腎不全について

腎不全について

あずかん

「腎不全」と一口に言っても、数時間〜数日で急激に悪化する急性腎不全(AKI)と、数ヶ月〜数年かけてじわじわ進行する慢性腎不全(CKD)では、私たちがベッドサイドで見るべきポイントや介入のタイムリミットが全く異なります。ただ「尿が出ていないですね」と申し送るのではなく、その裏で何が起きているのかを見抜くアセスメントスキルを一緒に整理していきましょう。


目次

サクッと復習!疾患の概要

腎不全は、腎臓の糸球体ろ過量(GFR)が低下し、体内の老廃物の排泄や水分・電解質のバランス調整ができなくなった状態です。

急性腎障害

病態・原因
数時間から数日の間に急激に腎機能が低下する状態。原因は「腎前性(脱水や出血による腎血流低下)」「腎性(薬剤性腎障害や糸球体腎炎など腎臓自体のダメージ)」「腎後結(前立腺肥大や結石による尿路閉塞)」の3つに分類されます。

症状・治療
乏尿・無尿、急激な浮腫、高カリウム血症など。原因の除去(輸液負荷、被疑薬の中止、尿路ドレナージ)が最優先され、重症例では持続的腎代替療法(CHDF)を導入します。

慢性腎臓病 / 慢性腎不全

病態・原因
糖尿病性腎症や慢性糸球体腎炎などを背景に、数ヶ月〜数年単位で不可逆的に腎機能(eGFR)が低下していく状態。

症状・治療
初期は無症状ですが、進行すると夜間頻尿、貧血(腎性貧血)、尿毒症症状(全身倦怠感、食欲不振、掻痒感)が出現します。血圧・血糖コントロール、食事療法(蛋白・塩分・カリウム制限)で進行を遅らせ、末期には血液透析や腹膜透析への移行準備(シャント造設など)を行います。


観察ポイント&根拠

腎不全のアセスメントは「点」ではなく、インアウトや採血データの「推移(線)」で追う視点を持つと、急変の兆候にいち早く気づくことができます。

観察項目観察ポイント根拠・予測
尿量と体重の推移(水分出納)時間尿を計測し、「0.5mL/kg/hr以下」が連続していないか確認する。また、毎朝同じ時間・同じ条件(パジャマ等)で体重を測定し、前日比を算出する。【溢水(サードスペースへの移行)の予測】
尿量が減っているのに飲水量や輸液量が多い場合、血管内に水分が過剰に貯留(溢水)しています。体重増加(1日で1kg以上など)は純粋な脂肪や筋肉の増加ではなく「水」です。放置すれば急激な心負荷となり、肺うっ血や急性心不全の引き金になります。
カリウム(K)値と心電図モニター波形採血データでK値が5.5mEq/Lを超え上昇傾向にある場合、即座に心電図モニターの波形を確認し、「テント状T波(尖った高いT波)」やQRS幅の延長が出現していないか過去の波形と比較する。【致死性不整脈(心室細動:Vf)の回避】
腎機能低下によりカリウムが排泄できず高カリウム血症に陥ると、心筋の興奮伝導が異常を来します。テント状T波は心停止への前触れであり、発見次第すぐにSBARで医師へ報告し、GI療法(グルコース・インスリン療法)やカルチコール投与の準備に入る根拠となります。
呼吸音とSpO2の推移聴診器を背部下肺野に当て、吸気時に「水泡音(コースクラックル)」が聴取されないか確認する。同時に、労作時(トイレ歩行後など)のSpO2低下や努力様呼吸がないか観察する。【肺水腫の早期発見】
腎不全による体液貯留が進行すると、毛細血管内圧が上昇し、肺胞内に水分が漏れ出します(肺水腫)。「息苦しい」と患者さんが訴える前に、肺野の下部から少しずつ聞こえ始める副雑音をキャッチすることが、挿管やNPPV(非侵襲的陽圧換気)を回避する最大の防御線になります。

もし患者さんが食事の不満や夜間の不眠について訴えてきたら?

