浮腫とは?病態生理から観察項目、ケアのポイントまで徹底解説

臨床現場で頻繁に遭遇する「浮腫」。患者さんの苦痛な症状の一つであり、様々な疾患のサインでもあります。
この記事では、浮腫の基本的な知識から、明日からの臨床実践に活かせる看護のポイントまで、わかりやすく解説します。
浮腫とは
浮腫とは、間質液(細胞と細胞の間を満たす水分)が異常に増加した状態を指します。
私たちの体内の水分は、血管内、細胞内、そして血管と細胞の間にある「間質」に分布しています。通常、これらの水分バランスは、以下の4つの圧力によって絶妙に保たれています。
毛細血管静水圧 : 血管内から外へ水分を押し出す力
間質液静水圧: 間質から血管内へ水分を押し戻す力(通常はほぼ0かマイナス)
血漿膠質浸透圧: アルブミンなどの血漿タンパク質が血管内に水分を引き込む力
間質液膠質浸透圧: 間質液中のタンパク質が間質に水分を引き込む力
これらのバランスを調節するメカニズムは「スターリングの法則」として知られています。
このバランスが崩れる、つまり「血管内から水分を押し出す力が強まる」または「血管内に水分を引き込む力が弱まる」ことで、間質に水分が溜まり、浮腫が発生します。
浮腫の主な原因
浮腫の原因は多岐にわたりますが、主に以下の4つのメカニズムに大別されます。
原因分類 | メカニズム | 代表的な疾患・状態 |
---|---|---|
毛細血管静水圧の上昇 | 血管内の水分量が増加し、外に押し出す圧力が強まる。 | ・心不全(特に右心不全) ・腎不全 ・肝硬変 ・深部静脈血栓症(DVT) ・妊娠 |
血漿膠質浸透圧の低下 | 血管内に水分を引き込むアルブミンが減少する。 | ・ネフローゼ症候群 ・肝硬変(アルブミン産生低下) ・低栄養、蛋白漏出性胃腸症 |
血管透過性の亢進 | 血管の壁の目が粗くなり、水分やタンパク質が漏れやすくなる。 | ・炎症、熱傷、アレルギー反応 ・敗血症 ・血管性浮腫 |
リンパ管の閉塞 | 間質液を回収するリンパの流れが滞る。 | ・リンパ浮腫(がん手術後のリンパ節郭清など) ・フィラリア症 |
症状と観察項目
全身性浮腫と局所性浮腫
- 全身性浮腫
- 心臓、腎臓、肝臓などの全身性疾患が原因で、体全体に浮腫がみられます。重力の影響を受けやすいため、臥床している患者では背中や仙骨部(褥瘡のリスク増)、立位・座位では下腿に出現しやすいのが特徴です。
- 局所性浮腫
- 静脈やリンパ管の閉塞、炎症など、特定の部分に原因がある場合にみられます。
- 例:片側の下肢、腕、顔面など。
圧痕性浮腫
浮腫の部分を指で数秒間圧迫し、離した後に「くぼみ(圧痕)」が残るかどうかを確認します。圧痕の深さや戻るまでの時間で重症度を評価します。
Grade 1+: わずかなくぼみ (2mm)
Grade 2+: くぼみは4mm、戻るのに10-15秒
Grade 3+: くぼみは6mm、戻るのに1分以上
Grade 4+: 深いくぼみ (8mm)、戻るのに2分以上
随伴症状の観察
浮腫だけでなく、原因疾患を示唆する他の症状にも注意を払います。
- 体重の増加: 短期間での急激な体重増加は、体液貯留の重要なサインです。
- 尿量の減少: 腎機能低下を示唆します。
- 呼吸困難・息切れ: 肺水腫(心不全)の可能性があります。
- 腹水・腹部膨満感: 肝硬変やネフローゼ症候群などが考えられます。
- 皮膚の変化: 皮膚が薄くなり、光沢を帯び、乾燥や亀裂、感染を起こしやすくなります。
治療・対症療法
浮腫の治療は、原因となっている原疾患の治療が基本となります。それに加え、症状緩和のための対症療法が行われます。
- 薬物療法
- 利尿薬: 体内の余分な水分とナトリウムを尿として排泄させます(例:フロセミド、スピロノラクトン)。カリウム値の変動に注意が必要です。
- アルブミン製剤: 血漿膠質浸透圧を高めるために投与されます(ネフローゼ症候群や肝硬変など)。
- 食事療法
- 塩分制限: ナトリウムは水分を体内に保持する働きがあるため、塩分摂取を制限します(通常1日6g以下)。
- 水分制限: 重度の心不全や腎不全の場合に指示されることがあります。医師の指示なく安易に水分制限を行わないよう注意が必要です。
- タンパク質の補給: 低栄養が原因の場合、良質なタンパク質の摂取が推奨されます。
看護のポイント
安楽枕・体位の工夫
- 下肢の挙上: 下肢に浮腫がある場合、クッションや枕を用いて心臓より高く挙上することで、静脈還流を促し、浮腫を軽減します。
- 体位変換: 臥床患者の場合、仙骨部や背部の圧迫を避け、浮腫の移動を促すために定期的な体位変換が重要です。褥瘡予防にも繋がります。
スキンケア
浮腫のある皮膚は脆弱で、わずかな刺激でも損傷しやすくなっています。
- 清潔保持: 皮膚を清潔に保ち、感染を予防します。洗浄時は優しく洗い、十分に乾燥させます。
- 保湿: 保湿剤を塗布し、皮膚の乾燥や亀裂を防ぎます。
- 保護: 摩擦や圧迫を避けるため、柔らかい衣類を選び、シワを伸ばします。ストッキングや靴下のゴムによる締め付けにも注意が必要です。
正確なIN-OUTバランスの把握
- 水分出納のモニタリング: 飲水量、食事に含まれる水分量、輸液量(IN)と、尿量、不感蒸泄、ドレーン排液量など(OUT)を正確に測定し、体液バランスを評価します。
- 体重測定: 毎日同じ条件下(朝、排尿後、同じ服装など)で測定し、体液貯留の変動を客観的に評価します。
患者教育
- 食事指導の遵守: 塩分制限の必要性や工夫について、患者や家族が理解し、実践できるよう支援します。
- セルフケア指導: 自宅での下肢挙上、スキンケア、体重測定などのセルフケア方法を指導し、退院後も継続できるよう促します。
- 症状悪化時のサイン: 体重の急増や呼吸困難など、すぐに受診すべき症状について具体的に伝えます。