創外固定について

下腿の創外固定とは|適応から看護のポイントまで徹底解説

あずかん

下腿の複雑骨折や重度の軟部組織損傷の治療に用いられる「創外固定」。特徴的な見た目から、患者さんに不安を与えやすく、また、ピン刺入部の管理など、看護師には専門的な知識とスキルが求められます。
この記事では、下腿創外固定の基本から具体的な看護のポイントまでを分かりやすく解説します。

目次

創外固定が必要となる疾患

創外固定は、骨折した骨を体外から金属のピンやワイヤーを刺入し、創の外でフレームに連結して固定する方法です。主に、以下のような重度の損傷で、通常のプレートや髄内釘による内固定が困難な場合に選択されます

  • 高度な粉砕骨折・開放骨折
    • 骨が皮膚を突き破り、外部環境にさらされた状態(開放骨折)や、骨がバラバラに砕けてしまった状態(粉砕骨折)では、感染のリスクが非常に高くなります。また、骨片が多いため、内固定による安定した固定が困難となります。創外固定は、損傷部から離れた健康な骨にピンを刺入するため、直接的な侵襲を避けつつ、骨折部を安定化させることができます。
  • 重度の軟部組織損傷
    • 骨折だけでなく、周囲の皮膚、筋肉、血管、神経に広範な損傷がある場合、すぐに内固定を行うと、さらなる血行障害やコンパートメント症候群、感染のリスクを高めます。創外固定は、軟部組織の腫れ(腫脹)が引くまでの一次的な固定(ブリッジング固定)として用いられ、軟部組織の状態が安定してから内固定に切り替える(段階的治療)ことを可能にします。
  • 偽関節や変形治癒
    • 骨折が正常に癒合せず、関節のように動いてしまう「偽関節」や、曲がったまま癒合する「変形治癒」の治療(骨切り術後)にも用いられます。創外固定器の調整機能を利用して、少しずつ骨を移動させたり(骨延長)、正しい位置に戻したり(矯正)することができます。

創外固定が必要になる主な原因

下腿に創外固定が必要となる損傷は、非常に大きなエネルギーが加わることで発生します。

  • 高エネルギー外傷
    • 交通事故(自動車、バイク)、転落、労働災害などが主な原因です。これらの外傷は、複雑な骨折と重度の軟部組織損傷を伴うことが多く、創外固定の第一選択となります。
  • スポーツ外傷
    • スキーやスノーボード、サッカーなど、強い衝撃や捻転が加わるスポーツでも、脛骨や腓骨の複雑骨折を引き起こすことがあります。
  • その他
    • 骨腫瘍の切除後や、骨髄炎などの感染性偽関節の治療にも用いられることがあります。

主な症状

創外固定が必要となる患者は、骨折そのものによる症状と、外傷に伴う全身症状を呈します。

  • 局所の症状
    • 激しい痛み: 骨折による痛みは非常に強く、少し動かすだけでも激痛が走ります。
    • 腫脹: 内出血や炎症により、患部は著しく腫れ上がります。
    • 変形: 骨がずれることにより、脚が明らかに曲がって見えたり、短く見えたりします。
    • 異常可動性・軋轢音: 骨折部で脚が異常に動いたり、骨同士がこすれる音(軋轢音)が聞こえたりすることがあります。
    • 機能障害: 痛みと不安定性のため、起立や歩行は完全に不能となります。
  • 合併症の症状
    • 出血性ショック: 大量の内出血により、血圧低下、頻脈、顔面蒼白などのショック症状を呈することがあります。
    • コンパートメント症候群: 腫脹により下腿内の圧力が急激に上昇し、筋肉や神経への血流が阻害されます。激しい痛み、感覚障害、運動麻痺などが特徴で、緊急の筋膜切開が必要です。
    • 神経・血管損傷: 骨片によって神経や血管が損傷されると、足先のしびれや運動麻痺、血行不良(足が冷たい、脈が触れないなど)が見られます。

