アテローム性脳梗塞について

アテローム血栓性脳梗塞|病態から看護のポイントまで

脳梗塞の中でも頻度の高い「アテローム血栓性脳梗塞」。高齢化社会において、その患者数は増加傾向にあります。看護学生や新人看護師にとって、この疾患の深い理解は、質の高い看護実践のために不可欠です。
この記事では、アテローム血栓性脳梗塞の基礎知識から看護のポイントまで、分かりやすく解説します。

目次

血管の中で何が起きているのか

アテローム血栓性脳梗塞は、脳の太い血管(主幹動脈)の動脈硬化が根本的な原因です。この動脈硬化が起こるプロセスを「アテローム硬化」と呼びます。

  1. アテローム(粥腫)の形成
    高血圧や脂質異常症、糖尿病などの影響で血管の内側の壁(内皮細胞)が傷つきます。すると、血液中の悪玉コレステロール(LDLコレステロール)などが傷ついた部分に入り込み、アテローム(粥腫)というかたまりを形成します。これは、おかゆ(粥)のようなドロドロした見た目から名付けられました。
  2. 血管の狭窄
    アテロームは時間とともに大きくなり、血管の内腔を徐々に狭くしていきます(狭窄。これにより、その血管が栄養する脳への血流が慢性的に不足気味になります。
  3. 血栓の形成と血管の閉塞
    何らかのきっかけでアテロームが破れると、その傷を修復しようと血小板が集まり、血栓が形成されます。この血栓が急速に大きくなって血管を完全に塞いでしまう(閉塞と、その先の脳細胞に血液が届かなくなり、壊死してしまいます。これがアテローム血栓性脳梗塞の発症機序です。

また、アテロームから剥がれた小さな血栓が末梢の細い血管に飛んで詰まること(塞栓)もあります。

なぜアテローム硬化は進むのか

アテローム血栓性脳梗塞の直接的な原因は、上記の通りアテローム硬化による血管の狭窄・閉塞です。そのアテローム硬化を促進させる危険因子としては、以下の生活習慣病が挙げられます。

  • 高血圧:常に血管に高い圧力がかかることで、血管壁が傷つきやすくなります。
  • 脂質異常症(高コレステロール血症):血液中の悪玉コレステロールが多いと、アテロームの材料が増え、プラークが形成されやすくなります。
  • 糖尿病:高血糖の状態は血管内皮を傷つけ、動脈硬化を強力に促進します。
  • 喫煙:タバコに含まれる有害物質は血管を収縮させ、内皮細胞を傷つけます。
  • 加齢:年齢とともに血管は弾力性を失い、硬くなりやすくなります。
  • その他:肥満、運動不足、過度の飲酒、ストレスなども関連します。

これらの危険因子を複数持っていると、動脈硬化はより一層進行しやすくなります。

どの血管が詰まったかで症状は多様

アテローム血栓性脳梗塞の症状は、閉塞した血管の部位と、その血管が栄養していた脳の機能によって決まります。比較的太い血管が詰まることが多いため、症状は広範囲に及ぶことがあります。

代表的な症状(FASTを覚えておこう)

F (Face):顔の麻痺 – 片方の顔が下がる、口角が上がらない、よだれが垂れる。
A (Arm):腕の麻痺 – 片方の腕や足に力が入らない、しびれる。
S (Speech):言葉の障害 – ろれつが回らない、言葉が出ない、他人の言うことが理解できない(失語症)。
T (Time):時間 – 発症時刻を確認し、すぐに救急車を!

