脳出血によるクッシング現象について|疾患の概要から看護のポイントまで徹底解説
あずかん脳出血急性期の患者さんにおいて、恐れなければならないサインの一つが「クッシング現象(Cushing phenomenon)」です。
これを単なる「バイタル変動」として処理してしまうと、その数分後には脳ヘルニアが完成し、患者さんは不可逆的な転帰(脳死や死亡)をたどる可能性があります。
今回は、教科書的な知識を現場レベルのアセスメントに落とし込み、「医師へ報告すべき本当のタイミング」を紹介します。
サクッと復習!疾患の概要
- 病態: 脳出血やクモ膜下出血、脳腫瘍などにより頭蓋内圧(ICP)が急激に亢進した際に生じる生体防御反応です。
- ICPが上がると脳への血流が入らなくなるため、脳は虚血に陥ります。
- 脳血流を維持しようとして、交感神経が興奮し血圧が上昇します(これが代償機転)。
- 急激な血圧上昇に対し、圧受容体が反応して迷走神経(副交感神経)反射が起き、徐脈になります。
- 3大徴候(クッシングの三徴)
- 血圧上昇(脈圧の増大)
- 徐脈(60回/分以下、時には40回台へ)
- 緩徐深呼吸(異常呼吸:チェーンストークス呼吸など)
- ※これらが揃うのは脳ヘルニア(切迫)の末期的なサインです。
- 治療: 原因病変の除去(開頭血腫除去術など)、浸透圧利尿薬(マンニトール、グリセロール)投与、過換気療法、鎮静・鎮痛によるICPコントロール。
観察ポイント&根拠
| 観察項目 | 観察ポイント | 根拠・予測 |
|---|---|---|
| 血圧と心拍数の「逆転現象」 | 単発の数値ではなく経過を見る。 ・収縮期血圧が140→160→180mmHgと上昇傾向にある。 ・同時に心拍数が80→60→50回/分と下降傾向にある。 | これこそがクッシング現象の典型例です。血圧が高いからといって、疼痛や興奮による交感神経亢進と誤認してはいけません。疼痛なら脈も速くなるはずです。「血圧上昇+徐脈」のセットは、脳幹が圧迫され始めている(脳ヘルニア切迫)最強の警告サインです。 |
| 瞳孔不同と対光反射 (Anisocoria & Light reflex) | ペンライトを使用し、瞳孔径の左右差(2mm以上の差)がないか、光を入れた際の縮瞳反応が消失・遅延していないかを確認する。 ※特に片側の散瞳に注意。 | 脳ヘルニア(特に鉤ヘルニア)が進行すると、動眼神経が圧迫され、患側の瞳孔が散瞳し、対光反射が消失します。バイタル変化と同時にこれが出現した場合、数分〜数十分単位で呼吸停止に至るリスクがあります。緊急オペやマンニトール投与の直前指標となります。 |
| 意識レベルの微細な変化 (JCS / GCS) | 「名前を呼んだら開眼する」だけでなく、「開眼のスピードが遅くなった」「発語の辻褄が合わなくなってきた(不穏)」といった質の変化を捉える。 | ICP亢進の初期症状は、頭痛や嘔吐、そして不穏です。急に暴れ出した患者さんが急に静かになった場合、鎮静されたのではなく意識レベルが低下(昏睡へ移行)した可能性を疑います。 |
| 呼吸パターンの変調 | SpO2の数値だけでなく、胸郭の動きとリズムを目視する。 ・呼吸が深くなったり浅くなったりしていないか(チェーンストークス呼吸) ・突然の無呼吸がないか | 脳幹(橋・延髄)にある呼吸中枢が圧迫を受けると、呼吸リズムが乱れます。SpO2が低下してからでは遅すぎます。異常呼吸の出現は、呼吸停止の一歩手前です。直ちにバッグバルブマスクをベッドサイドに準備してください。 |
もし患者さんが「吐き気がすごい」と言ったら?
