睡眠時無呼吸症候群(SAS)について
あずかん夜間の病室ラウンド中、大きなイビキをかいていた患者さんの呼吸がピタッと止まり、数秒後にセントラルモニターのSpO2アラームが鳴り響く……。急いで訪室すると、本人は何事もなかったかのように「プハーッ」と大きな息をして再び眠りにつく。こんなヒヤッとする場面、夜勤の度に経験しているのではないでしょうか。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、呼吸器内科だけでなく、循環器科や外科の周術期など、あらゆる病棟で遭遇する疾患です。しかし単なる「いびき」と侮っていると、致死的な不整脈や心不全の増悪を引き起こすトリガーになり得ます。今回は、夜間のSpO2低下サインを見逃さず、適切な介入につなげるためのアセスメントとCPAP管理のコツを整理していきます。
サクッと復習!疾患の概要
SASは、睡眠中に呼吸が止まる(無呼吸)、または浅く・弱くなる(低呼吸)状態が繰り返される疾患です。臨床で多く遭遇するのは、上気道の物理的な閉塞による閉塞性睡眠時無呼吸(OSAS)です。
- 病態・原因
睡眠による筋弛緩に伴い、舌根沈下や軟口蓋の沈下が起こり、上気道が狭窄・閉塞します。肥満による頸部の脂肪沈着のほか、日本人は下顎が小さい(小顎症)など骨格的な要因で、非肥満者でも発症しやすい特徴があります。(※脳の呼吸中枢の異常による中枢性SAS:CSASもあります) - 症状
夜間の激しいいびき、無呼吸、中途覚醒。これに伴う睡眠の分断と低酸素血症により、日中の強い傾眠(EDS:Excessive Daytime Sleepiness)、起床時の頭痛、倦怠感が生じます。 - 治療
中等症〜重症の場合は、経鼻的持続陽圧呼吸療法(CPAP療法)が第一選択です。軽症例ではスリープスプリント(口腔内装置)の作成、扁桃肥大などがある場合は外科的治療(UPPPP等)が選択されます。
観察ポイント&根拠
| 観察項目 | 観察ポイント | 根拠・予測 |
|---|---|---|
| SpO2波形と心拍数の変動パターン | モニターのアラーム鳴動時、SpO2の数値低下だけでなく、無呼吸時の徐脈と、呼吸再開時の代償性の頻脈(Tachy-Brady症候群様)がセットになっていないか、波形のトレンドを遡って評価する。 | 【交感神経の過緊張と心血管イベントの予測】 無呼吸に伴う低酸素血症と高炭酸ガス血症は、交感神経を急激に刺激します。この夜間の血圧サージと心拍変動の繰り返しが、心不全の悪化や夜間の致死性不整脈(心室細動など)、脳血管障害の引き金になるためです。 |
| 胸郭の動きと呼吸パターンの不一致 | 無呼吸が発生している際、口元での気流(呼気)はないのに、胸郭や腹部がペコペコと動く努力様呼吸(奇異呼吸)をしていないか、布団をめくって直接視診する。 | 【OSASとCSASの鑑別】 上気道が閉塞しているOSASの場合、呼吸中枢からの指令は出ているため「息を吸おうとして胸腹部が動く」のが特徴です。一方、CSASの場合は胸腹部の動き自体が消失します。原因が異なれば医師の治療方針(ASVの導入など)も変わってきます。 |
| 起床時の血圧測定と頭痛の問診 | 早朝のバイタルサイン測定時、前日日中よりも血圧が高く(早朝高血圧)、さらに「頭が重い・痛い」といった訴えがないか確認する。 | 【CO2蓄積のサインの察知】 夜間の無呼吸により二酸化炭素(PaCO2)が蓄積すると、脳血管が拡張し、起床時の頭痛(CO2ナルコーシスの初期症状に近い)を引き起こします。CPAPの圧設定が合っていない、あるいはマスクからのリークが多いサインかもしれません。 |
もし患者さんが「苦しくて無意識に外してしまう」と言ったら?
