看護師の現状と国の医療政策

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疲弊する医療現場の叫び

近年、私たちの医療現場は、かつてないほどの危機に瀕しています。連日のように報道される医師の働き方改革、地域医療の崩壊、そして逼迫する病床数。その陰で、同じように疲弊し、苦悩を抱えながらも、日々の業務に懸命に取り組んでいるのが私たち看護師です。
今回の記事では、最近の医療ニュースを紐解きながら、私たちが直面している現実、そして国に対して訴えたい切実な思いを共有したいと思います。

繰り返される「医師不足」報道の陰で

連日メディアを賑わせる医師の働き方改革に関するニュース。その必要性は理解できるものの、報道の中心は医師に偏り、私たち看護師の現状が十分に伝えられているとは言えません。医師の負担軽減は喫緊の課題ですが、それは決して医師だけの問題ではないはずです。
また、医師の働き方改革とは、医師が行っていた業務の一部が看護師に移管されることであり、看護師の業務範囲の拡大やより専門的な知識やスキルが求められてきます。つまり私たち看護師にとっては、業務拡大とそれに伴う責任だけが増え、それらに対する手当や人員増員などはなく、やりがいの搾取にされてしまっているのが現状です。
私たちは、医師の指示の下で動く単なるアシスタントではありません。患者さんの状態を最も近くで見守り、細やかな変化に気づき、時には医師以上に患者さんのことを理解している自負があります。多職種との連携においても、患者ケアの中心的な役割を担っています。
にもかかわらず、「医師不足」という言葉の陰に隠れ、私たちの声はなかなか届きません。医師の働き方改革が進むことで、そのしわ寄せが私たち看護師にさらにのしかかるのではないかという懸念は、決して杞憂ではありません。

地域医療崩壊の足音

地方の病院で働く看護師の現状は、さらに深刻です。高齢化が進む地域では、慢性疾患を抱える患者さんが多く、入退院を繰り返す中で、私たち看護師にかかる負担は増大しています。
しかし、都市部への人口流出は止まらず、地方の病院では看護師の人員確保が困難な状況が続いています。一人当たりの受け持ち患者数が増え、夜勤の回数も増え、疲労困憊しながらも、地域住民の最後の砦として、私たちは使命感だけで現場を支えています。
最近のニュースでは、地方の公立病院の閉鎖や診療科の縮小が報じられています。これは決して他人事ではありません。もし、地域の病院がなくなってしまったら、高齢者や移動手段を持たない患者さんは、どこで適切な医療を受けられるのでしょうか。
国は「地域包括ケアシステム」の構築を推進していますが、その理想と現実の乖離はあまりにも大きすぎます。現場の看護師の声に耳を傾け、地域の実情に合わせた人員配置や支援体制を早急に整備しなければ、地域医療は崩壊の一途を辿るでしょう。

逼迫する病床数

新型コロナウイルス感染症の流行を経て、日本の医療提供体制の脆弱性が改めて浮き彫りになりました。感染症病床の不足、医療従事者の感染、そして医療崩壊の危機。私たちは、その最前線で、想像を絶するような状況に立ち向かってきました。
感染症が落ち着いた現在も、病床の逼迫は解消されていません。高齢化に伴い、入院を必要とする患者さんは増え続けていますが、人員不足のために十分な病床を確保することが難しいのが現状です。
結果として、予定されていた手術が延期になったり、救急搬送された患者さんの受け入れが困難になったりする事例が後を絶ちません。私たちは、患者さんの安全を守るために、常に最大限の努力をしていますが、物理的な限界を感じざるを得ません。
国は、病床機能の再編や在宅医療の推進を掲げていますが、その道のりは険しく、現場の負担軽減には繋がっていません。むしろ、在宅医療の現場では、訪問看護師の負担が増加し、新たな問題も生じています。

看護師が国に訴えたいこと

私たち看護師は、決して現状を嘆いているだけではありません。この危機的な状況を打開するために、国に対して以下の点を強く訴えたいと思います。

看護師の人員配置基準の見直しと大幅な増員

現行の看護師配置基準は、患者数に対する最低限の看護師数を定めたものであり、実際の医療現場では、患者の重症度や多様なニーズに対応するには不十分です。看護師一人当たりの負担が過重となり、質の高い看護を提供することが困難になっています。人員配置基準を見直し、大幅な増員を実現するためには、以下の点が重要です。

