Ⅰ型糖尿病について

I型糖尿病について|疾患の概要から看護のポイントまで徹底解説

あずかん

小児科病棟、内分泌代謝内科、あるいは救急外来でDKA(糖尿病性ケトアシドーシス)で搬送されてきた患者さん・・・
1型糖尿病の患者さんとの関わりは、実は皆さんが思っているより多くの部署で発生しています。「糖尿病=生活習慣病」というイメージが強いせいで、1型糖尿病特有の「インスリン依存」という病態の重みが伝わりきっていないケースを、現場で何度も見てきました。

2型糖尿病とは全く異なる自己免疫機序、インスリン注射を1回でも中断すれば数時間〜1日でDKAに陥る危険性、そして小児期発症が多いことによる患者さん・家族への心理的サポートの必要性——今日はこの1型糖尿病を、臨床現場のリアルな視点から紹介していきます。


目次

サクッと復習!疾患の概要

1型糖尿病は、膵臓のランゲルハンス島にあるβ細胞が、自己免疫機序によって破壊されることで、インスリンの絶対的欠乏に陥る疾患です。2型糖尿病がインスリン抵抗性やインスリン分泌不全を主体とするのに対し、1型糖尿病は「インスリンが体内でほぼ産生されなくなるという点が病態の根本的な違いになります。

原因としては、GAD抗体、IA-2抗体、インスリン自己抗体(IAA)などの膵島関連自己抗体が陽性となる自己免疫性(1A型)が多くを占めますが、抗体が陰性で原因不明の特発性(1B型)も存在します。発症は小児〜若年層に多いですが、成人発症の緩徐進行1型糖尿病(SPIDDM)も臨床現場では見逃せない存在です。

症状は、インスリン欠乏による高血糖症状として口渇、多飲、多尿、体重減少が急速に出現し、進行するとケトン体の産生亢進によりDKA(糖尿病性ケトアシドーシス)に至ります。DKAではクスマウル呼吸、アセトン臭、意識障害が特徴的な所見です。

治療は、内因性インスリンの絶対的欠乏を補うためのインスリン療法が生涯必須であり、頻回注射療法(MDI)やCSII(持続皮下インスリン注入療法、インスリンポンプ)、近年ではCGM(持続血糖モニタリング)を組み合わせた血糖管理が行われます。


観察ポイント&根拠

観察項目観察ポイント根拠・予測
インスリン注射の実施状況(中断リスク)絶食指示や検査前処置がある日でも、インスリンの基礎分泌分(持効型)が確実に投与されているかをカルテと実施記録で確認する。シックデイ時の自己判断による自己中断がないかも問診で確認する。1型糖尿病では内因性インスリンがほぼ存在しないため、絶食中であっても基礎インスリンの投与を中断すると、数時間でケトン体産生が亢進し、急速にDKAへ進行します。2型糖尿病の「絶食中は血糖降下薬を中止」という感覚で対応すると、致命的な判断ミスになる点を強く意識しておく必要があります。
血糖値のパターンとインスリン効果のズレ(グルコース変動)血糖自己測定(SMBG)やCGMのトレンドグラフを確認し、食前・食後の血糖の上昇幅、夜間の低血糖の有無を経時的に評価する。特に「暁現象(早朝高血糖)」と「ソモジー効果(夜間低血糖後のリバウンド高血糖)」の鑑別を意識する。1型糖尿病はインスリン分泌が完全に外部依存のため、血糖変動の振れ幅が2型糖尿病より大きくなりやすい特徴があります。早朝高血糖を見た際に、単純にインスリンを増量する判断をする前に、夜間低血糖の有無をCGMデータで遡って確認する視点がないと、ソモジー効果による高血糖にさらにインスリンを追加してしまい、低血糖を悪化させる悪循環に陥ります。
尿ケトン・血中ケトン体の推移高血糖時(特に250mg/dL以上)は、尿ケトン試験紙での定性確認、あるいは血中ケトン体(β-ヒドロキシ酪酸)の測定値を確認し、前回値からの上昇傾向を追う。ケトン体の上昇は、インスリン欠乏により脂肪分解が亢進し、遊離脂肪酸が肝でケトン体に変換されていることを示すサインです。「血糖が高いだけ」と捉えず、ケトン体の上昇=DKAへの進行過程にあるという前提でアセスメントすることが、重症化を防ぐ初動対応に直結します。
脱水所見とバイタルサインの変化口腔粘膜の乾燥、皮膚のツルゴール反応、血圧(特に起立性の変化)、時間尿量を経時的に確認する。頻呼吸やクスマウル呼吸の有無も併せて観察する。高血糖による浸透圧利尿で著明な脱水が進行し、これが循環血液量減少に繋がります。クスマウル呼吸が出現している場合は、代謝性アシドーシスに対する呼吸性代償が働いている段階であり、DKAとして緊急対応が必要なサインと捉える必要があります。
心理的ストレスと血糖コントロールの関連特に思春期の患者さんでは、学校行事や友人関係のストレス、インスリン注射を人前で行うことへの抵抗感が、自己判断での注射スキップに繋がっていないかを、本人の言葉から丁寧に聴取する。思春期はインスリン抵抗性が生理的に高まる時期(成長ホルモンの影響)であると同時に、心理的な反抗期・自己管理への抵抗感からアドヒアランスが低下しやすい時期でもあります。血糖コントロール不良を「単なる自己管理不足」と捉えず、背景にある心理的要因まで踏み込んで評価する視点が重要になります。

もし患者さんからこう言われたら、あなたはどうする?

