アシドーシスとアルカローシスについて

アシドーシスとアルカローシスの違いについて

「なんだか呼吸が深くて速い」「さっきより呼びかけへの反応が鈍い」と感じたとき、動脈血ガスの結果を待つ数分間に、何を見て何を予測しておくか。ここで差がつきます。

アシドーシスとアルカローシスの違いは、一言でいえば「血液のpHを酸性側(pH<7.35)に傾ける病態か、アルカリ性側(pH>7.45)に傾ける病態か」です。ただし、用語の使い分けには少し注意が必要です。

・アシデミア/アルカレミア:実際に血液pHが基準範囲(7.35〜7.45)を外れた「状態」
・アシドーシス/アルカローシス:pHを酸性・アルカリ性に傾ける「プロセス(病態)」

混合性障害では、アシドーシスとアルカローシスが同時に存在しても、pHは正常範囲に収まることがあります。「pHが正常だから大丈夫」と判断してしまうと、重大な病態を見逃します。

見逃したときのリスクは以下の通りです。
・重度アシデミア:心筋収縮力の低下、カテコラミン反応性の低下、致死的不整脈、意識障害
・アルカレミア:イオン化カルシウム低下によるテタニー、痙攣、不整脈、脳血流低下


この記事では、両者を見分けて「次に何をするか」を考えるための観察項目と根拠に絞って紹介します。

【重要事項】
※本記事は一般的な観察の視点・根拠の解説です。治療方針や報告基準は、必ず医師の指示および所属施設のプロトコルを優先してください。

目次

呼吸性と代謝性の位置づけ

分類一次性変化代表的な原因
呼吸性アシドーシスPaCO₂ 上昇COPD増悪、換気不全、麻薬・鎮静薬による呼吸抑制
呼吸性アルカローシスPaCO₂ 低下過換気、疼痛・不安、敗血症初期、低酸素
代謝性アシドーシスHCO₃⁻ 低下乳酸アシドーシス、糖尿病性ケトアシドーシス、下痢、腎不全
代謝性アルカローシスHCO₃⁻ 上昇嘔吐・胃管排液、利尿薬、低カリウム血症

【保存版】観察項目&根拠

観察項目観察ポイント根拠・予測
呼吸数・呼吸パターン①SpO₂の数値だけでなく、1分間しっかり呼吸数を測る。
②深さ(1回換気量の大小)とリズムも見る。
深く大きな呼吸が持続していないか(クスマウル呼吸)、浅く遅い呼吸になっていないかを確認する
代謝性アシドーシスでは、H⁺の増加を化学受容体が感知し、換気を増やしてPaCO₂を下げる代償が働く。
呼吸数・深さの増大は、代償が働いているサイン。
逆に代償していたはずの呼吸が浅く遅くなってきた場合は、呼吸筋疲労や意識障害による代償破綻の可能性があり、危険な前兆。
SpO₂は酸素投与下では保たれるため、換気の異常はSpO₂では検出できない点に注意
意識レベル(JCS/GCS)と傾眠・せん妄の有無前回の評価値と比較し、「呼びかけへの反応の遅れ」「会話のつじつま」「手のはばたき振戦」を確認する。夜間の傾眠を「寝ている」と判断しない高CO₂血症(呼吸性アシドーシス)では、CO₂麻酔により傾眠から昏睡へ進行する。また脳血管はCO₂で拡張するため、頭痛・脳圧上昇も生じうる。一方、急性の低CO₂血症(呼吸性アルカローシス)では脳血管収縮により、めまい・ふらつき・意識変容が起こる。「落ち着いて眠っている」ように見える傾眠が、実はCO₂ナルコーシスの進行というパターンは現場で要注意
血圧・脈拍・末梢循環(CRT、冷汗)血圧は単回値でなくトレンドで見る。脈拍の上昇、四肢末梢の冷感、毛細血管再充満時間(CRT)の延長(2秒超)、冷汗を確認する重度アシデミアでは心筋収縮力が低下し、末梢血管の反応性も落ちる。乳酸アシドーシスの原因となる組織低灌流(ショック)が背景にあることも多く、「循環不全→乳酸産生→アシドーシス→さらに循環悪化」の悪循環を早く断つ視点が必要。アシドーシスは結果であり、原因(ショック、敗血症、出血)の探索が本体という考え方が基本
心電図モニター(K関連の波形変化、不整脈)T波の増高(テント状T波)、P波の消失、QRS幅の拡大、QT延長、新規の心室性期外収縮がないか確認する。波形が変わった時点で、血清Kの値を確認するアシデミアでは、細胞内のK⁺とH⁺が交換されて、血清K⁺が上昇しやすい。高K血症は致死的不整脈の原因になる。逆にアルカレミアではK⁺が細胞内へ移動し、低K血症が進行する。pHの変化がK値の変動を引き起こすので、血液ガス値とKを併せて見る習慣が重要
嘔吐・胃管排液・下痢の量と性状(IN-OUT)胃管(NGチューブ)からの排液量、嘔吐回数、下痢の回数と水様度をIN-OUTに具体的に記録する。高齢者・利尿薬内服中の患者さんは特に注意胃液にはH⁺とCl⁻が豊富に含まれるため、嘔吐や胃管排液の持続で代謝性アルカローシスになる。下痢では重炭酸(HCO₃⁻)が失われ、代謝性アシドーシスを来す。消化管のどの部位から体液を失っているかで、酸塩基の傾きが予測できる
尿量・腎機能(BUN/Cr)時間尿量(0.5mL/kg/時を目安)を継続して記録する。BUN/Cr、尿比重の推移も見る腎臓はH⁺の排泄とHCO₃⁻の再吸収で、酸塩基平衡を数時間〜数日かけて調整する。乏尿や急性腎障害(AKI)では、代謝性アシドーシスが進行・遷延しやすい。また、呼吸性の変化に対する腎性代償は時間がかかるため、急性か慢性かの鑑別にもつながる
血液ガス:pH、PaCO₂、HCO₃⁻、BE、AG、乳酸まずpHでアシデミア/アルカレミアを判定→次にPaCO₂とHCO₃⁻のどちらが一次性変化か判断→代償の程度を評価→AG(アニオンギャップ)を計算の順で読む。乳酸値、血糖、ケトンも併せて確認するpHが正常でも、PaCO₂やHCO₃⁻が異常なら混合性障害を疑う。AG(Na−Cl−HCO₃⁻、基準値は施設で異なるが概ね12±2)が開大していれば、乳酸、ケトン、尿毒症物質、中毒物質など「不揮発性酸」の蓄積を示す。原因検索のスタートがAG
血糖値・ケトン体・口渇・多尿糖尿病の既往がある患者さんでは、血糖値と尿・血中ケトンを確認する。口渇、多尿、腹痛、嘔気、果実臭(アセトン臭)を確認するインスリン欠乏でケトン体(β-ヒドロキシ酪酸、アセト酢酸)が産生されて、AG開大性代謝性アシドーシス(DKA)となる。SGLT2阻害薬内服中は、血糖がそれほど高くなくてもケトアシドーシスを起こす(正常血糖DKA)ため、「血糖が高くないから違う」とは言えない
酸素化の評価(SpO₂、P/F比、酸素投与量)酸素投与量とSpO₂のセットで評価する。高濃度酸素下でSpO₂が正常でも、PaCO₂は高いことがあるため、CO₂貯留リスクのある患者さんでは血液ガスで確認する酸素化(PaO₂)と換気(PaCO₂)は別のプロセス。COPD患者への過剰な酸素投与は、換気抑制やV/Qミスマッチ悪化でCO₂貯留(呼吸性アシドーシス)を増悪させうる。SpO₂が良好な患者さんほど、換気の異常が見えにくくなることを知っておく
疼痛・不安・過換気症状(口周囲・四肢のしびれ、テタニー様症状)手指のしびれ、口周囲の違和感、手足のこわばり(トルーソー徴候)を確認する。疼痛や不安の程度もスケールで確認する過換気によるPaCO₂低下で急性呼吸性アルカローシスとなると、アルブミンと結合するCa²⁺が増えてイオン化Caが低下し、しびれ・テタニーを起こす。痛みや不安が原因の過換気か、敗血症・低酸素・肺塞栓などの器質的原因による過換気かを見分けることが重要。「不安だろう」と決めつけて低酸素や肺塞栓を見逃さないこと
薬剤・輸液・栄養歴利尿薬(ループ、サイアザイド)、緩下剤、オピオイド・鎮静薬、メトホルミン、大量生理食塩水の投与歴を確認する利尿薬は低K・低Clを伴う代謝性アルカローシス、オピオイド・鎮静薬は呼吸抑制による呼吸性アシドーシス、メトホルミンは腎機能低下時に乳酸アシドーシスのリスク、大量の生理食塩水は高Cl性(非AG開大性)代謝性アシドーシスの原因となる。投与薬剤から、酸塩基障害の方向を予測できる