「最近、ご飯が美味しくないし、体中痒くて眠れないんだよね」と、保存期CKD(慢性腎不全)の患者さんや、透析導入間近の患者さんからとてもよく聞かれる訴えです。

言葉の裏にあるニードと病態
「単なる高齢による味覚障害や乾燥肌」と片付けてはいけません。これは、腎機能低下により老廃物が体内に蓄積する「尿毒症症状」の典型的なサインです。味覚異常は亜鉛欠乏や尿素窒素(BUN)の蓄積、強い掻痒感はリン(P)の排泄障害による高リン血症や、皮膚の乾燥(発汗低下)が原因で起こります。
患者さんは「治療を頑張っているのに体がどんどん辛くなる」という徒労感や不眠によるストレスを抱えています。

対応アクションと会話例

  • 「ご飯が美味しくないと、食べる楽しみがなくなって辛いですよね。痒みで夜も眠れていないんじゃないですか?実はそれ、腎臓の働きが落ちて、体の中にいらないモノ(老廃物やリンなど)が溜まっているサインかもしれないんです。痒み止めの軟膏(保湿剤)を先生に出してもらうように相談しますね。食事も、味付けの工夫(レモンや香辛料など、塩分を使わない工夫)について栄養士さんに相談してみましょうか」
    • 症状が「腎臓からのSOS」であることを分かりやすく伝えつつ、対症療法(保湿や内服の調整)と生活指導(食事の工夫)を多職種と連携して進める姿勢を示すと、患者さんは強い安心感を抱きやすいです。

現場で差がつく看護のコツ

腎不全の患者さんは、厳しい飲水制限や塩分制限を強いられます。ただ「我慢してください」と言うのではなく、少しでも苦痛を和らげる引き出しを持っておくことが大切です。

工夫・コツ・アイデア具体的な手技・環境調整期待される効果・メリット
飲水制限中の「口渇感」へのアプローチ許可された水分量の範囲内で「氷(1個約10〜15mL)」を作って舐めてもらう。または、レモン水やうがい薬を用いた頻回な含嗽(うがい)を促し、口腔内を湿らせる。ガブガブと水を飲むよりも、氷をゆっくり溶かすことで口腔内の冷感と潤いが持続し、少ない水分量で効果的に口渇感を緩和できます。
採血時の「偽性高カリウム血症」を防ぐ手技採血時、駆血帯を強く長く縛りすぎない。また、細い針(23G以下など)で強く陰圧をかけて吸引せず、シリンジの壁に沿わせて静かにスピッツへ分注する。赤血球が壊れる(溶血する)と、細胞内のカリウムが漏れ出し、データ上で見かけ上の高カリウム血症となってしまいます。正しいアセスメントは「正しい検体採取の手技」から始まります。
シャント肢の保護(透析患者の場合)シャント側の腕には、テープで「血圧測定・採血禁止」の札を必ず貼付し、患者自身にも「こっちの腕は使わないでねって言ってくださいね」と教育する。シャントは透析患者にとっての「命綱(ライフライン)」です。うっかりシャント肢で血圧を測って閉塞させてしまうという医原性のトラブルを、スタッフ間の共有と患者参加型の安全管理で防ぎます。

新人さんが陥りやすいミスへの対策

新人の頃は、患者さんの尿量が減っていると「おしっこを出さなきゃ!」と焦って、医師に「ラシックス(利尿剤)使いますか?」とすぐに提案してしまいがちですよね。

でも、ちょっと待ってください。もしその患者さんが、発熱や下痢でカラカラに脱水している「腎前性」の急性腎障害だったとしたら?そこで利尿剤を使ってさらに水分を絞り出せば、腎臓の血流はさらに途絶え、取り返しのつかないダメージを与えてしまいます。腎障害についての知識がないと、「尿が出ない=利尿剤」という短絡的な思考に陥りやすいものです。まずは「なぜ尿が出ないのか?」を考える癖をつけてみてください。

血圧は保たれているか?粘膜は乾燥していないか?体重は増えているか減っているか?それらのピースを繋ぎ合わせて、「脱水による腎血流低下が疑われるので、細胞外液の負荷(輸液)が必要ではないでしょうか」とSBARで提案できた時、あなたのアセスメント力は間違いなく一つ上のステージに上がっていますよ。


参考資料

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