変形性股関節症/変形性膝関節症の術後観察項目について

変形性股関節症/膝関節症の術後ケア|観察項目と根拠を解説

あずかん

高齢化社会の進展とともに増加する変形性股関節症・変形性膝関節症。その根治的治療として行われる人工関節置換術(THA・TKA)は、多くの患者さんの痛みを取り除き、QOLを劇的に改善します。術後の回復過程において、合併症を予防し、患者さんの安全を守り、早期離床を支援する看護師の役割は極めて重要です。
この記事では、変形性股関節症・膝関節症の術後に必須となる観察項目とその理論的根拠を、分かりやすく表にまとめて解説します。

目次

術後看護の全体像と目的

人工股関節全置換術(THA)や人工膝関節全置換術(TKA)後の看護の目的は、主に以下の4つです。

術後合併症の早期発見と予防
疼痛の適切な管理
安全な早期離床の促進とADL(日常生活動作)の再獲得
患者教育と精神的支援

これらの目的を達成するために、系統的な観察と、その背景にある根拠の理解が不可欠です。

術後の観察項目とその根拠

全身状態に関する観察項目

観察項目(WHAT)観察の根拠(WHY)
バイタルサイン
(血圧、脈拍、呼吸、SpO2、体温)
ショックの早期発見
術中・術後の出血や麻酔の影響による循環動態の変動を把握します。特に、頻脈と低血圧は出血性ショックの重要な兆候です。
感染の兆候
術後2〜3日後から見られる発熱は、術後感染(創部感染、肺炎、尿路感染など)のサインである可能性があります。
呼吸抑制
麻酔や術後鎮痛薬(特にオピオイド)の影響による呼吸抑制がないか、呼吸回数やSpO2で確認します。
意識レベル・せん妄の有無脳循環の変化
ショックや低酸素血症による意識レベルの低下を早期に発見します。
術後せん妄の予防・発見
高齢者では、手術侵襲、環境の変化、疼痛、麻酔薬などの影響で術後せん妄を発症しやすいため、見当識や言動の変化を注意深く観察します。
疼痛の程度
(NRS/VASスケール、部位、性質)
安楽の確保と離床促進
疼痛は患者にとって最大の苦痛であり、交感神経を刺激して血圧上昇や頻脈を引き起こします。また、痛みが強いとリハビリへの意欲が低下し、離床が遅れる原因となります。適切な鎮痛薬の使用と効果判定のために不可欠です。
ドレーンからの排液
(性状、量、色)
術後出血の評価
排液の量が異常に多い場合は、活動性の出血が疑われます。血性→淡血性→漿液性へと正常に変化するか観察します。
感染の兆候
排液が混濁したり、膿性になったりした場合は感染のサインです。
尿量・尿の性状循環血液量の指標
尿量は腎血流、ひいては全身の循環状態を反映する重要な指標です。尿量減少(乏尿)は、脱水やショックを示唆します。
腎機能の評価
麻酔薬や手術侵襲による腎機能への影響を評価します。
呼吸状態・喀痰肺合併症(無気肺・肺炎)の予防・発見
全身麻酔による肺機能の低下や、術後の疼痛による浅い呼吸、喀痰喀出困難は、無気肺や沈下性肺炎のリスクを高めます。聴診での呼吸音の減弱や副雑音の有無、喀痰の性状を観察します。

患肢(局所)に関する観察項目

観察項目(WHAT)観察の根拠(WHY)
創部の状態
(出血、腫脹、発赤、熱感、離開)
創部合併症の早期発見
創部の出血や血腫形成、感染兆候(発赤、腫脹、熱感、疼痛、膿性分泌物)、創の離開がないかを確認します。これらは治癒遷延の要因となります。
患肢の循環状態
(足背動脈の触知、足趾の色・温かさ、チアノーゼの有無)
末梢循環障害の早期発見
術後の腫脹や血栓、ときにコンパートメント症候群によって末梢への血流が阻害される危険性があります。足背動脈の触知や足趾の毛細血管再充満時間(CRT)、皮膚の色や温度を健側と比較して評価します。
患肢の知覚・運動麻痺
(しびれ、感覚鈍麻、足趾・足関節の動き)
神経損傷の早期発見
手術操作や術後の腫脹により、坐骨神経(股関節)や腓骨神経(膝関節)などの末梢神経が圧迫され、麻痺を来すことがあります。特に腓骨神経麻痺では下垂足が見られます。患者の「しびれ」の訴えや、足趾・足関節を動かせるか(自動運動)を確認します。
深部静脈血栓症(DVT)の兆候
(下腿の腫脹、疼痛、Homans徴候※)
生命を脅かす合併症の予防・発見
整形外科の特に下肢の手術は、深部静脈血栓症(DVT)のハイリスクです。術中の操作や術後の不動により下肢の静脈に血栓ができ、それが遊離して肺に飛ぶと致死的な肺血栓塞栓症(PTE)を引き起こします。下腿の疼痛や腫脹、左右のふくらはぎの太さの違いを観察します。
※Homans徴候は特異度が低いため、あくまで参考所見とします。
【THA特有】
良肢位保持、脱臼の兆候
(肢位、内外旋の角度、疼痛の急な増強、脚長差の変化)
人工関節脱臼の予防・発見
人工股関節は、特定の肢位(特に屈曲・内転・内旋の複合肢位)で脱臼しやすいです。枕や外転枕を用いて良肢位(軽度外転・内外旋中間位)が保たれているか確認します。「ゴキッ」という音や感触、急激な疼痛の出現、可動域の異常、脚長差の変化は脱臼を強く疑うサインです。
【TKA特有】
関節可動域(ROM)
(屈曲・伸展角度)
関節拘縮の予防と機能回復
膝関節は術後に関節が硬くなる「拘縮」を起こしやすい部位です。CPM(持続的他動運動装置)の使用やリハビリの進捗を確認し、伸展不全(膝が伸びきらない)や屈曲制限が起きていないか、可動域を継続的に評価することが重要です。

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