や脳血管性認知症(VaD)では、パーキンソニズムや運動失調を合併します。中核症状としての「注意障害」や「自己の身体能力の過大評価」が重なるため、転倒・骨折のリスクが極めて高くなります。身体症状の程度を把握し、靴の適合やベッド周囲の障害物除去、移動時の介助レベルを個別に設定する必要があります
抗精神病薬や抗不安薬、睡眠薬の服薬状況と副作用の有無カルテの処方歴を確認し、新規に開始された薬剤(特にセレネースやリスパダールなどの抗精神病薬、ベンゾジアゼピン系薬剤)がないかチェックする。服薬後の「日中の過度の傾眠」「流涎の増加」「嚥下反射の低下」が起きていないか観察する。【薬剤性せん妄・過鎮静による誤嚥性肺炎の防止】
BPSDに対して処方された抗精神病薬や抗不安薬が、かえって脳の逆説反応を招き「薬剤性せん妄」を引き起こして不穏を悪化させることがあります。また、過鎮静(過度の傾眠)は活動性を低下させ、嚥下筋の麻痺や咳嗽反射の低下を招き、深夜・明け方の不顕性誤嚥による肺炎を引き起こすトリガーになります。

現場で役立つ+αの看護ポイント

「物取られ妄想」への臨床的アプローチ:否定も肯定もしない第三の道

アルツハイマー型認知症(AD)の患者さんから「財布をあんたに盗まれた!」と激しく詰め寄られた際、「私は取っていません」と否定(論理的説得)するのは禁忌です。患者さんの脳内では「財布がない=誰かに盗まれた」という回路が中核症状(短期記憶の喪失)によって固定されており、否定されることは「嘘をつかれている」という恐怖と怒りに繋がります。

  • 手技のコツ
    患者さんの目線よりも低い位置にしゃがみ、まずは「大切なお財布がなくなって、本当に困りましたね。不安になりますよね」と感情の「器」を受け止めます。
    その上で「私も一緒に探しますね」と共同戦線を張り、一緒に探すプロセスの中で、患者さんの引き出しから「あ、〇〇さん、そういえばこんなに綺麗な写真が出てきましたよ」と、患者さんが関心を持ちやすい別の視覚的刺激へと注意を転換させます。

夕方の不穏(黄昏症候群)を「光環境」と「役割」で制御する

午後4時〜6時頃になると「家に帰らなきゃ」「子供が待っている」とソワソワし、出口に向かって歩き出す患者さんが増えます。これは日没による視覚情報の減少(薄暗さによる錯覚)と、自律神経の乱れが原因です。

  • 手技のコツ
    周囲が暗くなり始める前に、病室やデイルームの照明をすべて「昼白色(明るい光)」で全点灯し、人工的に「まだ昼である」という環境を作ります。
    さらに、患者さんに「〇〇さん、少しおしぼりを畳むのを手伝っていただけませんか?」などの役割を提供し、かつて夕方に家庭で行っていた「家事動作(生活リズムの再現)」に意識を集中させることで、見当識障害に伴う焦燥感を自然に和らげることができます。


参考資料

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