褥瘡に使用する薬剤について

褥瘡に使用する薬剤について

あずかん

病棟でも在宅でも、避けては通れないのが「褥瘡(床ずれ)」のケア。回診のたびに医師から「今日から軟膏変えようか」と言われ、「え、また? さっき覚えたばかりなのに…」と混乱した経験、ありませんか?
ゲーベン、カデックス、ユーパスタ、アクトシン…。
名前は知っていても、「なぜ今、この患者さんの、この創傷に、この薬なのか?」を即答できる看護師は、WOC(皮膚・排泄ケア認定看護師)ではない限り多くありません。
しかし、褥瘡ケアの主役は、毎日処置を行う私たち看護師です。薬剤の選択意図を理解していないと、良かれと思って行ったケアが、かえって治癒を遅らせてしまうことさえあります。
今回は、教科書的な薬効分類だけでなく、現場で培った「創傷の状態に合わせた薬剤選択の視点」と、明日から使えるケアの技術を紹介します。


目次

サクッと復習!疾患の概要

  • 病態
    褥瘡は持続的な圧迫とずれ力により、皮膚および皮下組織の血流障害が生じ、組織が虚血・壊死する状態のこと。
  • 治療の原則(湿潤環境)
    かつてのように「乾かして治す」のは間違いです。適度な湿潤環境を保つことで、細胞遊走を促し治癒を早めます。
  • 薬剤選択の鍵「DESIGN-R®」
    深さ(Depth)、滲出液(Exudate)、大きさ(Size)、炎症/感染(Inflammation/Infection)、肉芽組織(Granulation)、壊死組織(Necrotic tissue)、ポケット(Pocket)の状態を評価し、「創の状態(病期)」に合わせて薬剤を使い分けます。
    • 黒色期(壊死組織除去): ゲーベンクリーム、ブロメライン軟膏など
    • 黄色期(感染制御・融解): カデックス、ユーパスタなど
    • 赤色期(肉芽形成促進): アクトシン、プロスタンディン、フィブラストスプレーなど
    • 白色期(上皮化促進): アズノール、ワセリンなど

観察ポイント&根拠

観察項目観察ポイント根拠・予測
滲出液の量とガーゼの重みガーゼ交換時、何枚目のガーゼまで汚染されているかを確認する。
また、外したガーゼがずっしりと重いか、乾いて張り付いているかを触感で評価する。
「基剤(ベース)」の選択が合っているかを判断するためです。
滲出液が多いのに油脂性基剤(ワセリン系など)を使うと、水分を吸収できず浸軟を起こし、創が拡大します。逆に乾燥しているのに吸水性基剤を使うと、創面乾燥(Dry-out)を招き治癒が停滞します。
創縁の「浮き」と浸軟洗浄後、創の縁(ふち)を綿棒で優しく触れ、皮膚が白くふやけていないか皮下がトンネル状(ポケット)になっていないかを探る。創縁の浸軟は、薬剤やドレッシング材の管理不良のサインです。
また、一見小さく見える創でも、アンダーマイニング(潜り込み)がある場合、軟膏が奥まで届いていない可能性があります。これは薬剤変更や、ポケット切開の必要性を医師に相談する重要な根拠になります。
壊死組織の固着度黒色壊死組織や黄色壊死組織を鑷子で軽くつまみ、容易に剥がれるか、ガッチリ付着しているかを確認する。デブリードマン(外科的切除)のタイミングを計るためです。
壊死組織が強固に付着している場合は、融解作用のある薬剤(ゲーベンクリーム等)を継続しますが、浮いてきたら速やかに外科的に除去することで、感染リスクを下げ、治癒を一気に進められます。

もし患者さんが「臭いが気になる」と言ったら?

