体位ドレナージについて

体位ドレナージとスクイージングについて|介助の方法から看護のポイントまで徹底解説

あずかん

呼吸器内科病棟や術後の患者さんを受け持つと、「体位ドレナージお願いします」「排痰援助入ります」という指示、日常的に出てきますよね。ルーチンワークのように組み込まれているケアだからこそ、逆に「なぜこの体位なのか」「なぜこのタイミングで背部を圧迫するのか」を考えずに実施してしまっている、ということはないでしょうか。
さらに見逃せないのが、このケアには実施禁忌・実施注意となる病態が明確に存在するということです。頭部挙上位を取れない頭蓋内圧亢進の患者さんに頭低位のドレナージ体位を取ってしまえば、頭蓋内圧はさらに上昇します。骨粗鬆症の強い高齢者に強いスクイージングを行えば、肋骨骨折を起こすこともあります。「痰を出すためのケア」のはずが、「新たな合併症を作るケア」に変わってしまう——この危うさを、まず共有しておきたいと思います。

この記事では、「どこに痰があるから、どの体位を取るのか」という手順と、実施前後で必ず確認すべき観察項目とその根拠を紹介していきます。

【重要事項】
※本記事は一般的な観察の視点・実施根拠を解説したものです。実施の可否・体位の選択は、必ず医師の指示、および所属施設の呼吸理学療法プロトコルを優先してください。


目次

【保存版】観察項目&根拠

観察項目観察ポイント根拠・予測
【実施前】
痰の貯留部位の推定
聴診で副雑音(水泡音)が最も強く聴取される部位を、肺区域(上葉・中葉・舌区・下葉の各区域)と対応させて特定する。胸部X線があれば浸潤影・無気肺の陰影の位置も併せて確認する体位ドレナージは、「痰が貯留している肺区域を、重力によって中枢気道側へ移動させやすい体位を取る」という解剖学的根拠に基づくケア。痰の位置を特定せずに実施すれば、効果がないばかりか、健常な肺区域を無駄に圧迫することになる。「とりあえず側臥位」ではなく、「この副雑音の位置なら、この体位」という対応関係を頭に描くことが第一歩
【実施前】
呼吸状態(呼吸数・SpO2・努力呼吸の有無)
SpO2の数値だけでなく、呼吸数、肩呼吸・鼻翼呼吸・陥没呼吸などの努力呼吸の有無、呼吸パターン(浅く速いか、深くゆっくりか)を目視で評価する。体位変換前のベースライン値として記録しておく体位ドレナージ・スクイージングは、一時的に呼吸仕事量を増加させ、SpO2が低下しうる侵襲的なケア。実施前のベースラインを把握しておかないと、実施中の低下が「一時的な変動」なのか「病態の急変」なのかを判断できない。特に努力呼吸の程度は、SpO2よりも先に悪化を示す身体所見であることが多く、数値だけを追う癖がつくと変化を見逃す
【実施前】
循環動態(血圧・脈拍)
臥位から頭低位・側臥位への体位変換時に、血圧・脈拍の変動を確認する。特に心不全既往、高齢者、起立性低血圧の既往がある患者さんでは、体位変換直後の血圧変動に注意する頭低位を伴う体位ドレナージは、静脈還流量の急激な変化を来し、心負荷が増大する。心不全患者では肺うっ血の悪化、頭蓋内圧亢進のある患者では頭蓋内圧のさらなる上昇につながるため、体位選択そのものが循環・脳圧管理と表裏一体であるという認識が必要
【実施前】
禁忌・注意すべき病態の有無
頭蓋内圧亢進、未治療の気胸、大量喀血直後、重症心不全、骨粗鬆症・肋骨転移・出血傾向(血小板減少、抗凝固薬内服)の有無をカルテと問診で確認する頭低位は頭蓋内圧亢進患者では禁忌(脳灌流圧の低下・脳浮腫増悪)。気胸のある肺への強い叩打・振動は再増悪のリスク。骨粗鬆症・骨転移のある患者へのスクイージングは肋骨骨折のリスクを伴う。「排痰させたい一心で、禁忌を見落とす」ことが最も避けたい事故パターン
【実施中】
患者の表情・自覚症状の変化
スクイージング中、患者さんの表情の変化(しかめ面、苦悶様表情)、「痛い」「苦しい」という訴えの有無をリアルタイムで観察する。会話が可能な患者さんには、実施中も声をかけながら反応を確認する患者さんの表情・訴えは、バイタルサインの変化に先行して異常を教えてくれる、最も鋭敏なモニター。「痛い」という訴えは肋骨骨折や胸膜由来の疼痛を、急な息苦しさの訴えは気胸や無気肺の急性増悪を示唆することがあり、数値が悪化する前に中止を判断する根拠になる
【実施中】
呼吸音の変化(水泡音の位置と性状)
スクイージング中〜直後に再度聴診し、水泡音が中枢気道側(気管に近い側)へ移動しているか、断続性副雑音の性状が変化しているかを確認する排痰が有効に進んでいれば、末梢気道にあった水泡音が中枢気道側へ移動していくのが生理学的に期待される変化。この移動が確認できれば、その後の咳嗽や吸引で痰の喀出が期待できるという、次のケアにつながる重要な情報になる
【実施後】
喀出された痰の性状・量
色調(白色・黄色・緑色・血性)、粘稠度(サラサラか、粘稠で糸を引くか)、量(少量・中等量・多量)を目視で確認し、前回までの性状と比較する痰の性状変化は、感染の有無や病態の進行を示す重要な情報。
黄色〜緑色への変化は細菌感染の進行、血性痰は気道粘膜の損傷や腫瘍性病変、肺塞栓の可能性を示唆する。「痰が出た」で終わらせず、性状を記録することで次のアセスメントにつながる
【実施後】
再度の呼吸状態評価
実施直後だけでなく、15〜30分後にも呼吸数・SpO2・呼吸音を再評価する。実施前のベースラインと比較して、改善したか、変化がないか、悪化したかを判定する体位ドレナージ・スクイージングの効果は、実施直後だけでなく、痰の移動・喀出が進む時間差を伴って現れることがある。「やって終わり」ではなく、一定時間後の再評価までがワンセットであるという認識が、ケアの効果判定の精度を上げる
【実施後】
疲労度・呼吸仕事量の消耗
実施後の患者さんの疲労感、呼吸数の増加が実施前より持続していないかを確認する。特にCOPD急性増悪期や、呼吸筋疲労が懸念される患者さんでは、ケア自体が呼吸仕事量を増大させ、かえって呼吸不全を助長するリスクがあることを念頭に置く排痰ケアは患者さんにとって決して楽な処置ではなく、それ自体が呼吸仕事量を要求するケア。「痰は取れたが、患者さんがぐったりしている」という状態は、ケアの負荷が患者さんの予備能を超えていた可能性を示唆し、次回の実施時間・強度の調整が必要というサインになる