患者の重症度や看護必要度を考慮した配置基準の策定

患者の状態に応じた適切な看護を提供できるよう、患者の重症度や看護必要度を詳細に評価し、それを反映した配置基準を策定する必要があります。

夜勤体制の見直し

夜勤は看護師の負担が特に大きい業務です。夜勤回数の制限や、夜勤手当の増額、仮眠時間の確保など、夜勤体制の見直しを図る必要があります。

潜在看護師の復職支援

潜在看護師は全国に多数存在します。復職支援研修の充実や、短時間勤務制度の導入など、潜在看護師が復職しやすい環境を整備する必要があります。

看護学生への経済的支援

看護師を目指す学生が経済的な理由で進学を諦めることのないよう、奨学金制度の拡充や授業料の減免など、経済的な支援を強化する必要があります。

看護師の労働環境改善と処遇改善

看護師の労働環境は依然として厳しく、長時間労働、過重労働、精神的負担などが問題となっています。また、給与水準も他職種と比較して高いとは言えず、労働に見合った処遇がなされているとは言えません。労働環境改善と処遇改善のためには、以下の点が重要です。

労働時間管理の徹底

時間外労働の削減、有給休暇の取得促進など、労働時間管理を徹底する必要があります。

ハラスメント対策の強化

パワーハラスメント、セクシャルハラスメントなど、ハラスメント対策を強化し、看護師が安心して働ける環境を整備する必要があります。

給与水準の引き上げ

看護師の専門性や貢献度に見合った給与水準となるよう、給与体系の見直しや、手当の増額などを行う必要があります。

キャリアアップ支援の充実

認定看護師、専門看護師などの資格取得支援や、研修参加支援など、看護師のキャリアアップを支援する制度を充実させる必要があります。

地域医療を支えるための具体的な支援策

地域医療においては、医師不足、高齢化、過疎化など様々な課題が山積しており、看護師の役割はますます重要になっています。地域医療を支えるためには、看護師に対する具体的な支援策が必要です。具体的な支援策としては、以下のものが考えられます。

訪問看護ステーションの拡充

在宅医療のニーズの高まりに対応するため、訪問看護ステーションを拡充し、訪問看護師の増員を図る必要があります。

離島・へき地医療への支援

離島・へき地においては、看護師不足が深刻です。離島・へき地で働く看護師に対する手当の増額や、住居の提供など、支援を強化する必要があります。

地域包括ケアシステムの推進

地域包括ケアシステムにおいて、看護師は多職種と連携し、地域住民の健康を支援する重要な役割を担います。看護師が地域包括ケアシステムに積極的に参加できるよう、研修機会の提供や、多職種連携を促進する仕組みづくりが必要です。

災害医療体制の強化

災害発生時には、看護師は被災者の救護や医療支援を行います。災害医療に関する研修を充実させるとともに、災害発生時に看護師を派遣する体制を整備する必要があります。

多職種連携の強化と看護師の専門性の尊重

医療現場では、医師、看護師、薬剤師、理学療法士など、様々な職種の専門家が連携して患者の治療にあたります。多職種が互いの専門性を尊重し、円滑な連携を図ることで、より質の高い医療を提供することができます。多職種連携を強化し、看護師の専門性を尊重するためには、以下の点が重要です。

合同研修の実施

多職種が合同で研修を実施し、互いの専門性や役割を理解する機会を設ける必要があります。

チーム医療の推進

チーム医療を推進し、多職種がそれぞれの専門性を活かして患者の治療計画を立案・実行する体制を構築する必要があります。

看護師の意見表明の促進

看護師が患者の状態や治療方針について意見を表明しやすい環境を整える必要があります。

看護師の専門性を評価する仕組みづくり

認定看護師、専門看護師などの資格を評価し、給与やキャリアアップに反映させる仕組みを構築する必要があります。

国民への医療現場の実情の啓発

国民が医療現場の実情を理解することは、医療に対する理解を深め、医療現場の厳しい現状を正しく理解してもらうことが重要です。国民への啓発活動としては、以下のものが考えられます。

メディアを通じた情報発信

テレビ、新聞、雑誌などのメディアを通じて、医療現場の現状や看護師の仕事内容について積極的に情報発信する。

医療に関するイベントの開催

医療に関するイベントを開催し、一般市民が医療現場に触れる機会を提供する。

SNSを活用した情報発信

SNSを活用し、医療に関する情報を分かりやすく発信する。

学校教育における医療に関する教育の充実

学校教育において、医療に関する教育を充実させ、子供たちが医療に対する正しい知識を身につけることができるようにする。

未来のために、今こそ行動を

日本の医療は、今まさに岐路に立たされています。このままでは、質の高い医療を維持することが困難になり、国民全体の健康が脅かされることになりかねません。
私たち看護師は、その最前線で、患者さんの命と健康を守るために、日々奮闘しています。私たちの疲弊は限界に達しており、もはやこれ以上の無理はききません。
国には、看護師たちの切実な声に真摯に耳を傾け、具体的な対策を講じていただくことを強く求めます。そして、私たち自身も、未来の医療を守るために、今こそ行動を起こすべき時です。
このブログが、同じように苦悩する医療従事者の皆様にとって、少しでも共感と連帯感を生むきっかけとなれば幸いです。そして、この声が、より良い医療の実現に向けた一歩となることを願っています。



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