感染や壊死組織を伴う褥瘡、特に仙骨部の大きな褥瘡を持つ患者さんが、悲しそうな顔でこう言いました。
「私の体、なんだか変な臭いがするわよね。腐ってきてるのかしら…」
ここで「換気しますね」「そんなことないですよ」と流すのはNGです。

言葉の裏にあるニード
この言葉には、自分の体が崩れていく「恐怖」と、周囲(家族やスタッフ)に不快感を与えているのではないかという「羞恥心・自尊心の低下」が深く隠されています。

対応アクションと会話例

  1. 事実の受容と医学的な説明(安心感の付与)
    • 「臭いが気になって不安だったんですね。実はこの臭いは、体が『悪い組織(壊死組織)』を溶かして治そうと頑張っている証拠でもあるんです。(あるいは、イソジンなどの薬剤特有の臭いであることを説明)」
  2. 具体的な解決策の提示(アクション)
    • 「今の処置が終わって、悪い組織が取れてくれば臭いは必ず減りますよ。それまでは、臭いを吸着する特別なガーゼ(活性炭入りドレッシング材など)を使ってみましょうか。」
  3. 環境調整での配慮
    • 面会前には必ず清拭・処置を行い、室内に臭いがこもらないよう、患者さんに気づかれないようにアロマや消臭剤をベッド下の足元(目立たない場所)に配置する等の工夫を行います。

現場で差がつく看護のコツ・ポイント

工夫・コツ・アイデア具体的な手技・環境調整期待される効果・メリット
ユーパスタの「練り」加減ユーパスタ(ヨウ素系軟膏)と白糖(シュガー)を混ぜる際、すぐ塗るのではなくスパチュラでしっかり練り込み、適度な粘度(耳たぶの硬さ)にする。粉っぽさが残っていると創部への刺激(疼痛)になり、緩すぎると流れてしまいます。しっかり練ることで創面への密着度が高まり、吸水作用と殺菌作用が最大限に発揮されます。
「土手盛り」テクニック滲出液が多い場合、創の周囲の健常皮膚に亜鉛華軟膏などの撥水性のある軟膏を厚めに盛り上げて「堤防」を作る。滲出液が周囲の皮膚へ流れ出るのを物理的にブロックし、皮膚浸軟や接触性皮膚炎を予防します。特に失禁のある仙骨部褥瘡では必須のテクニックです。
軟膏チューブの「ポケット温め」冬場や空調の効いた部屋では、処置の10分前から軟膏チューブを自分のユニフォームのポケットに入れて体温で温めておく。(※冷所保存薬を除く)冷たく硬い軟膏を塗布される不快感(ヒヤッとする感覚)を軽減できます。また、軟膏が柔らかくなることで伸展性が良くなり、塗布時に創面をこすらずに済むため、新生したばかりの肉芽組織を傷つけません。

新人さんが陥りやすいミスへの対策

新人の頃、褥瘡処置でよくやってしまいがちなのが、「良かれと思ってゴシゴシ洗いすぎてしまうこと」です。
私も昔、洗浄ボトルで勢いよく水をかけ、ガーゼで創の中を一生懸命こすっていました。すると、せっかく赤く盛り上がってきた肉芽から出血させてしまい、先輩に「それ、治そうとしてる細胞まで殺してるよ」と指摘されたことがあります。

褥瘡ケアの極意は、実は「何を塗るか」以上に「いかに傷つけないか」にあります。
特に赤色期(肉芽増殖期)に入ったら、洗浄は「水の勢い」ではなく「水の量」で優しく洗い流すイメージで行ってください。

また、薬剤がなかなか変わらず、変化がないように見えても、「創のサイズが1mm小さくなった」「滲出液が少し減った」という微細な変化をカルテに残してください。
その「小さな変化への気づき」こそが、次の治療戦略(薬剤変更や栄養状態の見直し)につながる最大の根拠になります。

あずかん

薬剤師やWOC(皮膚・排泄ケア認定看護師)ナースを巻き込んで、チームで治していく楽しさを味わってくださいね。

参考資料
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