現場で役立つ+αの看護ポイント

体位は「教科書通りの角度」より「患者さんが耐えられる角度」を優先する

体位ドレナージの教科書には、「下葉背側区域なら頭部を30度下げた腹臥位に近い側臥位」というように、細かく角度が指定されています。でも実際の臨床では、心機能や呼吸状態の制限で、教科書通りの頭低位を取れない患者さんが大半です。「理想の角度が取れないから実施しない」ではなく、「取れる範囲で、できるだけ近い角度に近づける」という柔軟な発想が現場では求められます。無理に角度をつけて血圧が下がっては本末転倒です。

スクイージングのタイミングは「呼気に合わせる」が鉄則

スクイージングは、患者さんの自然な呼気の動きに合わせて、胸郭の運動方向に沿って圧迫を加えるのが基本です。吸気のタイミングで圧迫してしまうと、患者さんは息を吸いたいのに圧迫されて苦しいだけになります。「患者さんの呼吸のリズムに、こちらの手を合わせる」という感覚を持てると、患者さんの苦痛が大きく減ります。

食後すぐの実施は避ける

体位ドレナージで頭低位を取ったり、スクイージングで腹圧がかかったりすると、食後すぐの実施は嘔吐・誤嚥のリスクがあります。経管栄養中の患者さんであれば、栄養投与終了から最低30分〜1時間は空けるという施設基準が多いはずなので、必ず確認してください。

「痰が出ない日」も、意味のない日ではない

排痰ケアを実施しても、その日は痰がほとんど喀出されないこともあります。ここで「今日は失敗だった」と捉えるのではなく、「末梢から中枢への移動は進んでいて、次回のケアや自己喀痰につながる可能性がある」という視点を持つと、ケアの継続性に対するモチベーションが保ちやすくなります。

実施後は必ず口腔ケアとセットにする

排痰後、口腔内や咽頭に痰が残存していることがあります。排痰ケアの直後に口腔ケアを組み合わせることで、残存した痰の再誤嚥や、口腔内細菌の気道への垂れ込みによる誤嚥性肺炎のリスクを減らせます。「排痰したら終わり」ではなく、「排痰→口腔ケア」までが一連の流れだと考えてください。


参考資料

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