その他、以下のような症状も現れることがあります。

  • 半身の感覚障害:片側の手足や顔の感覚が鈍くなる。
  • めまい、ふらつき:小脳や脳幹の血管が詰まった場合に起こる。
  • 視野障害:視野の半分が欠ける(半盲)。
  • 意識障害:重症の場合に見られる。

特徴的なのは、他の脳梗塞タイプ(ラクナ梗塞など)に比べて症状が段階的に悪化したり、一過性脳虚血発作(TIA)を前触れとして起こしたりすることがある点です。

治療・対症療法

治療の原則は、「できるだけ早く血流を再開させ、脳のダメージを最小限に食い止めること再発を予防すること」です。

急性期の治療

  • 血栓溶解療法(t-PA静注療法)
    • 発症4.5時間以内などの条件を満たす場合に行われます。組織プラスミノーゲン・アクチベーター(t-PA)という薬剤を点滴し、血栓を強力に溶かします。
  • 血管内治療(血栓回収療法)
    • 太い血管に詰まった血栓を、カテーテルを用いて物理的に取り除く治療です。発症から24時間以内(条件による)まで適応が広がり、近年多くの患者さんを救っています。
  • 抗血小板療法
    • アスピリンなどの薬剤を用いて、血栓が大きくなるのを防ぎます。
  • 脳保護療法
    • 脳のむくみ(脳浮腫)を防いだり、フリーラジカルを除去したりする薬剤を使用します。
  • その他
    • 呼吸管理、血圧管理、血糖管理、体温管理など、全身状態を安定させるための支持療法も重要です。

慢性期・再発予防

一度脳梗塞を発症すると、再発のリスクが非常に高くなります。そのため、生涯にわたる再発予防が治療の柱となります。

  • 抗血小板薬・抗凝固薬の内服
    • 血液をサラサラに保ち、新たな血栓ができるのを防ぎます。
  • 危険因子の管理
    • 高血圧、脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病を、薬物療法や生活習慣の改善によって厳格にコントロールします。
  • 外科的治療
    • 首の血管(頸動脈)に強い狭窄がある場合、頸動脈内膜剥離術(CEA)や頸動脈ステント留置術(CAS)といった手術で血流を改善させることがあります。

看護のポイント

急性期の看護:変化を見逃さない観察力

  • バイタルサインの厳密な管理
    • 特に血圧は、脳還流を保ちつつ出血のリスクを上げないよう、医師の指示のもとで厳密にコントロールされます。
  • 神経症状の観察
    • 意識レベル(JCS/GCS)、瞳孔所見、麻痺の程度や範囲、言語障害の変化などを経時的に評価し、症状の悪化(脳浮腫の進行など)を早期に発見します。
  • 合併症の予防
    • 誤嚥性肺炎:嚥下障害がある場合、絶食管理や口腔ケアの徹底、ベッドのギャッチアップが重要です。
    • 深部静脈血栓症(DVT)/肺塞栓症(PE):麻痺側の不動によりリスクが高まるため、弾性ストッキングの着用や間歇的空気圧迫法の施行、早期からのリハビリテーションが不可欠です。
    • 褥瘡:体位変換やスキンケアを徹底します。

回復期・慢性期の看護:残存機能の最大化と再発予防

  • リハビリテーションの推進
    • 理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)と連携し、患者の意欲を引き出しながら、ADLの自立に向けた支援を行います。
  • 再発予防に向けた生活指導
    • 服薬指導:なぜ薬が必要なのか、副作用は何かを丁寧に説明し、服薬アドヒアランスを高めます。
    • 食事指導:栄養士と連携し、減塩食や脂質を抑えた食事の必要性を説明します。
  • 精神的・心理的サポート
    • 後遺症による身体機能の喪失は、患者に大きな不安や抑うつをもたらします。受容のプロセスに寄り添い、傾聴を通じて精神的な支援を行います。家族の不安にも耳を傾け、サポート体制を整えることも重要です。
  • 退院支援・社会資源の活用
    • 退院後の生活を見据え、ケアマネジャーやソーシャルワーカーと連携します。介護保険サービスの導入、住宅改修の提案、利用できる社会資源の情報提供など、患者とその家族が地域で安心して生活できるよう支援します。
参考資料
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