シックデイについて|症状の概要から看護のポイントまで徹底解説
あずかん「風邪をひいて食事が摂れない糖尿病患者さん、インスリンはどうしよう」——これは病棟でも在宅療養指導でも、必ず一度は判断を迫られる場面です。
シックデイとは、糖尿病患者さんが発熱・下痢・嘔吐・食欲不振などにより食事摂取が困難な状態を指し、この状態ではインスリン需要と供給のバランスが崩れやすく、急速に代謝失調に陥るリスクがあります。特に危険なのは、「食事が摂れないからインスリンを自己判断で中止する」という患者さんの行動です。1型糖尿病患者さんがインスリンを中断すると、数時間〜半日程度で糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)に至ることがあり、2型糖尿病患者さんでも脱水を背景に高血糖高浸透圧症候群(HHS)へ進行するリスクがあります。
入院中と在宅では、患者さんの状況把握のしやすさ、点滴や採血へのアクセス、対応できるスタッフの有無が全く異なります。この違いを踏まえた対応の分岐点を理解しているかどうかで、シックデイ対応の質が大きく変わってきます。




観察項目&根拠
| 観察項目 | 具体的アクション | その根拠・アセスメント |
|---|---|---|
| 食事摂取量と摂取内容 | 主食・副食それぞれの摂取率(10割・8割・5割など)を記録し、炭水化物の摂取量が普段の何割程度かを推定する | インスリン需要は糖質摂取量と連動するため、摂取率だけでなく糖質量の推定がインスリン量調整(特に速効型・超速効型)の判断材料になる |
| 血糖値の推移 | 通常の測定タイミングに加え、3〜4時間ごとの追加測定を行い、上昇・下降のトレンドを確認する | シックデイでは感染や炎症によるインスリン抵抗性の増大(ストレスホルモンの分泌亢進)で高血糖に傾きやすい一方、食事摂取不良で低血糖にも傾きやすく、両方向への急変を想定した頻回モニタリングが必須 |
| 尿ケトン・血中ケトン体 | 尿試験紙での尿ケトン測定、可能であれば血中ケトン体(β-ヒドロキシ酪酸)を測定する | インスリン作用不足により脂肪分解が亢進し、ケトン体が産生される。尿ケトンは血中ケトンより数時間遅れて出現するため、血中ケトンの方が早期発見に有用という特性を理解しておく |
| 呼吸状態 | 呼吸回数、深く大きい呼吸(クスマウル呼吸)の有無、呼気のアセトン臭を確認する | 代謝性アシドーシスの代償として過呼吸が生じるクスマウル呼吸は、DKAが進行しているサイン。呼吸パターンの変化は血液ガス結果を待たずに気づける重要な所見 |
| 意識レベル | JCS/GCSで評価し、傾眠傾向や応答の遅延がないか経時的に確認する | 高血糖による高浸透圧状態や、アシドーシスの進行は意識障害を引き起こす。意識レベルの変化は緊急(重症度)判断の重要な指標であり、変化に気づいた瞬間に医師への報告を検討する |
| 脱水の身体所見 | 皮膚の緊張度(ツルゴール)、口腔内乾燥、腋窩の湿潤度、尿量を確認する | 高血糖による浸透圧利尿と、発熱・下痢・嘔吐による体液喪失が重複し、急速に脱水が進行する。脱水の進行はHHSへの移行リスクを高める |
| バイタルサイン(血圧・脈拍) | 起立性低血圧の有無を含めて確認し、頻脈の程度と発熱の程度が相関しているかを評価する | 脱水が進行すると循環血液量減少性の頻脈・血圧低下が出現する。発熱の程度に不釣り合いな頻脈がある場合は、脱水や敗血症への進行を疑う視点を持つ |
| 消化器症状の性状 | 嘔吐・下痢の回数、性状(水様性か、血性でないか)、腹痛の有無と部位を確認する | 嘔吐・腹痛はDKA自体の症状としても出現するため、「シックデイの原因(感染性胃腸炎など)による症状」か「DKAによる症状」かの鑑別視点を持つ必要がある |
現場で役立つ+αの看護ポイント
【入院中の対応】
インスリン指示の確認とドクターコールのタイミング
入院中は血糖測定の頻度を上げやすい環境にあるので、シックデイと判断した時点で「スライディングスケールの適用範囲を広げてもらえないか」を主治医に確認しておくと、夜勤帯で血糖値が急変した際にも慌てず対応できます。ドクターコールをする前に、直近の血糖値の推移(2〜3回分)、尿ケトンの結果、食事摂取率、現在の輸液内容をセットで準備しておくと、報告がスムーズです。「血糖値300mg/dLでした」だけでなく、「食事摂取率2割で、3時間前の血糖値が250から300に上昇しており、尿ケトン2+です」という報告の方が、医師がインスリン持続静注への切り替えを判断する材料になります。
夜勤帯でシックデイ患者さんが急変した時の対応
夜間、経口摂取不良の糖尿病患者さんの血糖値が急上昇し、意識レベルの低下やクスマウル呼吸が出現した場合は、DKAを疑ってSBARで報告する準備を並行して進める視点が必要です。血液ガス分析、血糖値、電解質(特にカリウム)の緊急検査をオーダーしてもらえるよう準備しつつ、末梢静脈路の確保状況も確認しておくと、指示が出た瞬間に輸液・インスリン持続静注を開始できます。
【在宅中の対応】
シックデイルールの指導内容
在宅患者さんへの指導では、「食事が摂れない=インスリンを中止する」という誤った判断を防ぐことが最重要です。基礎インスリン(持効型)は原則継続し、食事摂取量に応じて追加インスリン(速効型・超速効型)を調整するというシックデイルールを、具体的な数値とセットで伝えると実行しやすくなります。「絶食に近い状態でも、基礎インスリンだけは自己判断で止めないでください」という伝え方が、患者さんの誤解を防ぎやすい印象があります。
受診・救急要請の判断基準を具体的に伝える
在宅では血糖測定器や尿ケトン試験紙を自宅に常備しているかどうかで対応力が変わるため、外来や退院指導の際に「嘔吐が半日で3回以上続く」「血糖値が350mg/dL以上が続く」「尿ケトンが2+以上」のいずれかがあれば、すぐに医療機関へ連絡するという具体的な数値基準を伝えておくと、患者さん自身が判断に迷わずに行動できます。
電話トリアージでの確認事項
在宅患者さんやご家族から電話相談を受ける場合、「食事は摂れていますか」だけでなく、「水分は摂れているか」「普段のインスリン量からどう変更したか」「尿は出ているか」を具体的に聞き取ると、緊急度の判断材料が増えます。特に「自己判断でインスリンを完全に中止した」という発言があった場合は、DKAへの進行が速い可能性が高いため、受診を強く勧めるタイミングと判断できます。