「CPAPのマスクが息苦しくて、夜中に無意識に外しちゃうんだよね。朝起きると顔に跡もついて痛いし……」
これは導入初期の患者さんから非常に多く聞かれる訴えです。
対応アクションと会話例
- 状況の確認と具体的なヒアリング
- 「夜中に外してしまうと、治療の効果が薄れてしまって心配ですよね。マスクがきつすぎたり、逆に空気が漏れて目に当たったりしていませんか?」
- 機器の調整と具体的な提案
- 「マスクのバンドは、指が1〜2本入るくらいのゆとりを持たせた方が、クッションが顔の形にフィットして空気が漏れにくくなりますよ。圧が強くて寝付けない場合は、眠りにつくまで弱い圧から徐々に上げていく機能(ランプ機能)を設定できるので、今夜試してみましょうか」と提案すると、患者さんは安心感を抱きやすいです。
現場で差がつく看護のコツ・ポイント
| 工夫・コツ・アイデア | 具体的な手技・環境調整 | 期待される効果・メリット |
|---|---|---|
| 「側臥位」を促すポジショニング | 仰臥位でいびきや無呼吸が頻発する場合、背部にクッションや抱き枕を配置し、側臥位(横向き寝)の姿勢を保持できるように環境を整える。 | 重力による舌根や軟口蓋の沈下を物理的に防ぐことができます。体位依存性のOSAS患者さんでは、これだけで無呼吸低呼吸指数(AHI)が大きく改善することが多いです。 |
| 睡眠薬・抗不安薬の内服確認と医師への相談 | 不眠を訴える患者さんに対して、安易にPRNの睡眠薬(特にベンゾジアゼピン系)を与薬する前に、SASの既往がないか、日中の傾眠がないかカルテと病歴を照合する。 | 睡眠薬や抗不安薬の多くは筋弛緩作用を持つため、上気道の閉塞をさらに悪化させ、重篤な呼吸抑制を引き起こすリスクがあります。リスクが高い場合は、筋弛緩作用の少ない薬剤への変更を医師に相談する根拠となります。 |
| CPAPマスク使用前の皮膚保護 | 鼻根部や頬など、マスクのクッションが当たる部分に、あらかじめハイドロコロイド材(デュオアクティブ等)やポリウレタンフィルムを小さく切って貼付しておく。 | 医療関連機器圧迫創傷(MDRPU)を未然に防ぎます。一度皮膚が剥離してしまうと、痛みのために数日間CPAPが装着できなくなり、治療が中断してしまうのを避けることができます。 |
新人さんが陥りやすいミスへの対策
新人さんが夜勤でSASの患者さんを受け持った時、一番やってしまいがちなのが「SpO2が80%台に下がったから、とりあえず酸素(カヌラ)を流そう!」と焦ってしまうことです。
気持ちはすごく分かります。アラームが鳴ると心臓に悪いですもんね。でも、OSASの場合、気道が物理的に塞がっているわけですから、そこにいくら酸素を流し込んでも肺には届きません。それどころか、高濃度の酸素を漫然と投与することで呼吸中枢がサボってしまい、かえって無呼吸が長引いたり、CO2ナルコーシスを引き起こしたりする危険性すらあります。
SpO2が低下してアラームが鳴った時、まずはモニターの画面だけで判断せず、ベッドサイドに走って患者さんの胸の動きや気流の有無を直接観察してみてください。「あ、気道が塞がっているな」と判断できたら、酸素を投与する前に、肩を軽く叩いて体位を横向き(側臥位)に変えてあげたり、少し下顎を持ち上げて気道を確保してあげたりする。そういった「解剖生理に基づいた物理的なアプローチ」を最初に行う視点を持つと、アセスメントと介入の質が一段と深まりますよ。



日々の観察とちょっとした工夫で、患者さんの睡眠の質は大きく変わります。次回の夜勤から、ぜひ一つでも試してみてくださいね。