治療・対症療法

  • 初期治療(救急)
    • 全身状態の安定化: バイタルサインを確認し、ショック状態であれば輸液や輸血を開始します。
    • 創の洗浄とデブリードマン: 開放骨折の場合、感染を防ぐために創部を大量の生理食塩水で洗浄し、壊死した組織や異物を除去(デブリードマン)します。
    • 暫間的固定: 救急外来でシーネなどを用いて一時的に固定し、さらなる損傷を防ぎます。
  • 手術療法(創外固定術)
    • 全身麻酔または脊椎麻酔下で、骨折部を整復(元の位置に戻す)し、X線透視で確認しながら、健康な骨にピンやワイヤーを刺入します。
    • 体外で、刺入したピンやワイヤーを金属のフレームで連結し、骨折部を強固に固定します。
  • 術後治療
    • 疼痛管理: 硬膜外麻酔や鎮痛薬(オピオイド、NSAIDs)を用いて、術後の痛みをコントロールします。
    • 抗生剤の投与: 感染予防のために、広域スペクトルの抗生剤を投与します。
    • 段階的治療: 軟部組織の状態が改善した後、創外固定器を抜去し、プレートや髄内釘による内固定術に切り替える場合があります(二次的内固定)。骨延長や矯正が目的の場合は、長期間装着することもあります。

看護のポイント

創外固定器を装着している患者の看護は、多岐にわたります。特に重要な5つのポイントを解説します。

ピン刺入部の観察とケア

ピン刺入部は感染の温床となりやすく、最も注意が必要な観察項目です。ピン刺入部感染は、骨髄炎に移行するリスクがあります。

  • 観察項目
    • 感染兆候: 発赤、腫脹、熱感、疼痛、膿性分泌物の有無を毎日確認します。
    • ピンのゆるみ: ピンと皮膚の間に隙間がないか、ピンが動揺しないかを確認します。
  • ケア方法
    • 消毒: 施設や医師の指示に基づいた消毒薬(クロルヘキシジン、ポビドンヨードなど)を用いて、1日1~2回、ピン周囲を清拭・消毒します。滲出液が多い場合は、Yガーゼやこより状にしたガーゼで保護します。
    • 清潔の保持: シャワー浴が困難な場合でも、ピン刺入部を濡らさないように工夫し、清拭などで全身の清潔を保ちます。

血行障害・神経障害の観察

コンパートメント症候群や神経・血管損傷のリスクは術後も続きます。早期発見が非常に重要です。

  • 観察項目
    • 末梢循環: 足先の冷感、チアノーゼ、爪の色(CRT)を確認します。
    • 末梢動脈の拍動: 足背動脈や後脛骨動脈の拍動が触知できるか、左右差はないかを確認します。ドップラー血流計を用いて確認することも有効です。
    • 感覚・運動: 足先のしびれや感覚の鈍麻、運動麻痺(足趾を動かせるか)の有無を確認します。患者の「痛みの増強」の訴えは特に重要です。

疼痛管理

術後の痛みだけでなく、創外固定器の存在自体が痛みの原因となることがあります。

  • 看護介入
    • アセスメント: 痛みの部位、強さ、性質(ズキズキ、ジンジンなど)をスケールを用いて客観的に評価します。
    • 安楽な体位の工夫: クッションや枕を用いて、患肢を心臓より少し高い位置に保ち(挙上)、浮腫の軽減を図ります。フレームが身体の他の部分に当たらないように調整します。
    • 鎮痛薬の適切な使用: 医師の指示に基づき、鎮痛薬を適切なタイミングで使用し、その効果を評価します。

精神的ケア

特徴的な見た目の創外固定器や、長期にわたる治療期間は、患者に大きな精神的ストレスを与えます。

  • 看護介入
    • 傾聴と共感: 患者の不安や恐怖、将来への心配などの思いを傾聴し、共感的な態度で関わります。
    • 情報提供: 治療のスケジュールや創外固定の必要性について、患者の理解度に合わせて分かりやすく説明し、見通しが持てるように支援します。
    • セルフケアの促進: ピン刺入部の観察方法など、患者自身ができるケアに参加してもらうことで、治療への主体性を引き出し、コントロール感を高めます。

リハビリテーションの支援と合併症予防

早期からのリハビリテーションは、関節拘縮や筋力低下を防ぎ、早期の社会復帰につながります

  • 看護介入
    • 関節可動域訓練: 理学療法士と連携し、足関節や足趾の自動・他動運動を促します。
    • 筋力維持: 患肢以外の筋力トレーニングや、患肢の等尺性運動(アイソメトリック運動)を指導します。
    • 深部静脈血栓症(DVT)の予防: 弾性ストッキングの着用や間欠的空気圧迫法の実施、足関節の運動を促します。胸痛や呼吸困難など、肺血栓塞栓症を疑う症状には特に注意が必要です。
参考資料
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