現場で役立つ+αの看護ポイント

「ドクターコールの前」に準備しておく4点セット

血液ガスで異常値が出たときに、報告までの数分間で整理しておくと伝わりやすくなります。

1.バイタルのトレンド(呼吸数・脈拍・血圧・意識レベルの経時変化)
2.背景因子(基礎疾患、投与中の薬剤、嘔吐・下痢・IN-OUT)
3.血液ガスの数値(pH、PaCO₂、HCO₃⁻、乳酸、K)
4.患者さんの自覚症状(息苦しさ、しびれ、頭痛、傾眠)

あずかん

「pH 7.28です」だけでなく、「呼吸数28回で深い呼吸が続き、乳酸4.5、HCO₃⁻14、Kは5.6です。末梢冷感があり、血圧は先ほどから20mmHg低下しています」と報告できると、医師の初動が変わります。

「呼吸数を測る」を省略しない

酸塩基平衡の評価で最も軽視されがちなのが、呼吸数のカウントです。モニターの数値は便利ですが、インピーダンス法の呼吸数は誤差が出やすいため、自分の目で1分間数える習慣が、微妙な変化の察知につながります。

アルカレミアは「症状が地味」だから見逃しやすい

アシドーシスは頻呼吸や循環不全など派手な所見が出やすい一方、アルカローシスは、「手がしびれる」「なんとなくふらつく」「筋肉がつる」といった地味な訴えが先行しがちです。
低K・低Caによる不整脈、痙攣へ進む可能性があるので、訴えを「年のせい」「疲れ」で片づけないことが大切です。

酸素投与の量を「少しでも多めに」にしない

CO₂貯留リスクのある患者さん(COPD、肥満低換気症候群、神経筋疾患など)では、目標SpO₂を医師と共有(例:88〜92%など)し、その範囲を超えて酸素を増やさないようにします。SpO₂が高すぎることも、一つの危険因子です。

補正(輸液・重炭酸)が始まったら、「戻りすぎ」も観察

重炭酸ナトリウム投与や、輸液による急速な補正は、急激なpH変化に伴う低K血症、低Ca血症、頭蓋内圧変動、高Na血症を招くことがあります。補正後のECG、意識レベル、血清電解質を再確認する時間を、あらかじめ予定に入れておくと慌てずに済みます。


参考資料

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