医師への報告 SBARについて
あずかん夜勤中のドクターコール、受話器を持つ手が震えることってありませんか?
「先生、〇〇さんの血圧が下がっていて…」と話し始めた途端、「で、どうしたいの?」「結論から言って」と冷たく返され、頭が真っ白になった経験。私にも痛いほど覚えがあります。
医師への報告は、単なる「おしゃべり」ではなく、患者さんの命を守るための「プレゼンテーション」です。ここで必須となるスキルが、世界標準のコミュニケーションツール「SBAR(エスバー)」です。
これを使いこなせれば、あなたの報告は劇的に伝わりやすくなり、医師からも「このナースの報告なら信頼できる」と思われるようになります。
今回は、明日からの報告が怖くなくなるSBARの極意を解説します。
SBARを用いた報告
報告は「電話をかけてから」始まるのではありません。「受話器を取る前の準備」で勝負の8割が決まります。
| 手順 | 根拠・理由 | ここがポイント! |
|---|---|---|
| 【準備:Pre-SBAR】 報告前に以下の3点セットを手元に用意する。 1. 直近のバイタルサインと、変化の推移(昨日はどうだったか) 2. 関連するカルテ情報(既往歴、直前の薬剤投与歴) 3. 報告メモ(SBARの構成で下書きしたもの) | 医師は判断するために「客観的データ」を求めます。聞かれてからカルテをめくって探していると、相手の思考を中断させ、不信感を与えます。 特に「推移」は、緊急度を判断する最も重要な材料です。 | 【新人さんへのアドバイス】 「とりあえず電話しちゃえ」は絶対NGです。 医師に「熱はいつから?」「尿量は出てる?」と突っ込まれて答えられないのが一番の失敗パターン。想定問答を準備してからかけましょう。 |
| 【S:Situation(状況)】 10秒以内に結論を伝える。 1. 自分の所属と名前、患者名 2. 「緊急性があるか」を最初に宣言 3. 何が起きているか(主訴・バイタル異常)を簡潔に。 例:「〇〇病棟の看護師〇〇です。〇〇号室の佐藤さんの件で、緊急の報告です。先ほどからSpO2が90%まで低下し、呼吸苦を訴えています。」 | 医師の頭の中を「緊急モード」に切り替えさせるためです。 ダラダラと経緯から話すと、医師は「で、急ぐ話なの?後でいい話なの?」とイライラし、集中力が途切れます。 | 【コツ】 緊急時は、第一声で「緊急です」「急いで来てください」と言い切る勇気を持ってください。この一言があるだけで、医師の受ける姿勢が変わります。 |
| 【B:Background(背景)】 今回の事象に関連する情報だけを伝える。 例:「本日は術後1日目で、硬膜外麻酔が入っています。30分前に初回歩行を試みたところでした。」 | その症状がなぜ起きたのか、原因検索に必要な文脈を提供します。 全ての既往歴を話す必要はありません。呼吸苦なら「呼吸器疾患の既往」や「喫煙歴」、「術後臥床期間」などが関連情報になります。 | 【NG行動】 「入院時の家族構成」や「昨日の食事摂取量」など、今の急変に関係ない情報を混ぜないこと。ノイズになり、重要な情報が埋もれてしまいます。 |
| 【A:Assessment(評価)】 看護師としての「考え」や「懸念」を伝える。 例:「聴診で呼吸音が減弱しており、術後の無気肺か、肺塞栓の可能性を心配しています。」 | ここが一番難しいですが重要です。単なる伝書鳩ではなく、専門職として「どうアセスメントしたか」を伝えます。 診断名は言えなくてOKです。「呼吸器系のトラブルだと思います」「循環動態が不安定です」といった表現で構いません。 | 【コツ】 自信がない時は魔法の言葉「心配です」を使いましょう。「数値はギリギリ正常範囲ですが、顔色が悪く、なんとなく様子がおかしいので心配です」と言えば、医師は無視できません。 |
| 【R:Recommendation(提案)】 医師にどうして欲しいかを具体的に要求する。 例:「すぐに診察に来ていただけますか?それまでの間、酸素を2Lで開始しても良いですか?」 | 報告のゴールは「指示をもらうこと」や「行動してもらうこと」です。 「どうしましょうか?」と丸投げするのではなく、「来てほしい」「薬がほしい」「指示がほしい」のどれなのかを明確にします。 | 【新人さんへのアドバイス】 ここを言わないと、医師から「報告ご苦労さん(ガチャ切り)」で終わってしまうことがあります。 自分の提案を持っておくことが、対等なチーム医療への第一歩です。 |
| 【復唱確認(Read back)】 医師からの口頭指示を、その場でメモし、復唱する。 例:「酸素2L開始し、SpO2モニター装着ですね。承知しました。」 | 電話での口頭指示は、聞き間違いや思い込みによる医療事故(薬剤の単位間違いなど)のリスクが極めて高いためです。 日本医療機能評価機構も推奨する必須の安全策です。 | 【NG行動】 「はい、わかりました」だけで電話を切らないこと。 必ず「オウム返し」をして、相互理解にズレがないか確認してください。 |
よくあるトラブル・疑問(Q&A)



アセスメントに自信がなく、的外れなことを言って怒られないか不安です…。



怒られることを恐れて、アセスメントを省く方がリスクです。
もし自信がなければ、「バイタルサインのこの変化が気になります」と事実ベースの懸念を伝えるだけでも立派なアセスメントです。
また、医師に怒られたとしても、「患者さんの安全を守るために報告しました」という姿勢は崩さないでください。報告しなかったことで手遅れになるより、報告して「様子観察でいいよ」と言われる方が、患者さんにとっては100倍マシです(空振りはOK、見逃しはNG)。



医師が処置中や手術中で、電話に出てくれません。どうすれば?



緊急度によりますが、本当に生命に関わる緊急事態(心停止やショック状態)なら、迷わずPHSを持って現場(処置室やオペ室)へ走るか、他の医師・リーダー看護師を巻き込んで応援を呼びます。
「電話が繋がらないから待ちました」というのは、裁判になっても通用しない言い訳です。「繋がらない時の代案(誰に報告するか)」を日頃から確認しておくことが、最大のリスク管理です。