「今日はあまり食べられなかったから、インスリンは打たなくていいですよね?」と、1型糖尿病の患者さん(特に食事量が不安定な入院患者さんやシックデイの患者さん)から本当によく聞かれる言葉です。ここで「そうですね、食べてないなら大丈夫ですよ」と安易に同意してしまうと、基礎インスリンの中断による急速なDKA進行を招く危険性があります。

言葉の裏のニード
「低血糖になるのが怖い」という身体的な不安と、「食事量とインスリン量は連動するもの」という誤った理解(もしくは2型糖尿病の知識との混同)が隠れていることが多いです。ここは、基礎インスリンと追加インスリンの役割の違いを、丁寧に伝え直すタイミングになります。

患者さん:「今日はあまり食べられなかったから、インスリンは打たなくていいですよね?」

看護師:「教えてくださってありがとうございます。実は、1型糖尿病の場合、食事に合わせて打つインスリンと、食事の量とは関係なく体を維持するために必要なインスリンの2種類があるんです。今日打つ予定なのはどちらのタイプか、一緒に確認してみましょうか」

患者さん:「そうなんですか……基礎の方は、食べてなくても必要なんですね」

このように、「食事量に応じて調整すべきインスリン」と「食事量に関わらず絶対に必要なインスリン」を明確に切り分けて説明することで、患者さんの誤解を解消しながら、自己判断での中断を防ぐことができます。そのうえで、「食事量が少ない時の追加インスリンの調整方法」については、必ず主治医の指示を確認し、シックデイルールに沿って対応する姿勢を見せると、患者さんも「自分の判断だけで決めなくていいんだ」と安心感を抱きやすいです


現場で差がつく看護のコツ

工夫・アイデア具体的な方法それによる効果
インスリン注射部位の「ローテーション表」の活用腹部・大腿・上腕など、注射部位を図示したローテーション表を患者さんと一緒に作成し、実際に注射した部位に印をつけてもらう。同一部位への繰り返し注射は、インスリンボール(脂肪組織の硬結・肥厚)を形成し、インスリンの吸収を不安定にする原因になります。視覚的なローテーション管理は、患者さんの自己管理能力を高めながら、吸収不良による血糖コントロール不良を予防します。
低血糖時の「対応セット」を手元に常備してもらうブドウ糖タブレットや、低血糖時の対応を書いたカードを、病室のベッドサイドや外出時に携帯するポーチの中に、いつも同じ場所に入れておくよう指導する。低血糖の初期症状(冷汗、振戦)が出現した際、「探す」という行動自体が焦りや混乱を助長し、対応の遅れに繋がることがあります。定位置管理を徹底することで、緊急時にも迷わず対応できる環境を整えられます。
CGMグラフを使った「振り返り面談」の実施外来や病棟で、CGMのトレンドグラフを患者さんと一緒に画面で見ながら、「この時間帯に血糖が上がっているのはどんな食事や活動があったか」を振り返る時間を作る。数値を一方的に伝えるより、グラフという視覚的な情報を患者さん自身が「自分の生活と結びつけて」理解することで、行動変容への納得感が高まります。特に思春期の患者さんには、この協働的なアプローチが自己管理へのモチベーションに繋がりやすいです。
災害・停電時のインスリン管理指導災害時に備えて、「インスリンの保存温度が保てない場合の対応」「非常用持ち出し袋にインスリンと注射関連物品を含めること」を、退院指導や外来のタイミングで具体的に伝えておく。1型糖尿病患者さんにとって、インスリンの供給が途絶えることは直接的な生命リスクに繋がります。平時のうちに具体的な準備を促しておくことで、緊急時のパニックや対応の遅れを防ぐことができます。

新人さんが陥りやすいミスへの対策

新人さんが本当に陥りやすいのが、「糖尿病」という診断名だけを見て、1型も2型も同じような対応をイメージしてしまうことです。

特に、絶食が必要な検査や手術前の患者さんを受け持った際、「絶食だから血糖を下げる薬は止めておこう」という発想で、基礎インスリンまで一緒に止めてしまうという重大なミスに繋がりかねません。2型糖尿病であれば経口血糖降下薬を絶食中は保留にするという判断が成り立つ場面も多いですが、1型糖尿病の場合、基礎インスリンは「血糖を下げるための薬」ではなく「生命維持に必須のホルモン補充」という位置づけであることを理解していないと、この判断ミスに気づけません。

新人の頃は、「糖尿病の患者さんだから、まとめて血糖管理」という大枠での捉え方をしてしまいがちですが、受け持ちになった時点で、その患者さんが1型か2型か、そして使用しているインスリンが基礎分泌を補うものか、追加分泌を補うものかを必ず確認するという一手間を加えるだけで、こうした重大なミスを未然に防ぐことができます。

「糖尿病」とひとくくりにせず、「この患者さんのインスリンは、なぜこの量、このタイミングで処方されているのか」を一段深く掘って考える視点を持つと、アセスメントの質がぐっと上がりますよ。


参考資料
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