脳出血保存的治療中の患者さんが、顔をしかめてこう訴えました。
「うっぷ…なんだか急に気持ち悪い、頭もガンガンする…(その後、噴射様嘔吐)」
この時、「吐き気止めを使いましょうか」と悠長に構えている時間はありません。
対応アクションと会話例
- 即時の安全確保と誤嚥防止
- 「気持ち悪いですね、無理に我慢しなくていいですよ。顔を横に向けましょう」
- 側臥位にするか顔を横に向け、吐物による窒息・誤嚥性肺炎を防ぎます。
- バイタル測定と瞳孔確認を同時進行(アクション)
- ナースコールで応援を呼びつつ、血圧測定と瞳孔チェックを行います。
- 「少し光を目に当てますね。(瞳孔不同なし、血圧170台を確認)」
- 医師への緊急報告(SBAR)
- 「〇〇さんですが、突発的な頭痛と噴射様嘔吐がありました。血圧が170台へ上昇し、脈拍が50台へ低下しています。クッシング徴候の疑いがあるため、すぐに診察をお願いします。マンニトールの指示を確認させてください。」
現場で差がつく看護のコツ・ポイント
| 工夫・コツ・アイデア | 具体的な手技・環境調整 | 期待される効果・メリット |
|---|---|---|
| 頭部挙上30度の徹底と頸部の正中保持 | ギャッジアップは30度を目安とし、枕やタオルを使って首が左右に捻じれない(回旋しない)ようにポジショニングする。 | 頭部を心臓より高くすることで静脈還流を促し、ICPを下げます。首が捻じれていると内頸静脈が圧迫され、脳からの血液の戻りが悪くなり、ICPが上昇してしまいます。これを防ぐだけで脳へのダメージを軽減できます。 |
| 吸入・吸引時の「時短」テクニック | 気管吸引は必要最低限にし、1回の操作を10秒以内に留める。吸引前には十分な酸素化を行う。 | 吸引刺激による咳嗽反射は、胸腔内圧を上げ、結果としてICPを急激に上昇させます(怒責と同じ効果)。マンシェットで血圧を測るタイミングも、吸引直後は避けるなどの配慮が必要です。 |
| 排便コントロールでの「いきみ」回避 | 便秘は厳禁。緩下剤や坐薬を適切に使用し、排便時にいきまなくても出る便性状を保つ。 | 排便時のバルサルバ効果は血圧とICPを一気に跳ね上げます。再出血やヘルニア増悪のトリガーになりやすいため、排便日数の管理はバイタル管理と同等に重要です。 |
新人さんが陥りやすいミスへの対策
新人の看護師さんが現場でよく陥ってしまうのが、「血圧の数値だけに反応して、降圧しようとしてしまう」という判断ミスです。
脳出血の患者さんの血圧が180mmHgに上がったのを見て、「高すぎる!再出血しちゃう!早くニカルジピンで下げなきゃ!」と焦ってしまい、徐脈のサインを見落としたまま、医師に「血圧が高いので降圧剤の指示をください」と報告してしまうケースがあります。
この時の高血圧は、「脳に血を送るために、体が必死で上げている血圧(脳灌流圧の維持)」である可能性があります。
もし、クッシング現象が起きている(=脳の血流が足りていない)状態で無理やり血圧を下げたらどうなるでしょうか?
脳への血流が途絶え、脳梗塞を併発したり、ヘルニアを助長して呼吸停止を招いたりする最悪の結果になりかねません。



血圧が高い時こそ、一度深呼吸して「脈拍」を見てください。「血圧が高いのに脈が遅い」これに気づけたら、あなたは降圧剤ではなく、脳外科医を呼ぶべきだと判断できるはずです。
「木(血圧)を見て森(全身状態・ICP)を見ず」にならないよう、常にセットでアセスメントする癖をつけていきましょう。