インスリン注射について

インスリン注射について

あずかん

病棟で毎食前のように行われる「インスリン注射」。ルーチンワークになりがちですが、インスリンは一歩間違えば重篤な低血糖(意識障害、最悪の場合は死に至る)を引き起こす、極めてハイリスクな薬剤です。
「とりあえず食前に打てばいいんでしょ?」とタイミングを間違えたり、皮下脂肪ではなく筋肉内に深く刺してしまったりすると、吸収速度が狂って予期せぬ低血糖を招きます。また、患者さんにとっては毎日の「痛み」を伴う処置であり、私たちの穿刺技術一つでコンプライアンスが大きく変わります。
今回は、複雑なインスリン製剤の種類と効果を整理しつつ、痛みを最小限に抑え、確実に皮下組織へ届けるための「インスリン注射の手順と根拠」を徹底解説します。

【重要事項】
※本記事は一般的な手順・根拠を解説したものです。実施の際は、必ず所属施設の院内マニュアルや医師の指示、最新の添付文書を優先してください。


目次

【完全ガイド】インスリン注射の手順と根拠

手順・具体的アクションインスリンの種類と解剖生理学的理由ここがポイント!
1. 種類と投与タイミングの確認
カルテの指示と実薬を照合し、種類に応じた「正しい時間」に患者の元へ行く。配膳状況を必ず確認する。
【インスリンの種類と効果・タイミング】
超速効型(ヒューマログ, ノボラピッド等): 打って10〜20分で効く。「食直前」

速効型(ヒューマリンR等): 30分で効く。「食前30分」

混合型(ミックス系・白濁): 超速効/速効+中間型のミックス。「食直前または食前」

配合溶解(ライゾデグ・透明): 超速効+持続型のミックス。「食直前〜食前」

中間型(N・白濁): ゆっくり効く

持続型溶解(トレシーバ, ランタス等・透明): 1日1回、ベースの補充。「時間指定(朝食前や就寝前など)」

配合薬(ゾルトファイ等): 持続型+GLP-1受容体作動薬。
【禁忌・絶対NG】
超速効型を「食前30分」に打って配膳を待たせると、食べる前に低血糖を起こし絶対禁忌です!「ご飯が目の前にある状態」で打ちましょう。
2. 混和と空打ち(テスト注射)
白濁している製剤(中間型・混合型)は、手のひらで挟んで水平に10回、上下に10回静かに振って均一に白濁させる。針をつけたらダイヤルを2単位に合わせ、針先を上に向けてボタンを押し、液が飛び出すか確認する。
【物理的・安全管理的な根拠】
懸濁(白濁)製剤はインスリンの結晶が沈殿しています。振らずに打つと上澄みだけが入り、全く効かないか、逆に底に溜まった濃い部分が入って低血糖を起こします。空打ちは、針の詰まりや内部の空気を抜くための必須アクションです。
白濁製剤を「カシャカシャ」と激しく振ると泡立ち、正確な単位数が測れなくなるので、手のひらで「コロコロ、パタンパタン」と優しく混ぜるのがコツです。
3. 穿刺部位の選定と消毒
前回の注射部位から2〜3cm(指2本分)ずらした腹部(へそ周囲5cmは避ける)または大腿外側を選ぶ。
アルコール綿で拭き、完全に乾いてから穿刺する。
【解剖生理学的根拠】
同じ場所に打ち続けると、皮下脂肪が硬くなる「インスリンボール(硬結)」ができます。硬結部に打つとインスリンが吸収されず、血糖コントロールが乱れます。また、アルコールが乾く前に刺すと、針に沿ってアルコールが皮下に入り込み、強い痛み(アルコール痛)を引き起こします。
必ず素手で患者さんの腹部を撫でて、「しこり(硬結)がないか」を触診で見つけてください。硬結は見た目ではわかりません
4. 皮膚のつまみ上げと穿刺・注入
利き手ではない方の親指と人差し指で、皮膚を軽く3〜4cm幅でつまみ上げる(筋肉まで深く摘まない)
皮膚に対して垂直(90度)に、ためらわずにスッと根元まで針を刺す。注入ボタンをカチッと止まるまで押し切り、そのまま10秒間カウントしてから抜針する。
【手技のコツと痛みの軽減】
皮下組織(厚さ数mm〜数cm)に確実に届けるためにつまみ上げます。斜めにゆっくり刺すと痛点が刺激されやすく痛いので、ダーツのように「垂直にサッと」刺すのが一番痛くありません。10秒待つのは、注入直後に抜くと圧の逃げ場でインスリンが皮膚の表面に漏れ出てしまい、規定単位が入らなくなるのを防ぐためです。
【失敗しやすいポイント】
痩せ型の患者さんで皮膚を深く「ガシッ」とつまむと、筋肉まで持ち上がり筋肉内注射になってしまいます。筋注になると吸収速度が異常に早まり、急激な低血糖を招くため危険です。「皮下脂肪だけを寄せる」イメージです。
5. 抜針と安全な廃棄
針を抜いたら、皮膚を揉まずに軽くアルコール綿で押さえる。
専用の針外し器または廃棄ボックスの溝を使って、絶対に手で針に触れずに(リキャップ禁止)針を外して捨てる。
【感染予防・針刺し事故防止】
皮下注後に揉むと吸収が早まり、低血糖のリスクになるため「揉まない」が鉄則です。使用済みのインスリン針は短く見えにくいですが、リキャップ(キャップを被せ直す)は針刺し事故の最大の原因です。
針を外す際、本体を回すのではなく「廃棄ボックスの溝に引っ掛けて回す」動作を習慣づけましょう。

よくあるトラブル・疑問(Q&A)

ぴよナース

Q. 食直前に超速効型インスリンを打った後、患者さんが「気分が悪くてご飯を半分しか食べられない」と言い出しました。どうすればいいですか?

あずかん

A. 直ちに医師に報告し、食後の血糖測定やブドウ糖の準備などの指示を仰ぎます。
すでに予定カロリー分のインスリンが入ってしまっているため、食後〜数時間以内に重篤な低血糖を起こす危険性が極めて高いです。
こうしたトラブルを防ぐため、「食欲不振がある患者、嘔気がある患者」に対しては、医師にあらかじめ「食後打ち(食べた量に合わせて単位数を調整する指示)」に変更できないか相談しておくのが、プロの看護師の予測的アセスメントです。

ぴよナース

Q. 空打ちを何回やっても、針の先から液が出てきません。

あずかん

A. 針の目詰まり、または本体の故障が疑われます。
無理に押し込もうとせず、まずは「新しい針」に交換して再度空打ちを試みてください。それでも出ない場合は、インスリン本体(カートリッジやペン)の内部機構が壊れている可能性があります。新しいインスリン本体を薬局から払い出してもらい、絶対に「液が出ないまま刺す」ことのないようにしてください。


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