脳梗塞について|疾患の概要から看護のポイントまで徹底解説
あずかん受け持ち患者さんの検温やラウンドの際、「さっきまで普通に話せていたのに、なんだか呂律が回りにくそうだな」「お茶のカップを持とうとする手が少し震えているな」と違和感を抱いたことはありませんか?
脳梗塞は、私たちのちょっとした「気づき」の遅れが、その後の高次脳機能障害や運動麻痺といった生涯残る後遺症の重症度、最悪の場合は生命予後を左右する、一刻を争う時間との勝負(Time is Brain)の疾患です。
「脳梗塞」と一言で言っても、実はその発症機序や背景にある病態は多岐にわたります。今回は、明日からのベッドサイドで「これ、いつもと違う!」と自信を持って動き、的確にアセスメントするための実践的な思考プロセスを紹介します。
サクッと復習!疾患の概要
脳梗塞は、脳血管の閉塞や狭窄によって脳血流が途絶え、脳組織が虚血性壊死に陥る病態です。臨床では、以下の主要な病型・類縁疾患を鑑別しながら治療を進めます。
脳梗塞の主要な3つの病型
アテローム血栓性脳梗塞
病態
高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病を背景に、頸動脈や脳内の太い動脈の動脈硬化(アテロームプラーク)が進行。そこに血栓が形成されて血管が閉塞、あるいはプラークが剥がれて末梢へ飛ぶことで発症します。
特徴
夜間から早朝の安静時に、段階的に症状が進行(漸増型)することが多く、前駆症状としてTIA(一過性脳虚血発作)を伴うことがあります。


心原性脳塞栓症
病態
心房細動(AF)などの不整脈や心臓弁膜症、陳旧性心筋梗塞などにより、左心房内で形成された血栓が血流に乗って脳の主幹動脈(中大脳動脈など)に流れ込み、突然血管を閉塞します。
特徴
日常活動時に突然発症し、数秒〜数分で症状が完成します。塞栓子が大きく広範囲の虚血(出血性梗塞を合併しやすい)となるため、重症化しやすいのが特徴です。


ラクナ梗塞
病態
主に高血圧を原因とし、脳の深部を貫く細い動脈(穿通枝)が変性・閉塞して生じる、直径15mm未満の小さな梗塞です。
特徴
意識障害などの全脳症状はほぼなく、純粋な運動麻痺(片麻痺)や感覚障害、構音障害などが段階的・緩徐に出現します。
注意すべきその他の脳血管病態
解離性脳動脈瘤(脳動脈解離)
病態
血管壁の最内層(内膜)に亀裂が入り、内膜と中膜の間に血液が流れ込んで血管壁が裂ける病態です。椎骨動脈に好発します。
特徴
若年〜中高年の脳梗塞・くも膜下出血の重要な原因です。発症時に「突然の後頭部〜頸部の激しい痛み」を伴う脳虚血症状が特徴的です。


