異常呼吸について
あずかん夜勤中の巡視や、日勤の多忙な業務の中で、ふと「あれ、この患者さんの息遣い、なんか変だな?」と足を止めた経験はありませんか?
モニターのSpO2が98%あっても、患者さんは危機的状況にあることが多々あります。なぜなら、SpO2が下がるのは「呼吸不全の最終結果」であって、身体が必死に代償しようとしている初期段階では数値に現れないことが多いからです。
異常呼吸(チェーンストークス、クスマウル、ビオーなど)を見抜く力は、心停止や脳ヘルニアといった致死的な急変を予測する最強の武器になります。
今回は、「なんとなく変」を「〇〇だから医師へ即報告が必要」という確信に変えるための、アセスメント視点を紹介します。
目次
【保存版】異常呼吸とアセスメント
異常呼吸のアセスメントは「パターン認識」と「原因検索」の同時進行が鉄則です。
モニター画面ではなく、患者さんの胸郭の動き、口元、そして全身を見てください。
| 呼吸パターン | 観察ポイント | 根拠・アセスメント |
|---|---|---|
| チェーン・ストークス呼吸 ※周期的な無呼吸と過換気 | 夜間巡視時に足を止め、30秒〜1分間呼吸を見守る。 「無呼吸(10〜20秒)→徐々に深くなる→再び浅くなる→無呼吸」のサイクルを確認する。 同時に瞳孔不同や対光反射もチェックする。 | 【疑うべき病態:脳幹障害・重症心不全】 呼吸中枢の感受性が低下し、CO2が蓄積しないと呼吸が始まらない状態です。 脳出血や脳梗塞による脳圧亢進(脳ヘルニア切迫)のサインとして有名ですが、実は高齢の重症心不全患者でも循環時間延長により頻発します。 この呼吸を見たら、意識レベルの低下(JCS/GCS)がないか即確認が必要です。 |
| クスマウル呼吸 ※深く、速い、規則的な大呼吸 | 口元のにおい(アセトン臭・腐った果実臭)を嗅ぐ。 血糖値測定を行い、直近の血液ガスデータ(pH, HCO3-, BE)を確認する。 医師へ「代謝性アシドーシスの補正が必要か」を確認する準備をする。 | 【疑うべき病態:糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)・尿毒症】 呼吸器の問題ではなく、高度の代謝性アシドーシスを呼吸で代償しようとしている(CO2を飛ばしてpHを戻そうとしている)生理現象ですSpO2は正常なことが多いですが、体内は酸性に傾き危険な状態です。インスリン投与や透析導入が急務となるため、悠長に酸素投与だけしていても改善しません。 |
| 下顎呼吸 ※顎をしゃくりあげるような動き | 直ちにドクターコールと急変カート(救急カート)の要請を行う。 肩枕を入れて気道を確保し、バックバルブマスク(BVM)を枕元にスタンバイする。 SpO2が表示されていても信用せず、頸動脈の拍動を確認する。 | 【疑うべき病態:死戦期呼吸(心停止直前・直後)】 これは有効な換気が行われていない「あえぎ」であり、臨床的には「呼吸停止」と同義です。 延髄の呼吸中枢機能が破綻した最期の反射的動作であり、「息をしている」と誤認して発見が遅れるケースが後を絶ちません。即座にCPR(心肺蘇生)を開始する判断が求められます。 |
| 奇異呼吸(シーソー呼吸) ※吸気時に胸部が陥没し、腹部が膨らむ | 胸郭と腹部の動きが「逆位相(シーソー状)」になっていないか、布団をめくって確認する。 特に気管挿管後の鎮静下や、胸部外傷の患者で注視する。 聴診で左右差(片側の呼吸音消失)がないか確認する。 | 【疑うべき病態:気道閉塞・フレイルチェスト・横隔膜麻痺】 上気道閉塞(窒息)などで吸気努力が過剰になると、胸腔内陰圧が強まり胸壁が引き込まれます。また、多発肋骨骨折では骨折部がペコペコと陥没します。有効な換気量が激減しているため、早急な気道確保や人工呼吸管理(PEEP付加など)が必要になる緊急サインです。 |
| ビオー呼吸 ※不規則な無呼吸と浅い呼吸 | 髄膜刺激症状(項部硬直・ケルニッヒ徴候)の有無を確認する。 モニター心電図で徐脈(脳圧亢進のサイン)がないか併せてチェックする。 | 【疑うべき病態:髄膜炎・脳幹(橋・延髄)への直接侵襲】 チェーン・ストークス呼吸よりもさらに病状が進行し、呼吸中枢そのものが破壊されかけている極めて予後不良なサインです。 脳ヘルニアの完成間近を示唆するため、気管挿管を含む呼吸管理の準備を最優先で進める必要があります。 |
現場で役立つ+αの看護ポイント
「いびき」は赤信号のサイン
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の既往がない患者さんが、術後や鎮静後、あるいは脳卒中急性期に突然「いびき」をかき始めたら要注意です。これは舌根沈下による上気道閉塞の音です。すぐに「肩枕」を入れるか、下顎挙上を行って気道を確保してください。SpO2が下がるのを待ってはいけません。
呼吸回数の推移を見る
急変の数時間前から、呼吸数は徐々に増えていることがほとんどです。
- 普段14回/分の患者さんが、20回/分→24回/分と推移していたら、それは敗血症やショックの代償機転かもしれません。
- 「SpO2よし、呼吸数24回…まあ大丈夫か」とスルーせず、「なぜ早くなっているのか?(熱?痛み?アシドーシス?)」と自問することが、本当の早期発見につながります。