ドライマウス(口腔乾燥症)の基礎知識と看護について徹底解説
あずかん高齢患者や緩和ケア領域で頻繁に遭遇する「ドライマウス(口腔乾燥症)」。 単なる不快症状と捉えられがちですが、誤嚥性肺炎のリスク増大や食欲低下、会話困難など、患者さんのQOLを著しく低下させる要因となります。
この記事では、ドライマウスの知っておくべき病態から実践的なケアのポイントまでを詳しく解説します。
なぜ口が乾くのか
ドライマウスは、「唾液分泌量の低下」または「唾液の質の変化(粘調度の上昇)」、あるいは「水分の蒸発過多」によって引き起こされます。
1. 唾液分泌のメカニズム
唾液は主に三大唾液腺(耳下腺・顎下腺・舌下腺)から分泌されます。自律神経の支配を受けており、以下のようにコントロールされています。
交感神経優位: ネバネバした少量の唾液(粘液性)
副交感神経優位: サラサラした多量の唾液(漿液性)
2. 乾燥が招く悪循環
唾液には本来、自浄作用、抗菌作用、粘膜保護作用、pH緩衝作用があります。これらが低下すると、口腔内細菌叢が変化し、カンジダ菌などの日和見感染が起こりやすくなります。また、粘膜の潤滑油(ムチン)が不足することで、舌や頬粘膜が傷つきやすくなり、接触痛から摂食嚥下障害へとつながります。
ドライマウスの原因
薬剤の副作用(薬剤性ドライマウス)
多くの薬剤が抗コリン作用などを介して唾液分泌を抑制します。多剤併用(ポリファーマシー)の高齢者は特にリスクが高いです。
抗コリン薬: 頻尿治療薬、消化性潰瘍治療薬など
向精神薬: 抗うつ薬、抗不安薬、抗精神病薬
利尿薬: 脱水による二次的な乾燥
降圧薬: カルシウム拮抗薬など
抗ヒスタミン薬: アレルギー薬、風邪薬
全身性疾患
- シェーグレン症候群: 自己免疫疾患による腺組織の破壊
- 糖尿病: 高血糖による多尿・脱水
- 腎不全: 水分制限や透析による体液変動
- 放射線治療: 頭頸部への照射による唾液腺の不可逆的な破壊


その他の要因
- 脱水: 発熱、下痢、水分摂取不足
- 口呼吸: 鼻閉、開口障害、意識障害、酸素マスクの使用
- ストレス: 交感神経緊張による分泌抑制
- 加齢: 唾液腺の萎縮(ただし、加齢のみで極端な乾燥は起きにくいとも言われる)
患者の訴えと観察ポイント
自覚症状(Sデータ)
- 「口がネバネバする」「パンやビスケットが飲み込めない」
- 「夜中に喉が渇いて目が覚める」
- 「舌がヒリヒリ痛い(舌痛症)」
- 「味がよくわからない(味覚障害)」
- 「喋りにくい(構音障害)」
他覚所見(Oデータ)
- 口腔粘膜: 乾燥、発赤、出血、唾液の泡立ち(泡沫状唾液)
- 舌: 平滑舌(舌乳頭の萎縮)、亀裂舌、地図状舌
- 口角: 口角炎(切れやすくなる)
- その他: 口臭の増強、多発するう蝕(虫歯)、口腔カンジダ症(白苔)
治療・対症療法
根本的な治療が難しい場合も多く、対症療法がメインとなります。医師・歯科医師・薬剤師との連携が重要です。
原因療法
- 薬剤調整: 被疑薬の変更や減量を医師に相談する。
- 疾患治療: 糖尿病のコントロールやシェーグレン症候群の管理。
薬物療法(分泌促進薬)
唾液腺に機能が残っている場合(シェーグレン症候群など)、ムスカリン受容体を刺激する薬剤が処方されることがあります。
- ピロカルピン塩酸塩(サリグレン)
- セビメリン塩酸塩(エボザック)
- 看護の注意点: 発汗、頻尿、消化器症状などの副作用観察が必要。
局所療法(保湿剤・人工唾液)
- 人工唾液: サリベートなど(噴霧式)。
- 口腔保湿剤: ジェル、スプレー、マウスウォッシュタイプを患者の状態に合わせて選択します。
看護のポイント
口腔内湿潤環境の確保(保湿ケア)
単に水を飲ませるだけでは、すぐに蒸発してしまいます。「保湿剤」を効果的に使いましょう。
- ジェルの使い方: 粘膜に薄く塗布します。厚塗りは痂皮の原因になるため注意。
- タイミング: 食前(嚥下補助)、就寝前(夜間の乾燥防止)、起床時(口臭・不快感除去)。
適切な口腔ケア手技
乾燥した粘膜は非常に傷つきやすいです。
- ブラシの選択: 軟毛ブラシやスポンジブラシを使用。
- 含嗽剤: アルコール含有のマウスウォッシュは乾燥を助長するため避ける。ノンアルコールタイプや保湿成分配合のものを推奨。
機能訓練(唾液腺マッサージ)
食事の前に実施することで、食塊形成や嚥下を助けます。
- 耳下腺: 耳の下、頬の後ろ側を指全体で回すように押す。
- 顎下腺: 顎の骨の内側柔らかい部分を、親指で突き上げるように押す。
- 舌下腺: 顎の真下、舌の付け根あたりを親指で押し上げる。
生活指導・環境調整
- 加湿: 病室や居室の湿度管理。
- マスク着用: 就寝時の保湿用マスク(濡れマスクなど)。
- 食事: 酸味のあるもの(梅干しやレモン)は唾液分泌を促すが、粘膜障害がある場合は疼痛の原因になるため禁忌。水分が多く柔らかい食事形態を栄養士と相談する。