もやもや病(ウィリス動脈輪閉塞症)
病態
内頸動脈終末部が両側性に進行性に狭窄・閉塞し、その代償として脳底部に異常な細血管網(もやもや血管)が発達する先天的な要因の強い疾患です。
特徴
小児期から青年期、あるいは40代に好発します。過換気(息を吹きかける動作、熱いラーメンをフーフーすする、泣くなど)によって脳血管が収縮し、一過性の脱力発作(TIA)を引き起こすのが典型例です。
急性期治療の基本
発症から4.5時間以内であれば静注用アルテプラーゼによる遺伝子組み換え組織プラスミノーゲンアクチベーター(rt-PA)静注療法が検討され、脳主幹動脈閉塞症に対しては発症24時間以内(症例基準による)であれば機械的血栓回収療法(血管内治療)が行われます。
観察ポイント&根拠
| 観察項目 | 観察のポイント | 根拠・予測 |
|---|---|---|
| NIHSS(米国国立衛生研究所脳卒中スケール)に準じた神経所見の経時的評価 | 毎勤務での申し送り時、単に「麻痺の悪化なし」で済ませず、「注視偏向(共同偏視)」「視野欠損(対面法)」「顔面麻痺(イーと言ってもらう)」「上肢・下肢のバレー徴候(回内・沈下)」「構音障害」をプロトコル通りにスコアリングし変化を見る。 | 【超急性期における梗塞巣の拡大・ペナンブラ域壊死の察知】 脳血流量が局所的に低下している「ペナンブラ(救済可能な虚血境界領域)」は、血圧変動や脱水によって容易に完全壊死に移行します。NIHSSの合計点が数時間前より2点以上上昇した場合は、血管の再閉塞や虚血域の拡大が生じている徴候であり、直ちに医師へ報告し再灌流療法の再検討を仰ぎます。 |
| 心電図モニターの波形解析と収縮期血圧(sBP)の厳格なモニタリング | 心電図モニター上で新規の心房細動(af)波形が出ていないか、また医師が設定した管理血圧制限(例:t-PA施行後であれば180/105mmHg未満、非適応の超急性期であれば220/120mmHg以下で側副血行路を維持など)を満たしているか、トレンドデータでチェックする。 | 【新規栓塞源の発生検知と出血性梗塞・ペナンブラ虚血の防止】 無症候性の発作性心房細動(PAF)が新規の心原性脳塞栓を引き起こすリスクがあります。また、急性期の血圧急上昇は、壊死に陥った脆弱な脳血管を破綻させ、致死的な「出血性梗塞」を誘発します。逆に、過度な降圧はペナンブラ域の血流を途絶させ梗塞を拡大させるため、指定された管理血圧内に維持することが極めて重要です。 |
| 意識レベルの低下(JCS、GCS)と瞳孔不同の有無 | 刺激に対する開眼反応や対光反射、瞳孔径(mm)の左右差、および眼球が一方に偏っていないか(共同偏視)をペンライトを用いて確認する。 | 【脳浮腫のピーク期におけるヘルニア移行の早期察知】 大きな梗塞巣(特に中大脳動脈狭窄による広範な梗塞)では、発症後2〜5日目に脳浮腫がピークを迎えます。意識レベルの段階的低下や片側瞳孔の散大(瞳孔不同)は、腫脹した脳組織が動眼神経を圧迫する「鉤ヘルニア」の初期徴候です。これを見逃すと不可逆的な脳幹損傷に繋がります。 |
もし患者さんからこう言われたら、あなたはどう行動する?
病棟や外来、あるいは脳卒中リスクのある入院患者さんのラウンド中に、「なんだか急に、右側の手足に力が入らなくなって、スマートフォンの画面が二重に見えるような気がする…」といった訴えを聞いた場面を想定します。
対応アクションと会話例
- 対応例
- 患者さんをその場に安静(平臥位。誤嚥リスクがなければベッドアップはせず脳灌流を維持)にし、即座に動くのを止めさせます。
- 「最後に正常であった時間(Last Known Well:LKW)」を確認し、JCS/GCS、瞳孔、構音障害の有無を確認。
- すぐに他スタッフにコールしてもらい、医師へ「脳卒中超急性期(FASTサイン陽性、複視あり、LKW:〇時〇分)」としてSBAR報告し、rt-PA点滴準備および緊急頭部MRI/CTのセットを立ち上げます。
- 会話例
「〇〇さん、手足に力が入りにくくなって、見え方もおかしいんですね。急なことでとてもびっくりされていますよね。今、頭の血管の巡りを調べる準備を急いで進めています。これ以上症状が進まないように、今は頭を低くして平らに寝たまま、動かずにリラックスしていてください。私がずっとそばにいますから、息をゆっくり吐きましょう。」
現場で差がつく看護のコツ
| 工夫・コツ・アイデア | 具体的な手技・環境調整 | 期待される効果・メリット |
|---|---|---|
| 脱水防止のための「不感蒸泄を考慮した水分バランス」とシリンジポンプでの維持管理 | 経口摂取ができない急性期、点滴ラインの側管から医師が指定した速度で正確に補液を行い、発熱時や頻呼吸時は不感蒸泄量を計算に上乗せしてインアウトバランスを「わずかにプラス〜パラ(均衡)」にコントロールする。 | 【血液粘稠度上昇による閉塞再発の予防】 特に急性期は、脱水によって血液が濃縮(ドロドロ化)すると、ペナンブラ域の血流が停止し、容易に梗塞範囲が再拡大します。厳密な水分管理が梗塞の進展を防ぐ最良の治療環境を作ります。 |
| もやもや病患者への「過換気(フーフー)を徹底的に避ける環境」 | 食事提供時、スープやみそ汁、お粥は必ず常温〜ぬるめの温度に冷ましてから配膳する。リハビリや泣く、興奮するなどの息が上がる動作(過換気)が起きないよう、ケア前には先回りして疼痛緩和や不安軽減の介入を行う。 | 【もやもや血管収縮による脱力発作(虚血)の防止】 熱いものを冷ますための「フーフー」と息を吹きかける動作は、血液中の二酸化炭素濃度を低下させ、代償的に脳血管を急激に収縮させます。これが脱力や意識障害を誘発するため、物理的に冷ました食事の提供が最大の防御策となります。 |
| 麻痺側を下にしない「良肢位保持(ポジショニング)」と「麻痺側への注意喚起」 | ベッド上での側臥位時は、麻痺側を上にして肩甲骨と骨盤を前方へ引き出し、クッションで腕と脚をニュートラルに支える。また、ベッドサイドのテレビや家族が立つ位置、看護師の声かけは「健側」から行い、逆に食事のトレーなどは「麻痺側」に少し寄せて認知(半側空間無視への段階的アプローチ)を促す。 | 【肩関節亜脱臼・褥瘡の予防と、半側空間無視(USN)へのアプローチ】 麻痺した肢位がベッドに押し潰されると、痛覚のない麻痺側は容易に神経圧迫や関節亜脱臼、褥瘡を引き起こします。適切なポジショニングが二次的障害を防ぎ、早期リハビリへの移行を可能にします。 |
新人さんが陥りやすいミスへの対策
新人の頃って、脳梗塞の患者さんを担当すると「麻痺側の手足が動くかどうか」ばかりに注目してしまい、患者さんの「呂律の微妙な引っかかり」や「いつもより目が合いにくい(視線が健側に固定しがち)」といった小さな変化を見過ごしてしまいがちですよね。そして数時間後に先輩が見に来て「これ、注視偏向があるじゃない!梗塞が広がってるよ!」と指摘されて青ざめる……これは多くのナースが経験する失敗です。
脳の血管が詰まると、最初に現れるのは目に見える大きな麻痺ではなく、「なんだか視線が合わない」「言葉の選択が少し不自然」「水を飲むときにわずかにむせる」といった、とても細かな神経症状の“ゆらぎ”です。
「いつもと何かが違う」というあなたの五感のセンサーは、脳血流が途絶えかけていることを知らせる最強のアラームです。
「麻痺が1から2に悪化した」という結果を見るのではなく、日々の関わりの中で「普段のその人(ベースライン)」の表情や声、視線の動きを頭に焼き付けておいてくださいね。あなたの鋭い観察眼が、患者さんの生活を守る最初の盾になります!